HOME > 年次大会 > 第39回大会(報告要旨・報告概要) > 自由報告 第3部会
年次大会
大会報告:第39回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第3部会)

 第3部会  6/16 10:00〜12:30 [5206号室]

司会:小倉 充夫 (上智大学)
1. 日本語学校へ通う就学生の生活 若林 チヒロ (東京大学)
2. ボーダーレス時代における移民労働者
――第三世界側における主体的要因に着目して――
成家 克徳 (東京大学)
3. 福祉国家と市民権
――福祉国家の政治社会学序説――
伊藤 周平 (東京大学)
4. 「脱物質的」価値に関する批判的一考察
――新しい社会運動との関連で――
渡辺 伸一 (東京都立大学)

報告概要 小倉 充夫 (上智大学)
第1報告

日本語学校へ通う就学生の生活

若林 チヒロ (東京大学)

 1980年代に入って、アジア系を中心とする外国人の来日は増加し、学生や単純労働者など様々な外国人が日本に生活するようになった。特に1983年、21世紀までに留学生をフランスや西ドイツ並に増加させるという「留学生10万人構想」を政府が発表したのを受けて、留学生が大学へ進学する前に日本語を勉強する場などとして日本語学校が多く設立され、日本語学校へ通う就学生は急増する。しかし、観光ビザなどで入国し、専ら就労する不法滞在の外国人労働者が増加するにつれて、就学生は留学生予備軍ではなく、学生を隠れ蓑にした偽装就労者であると言われるようになった。

 そこで今回、このような通説が妥当であるのかという疑問から始まって、日本で勉強する外国人学生の生活実態を知るために調査を行った。日本における外国人学生についての調査は既にいくつか行われているが、彼らの就労、住居、就学、健康、就職などの各面を断片的にとらえたものであったので、それら側面を総括して生活構造を明らかにすることに努めた。また一時、就学生の大部分は中国出身者であったため、就学生全体のイメージや調査結果が中国出身者に偏っていた面があったが、近年では韓国やマレーシアなどからの学生も増加傾向にあることを考慮し、今回は国籍別の違いにも特に注目し結果分析を行った。

第2報告

ボーダーレス時代における移民労働者
――第三世界側における主体的要因に着目して――

成家 克徳 (東京大学)

 本報告では、第三世界において移民あるいは移民労働者が生まれる要因について予備的な考察を試みる。とりわけ第三世界側の国家・社会がはたす役割に議論を絞りたい。 第二次大戦後、アジア・アフリカ等で植民地が次々と独立を獲得し、国民国家として政治的・社会文化的にも経済的にも発展向上していくことが期待された。国家建設(state-making)・国民形成(nation-building)および国民経済の樹立は、新興独立国にとって最大の課題であるといってよい。ところが、これらの国々から、多数のヒトが欧米先進国や石油産出国へと流出しているのである。このことをどう理解すべきなのか。国民国家・国民経済の破綻を意味するのだろうか。

 さてヒトの国際移動を説明する最も代表的な見解は、プッシュ・プル理論である。この理論では、国際移民を国民経済間の水準の差異の結果として理解する。他方では、世界システム論を取り入れた見解も有力である。移民を国民経済間の差異の現象と認識するのではなく、資本主義的世界経済という単一のシステム内部のものとみなす。しかしながら、いずれの見解も移民を「労働力」の側面に限定しており、経済偏重をまぬがれなかった。またどちらの議論も第三世界側の自律性・主体性をあまりにも簡単に無視することになった。

 以上のような問題点を前提に、第三世界の主体的適応という観点から移民現象を吟味したい。まず、 「国家」発展の戦略として労働力輸出がなされているのだという見解を考察する。この見解は韓国のような「強い国家」をのぞけば、必ずしも支持されないが、ボーダーレス・エコノミーといわれる現代世界における「国家」および「民族」(ethnicity)の役割の考察に導かれる。

第3報告

福祉国家と市民権
――福祉国家の政治社会学序説――

伊藤 周平 (東京大学)

 1970年代以降の経済成長の停滞と財政危機という状況のもとで、多くの批判にさらされ続けてきた欧米や日本の福祉国家は、1990年代に入っても、その信頼性を回復しているとはいいがたい。福祉国家の抱える問題の中には、財政危機といった経済的問題のほかに、福祉国家の政治的コンセンサスともいうべき権利としての福祉が、その正統性と統合機能を喪失しているという政治的法的問題もある。こうした状況は、権利としての福祉のみならず、市民的諸権利も本質的なところで未定着な日本において特に顕著である。

