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年次大会
大会報告:第40回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第2部会)

 第2部会  6/7 10:00〜12:30 [法文1号館111教室]

司会:直井 道子 (東京学芸大学)
1. 不妊治療と家族関係
(1)女性と不妊治療―アンケート・聞き取り調査の結果から―
桜井 裕子 (お茶の水女子大学)
浅井 美智子 (国立婦人教育会館)
2. 不妊治療と家族関係 (2)
不妊治療に携わる医者の倫理と家族観
柘植 あづみ (お茶の水女子大学)
横山 美栄子 (お茶の水女子大学)
3. デュアル―キャリア・ファミリーにおける夫婦関係の平等性について
―家父長制が夫婦関係にもたらす影響−
松信 ひろみ (上智大学)
4. 身体と共同体 江川 茂
(茨城県立コロニーあすなろ)

報告概要 直井 道子 (東京学芸大学)
第1報告

不妊治療と家族関係
(1)女性と不妊治療―アンケート・聞き取り調査の結果から―

桜井 裕子 (お茶の水女子大学)・浅井 美智子 (国立婦人教育会館)

 今世紀後半の生殖技術の発達は目覚ましく、人工授精や体外受精、そして最近では、胚の凍結、ギフト法、代理出産、顕微受精など、新しい技術が次々に報じられている。子供に恵まれない夫婦の「福音」といわれるこうした生殖技術は、体内から精子および卵子を取りだすことによって、性行為を伴わない精子と卵子の結合を可能にし、性行為と生殖との分離をもたらしたのである。このことは一体何を意味するのだろうか。「子供をつくる」という、この生殖技術は、家族をどのように変えていくのだろうか。そして、我々の社会は、こういった生殖技術をどのように受け入れていくのだろうか。

 これまで、生殖技術に対しては、科学や法学、倫理学、あるいはフェミニズムなどの立場から、その現状とさまざまな問題点が指摘されてきた。しかし、実際の不妊治療の現場に視点を当てたものは少ない。不妊治療の現場にいる医師と、不妊治療を受ける当事者の不妊女性の、生殖技術について、そして家族や親子についての生の声を知ることは、生殖技術の考察に不可欠だと思われる。 本報告は、このような問題意識から我々が行った不妊女性に対するアンケート調査および聞き取り調査の分析と考察である。不妊女性は、子供ができないこと(不妊)をどう捉え、夫婦が子供を持つことをどう考えているのか、また、人工授精や体外受精などの技術によって子供を作るということをどう受け入れているのか、を明らかにしたい。

第2報告

不妊治療と家族関係 (2)
不妊治療に携わる医者の倫理と家族観

柘植 あづみ (お茶の水女子大学)・横山 美栄子 (お茶の水女子大学)

 人工授精や体外受精等の生殖技術の応用によって「不妊治療」の方法は急激に変化してきた。私たちは「不妊治療」の現場を通して現在の日本における家族関係を見るために「不妊治療」に携わる医者の聞き取り調査を行ったのでその結果を報告する。調査は産婦人科領域で「不妊治療」に携わる医者(男6人、女1人)に直接面接、自由会話方式によって(1)「不妊」に対する考え方 (2)「不妊」女性に対する考え方 (3)「不妊治療」の実際とそれに対する考え方 (4)本人の家族観 を中心に聞き取りを行った。調査対象者7人は全員が「不妊」を治療が必要な病気ととらえていた。しかし不妊による辛さは医学的な状態に起因するのではなく「子どもができない」ことによる社会的な状態からくる事を指摘していた。中でも年齢が高い層(50歳代、60歳代)では、子どもができないことで女性が妻や嫁としての役割を果たせないことによる辛さを指摘する傾向が強かった。また、この年令層の人は女性にとって子どもを産み育てることが重要な経験であり「一人前」になることでもあるという考えをもつ人たちとほぼ一致した。様々な新しい生殖技術については全体的に受容する傾向が強かったが、職業人としての態度と個人としての態度に差がある場合が多かった。親子のつながりについての考え方は「遺伝的なつながり」を重視するグループと「育てる」ことを重視するグループとに分かれる傾向があった。これらの態度の違いは年令や性別だけでなく、個人の経験との関連が強いように思われた。対象者数が少ないために結論は出せなかったが、今後の研究のために貴重な資料が得られたと思う。

