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年次大会
大会報告:第41回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会 II)

 テーマ部会 II 「学歴と不平等」
 6/12 14:00〜17:15 [3号館333教室]

司会者:川崎 嘉元 (中央大学)
コメンテーター:野呂 芳明 (東京学芸大学)  黄 順姫 (筑波大学)

部会趣旨 直井 道子 (東京学芸大学)
第1報告: 学歴による不平等 小島 秀夫 (茨城大学)
第2報告: 高等学校卒業者の職業経歴
−パネル調査の結果から−
小杉 礼子 (日本労働研究機構)
第3報告: 学校歴の経済競争モデル 矢野 眞和 (東京工業大学)

報告概要 直井 道子 (東京学芸大学)
部会趣旨

直井 道子 (東京学芸大学)

 日本は「学歴社会」だといわれ、学歴による不平等が存在するといわれる。学歴による不平等とは、(いわゆる「実力」をどう考えるかで、何を不平等というかは議論があるところだろうが)低い学歴だとよい職業につけない、収入が低くなる、差別されることがあるということ、逆に、よい学校歴がよい職業、よい収入を約束する、ということだと考えられる。さらに、最近では、よい学校歴を得るためには、かなりの収入が必要で、学歴による不平等が世代的に継承されるという指摘も出てきている。これらの問題を、具体的データを通して検討するのがこの部会の趣旨である。まず、初めに学歴と階層に関する研究によってこの問題に関する全体的展望を描き、ついで高等学校卒業者の職業経歴を中心とした研究と大学に関しては学校歴を巡る競争に関する研究によってより具体的な問題を把握する。そしてこれらをもとにして、「学歴と不平等」の問題を討論できたらと思う。

第1報告

学歴による不平等

小島 秀夫 (茨城大学)

 社会的不平等は社会学の研究テーマとしては中心的なものの一つである。しかしながら、これまでのわが国の研究をみると、SSM関連の研究を除けば、社会的不平等の研究が蓄積されているとはいえないように思われる。たとえば、ヨーロッパなどにおいては、依然として階級についての本などが出版されているのと比較すると、わが国のそれはきわめて層が薄いといえる。その理由の一つは、現代の日本社会では社会階層・階級が見えにくくなったことも考えられる。

 本報告は、学歴によってもたらされる不平等について報告する。学歴によってもたらされる不平等については、ジャーナリスティックなものまでも考えれば、これまでに数多く出されている。しかしながら、そうした研究はサンプリングや調査項目、分析手法に問題があるものが多く、報告では共通の財産となっているSSMデータを使用することとする。

 65年と75年のSSMデータを使用した分析では、以下のようなことが明らかにされた。この分析では、教育水準別に世代間移動表を作成した。

 (1)教育水準別(2分類)では、上昇移動、下降移動率などに差はみられなかった。
 (2)出移動分析によって、教育水準に差がみられることが明らかにされた。比較的学歴の低いグループではホワイト・カラーからブルー・カラーへの移動がみられるのに対し、比較的学歴の高いグループではホワイト・カラー内の移動が多いことが明らかにされた。
 (3)ハウザー・モデルを使用した分析では、比較的学歴の低いグループではブルー・カラーの世襲率が高く、比較的学歴の高いグループではホワイト・カラーの世襲率が高いことが明らかにされた。

第2報告

高等学校卒業者の職業経歴
−パネル調査の結果から−

小杉 礼子 (日本労働研究機構)

 高卒3年目まで職業経歴を、就職時期、非正規就業の経験、離転職の3点からみると、(1)高卒学歴で社会にでた者(上級学校に在学またはこれを卒業していない者)のうち、高卒直後に就職した新卒就職者は87.6%、その後3年目までに就職した者が 7.9%いた。(2)非正規就業経験者は全体の19.3%、新卒就職者の中にも13.3%いた。(3)最初の勤め先を続けている者が67.2%、新卒就職者でも初職継続は70.4%。

 ここから高卒者の職業経歴を「正規継続=新卒就職、非正規経験なし、初職継続」「正規離職=新卒就職、非正規経験なし、初職離職」「非正規=新卒就職、非正規経験あり」「中途就職=3年目までに就職」の4パターンに分け、その就業先の特徴や満足感など意識の特徴を見る。

 「正規継続」では、規模が大きく、労働条件も良い職場が多い反面、主観的な満足度では、職業生活について不満とする者がもっとも多い。この不満の源泉として、仕事の内容、大卒との昇進可能性の差があげられる。

