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年次大会
大会報告:第40回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第4部会)

 第4部会  6/7 10:00〜12:30 [法文1号館113教室]

司会:森岡 清志 (東京都立大学)
1. 「箱庭療法」の相互行為的組織化 高山 啓子 (お茶の水女子大学)
2. 農山村への新来現象 石原 豊美 (農業総合研究所)
市田 知子 (農業総合研究所)
原 珠里 (農業研究センター)
3. 歴史社会学的研究のための1つの方法
―履歴網分析(career-net analysis)の発想―
北嶋 守 (敬愛大学)
4. 福祉国家における配分的権利
―法社会学的一考察―
伊藤 周平 (社会保障研究所)

報告概要 森岡 清志 (東京都立大学)
第1報告

「箱庭療法」の相互行為的組織化

高山 啓子 (お茶の水女子大学)

 ある相互行為の場面が何の場面であり、そこで何が行われているかは、その場面の参与者たちには自明視されている。しかし、ある場面をその他の場面から区別しうるとすれば、その差異は参与者自身の相互行為によって生み出されているといわなければならない。

 会話という活動に参与するとき、各参与者には、「話し手」や「聞き手」といった会話上の参与地位がが与えられる。そうした参与地位、つまり、話し手であることや聞き手であることは、参与者自身の相互行為によって組織されていく。聞き手は、自らが聞き手であることを示すために、話し手に視線を向け、話し手は、自らが話し手であるために、聞き手の視線を獲得しなければならない。こうした参与地位の組織化のされ方が、ある場面をその他の場面とは異なったものとして見せている場合がある。

 本報告では、箱庭療法が箱庭療法として、参与者たちの視線や身体動作によって相互行為的に組織化されていく仕方を、ビデオ分析(会話分析)によって明らかにしていく。箱庭療法の場面を観察して、明らかに通常の会話床となったものと見えるのは、分析者が被分析者に視線を向けずに、作られた箱庭に視線を向け続けていることである。これは、箱庭について語ることがその場の主要関与となっているということと、分析者が被分析者に「語らせている」ということによる、参与地位獲得の非対称性とを含意している。

第2報告

農山村への新来現象

石原 豊美 (農業総合研究所)
市田 知子 (農業総合研究所)
原 珠里 (農業研究センター)

 1970年代後半以降、米国の人口学や農村社会学において、都市部から農村部への人口移動が、長く支配的であった向都離村の人口の流れにとってかわる人口移動の主要な潮流になったとして注目され、研究されるようになった。それより早い時期に、日本においては、大都市圏から地方への人口還流がUターンや後にはJターンの呼称とともに関心を集めていた。しかし、「生活の質に対する考慮」を高く位置づけるが故に、都市部から農山村に移住するような現象(新来現象)については、個別的に紹介されることはあっても十分な実態把握がなされていないのが現状ではないだろうか。

 報告では、日本における新来現象は大きな潮流をなすには至っていないものの一定の広がりをもっており、考察に値する質的特徴をもつという認識の下に、いくつかの地域における調査事例を取り上げる。相対的に安価な地価に魅かれ、豊かな自然環境を求めて流入してくる新来者と、新来者を受容する地域社会との両面から調査事例を検討することを通じて、新来現象の特徴に関する若干の仮説を提示したい。

第3報告

歴史社会学的研究のための1つの方法
―履歴網分析(career-net analysis)の発想―

北嶋 守 (敬愛大学)

 歴史的事象を社会学的に観察するためには、どのような方法が必要なのだろうか。この点に関しては、わが国に限ってみるならば、少なくとも2つの研究アプローチ(及びその組み合わせ)が存在している。即ち、歴史的事象に関する定量的実証研究と定性的実証研究である。前者は、主に社会的地位の連鎖や社会移動といった分析概念に基づく統計調査を武器とし、後者は、主に生活史や個別の歴史的出来事の詳細資料に関する質的分析といった戦略をとる。言うまでもなくこの両者に共通した視点は、社会変動(social change) の解明にあるわけだが、前者が「森(社会)を見て樹(個人)を見ず」に陥りがちであるのに対して、後者は「樹(個人)を見て森(社会)を見ず」に陥るといった各々の短所を持っている。しかし、このことは、歴史社会学に限らず社会学的研究を実践する者であれば誰でも一度はぶちあたる壁(根本的な課題)ではないだろうか。

