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年次大会
大会報告:第39回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会 IV)

 テーマ部会 IV 「東欧諸国における民主化と社会変動」―生活者、労働者から見た変革の意味―
 6/16 14:00〜17:30 [5102号室]

司 会:鷹取 昭
討論者:庄司 興吉

部会趣旨 鷹取 昭
第1報告: 市場経済の導入と政治システムの動揺
−苦悩続くポーランドの場合−
笠原 清志 (立教大学)
第2報告: 企業私有化とその社会的影響 石川 晃弘 (中央大学)

報告概要 鷹取 昭 (日本大学)
部会趣旨

鷹取 昭

 当部会は本年が2回目であるが、昨年とは視点を変えて考えていくことを企画した。昨年は、社会学以外の専門家に報告をお願いした。そこでは、現代の社会主義はその生命力を枯渇しているのではないかという点や(岩田昌征報告)、ハンガリーの変革は、多年にわたる自国内での改革に由来する(深谷志寿報告)などの問題提起がなされ、討論の段階では、以上をふまえつつ、今後は、社会学的視点から、社会主義にかかわる諸問題を扱うことの必要性が指摘されていた。

 本年は、東欧諸国(事例としてポーランドやチェコスロヴァキアなど)における劇的な変革%%%民主化や市場経済の導入など%%%が、生活者もしくは市民にとって、いかなる意味をもっているかを社会学の立場から検討してみたいと思っている。多様なとらえ方があると思われる問題だけに、フロアを含め、活発な議論が展開されることを期待している。

第1報告

市場経済の導入と政治システムの動揺
−苦悩続くポーランドの場合−

笠原 清志 (立教大学)

 1989年の夏、ポーランドで統一労働者党(共産党)政権が事実上、崩壊して、一年半以上が経過した。東欧諸国の民主化をめぐる問題は、政治システムの再編だけで解決できるものではない。というのは、ポーランドやハンガリーの民主化の背景には深刻な経済危機とソ連型社会主義の負の遺産という問題があったからである。開いた鉄のカーテンに歓喜しても、その後には厳しい経済の再建と社会のすみずみにまで浸透した官僚機構の再編といった問題が待ちかまえているからである。

 ポーランドでは、民営化法案や新しい外資法が成立するとすぐ、市場経済の導入が各分野で進行しつつある。しかし、価格統制の解除によるインフレや企業の倒産、そして失業や実質賃金の30%以上の低下によって、国民諸階層の不満は今まで以上に高まってきている。ポーランドに限らず、すべての東欧諸国の国民が民主化の熱気に酔い、「自由の代償としての生活苦はしばらく辛抱できる」と考えていた時期はもうすでに過ぎてしまった。多様な集団の運動体であった連帯は、政治システムレベルではすでに諸党派に分裂してしまい、労組レベルでも従来の立場を続けていくことは困難になっている。すさまじいインフレの進行、雇用不安を前にして、労働者の多くは社会変革よりも自己の生活や利害関係をどう守っていくかに必死となっている。今日、危惧される点の一つは、経済改革の行きづまりが反市場経済の動きや現政権の分裂を生み出し、再び政治的混乱が予想されることである。当報告では、市場経済の導入に伴うポーランド社会の問題点を、次の諸点に沿って述べたい。

  (一)組織犯罪と密輸の増加
  (二)市場経済の導入と労使関係
  (三)連帯の分裂と民主主義の未成熟

第2報告

企業私有化とその社会的影響

石川 晃弘 (中央大学)

 現在東欧諸国では脱社会主義化と西欧経済への統合を目指す基本政策として生産手段の私有化を急いでいる。その根幹をなす企業の私有化がどのように進められているか、そしてそれが東欧社会にどんな変動をもたらしているか。この点を特にポーランド、ハンガリー、チェコスロヴァキアの現実にそくして報告する。

  1.企業私有化の実態
   (イ)国営企業の民営化      (ロ)中小企業の発達
  2.その社会的影響
   (イ)マクロレベル:階層構造への影響
             労働市場への影響
             労使関係への影響
   (ロ)メゾレベル:経営組織(特に参加制度)への影響
             労働組合への影響
             地域社会(特に行政)への影響
  3.脱社会主義とローカル・イニシアティヴの可能性

報告概要

鷹取 昭 (日本大学)

本部会では、東欧におけるドラスティックな変革は、生活者、労働者の視点からとらえたときいかなる意味をもつかという点で議論を展開することを意図した。

第1報告者の笠原清志氏(立教大学)は、ポーランドにおける市場経済の導入が実を結ぶためには、近代的労使関係や経営権の確立が必要条件であるが、現状では労使関係の基本的枠組を規定する法・制度の整備が遅々として進んでいないと指摘した。さらに、企業内の影響力の構造の変化にふれつつ、民営化法案が成立しても、一向に国営企業の解体が進まない理由の一つとして、所有関係の変更にともない従来の諸権限を奪われることを恐れている労組や労働者評議会の反対の強いことをあげていた。最後に、連帯内部での党派的対立の存在を指摘し、連帯の抱えているジレンマについての報告があった。

第2報告者の石川晃弘氏(中央大学)は、東欧において民主主義を求めた勢力が、自らが権力を握った場合に「民主主義」をどうとらえているかが問題であるという前提のもとに報告をした。先ず、ポーランド、ハンガリー、チェコスロヴァキアにおける企業の私有化の進展状況を明らかにし、かつ、自由な中小企業の発達をもとりあげ、問題は、これをどう育成してゆくかであるが、政府に具体的方針のないのが現状であることを指摘した。次いで、企業の私有化がおよぼす影響について幾つかの側面からアプローチし、労働力過剰、失業率上昇、労働者の利害を守るための新しい労組の成立が未成熟なこと、地方自治体が、施設、土地の運用などにとまどっていること等々の報告があった。また、笠原報告で指摘のあった「経営権の確立」を認めつつ、「経営権の行使のされ方」こそ問題であるとしていた。

討論者の庄司興吉氏(東京大学)は、ソ連・東欧での変革を整理してとらえておかなくては、外国人労働者問題を含む南北問題を、単なる流行のこととしてとらえることで終わりかねないとし、また、従来のソ連・東欧の体制(社会主義)は崩壊したというが、崩壊した体制とはそもそもいかなるものであったかを基本的に把握することの必要性を強調していた。

フロアを含めての議論の過程で、問題の重要性もさることながら、今日的状況の中で議論することの難しさを認識させられたといってよい。

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