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年次大会
大会報告:第41回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第3部会)

 第3部会  6/13 10:00〜12:30 [3号館323教室]

司会:米地 實 (専修大学)
1. 東京の米騒動
―民衆生活の重層と都市―
中筋 直哉 (東京大学)
2. 地域・空間・場所 宮島 直丈 (立正大学)
3. リゾート開発地域におけるコミュニティの問題
―長野県茅野市・立科町の事例―
堀 圭三 (立正大学)
4. 初期自然保護運動の形成過程
―ビーナスライン八島線建設に対する異議申し立て運動を事例として―
渡辺 伸一 (東京都立大学)

報告概要 米地 實 (専修大学)
第1報告

東京の米騒動
―民衆生活の重層と都市―

中筋 直哉 (東京大学)

 東京の米騒動は、東京市と隣接する郡部で1918年8月12日から17日までの6日間に起こった。これまでこの事件は、名前が示すとおり、主食の窮乏を打開するための民衆の闘争と評価されてきた。だがあらためて史料を見直すと、この評価に見合う行動は少なく、むしろ全く別の論理に基づく行動がより多く見出せる。この報告は、そうした行動を特にそのかたちに注目して分析することを通じて、当時の東京の民衆生活を明らかにすることを試みるものである。

 史料に見出せる行動は、近隣の米小売商への廉売強要、繁華街の小売商のショウ・ウィンドウへの投石、米価に関わる公共機関の建物のファザードへの投石の三つである。まず行動の主体の論理の分析から、それらが市の周辺部の細民街に住む雑業者、市の中心部の街区で住みこみで働く商店雇人や職工、市の中心部の街区で通いで働く商店雇人や職工の生活にそれぞれ基づくことを明らかにする。また主体の性格の分析から、それらが家の近隣で体験することで成り立つ情報世界、繁華街で見入ることで成り立つ情報世界、新聞を読むことで成り立つ情報世界にそれぞれ基づくことを明らかにする。つまり東京の米騒動は、そうした民衆の生活と情報世界の空間的・時間的な重層を映し出す事件だったのである。逆にいうと、そうした民衆の生活と情報世界の空間的・時間的な重層こそが大正の東京という都市の本質に他ならない。

第2報告

地域・空間・場所

宮島 直丈 (立正大学)

 従来の地域社会学および都市社会学においては、「地域」の概念規定はおよそ Community あるいは Region という二つのレベルにおいて試みられてきていると言える。そしてそれらはいずれも「社会」というものとの唯名論的アナロジーの上から、社会システムあるいは社会・生活構造体として措定されている。すなわちそれが「地域社会」である。 言い換えるならば、実体としての、あるいはまた客観的に認識可能な「地域」ばかりが従来の社会学の射程範囲であったというのが私見である。そしてそれは、同時に従来の「地域」研究に「空間」的な要素が欠落していたことの証と見る。

 それでは、例えば行政区域などとは異なり地図上への投影が困難なような、その意味で人々が主観的に認識していると考えられる地域というものの把握への社会学の方途とはいかなるものであるのか。その際、各主体により価値を与えられ意味付けをされた空間としての「場所 (Place)」という人文主義的・現象学的地理学における概念は示唆に富む。 報告では、主観的地域として、神奈川県南部相模湾沿岸地域を指して用いられていると思われる「湘南」を例にして、主観的地域への社会学からのアプローチの方途を探る。

第3報告

リゾート開発地域におけるコミュニティの問題
―長野県茅野市・立科町の事例―

堀 圭三 (立正大学)

