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年次大会
大会報告:第42回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第5部会)

 第5部会:海外関係  6/12 10:00〜12:30 [3号館3312教室]

司会:吉田 裕 (上智大学)
1. 韓国における市民社会論の動向
−「韓国の国家と市民社会」を読む―
大畑 裕嗣 (流通経済大学)
2. ニューカマー移民と福祉
−アメリカ合衆国の福祉コスト論議−
江成 幸 (お茶の水女子大学)
3. 中国家族の確定
−一家子(イージアーズ)を手がかりに−
木下 英司 (関東学院大学)
4. 外国人労働者問題(その2)
−外国人労働者不法滞在に関する実態調査−
宮内 紀靖 (中国瀋陽師範学院)

報告概要 吉田 裕 (上智大学)
第1報告

韓国における市民社会論の動向
−「韓国の国家と市民社会」を読む−

大畑 裕嗣 (流通経済大学)

 韓国社会学会・韓国政治学会(編)「韓国の国家と市民社会」(ソウル、図書出版ハヌル、1992年)は、両学会が共同で開催した学術発表会「韓国の政治変動と市民社会」で報告された2つの問題提起と17篇の論文を収めた論文集である。この論文集は、韓国社会を研究対象とする者にとってはもちろん、隣国である日本の社会学徒にとっても、東アジアにおけ市民社会論の可能性にたいし新たな関心を呼び起こす、興味深い試みとなっていると思う。

 80年代韓国の社会科学においては、労働運動、民主化運動の高揚とともに、マルクス主義が著しい隆盛を見せた。しかし、ソ連の崩壊、東欧の変動、そしてその間接的影響下に進行したと考えざるをえない盧泰愚政権以降の「民主化」によって、「正統派」マルクス主義にかかわりうる理論的オルタナティブとして「市民社会論」に関心が集まりだした。

 韓国の学界における「正統派」マルクス主義と、リベラルな「市民主義」の対立を反映して、本論文集にも市民社会論をめぐる相いれない論点が見られる。本報告では市民社会論にたいするマルクス主義の対応と非マルクス主義市民社会論の可能性と危険性を指摘し、(1)韓国における市民社会の歴史的実体性、(2)階級・階層と市民、(3)運動論と市民社会論、(4)今後の韓国の市民社会という4点から若干のコメントを行なう。

第2報告

ニューカマー移民と福祉
−アメリカ合衆国の福祉コスト論議−

江成 幸 (お茶の水女子大学)

 移民ないし外国人労働者の受け入れ国にとって、受け入れに伴う社会的コストは大きな関心である。アメリカ合衆国では1960年代以来、政府による生活保障が権利として広く認知され、移民も福祉政策の対象となっている。その結果、移民の経済的地位の低さや非合法移民の問題との関連で、移民に対する福祉が政策的な関心を集めている。

 1970年代半ばからは、移民の利用する福祉コストの推計が複数の社会科学者の手によって行なわれている。一般に、連邦政府および州政府の収支を移民の納税額と福祉給付の利用額から割り出す方法がとられている。このような福祉コストをめぐる議論は、直接的には財政上の問題であるが、同時にアメリカ国家がどのような成員によって構成されるべきかという根本的な問いも含んでいる。

 例えば、福祉コストを計算した上で、非合法移民でも定住していれば福祉給付をみとめるべきだと主張する研究は、移民を将来的なアメリカ国民とみなす立場といえる。アメリカは 出生地主義により、移民第二世代に対し自動的にアメリカ国籍が与えられることから、この立場をとる研究者は少なくない。一方で、移民の福祉コストがアメリカ国家という統一体の維持にとって好ましくない、という見方もある。この立場の研究では、国家管理の強化の必要をあわせて説く傾向がみられる。

第3報告

中国家族の確定
−一家子(イージアーズ)を手がかりに−

木下 英司 (関東学院大学)

 中国家族の研究は、かつてよりも盛んになってきているが、殆どの場合familyやhouse−holdという用語を何ら批判・検討することなく「家庭」や「戸」に翻訳されて使用されている。こうした状況は果たしてよいであろうか。私はよくないと思う。やはり、欧米からの借り物ではなく、中国の現実の中から帰納的に家族についての用語・概念を確定する必要があると思う。そうでないと、中国の家族なり親族なりの特色が理解できないだけでなく、中国研究そのものが混乱に陥ってしまう可能性がある。

 そこで、今回の報告では、過去三年間の山東省の調査(代表:青井和夫)に基づいて、この地で常用されてる「一家子(イージアーズ)」という語を手掛かりにして、中国家族のありようを考察してみたいと思う。今具体的に報告の順序を記しておけば、つぎのようになる。

