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年次大会
大会報告:第43回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第2部会)

 第2部会:エスノメソドロジー  6/11 10:00〜12:30 [7号館331教室]

司会:浜 日出夫 (筑波大学)
1. 緊急電話のカテゴリー的達成
−119番通話のエスノメソドロジー(1)
樫田 美雄 (筑波大学)
2. 訴えの定式化
−119番通話のエスノメソドロジー(2)
高山 啓子 (お茶の水女子大学)
3. 方向を指示するということ
−119番電話のエスノメソドロジー(3)
上田 智子 (お茶の水女子大学)
4. 「あの::おなまえってのを きくことになってるんですよ きまりで」
−119番通報のエスノメソドロジー(4)
岡田 光弘 (筑波大学)

報告概要 浜 日出夫 (筑波大学)
第1報告

緊急電話のカテゴリー的達成
−119番通話のエスノメソドロジー(1)

樫田 美雄 (筑波大学)

 現在我々は、日本の緊急電話についてエスノメソドロジー的視角からの分析を行っている。本報告はこの共同研究「119番通話の社会学的研究」の中間報告の第一部である。

 緊急電話はどのようにして緊急電話になっているのであろうか。この素朴な問いに答えることを目標にデータを開始部、中間部、終結部の3パートに分け、話中で消防関連のカテゴリーがどのように語られているかに注目してみてみた(分析には230通話、約360分の録音テープが用いられた。当日配布のトランスクリプトでデータの詳細は示す予定である)。

 得られた主要な知見は以下の3点である。 (1)開始部においては、受信者が、「火事ですか、救急ですか」という問いかけをすることで、真っ先に火事の場合や救急の場合を「適切な緊急電話」にする。

(2)中間部においては、「怪我人はいますか」というような、その通話を適切なカテゴリー(例:火災、救急)に結びつけるために役に立つ発話が、発信者と受信者の両者から積極的になされていることで、通話が緊急電話として達成されていっている。

(3)終結部においては、基本的に、通話のカテゴリーに対応した車両(例:消防者、救急車等)の出場が宣言されることで、緊急電話の最終的達成がなされていた。

 なお、当日は119番通報を受け付ける通信司令室の業務に関して、その改善への試案を発表する。また、今後の研究の発展の展望についても言及することになろう。

第2報告

訴えの定式化
−119番通話のエスノメソドロジー(2)

高山 啓子 (お茶の水女子大学)

 119番(消防、救急)通話における制度としての主たる課題は、通報者の確定、出場する場所の確定、訴えの確定の三つであると思われる。本報告は、このうちのひとつ、緊急電話において「訴え」がどのように確定されていくかということに焦点を合わせる。訴えとは、例えば、「交通事故でけが人がいる」とか、「お腹が痛くて動けない」とか、「裏山が燃えている」といったように、通報者にとっては、救急車、あるいは消防者を呼ぶ理由となるものである。しかし通報は、訴えによって、明示的に「救急車に来てほしい」と「要請」しているものばかりではない。目撃者による単なる「報告」や、あいまいな要請を、明示的な要請にしていく作業がなされなければ、出場するかしないかという決定を下すことはできない。このような制度的課題は、通報を受ける組織側の一方的な達成課題=業務としてのみあるわけではない。訴えはまず、通報者によって表示されるが、受け手がその表示を承認するということで確定されるような単純なものではない。例えば、受け手は通報者の発話を利用しながら、訴えを定式化していくという作業に携わっている。こうした課題は、通話のやりとりにおいて、通報者と通報の受け手との双方の協同作業によって達成されていくものである。このことを、エスノメソドロジーの会話分析によって、実際の119番通話の会話のトランスクリプトを用いて例証したい。

第3報告

方向を指示するということ
−119番電話のエスノメソドロジー(3)

上田 智子 (お茶の水女子大学)

 本報告では、緊急電話において、掛け手と受け手の双方が協働して掛け手の場所(すなわち救急車両の出場先)を特定する活動(以下、先行研究にならって方向指示活動とよぶ)を、一組の活動セットとして措定し、分析の対象とする。米国では、すでにPsathasらによって、電話における方向指示活動についてエスノメソドロジー的見地からの分析が蓄積されているが、これらの先行研究を参考としながら、実際の119番電話のトランスクリプトを提示し、場所の特定がいかにして達成されるかを分析していく。