 「正規離職」では、現職は規模は小さく、労働条件も比較的良くないが、仕事のおもしろさについての評価は高く、職業生活への満足度も比較的高い。高卒後の進路選択に対する満足度はもっとも高い。

 「非正規」は、現在は3分の2が正社員として働いているが、おおむね職業生活に満足している。勤続意識や定職志向について在学中との意識変化がもっとも大きい。

 「中途就職」は、高校での就職斡旋にのらず、縁故や新聞広告等で就職。企業規模は小さく、労働条件は比較的悪い。主観的には職業生活、高卒後の進路選択への満足度がもっとも高い。

 高卒学歴者は学校斡旋にのるかどうかで就職機械が限定され、また、大企業内での学歴の壁が高卒学歴者の主観的満足感を低下させていることが考えられる。

第3報告

学校歴の経済競争モデル

矢野 眞和 (東京工業大学)

 「競争は社会を活性化させるが、不平等な社会になる。」「平等社会にすると、競争がなくなり、経済は停滞する。」このような単純な議論をする人はいないと思うが、競争と不平等の関係をはっきりさせるのは、それほど易しいことではない。日本型競争、日本型不平等、日本型学歴社会を考える必要がある。

(1)競争の形;学校と会社
 日本は競争の激しい社会だが、競争の形にユニークさがある。その特徴は、(1)限られた狭い世間(準拠集団が狭い)(2)この狭い世間の中での強い上下意識(横並びではない) (3)組織単位の競争(個人間競争ではない)
 受験勉強は個人の競争のようにみえるが、決してそうではない。学校単位の競争、さらには、市単位や県レベルの競争になっている。学校・予備校の玉取り合戦が激しくなる。

(2)選抜の形;「一括一律」採用システム(不平等の隠ぺい)
 学校と会社の接点である採用は、「学卒一括」「一律低初任給制」という特徴をもっている。特に「一律」システムの面白さが忘れられている。企業が採用に熱心なのは、優秀な人を採用すれば丸儲けになるからである。能力が同じなのに賃金が違うと(能力主義にすべきだと)文句をいうが、能力が違うのに賃金が同じことに文句をいわないのはなぜか?

(3)日本の学歴・学校歴主義は経済的に説明できる。
 ヨーロッパは学歴問題があまり一般社会の関心事にならないのに、日本ではいつまでも話題になり続けるのはなぜか?学歴の社会的構成が文化的に説明できる社会では、学歴が通俗的な話題にならない。わが国の学歴主義の原理は、経済的に説明できる通俗的な利害問題である。従って、試験は、主観的であってはならず、客観的でなければならない。

報告概要

直井 道子 (東京学芸大学)

 以前は教育(学歴・学校暦)は不平等を是正する機能をもっていたが、いまや不平等の固定化に寄与しているのではないか、といわれる。本部会ではデータに基づいて、この命題を検討した。

 第一報告(小島秀夫)はSSMデータを用いて、子どもの職業達成に対して教育のもつ効果を親の職業との関連で論じた。そして教育は親の職業威信が高い人々にとっては地位維持の機能を、低い人にとっては地位上昇の機能をもつことを指摘した。

 第二報告(小杉礼子)は、高等学校在学中ならびに卒業後3年間を追った貴重なパネルデータによって、高校卒業者の就職実態を示した。基幹労働市場(大企業正規従業員)と周辺的労働市場との格差が大きい中で、高卒者のうちで大企業への就職者は減少傾向にあり、また大企業からの途中退職者はむしろ増加傾向にあることが指摘された。

 さて、これらのデータから、教育は家計によって規定され、格差の固定化に寄与していると結論できるか。学歴・学校暦によって所得に格差があることは証明され、それが世代を超えて継承される傾向も指摘された。だが矢野は、家計が学歴・学校暦を規定し、それが所得を規定するというモデルではなくて、能力が学歴・学校暦と所得を共に規定するというモデルの可能性を示唆した。日本の研究では能力という変数は使用できないから、いずれのモデルが現状をよく説明するのかは結論できないというのが、当面の「結論」であろうか。

 この部会で議論できなかったいくつかの問題もある。一つは格差の存在を不平等と判断する基準は何か、という問題である。仮に能力によって所得格差が生まれるのだとすれば、それは不平等でない、と判断するのか否か。これは価値判断の問題であるといえよう。もう一つは、教育は経済的利益のためだけになされるものではない、という問題である。経済的利益以外の機能に関しては「文化的」という表現が部会では使われたが、その内容に関して立ち入った議論はされなかった。今後の課題といえよう。

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