 ところで、マクロな福祉国家の社会学的研究において、戦後、主流をなしてきたのが、近代化、産業化の概念を用いて、福祉国家の発展を説明する機能主義理論であった。しかし、この種の理論では、現代の福祉国家の政治的法的問題状況を充分に解明しきれないと思われる。その一方で、福祉国家の発展を、民主化、もしくは市民権の拡大と法的制度化という観点から解明しようとする研究潮流も存在する。思想的にはA.トクヴィルにまで遡り、T.H.マーシャルの市民権理論に代表される政治社会学的なアプローチである。 本報告では、マーシャルの市民権理論を再検討することを通じて、現代の福祉国家の抱える問題状況を、市民権としての福祉という観点から明らかにする。と同時に、こうした問題状況が、市民権の多元化と自己解体、すなわち、個々人を市民権を有する国民として包摂してきた近代国民国家そのものの相対化をも意味していることを指摘する。

第4報告

「脱物質的」価値に関する批判的一考察
――新しい社会運動との関連で――

渡辺 伸一 (東京都立大学)

 「脱物質的」価値という概念は、エコロジー運動を初めとするいわゆる「新しい社会運動」を研究している論者が積極的にであれ消極的にであれ、用いる概念となっている。いうまでもなくこのことは、新しい社会運動を分析、理解しようとするために「脱物質的」価値という概念が不可欠であるということを示している。

 ところで、そうはいってもこの概念を、イングルハートが定義したそのままの内容で新しい社会運動分析に用いることには問題がある。というのも彼が提起した「脱物質的」価値という概念はきわめて一般的な意味で提出されたものであって、それをそのまま借用して、新しい社会運動を導く固有の価値観だとするのは、あまりにも粗雑な手続きというほかなく、無視できない問題点を内包してしまうからである。にもかかわらず、多くの論者にはそのことが必ずしも自覚されているとはいいがたい。 したがって、こうした手続きのどこに問題点があるかを明らかにし、イングルハートのいう「脱物質的」価値と新しい社会運動を導く価値としてのそれ(=<脱物質的>価値)との違いを明確にさせることが必要である。

 本報告はあくまでこうした限定された観点から「脱物質的」価値と新しい社会運動との関連を論じようとするものである。

報告概要

小倉 充夫 (上智大学)

予定の四報告のうち三報告が行なわれた。「日本語学校における就学生の生活」(若林チヒロ)、「ボーダーレス時代における移民労働者―第三世界における主体的要因に着目して」(成家克徳)、「福祉国家と市民権―福祉国家の政治社会学序説―」(伊藤周平)である。

第一報告者は日本語学校の就学生501名の調査に基づいて、就学生は「出稼ぎ目的の偽装学生」ではなく「留学念予備軍」であると論じ、就学生についての一面を知る手がかりとなる資料を提供した。しかし留置きという調査法と関連して、回答の信頼性と報告の結論について疑問が投げかけられた。また、政策や制度的側面との関連付けが不十分なため、調査結果の解釈や結論に説得力が欠けるところがあったように思われた。

第二報告者は国際労働力移動を受け入れ国の経済的側面からだけでなく、送り出し国の側から論じ、国家による発展の戦略として労働力輸出がなされているということに着目した。重要な視点であるが、もう少し具体的事例に即して論じられたならば議論も活発になったであろうと残念な気がした。

第三報告は福祉国家の生成と発展を政治社会学的に検討したものである。市民権理論と機能主義理論を取り上げ、主に前者の立場に立って、福祉国家化が社会権の抱摂による市民権の拡大として論じられた。整理された明確な説明がなされ、福祉国家化の比較政治社会学的研究の可能性を示す興味深いものであった。

三つの報告相互のつながりをあえて見い出そうとするならば、移民労働者など外国人居住者への福祉拡大の問題、さらに南北問題の枠組でみれば、国民国家の成員に限られた福祉の限定化の克服の問題(「福祉国際社会」の形成)などを考える上での基盤を提供してくれたように思われる。

▲このページのトップへ