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年次大会
大会報告:第40回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会 IV)

 テーマ部会 IV:エリア・スタディ部会
 「エリア・スタディに関して社会学は何が可能か」―わが国におけるエリア・スタディの現況と課題―
 6/7 14:00〜17:30 [新3号館西347教室]

司会者:中泉 啓 (日本大学)
コメンテーター:古屋野 正伍 (常磐大学)  新津 晃一 (国際基督教大学)

部会趣旨 中泉 啓 (日本大学)
第1報告: 今日の日本の社会学におけるエリア・スタディの動向 柄澤 行雄 (常磐大学)
第2報告: エリア・スタディのはどのようにして国民国家を超えるか
――ヨーロッパ研究の視点から――
宮島 喬 (お茶の水女子大学)
第3報告: 途上国研究と地域の概念 山口 博一 (文教大学)

報告概要 中泉 啓 (日本大学)
部会趣旨

中泉 啓 (日本大学)

 ECの統合、ソヴィエトの崩壊、世界中で起きている様々な地域紛争などにみられるように、一方では統一への動きがあり、他方では地域社会の独立や自主性の主張がそこここで生じている。現代社会はきわめてドラスティックな変化を遂げているようだ。

 個々の社会学研究者は各々の問題意識にしたがってそれぞれの地域を研究している。しかし、エリア・スタディそのものを社会学全体の中で今一度捉え直すことが必要なのではないか、というのがこの部会の問題である。これまで、社会学の中でエリア・スタディそのものの研究枠組は形成されたことはなかった。現代社会の多様な変化はエリア・スタディを社会学の中で問い直す必要を生ぜしめている。

 幸い、今回の発表者、コメンテータはどの方もエリア・スタディに関しては熟達した方ばかりである。経験を踏まえた上で、社会学からのエリア・スタディについて論議が進められるであろう。

第1報告

今日の日本の社会学におけるエリア・スタディの動向

柄澤 行雄 (常磐大学)

 わが国の社会学界において、このところ急速に外国の地域研究や国際関係の研究に対する関心が高まりつつある。

 この領域・テーマについて現地での経験的な調査にもとづく報告が、社会学会大会や地区学会大会で年々増加し、またまとまった研究成果として出版物も間をおかずに出されるようになった。さらに、近年ではそうした研究者の組織化も行われるようになり、あいついで研究会が発足している。 こうした中で、この関東社会学会でも、今回初めて「エリア・スタディ部会」が設置され、その第1回として今回のタイトルのようなシンポジウムがもたれることとなった。

 本報告は、このシンポジウムの予備的知識を提供することを目的として、1988年に報告者も参加して日本社会学会会員を対象に実施した地域社会研究会による「日本人社会学者による地域社会研究の動向調査」の結果を中心に、またその後の動向を加味しながら、地域研究の動向を概括的に報告する。

 具体的には、1980年代以降における地域・研究テーマ別等の動向や研究方法などを中心に報告する。調査結果を見る限り、当然のように対象地域の広がりや研究テーマ、方法などは実に多様であり、そこに一定の特徴・傾向を掴むことは容易でないが、報告者なりにそれらの特徴や今後の課題といったものを指摘することで、後の二つの報告と討論の下地を提供できればと考える。

第2報告

エリア・スタディのはどのようにして国民国家を超えるか
――ヨーロッパ研究の視点から――

宮島 喬 (お茶の水女子大学)

 社会学ではエリア・スタディはほとんど市民権を与えられていない。 アジアやヨーロッパの一社会を専門的に研究する社会学者がいても、学会ではこれを専門として位置づける態勢がなく、大学教育の中でそれを直接生かすカリキュラムもない。このため歴史学はもとより、政治学や経済学に比べてもエリアの特殊性、独自性の感覚に乏しい。理由はあるにせよ、これは今日の社会学の貧困を物語るものだろう。このため、エリア・スタディにおいて社会学が貢献しうる視角や問題領域は何かという議論も深められていない。実際は、階層構造、職業構成、社会移動、地域移動、文化、アイデンティティ、地域紛争、環境など多くの分野で社会学への期待はあり、現にヨーロッパの研究でもそれが望まれている。