 そこで、私は、「履歴網分析 (career-net analysis)」という手法を案出した。この手法は、私の観察対象である「近代日本の西洋医学導入の過程」を社会学的に分析する必要上創出された者である。この分析手法が、上記の社会学の根本的な課題に何処まで解答できるかは分からないが、ある歴史的出来事に関わった人々(成員)の履歴(社会化の過程)から現出してくる「社会構造」に注目し、その歴史的出来事の潜在的メカニズムを解明しようとする試みである。報告では、この「履歴網分析」を中心に「明治初年のドイツ医学制度導入」の事例について発表する。

第4報告

福祉国家における配分的権利
―法社会学的一考察―

伊藤 周平 (社会保障研究所)

 戦後の西欧において確立された福祉国家の本質にかかわる基本的命題の一つに、福祉国家における社会的諸サービスは、恩恵としてではなく、権利として市民に提供されなければならないという原則がある。こうした「権利としての社会保障」の理念は、福祉国家への信頼が揺らぎ、その将来像が模索されている現在、特に、新保守主義者の側から厳しく批判されている。福祉国家を構成している社会保障制度は、財政的にも、機能的にも先進資本主義社会の維持に不可欠な機構として定着しており、こうした理念的攻撃が、即座に社会保障制度の全面的解体に結びつくとはいいがたい。にもかかわらず、そのことを通じて、福祉国家の理念的な空洞化がもたらされ、社会保障制度の実体や運用の在り方が変化し、選別主義的な形での福祉国家の再編が進展する可能性も否定できない。

 本報告では、まず、福祉国家において生存権を中心とする社会保障の権利が、現実にどのような機能を果たし、どのような問題点を内在させているのかを、U.K.プロイスの「配分的権利」という概念を借用して、法社会学的に考察する。その上で、新保守主義からの批判も踏まえ、権利化という形で個々人の利益やニーズを処理してきた福祉国家の介入構造の限界を指摘しつつ、権利と政策の調整システムとして手段化の方向を構想し、新たな「権利としての社会保障」の理念の確立を展望する。

報告概要

森岡 清志 (東京都立大学)

第一報告「箱庭療法の相互行為的組織化」(お茶の水女子大学 高山啓子)は、箱庭療法の場面の観察と会話分析を通して、参与地位の組織化過程に関する考察を試みたものである。会話分析の方法とその解釈をめぐり活発な議論がなされた。第二報告「農山村への新来現象」(農業総合研究所 石原豊美・市田知子、農業研究センター 原珠里)は、都市部から農山村への移住現象のなかに住まい方を中心とした生活意識の変容を認め、新来者と土着者の両者を対象とした調査事例の検討をおこなったものである。豊富な事例に基づく知見の紹介は興味深く、またこの現象に対する社会学的考察の必要性を感得させるものでもあった。第三報告「歴史社会学的研究のための一つの方法――履歴網分析(career-net analysis)の発想――」(敬愛大学 北嶋守)は、明治初年のドイツ医学制度導入という歴史的出来事を事例として、その潜在的メカニズムを解明するために、この出来事に関わった人々の履歴ネットを作製し分析を試みたものである。科学史に関する報告者の豊かな素養を感じさせただけでなく、方法的にも誠に興味深い内容であったため、フロアから熱心な質問がよせられた。第四報告「福祉国家における配分的権利――法社会学的一考察」(社会保障研究所 伊藤周平)は、U.K.プロイスの配分的権利の概念を援用して、福祉国家における社会保障の権利が現実にはたしている機能と問題点を考察し、あわせて新たな理念の確立を展望するものであった。

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