 まず、分家(フェンジアー;住み分け、土地分配)から、一家子の層化のようすをなが め、続いて、そこから最小単位の一家子としての「戸」を析出し、更により広範囲なレベルでの一家子の層化のメカニズムを祖先祭祀の原理・原則から分析し、最後に、調査対象地における一家子の変化について述べてみたいと思う。

第4報告

外国人労働者問題(その2)
−外国人労働者不法滞在に関する実態調査−

宮内 紀靖 (中国瀋陽師範学院)

 第40回関東社会学会(92.6.7)で発表した、日本における外国人労働者の実態調査をしたA社の隣社(Z社)に関係する、県警察の防犯課と地元署の連合捜査本部による出入国管理法・難民認定法違反の現行犯逮捕事件が各新聞の地方版に報道された。

 この事件は、36人ものタイ人が逮捕・摘発されるという大規模なものになった。ほかにも多数の不法滞在・不法就労の外国人労働者がいるのに、なぜ、温和で対日本人関係の比較的良いタイ人だけが摘発されたのであろうか。就労の実態と、摘発の前後を通じて、外国人労働者と日本人雇用者の両面から実態を解明する。

 このZ社は、自動車産業の第一次下請けと機械産業の第一次下請けをする、50人規模の実質的には個人経営の会社である。バブル経済の進展とともに労働不足とコスト削減の要請から外国人労働者の内でも特にタイ人労働者を積極的に雇用することとなった。摘発時には、過半数の27人にも上った。他には、食品加工工場の1社9人が摘発されただけであった。このZ社の主力工場のある、H工業団地は23工場で約600人もの外国人労働者がい たにも拘らず、摘発を受けたのはZ社だけであった。

 事件の概要
 タイ人による無免許自動車事故→Z社タイ人従業員による放火事件→タイ人を主とするアパートの不当家賃・劣悪住環境・環境汚染による日本人家主の逮捕→外国人不法滞在者摘発の噂→外国人労働者の解雇→逮捕・摘発(外国人と日本人経営者)

報告概要

吉田 裕 (上智大学)

 以下の4本の論文が発表された。
1.韓国における市民社会論の動向――「韓国の国家と市民社会」を読む 大畑裕嗣(流通経済大学)
2.ニューカマー移民と福祉――アメリカ合衆国の福祉コスト論議 江成章(お茶の水女子大学)
3.中国家族の確定――家子(イージァーズ)を手がかりに 木下英司(関東学院大学)
4.外国人労働者問題(その2)――外国人労働者不法滞在に関する実態調査 宮内紀靖(中国瀋陽師範学院)

 大畑論文は、韓国社会学会・韓国政治学会編「韓国の国家と市民社会」(1992年刊行)という一冊の本を取り上げる。1987年の「民主化(6.29)宣言」以降の韓国自体の民主化、80年代末のソ連の崩壊、東欧の激変があって、その結果、「『正統派』マルクス主義にかわりうる理論的オルタナティブとしての『市民社会論』」に韓国の社会学者や政治学者の関心が集まりだした事情を解説し、あわせて「市民社会論」に対する「正統派」マルクス主義者の批判を紹介。しかしマルクス主義者 対 市民主義者の対立の構図、両者の議論の質と知的レベルにもう一歩踏み込んでコメントするには、報告者自身が市民社会の概念、市民社会化の指標を自分なりに明示し、韓国における市民社会の「成熟」に関する現状分析をやってみせる必要がある。

 江成論文は、アメリカ合衆国における合法移民および非合法移民の福祉コストが連邦、州および地方政府の福祉財政にどれほどインパクトを与えているか、という問題についての実証研究をふまえた、移民の福祉コストに関する最近の論議を紹介した。不法滞在外国人労働者が総人口の1割を超えた日本にとって参考にすべき議論もあるようだ。

 木下論文は、過去三年間の山東省の家族調査に基づいて、この地方で常用されている「一家子」という語を手がかりして、中国の家族と親族のあり様を考察する。欧米のfamilyやhouseholdといった借り物の概念によらず、中国現実の中から機能的に家族およびこれの関連概念を確定すべきだと主張する。

 宮内論文は、第40回関東社会学会大会(92.6.7.)で報告した論文の続編で、A市H工業団地内にあるZ社で不法就労している36人のタイ労働者、およびZ社の3人の経営幹部が逮捕・摘発された事件を取り上げた。事件記者ではなく社会学者の報告である以上、問題意識、問題設定、記述・分析にひと工夫あってしかるべきだったと思った。

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