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年次大会
大会報告:第45回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第2部会)
第1報告

「差別」的関係性の問題化と「反差別」的合意形成の諸過程
――「同和問題意識調査」を読む――

時岡 新 (筑波大学)

 「差別」的関係性の問題化にかかわる議論において、問題化された関係性を変化させようとする判断あるいは合意が形成される過程を検討することは最も重要な課題の一つである。このような「反差別」的判断・合意は、「差別」的関係性を変化させるための実践的手続きにとって有力な戦略的資源となる。したがって差別問題を意識変革の問題という側面にのみ矮小化することなく、「差別」的関係性を変化させるための実践的手続きをめぐる議論を展開する必要がある。

 それでは「差別」的関係性を変化させようとする主張はどのような文脈において承認され、そうした主張にわれわれはなぜ合意するのであろうか。「不可視性」というユニークな側面をもつ差別問題である「同和問題」をめぐる議論にとって、クレイム申し立て活動における戦略的資源(「反差別」的合意)の形成・動員過程を検討する意義は大きい。

 「同和問題意識調査」は、判断主体の心的世界において「同和問題」が「差別」的関係性として認識され、問題化されていく過程(対象化と不当化の文脈)にかんする資料を提供するものである。本報告では対象化と不当化の規準として、とくに人権意識類型との相互連関を中心的に検討しながら、「反差別」的諸判断の生成過程を考察する。さらにこうした判断生成過程の把握が、「差別」的関係性を変化させる実践的手続きの構想に寄与するための方途についても検討する。

第2報告

ポスト産業化社会におけるエスニック階層
――英国を事例として

樽本 英樹 (北海道大学)

 戦後の国際人口移動によって先進諸社会は多くの移民を内包するようになり、移民の定住は明白な事実として認知されるようになった。これに伴い、移民の階級・階層的地位も注目されるようになってきている。すなわち、移民は「置き換え労働力」的なのか、移民は上昇移動を遂行できるのか、移民はアンダークラスを形成してしまうのか、等々。 エスニシティと階級・階層との関係の捉え方には2つの考え方がありうる。

 第1に、既存の階級・階層構造を前提として、エスニシティが人々の階級・階層帰属を決定するというものである。つまり、階級・階層構造はエスニシティ以外の要因で形成される前提でありその構造の中での地位をエスニシティが決めるという。

 第2に、エスニシティが階級・階層構造のある層を積極的に形成するという考え方である。つまりエスニシティは階級・階層構造を変動させるとする。

 両者を区別することはかなり困難でありながらも、重要な観点である。そこで、産業化段階からポスト産業化段階への社会変動という観点を考慮しながら、先進諸社会のエスニック階層を英国を事例として見ていくことにする。

第3報告

身体的文化資本としてのエスニシティ
──マレーシアにおけるマレー人女性と華人女性の美意識の比較

奥村 みさ (上智大学)

 マレーシア多民族社会の興味深い点のひとつは、あるエスニック・グループ(マレー人)のみを優先するブミプトラ政策が実施されているにもかかわらず、日常生活においてはエスニック・グループ間の文化的均衡が維持されているように見える点である。一見矛盾するような現状をどう説明したら良いのか。

 報告者はそれを説明するカギとして、「文化資本としてのエスニシティ」に着目した。本報告においては事例として、エスニシティが最も特徴的に顕在化する、生物学的特徴・しぐさ・振る舞い・装い・言語といったプラティークを取り上げ、これらをマレーシア社会における身体的文化資本とみなす。

 それらのプラティークを吟味することにより、マレー人女性と華人女性、各々の審美体系のハビトゥスがどのように形成されているのか、またマレー人と華人の文化的力関係のダイナミズムのなかで、身体的文化資本がどのように機能しているのか、を探ることにより、多民族社会マレーシアの文化の現状を多少とも理解したいと考える。

 報告者が1992年に実施したフィールド・ワークの成果をもとに、文献・雑誌・広告などの資料も参考にしながら、議論を展開していく。

第4報告

音楽趣味と社会階層
──音楽ジャンルの嗜好性にみる象徴的境界――

片岡 栄美 (関東学院大学)

