HOME > 年次大会 > 第45回大会(報告要旨・報告概要) > 自由報告 第3部会
年次大会
大会報告:第45回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第3部会)

 第3部会  6/15 10:00〜12:30 [本館1307教室]

司会:寺田 良一 (都留文科大学)
1. 整備新幹線の建設における決定連鎖の特性 角 一典 (法政大学)
2. 政策の総合性の諸条件 湯浅 陽一 (法政大学)
3. 政策過程分析における「政治的機会」について 田窪 祐子 (東京都立大学)
4. 機会構造と社会運動
──運動の社会的コンテキストはどこまで操作化できるのか
成 元哲 (東京大学・日本学術振興会)
中澤 秀雄 (東京大学)
井上 治子 (名古屋文理短期大学)
樋口 直人 (一橋大学)
5. 政治文化と抗議サイクル 樋口 直人 (一橋大学)
井上 治子 (名古屋文理短期大学)
中澤 秀雄 (東京大学)
成 元哲 (東京大学・日本学術振興会)

報告概要 寺田 良一 (都留文科大学)
第1報告

整備新幹線の建設における決定連鎖の特性

角 一典 (法政大学)

 整備新幹線の建設をめぐる意思決定は、様々な意思決定の集積群であると表現することができ、それらの個々の意思決定は相互に関連しあっている。そしてこれらの意思決定群は、ある一定の特徴を持って相互に連関している。その特徴とは舩橋の指摘するように「構造的緊張」がシステムの周辺部に「転移」する傾向にあること、そして「緊張」の解消を財政に依存する傾向にあるということの二点である(舩橋・長谷川他『高速文明の地域問題』有斐閣 1988)。これらは意思決定をめぐるシステムの重層性に基づく、中央の政治過程と地方の政治過程の相対的な分断によるものであり、より上位の意思決定システムによる決定は下位の意思決定システムの構造的な制約条件になるということを明快に表している。

 本研究は整備新幹線をめぐる意思決定群の連鎖関係を明らかにし、これらの連鎖関係が意思決定の重層構造の中で先に指摘した特徴を現出していることを論証する試みである。そのための事例として九州新幹線の建設をめぐる八代市の政治・行政過程を中心に分析する。中央の意思決定が地方におよぼす影響は、中央の行為が下位システムとしての地方の行為を構造的に制約するという点に集約的に現れる。八代市の事例は、諸々の特殊事情からそれが如実に現れており、「構造的緊張」の下位システムへの「転移」を観察するための最適な事例であるものと思われる。

第2報告

政策の総合性の諸条件

湯浅 陽一 (法政大学)

 北陸新幹線をはじめとして建設がすすめられている整備新幹線は、建設着工のさい、並行在来線の経営をJRから分離することに沿線の県・市町が合意することが前提条件となっていた。期待されたとおりの効果があるかどうかという議論はあるものの、整備新幹線は地域への経済効果を重要な目的としている。これにたいして在来線の経営をJRから分離し、廃止あるいは第3セクター化することは、地域にとっては少なくない負担となることが予想される。地域への経済効果を目的とする政策をおこなうために、地域にとっては負担となることがらに合意しなければならなかったのである。並行在来線の経営分離への地元合意を整備新幹線の建設着工のための前提条件とすることは、「政策の総合性」を欠いているといえる。(「政策の総合性」という考え方については報告のなかで検討する)

 このような決定をおこなったのは政府・与党の合同機関である整備新幹線建設促進検討委員会である。この委員会は整備新幹線をめぐる政策において、事実上の意思決定機関として機能した。この委員会のもっている性質に注目し、「政策の総合性」を欠いた決定がおこなわれた理由について考察する。そしてそれをもとに「政策の総合性」に必要な諸条件を検討する。

第3報告

政策過程分析における「政治的機会」について

田窪 祐子 (東京都立大学)