 ところで、ヨーロッパ社会の研究において今要求されているのは、国家の枠組を超えるないしは分節化するフレームをいかに見いだし、研究を進めるかである。「イギリス」「フランス」「ドイツ」等々の各国別に行われてきたエリア・スタディは、今、再検討を迫られている。いわゆる「国民国家」(nation state)コンセプトは、国民社会という枠組を至上化するものであるが、文化的地域的共同生活やアイデンティティの境界は必ずしもこれと重ならない。このことは、従来はマイノリティの研究のなかで指摘されてきたが、今日ではEC統合の進展とあいまって、より一般的に確認されるようになっている。そこで、注目されるべきは、(1)地域形成の要因としての文化とアイデンティティ、(2)移動(migration) がつくりだす超国家的な地域間のつながり、(3)共通の社会経済的問題を通して結ばれる地域間関係、であろう。国家という枠組の境界はむろん無視できないが、国家を超える同種文化、・言語地域や、同じく国家を超える雇用や環境の問題、さらにEC規模の、および域内外にまたがる中心―周辺の関係の展開も、それにおとらず重要性を増している。具体的な事例として、ベネルクス、南欧、スコットランドなどの地域形成の論理を考えてみたい。

第3報告

途上国研究と地域の概念

山口 博一 (文教大学)

1.地域概念の重層性 (1)一つの国家/(2)国家の一部分/(3)隣接するいくつかの国家のそれぞれ一部分あるいは一つの国家とこれに隣接する国家の一部分が一つの民族を構成する場合/(4)数カ国あるいはより多くの国家を含む地域
 (2)と(3)は多くの途上国の多民族的構成と国境の恣意性を前提にしている
  国境の恣意性にもかかわらず国民意識が形成される例(「中東諸国体制」)
  分離主義の例、チベット、スリランカ・タミル、エリトリア、ボスニア・ヘルツェゴビナなど
  複合的な文化を創造する可能性
 (3)の例としてバングラデーシとインドの西ベンガル州、ウルドゥ語文化圏、アゼルバイジャンとイランのアゼルバイジャン州、クルディスタン、ルーマニアとモルドバなど、その中には民族的な統一による国民国家の形成があらためて問題になる場合もあるだろう、そのことと民族自決権との関係
   難民、ディアスポラ、遊牧民、
  「ベトナム難民」欧米についての地域研究に期待するもの

2.地域研究の方法的諸問題
 (1)地域研究の要件
  ディシプリンとインフラストラクチャーの二本立て/地域研究は一つのディシプリンか/民族  と部族/社会的分化の度合い/社会科学と人類学/コミュニティー・スタディと地域研究
 (2)地域研究者とジェネラリストとのすり合わせと協力の問題
  地域の事象を「資料として」用いる立場/何故これまですり合わせが不足していたか/対話の条件の整備、特に開発独裁下の高成長の評価に必要/社会学の場合ジェネラリストとはなにか
 (3)途上国の位置付けと地域研究の目的
  発展を単に経済の数値が変化する過程としてでなく生きた人間の集団の歩みとして理解するために/日本研究への寄与の可能性(日本研究の相対化)/社会科学へのフィードバック

報告概要

中泉 啓 (日本大学)

報告者の柄澤氏は日本の社会学全般から見たエリア・スタディの動向として80年代後半より地域研究者の量的な増大が顕著となり、90年前後には研究会などによる研究者の組織化が計られてきた現象が社会学会にあること、研究の内容が次第に多様化している傾向は、現代社会の動向が移民や他国でのエスニシティーの問題として発生をしている状況から、国際化や外国人問題という社会現象となって表出しているからであると述べた。宮島氏は主としてヨーロッパ研究を通して国民国家という枠を越えた研究枠組の設定が必要であること、また、地域研究について経済学や政治学ではなく社会学の役割は一体なんであるのかをも考える必要から、従来の枠組を越えた地域の捕らえ方が必要なのではないか、と提唱をした。山口氏は現在の国民国家という枠組の揺らぎ、あるいは開発経済学の見落とした全体的な枠組の必要性について、新たな地域概念の設定の必要性や現在の開発と日本の関係との見直し、そして、地域研究はそれ自体が研究なのではなくそれ以外の要因、例えばインフラストラクチュアなどを取り込んで見ていく必要性があると述べた。

コメンテーターの新津氏は地域研究が特定の地域の実態をケーススタディとして行なうのか、それとも、理論検証の場としての地域研究なのかが問われるのではないか、また、特異性からの説明か、個別の文化はそれぞれ別の尺度をもっているという把握の仕方をしようとするのかによっても大きく地域研究は異なってくる。古屋野氏は現在の国境の恣意性、先進社会と途上社会の接点の両者をつなぐ地域研究としても一般的な研究の必要性を述べられた。

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