 さらに、その一方で、以下の論点についても考察を行なう。第一点は、分析対象である通話が119番通報であるということに関わっている。119番通報が、いかにして119番通話らしさないし緊急電話らしさを達成するかという問題は、その通話自体の詳細において検討されるべきであるが、方向指示活動において、こうした緊急電話らしさがどのように観察可能となっているか、「緊急性」を手掛かりとして考察したい。第二点は、従来コミュニケーションにおける前提として捉らえられがちであった間主観性の問題に関わっている。ここでは、方向指示活動において観察される、受け手および掛け手による場所・地名に関する知識の共有、という事態を、会話の前提としてではなく、受け手と掛け手のそれぞれによる、表示や承認といった観察可能な諸実践による達成として捉らえ直すことが目的である。

第4報告

「あの::おなまえってのを きくことになってるんですよ きまりで」
−119番通報のエスノメソドロジー(4)

岡田 光弘 (筑波大学)

 本報告は実際の119番通話のデータを用いた会話分析の試みである。エスノメソドロジー/会話分析は、社会の成員が実践的に推論し、互いにそれを表示し合うことから社会秩序が産出されるという考え方をその基本的前提とする。通話において相手が誰なのかを認識し、その場面に適切な行為を行なうことは社会生活の基本である。これはエチケットの問題ではない。通話が通話としてなり立つ、すなわち社会的な相互行為がそれとして成立するためには相手に対する認識が必要不可欠なのだ。本報告は通話における名前の表示を取り扱う。会話分析の創始者H.サックスは、その講義録の最初で「通話において相手の名前を聞くということが、ある方法の使用によって成り立っている」という事例を取り上げた。この文化において名前(固有名)には独特の意味がある。119番通話においては@通話の最初に名前を名乗り合うということが生じない。この空白は、単なる欠如ではなく、組織、制度のひとつの表示として作動している。A名前をきくということが、通話の終了部において生じる。これは、通話が、制度的なものであることを再び表示する。ある場合その表示は、受け手の業務の一部として明確に定式化される。エスノメソドロジー/会話分析は、そのような成員の指向に表示される組織の存在を、経過の中で表示される参与者の指向を、展開・デモンストレートすることで、社会学的に周密を知見をもたらす。

報告概要

浜 日出夫 (筑波大学)

 本部会では、樫田美雄氏(筑波大学)、高山啓子氏(お茶の水女子大学)、上田智子氏(お茶の水女子大学)、岡田光弘氏(筑波大学)の四氏による報告がなされた。四氏らのグループは、現在「119番通話の社会学的研究」と題する共同研究を行なっており、四氏の報告はその中間報告として行なわれた。四氏の報告のタイトルはそれぞれ「緊急電話のカテゴリー的達成」(樫田)、「訴えの定式化」(高山)、「方向を指示するということ」(上田)、「『あの:おなまえってのを きくことになってるんですよ きまりで』」(岡田)であり、「119番通話のエスノメソドロジー」を共通の副題としていた。

 約30名の出席者があり、活発な議論がかわされた。議論はおもに119番通話の緊急性をめぐってなされた。ひとつは、119番通話であること自体が119番通話を緊急電話として構成しているのか、それとも緊急電話の緊急性自体が通話のなかで達成されているのかという点にかかわり、もう一点は、緊急性の達成は当事者によってなされているのか、それとも研究者によってなされているのか、あるいはその双方によってかというエスノメソドロジーの基本問題にかかわるものであった。明快な結論にはもちろんいたらなかったが、多くの問題が掘り起こされたという意味で、実りの多い議論であった。

 四氏の報告は、消防本部にかかってきた実際の119番通話の録音データにもとづく研究である点で貴重なものであったばかりでなく、制度の研究、方向指示活動の研究、固有名使用の研究など、会話分析の多様な研究の方向を示している点でも魅力的なものであったと思われる。

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