 現在行なわれている一連の地域開発の1つである「リゾート開発」は、該当する地域にとってはさまざまな現実の地域問題―そこには経済的効果による地域活性化、過疎振興、環境問題、地域格差、近隣関係の崩壊、または再編成などが内在している。これらは従来の地域開発による都市化過程と伝統的地域社会との関係のなかで現れてきた地域問題と基本的にはその性質を同じくしている。しかし、リゾート開発は周知の通り、豊かさ・ゆとり・余暇利用・労働時間短縮など新しいコンセプトが含まれている。このことが開発の受け手である「地域住民」にとってどのような影響を及ぼしているのか。我々は、その1つの方向を「リゾートコミュニティ」の問題として捉えたいと思う。なぜならば、これらのコンセプトは、今まではリゾートの開発側や享受者を対象にのみ論じられてきたが、たとえば「町・村おこし」などに見られる地域住民の活動は、逆にこれらのコンセプトが1つの条件になっていると考えられるからである。リゾート開発について、受け手である地域住民はどのように認識し、何を期待しているのか。また、リゾート地としての自らの地域をどのように思っているのか。リゾート享受者との交流をどのように考えているのか。地域の活性化についてどのように考えているのか。それはまた、個々の住民の中に「リゾートコミュニティ意識」の萌芽を見出すことにもつながるであろうと考える。

第4報告

初期自然保護運動の形成過程
―ビーナスライン八島線建設に対する異議申し立て運動を事例として―

渡辺 伸一 (東京都立大学)

 我が国において、自然保護運動なるものが、市民の側から本格的に展開されるのは、高度経済成長期に入ってからである。この点において、我が国における市民運動型の自然保護運動のいわば原点は、この時代に生起した運動に求めることができる、と言えるのであり、その意味では、この時代の運動を「初期市民運動型自然保護運動」(便宜上「初期自然保護運動」と略記)と名づけても差し支えない、と考える。

 ところで、この「初期自然保護運動」はどのようにして成立していったものなのであろうか。また、こうした運動には、「自然保護」のスローガンが市民権を得ている今日の運動には見られない何か先駆的運動ならではの特徴や運動の産みの苦しみ等を見て取ることができるのであろうか(あるいはそういうものはないのであろうか)。さらには、これらは、後の運動にどのような形で影響を与え、そして今日に至っているのであろうか。こうした視点に裏打ちされた社会学的研究はいまだ存在していない。

 本報告では、上記の問題関心を深めるための第一ステップとして、1968年、長野県の諏訪で生起・展開された、山岳観光道路・ビーナスライン八島線(位置:霧ヶ峰)建設に対する異議申し立て運動を事例として取り上げ検討することを課題としたい。その意味において本報告は、中間報告という性格を持つものである。

報告概要

米地 實 (専修大学)

 第III部会は、(1) 中筋直哉(東京大学)「東京の米騒動――民衆生活の重層と都市――」 (2) 宮島直丈(立正大学)「地域・空間・場所」 (3) 堀圭三(立正大学)「リゾート開発地域におけるコミュニティの問題――長野県茅野市・立科町の事例――」 (4) 渡辺伸一(東京都立大学)「初期自然保護運動の形成過程――ビーナスライン八島建設に対する異議申し立て運動を事例として――」の4報告がなされた。

 第一報告は東京の米騒動を「主食の窮乏を打開するための民衆の闘争」と理解する従来の見解に対して「むしろ全く別の論理」で説明されるべきものとする立場での実証的報告であった。言説によりも行動のかたちに注目し、行動を通して貫徹される民衆の論理を幾つかの場面を描くことにより問題を提起し、主体の論理、性格の分析をおこない、当時の民衆の生活と情報世界の重層、つまり当時の東京の特徴を明らかに表示するものとしての都市民衆騒擾であったとする。誠に興味深い今後の大成が期待される優れた発表であった。

 第二報告は従来の地域社会学および都市社会学の「地域」概念を、報告者のいう「空間」的要素を加え理解すべきであるという主張を「湘南」を例にして報告した。

 第三報告は地域開発が開発の受け手である「地域住民」にとってどのような影響を及ぼしているかについての実証的研究の報告であった。

 第四報告は「初期自然保護運動」の成立過程についての実証的研究報告であった。

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