音楽は、好みや趣味を知る上で重要な領域である。音楽ジャンルの嗜好性に関する調査結果から、音楽の趣味と社会階層の間にどのような関連性があるかを明らかし、人々が異質な階層カテゴリーの人々との間にある象徴的境界を強化するために音楽テイストを使用しているか否かを検討する。文化の社会学のなかでも、文化的テイストのパターンは社会構造を反映しているという考え方が支配的である。文化の階層性仮説に従えば高地位者は文化的にもっとも排他的で大衆的な文化にはなじまないことになる。しかし、現代の日本では文化のヒエラルキーと社会的地位の対応は必ずしも明確ではないようだ。そこで本発表では、音楽趣味と社会階層に関する以下の諸仮説を実証的に検討する。(1) 音楽の趣味は階層地位を表示するマーカーとなっているのか。(2) 高地位者は文化的に排他的か。(3) 逆に、高地位者は多面的な文化消費を行う文化的オムニボレとなり、低い地位の者はユニボレとなっているのか。(4) 高学歴者の文化的寛容性仮説(高学歴者ほど文化的オムニボレになる)。(5) 相続文化資本と文化的寛容性の関連性。(6) 支配階級への古参性と音楽趣味のパタ−ンの関連性。これらを検討することにより、人々が階層間の象徴的な境界を設定したり強化するために、音楽趣味を使用しているかどうかを明らかにしたい。また音楽の大衆化とともに、文化的オムニボレとなり文化的寛容性の高さを示すことが、社会学的にどのような意味をもつかを検討する。

第5報告

女性の自立と社会諸活動に関する一考察
──事例調査分析を通して――

築山 裕子 (中央大学)

 本報告は、女性の起業活動の事例分析を通して、女性の経済的自立に関しての特徴的な諸要素を抽出することによって、女性の自立の現状を女性の社会的諸活動の側面から把握しようとしたものである。女性による起業を組織的側面から分析した結果を踏まえた上で、個人別調査を分析した結果を報告する。

 経済的自立過程として見なされる「起業」に至る過程を、組織生成の経緯から分析すると、(1)女性の就労状況や個人の所属する階層に関する社会・経済的背景、(2)社会活動に参加しようと指向する意識の変容に関わる動機づけ過程、(3)起業に至る具体的行動の実践段階、の3段階がみられた。これを個人レベルでより詳細に分析することによって、女性の経済的自立の現在的位置を仮説的にも提起できるものと考える。とりわけ、個人の経済的状況や就労経験が個人の意識や現状にどのように反映されているかといったことに着目して調査を行った。

 さらに、経済的活動(起業)の前段階として位置づけられる女性のネットワーク活動参加者への個人別調査結果と比較し、社会活動の視点から女性の経済的自立志向を分析する。

報告概要

佐久間 孝正 (東京女子大)

 このところ、エスニシティやマイノリティ、それとの関連で文化資本や身体性、差別等の研究が盛んであるが、この部会も自由報告ながらこうした傾向を強く感じさせるものであった。

 全体では5本の報告があったが、第1報告の時岡氏は「同和問題の意識調査」をもとに「差別的関係性の問題化と反差別的合意形成の諸過程」と題し、人権意識の類型等を通して同和問題が「差別的関係性」の問題として認識されていくための基礎資料の提示を試みた。樽本氏は、昨年に引き続きイギリスをフィールドに「ポスト工業化社会におけるエスニック階層」と題し、マイノリティをめぐるエスニック・デュアリズム説とエスニック・プルーラリズム説のどちらが現状に近いか検討され、この帰趨を決めるにも「ポスト工業化社会」の内実が重要なものになることを示唆された。奥村氏は、「身体的文化資本としてのエスニシティ」と題し、マレーシアにおけるマレ−系女性と華人系女性の美意識の身体化の差について、共に自分にとって有利と思われる「文化資本を極端に強化する」形で「差異化をはかる」例を、具体的に写真を活用しながら臨場感あふれる報告を行った。

 片岡氏は、神戸市の調査報告をもとに「音楽趣味と社会階層」について論じられ、高学歴層が好んで聴く音楽ジャンルと中卒の人々が好むジャンルとではかなり分化していることを詳細な実態分析によって提示された。築山氏は、「女性の自立と社会諸活動に関する一考察」と題し、起業家女性の経路や性役割の変化などについての事例報告を行った。どの報告も熱のこもったもので、一時は会場に入れ切れないほどの盛況であった。時間を大幅に超過しながらも、なお積み残した議論も少なくなく、それだけに報告者の提起した問題の大きさを示すものとなった。

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