第3報告

デュアル―キャリア・ファミリーにおける夫婦関係の平等性について
―家父長制が夫婦関係にもたらす影響―

松信 ひろみ (上智大学)

 近年我が国においても、既婚女性の職業進出には目を見張るものがある。あまり熟練を要さないようなパートタイム的働き方が多いとはいえ、専門・管理的職業に就き、結婚や子育てに中断されることなく、プロフェッショナルとして一生働いていこうとする女性も僅かづつながらも増加してきていると思われる。

 1980年代以降、欧米諸国では夫婦ともにキャリアをもって働くデュアル―キャリア・ファミリー(Dual-Career Family)という婚姻形態が注目されてきている。本研究では、上述のような既婚女性の職業進出の状況から、今後我が国でもこのデュアル―キャリア・ファミリーが増加してくるであろうという予測のもと、デュアル―キャリア・ファミリーにおいて平等的な夫婦関係が実現されているのかどうかということを明らかにしていくことを目的とする。このような婚姻形態の場合、妻の就業は単なる家計の補助に止まらない。夫と同等の重要性をもつ・稼ぎ手(provider)”としてのものである。妻が夫と同等の稼ぎ手役割を担っているのであれば、夫も家事・育児等を等しく分担し、尚且つ、そこにはいずれかが優位に立つということのない平等的な夫婦関係が成立していることが期待されるわけである。

 また、本研究の意義は、従来の研究ではあまり見られなかった・夫婦関係の平等性”という観点から、社会的規範というものにも注目しつつデュアル―キャリア・ファミリーを考察することにある。

 本研究は、主としてアメリカで行われた実証研究をもとに、デュアル―キャリア・ファミリーにおける夫婦関係の構造を明らかにし、そこでの平等性を考察するとともに、そのメカニズムのモデル化とモデルの日本への適用を検討するものである。

第4報告

身体と共同体

江川 茂 (茨城県立コロニーあすなろ)

論旨 1.エーテルが知的と感覚の間に存在する仮説とエーテルが知識や感覚を吸収して成り立つ仮説がある。
 2.ヘーゲルの「精神現象学」という書物の中にエーテル透明体という用語がある。
 3.エーテルに障害が起こると不透明になる。
 4.エーテルは、宇宙の法則と同じように人間の心的現象では層化され、渦巻き、衝突するのである。
 5.エーテルは、訳の如く霊妙な、天界のように生死を超越しながら存在する。
 以上は、あくまでも私の仮説であり問題提起したのであった。
 6.原子とエーテルとはどのような関係があるのだろうか?
 7.宇宙の果ては、神や仏が存在するとしたならエーテルはどのように存在するのであろう。
 8.遺伝子には感覚と知覚とエーテルが存在する。

報告概要

直井 道子 (東京学芸大学)

この部会では、調査データに基づく報告が2本と、理論的枠組を構築しようとする報告が2本あった。理論的な報告の場合、なかなかその場では生産的議論は盛り上がらないようであった。調査データに基づく二つの報告は、「不妊治療と家族関係」に関して医者と不妊女性双方に関する聞き取り調査をするという、アプローチ困難な領域に挑戦した労作であった。ただケース数の少なさもあって、「不妊治療を受ける人がどういう家族関係を持っているか」ではなくて、「不妊治療というものを通して、社会一般の家族観を浮かび上がらせる」という視角が目立ったため、そこに議論が集中した。すなわち、不妊女性には「子どもを生みたい、育てたい」という欲求よりは「子どもを生むことで一人前とみなされたい」という動機が目立つことが指摘され、それが社会一般の女性観、家族観の反映であるという結論が前面にでていた。この結論を出すためならば、もっと不妊女性以外の女性のデータも必要ではないだろうか。このような領域の場合にケース数が少ないことはやむをえないし、今後我々の社会がどのようにこのような新しい技術を受け入れていくのかを考えるとこの視角も重要ではあるが。

いい古されたことではあるが、適切な調査のための枠組、それに基づいた適切な調査対象、理論を実証するデータの三者がそろうことがいかに困難かが浮き彫りになった部会であった。

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