 政策過程・社会運動の分析において、近年その重要性が強調されている要素に「政治的機会」がある。運動をマクロなコンテクストに置いてとらえ、政策過程におけるアクターの一つとして捉えようとするとき、政治制度、政府・政党・政策担当者の構造・権力およびそれらの間の力関係などによって形づくられる政治的機会構造は決定的に重要である。またこの視点は、制度VS草の根・テクノクラートVS一般市民といった対立構図の中での異議申し立てにとどまらず、実効性のある対案提示を行う対等なアクターとして政策過程に参加していこうとする「対案提示型」運動の生起発展を理解する上でも鍵となる。政治的機会アプローチは、「運動」と国家および国家の持つ制度化された政治システムとの相互作用・互いに与える影響、そのものを分析の対象とする(Klandermans and Jenkins, 1995)からである。本報告では、原発をめぐる政策過程をケースとして取り上げながら、「政治的機会」に焦点を当てたアプローチの可能性を検討する。

第4報告

機会構造と社会運動
──運動の社会的コンテキストはどこまで操作化できるのか

成 元哲 (東京大学・日本学術振興会)
中澤 秀雄 (東京大学)
井上 治子 (名古屋文理短期大学)
樋口 直人 (一橋大学)

 本報告では、社会運動の促進/制約要因となる社会的コンテキストをどこまで一般的に操作化できるかを検討する。従来の政治社会学では、「政治的機会構造」論によって運動を取り巻く環境の理論化が試みられてきた。代表的な論者であるS. TarrowやH. Kriesiらは、政治制度の開放性やエリート内部の亀裂の構図などによって、政治システムへのアクセシビリティを定義してきた。このとき、政治的機会構造は運動にとって使用可能な政治的なツール・キットとして認識される。この概念は、異なる時空間で発生する類似の運動の戦略・構造・結果の多様性を説明しうるメリットを持つ。しかし、現時点での政治的機会構造論は、運動の外部環境をめぐる変数を列挙するにとどまり、さらに集合行為を政治的機会構造の従属変数としてみなしがちな欠点を克服していない。そこで本報告では、(1) 先行研究で挙げられた変数を日本の事例(特に住民運動や反原発運動)に即して検討し、(2) これまで議論されてこなかった論点を抽出することにより、(3) 運動の政治的コンテキストの分析枠組みを提示する。その際に、特に紛争処理システムの特質に注目して、「制度的構造」や「体制」といった曖昧な概念を、現実的な分析に適用できる水準まで操作化を試みる。さらに、近年注目されている政治過程の文化的側面を組み込んで、総合的な分析枠組みを提示したい。

第5報告

政治文化と抗議サイクル

樋口 直人 (一橋大学)
井上 治子 (名古屋文理短期大学)
中澤 秀雄 (東京大学)
成 元哲 (東京大学・日本学術振興会)

 本報告では、社会運動と政治文化の動態を、運動の抗議サイクルに即して検討する。近年、社会運動の文化的側面に対する関心が高まっており、欧米の社会運動論で最も進境著しい領域となっている。そこで出された議論では、相対的に安定した政治文化及び運動の展開過程で生まれる文化の2つの側面について、主に検討がなされてきた。しかし、運動をめぐるこの2つの極は相互に密接な連関を持つはずであるが、これまでは相対的に無関係に議論されてきた。そこで本報告では、抗議サイクルという動態のなかで両者が交錯する位相に注目し、2つの極を総合的に捉えるための作業を行う。抗議サイクルに焦点を当てることにより、運動の生成・拡大・衰退の各局面への移行期における、既存の政治文化と運動過程で生成される文化との連関を明確に索出できるからである。たとえば、社会運動はミクロレベルでの動員から始まるが、拡大期にはそれを超えたメゾ動員が不可欠になり、マクロな政治文化とミクロな運動文化との関係が問われることとなる。さらに、各レベルでの文化の競合・拡張・折衷関係は、抗議サイクルの帰趨に大きな影響を及ぼす。当日は、新潟県巻町の反原発運動、逗子市池子の米軍住宅反対運動、フランスにおける住宅への権利運動の事例を用いて具体的に説明する。ただし、個別的な事例の記述概念にとどまるのではなく、一般的な応用に堪え得るような理論枠組みを可能な限り図式的に示したい。

報告概要

寺田 良一 (都留文科大学)

 1. 整備新幹線の建設における決定連鎖の特性、角一典(法政大学)
 2. 政策の総合性の諸条件-整備新幹線の建設と在来線の経営分離、湯浅陽一(法政大学)
 3. 政策過程分析における「政治的機会」について−巻町・原発住民投票の事例から−、田窪祐子(東京都立大学)
 4. 機会構造と社会運動−運動の社会的コンテキストはどこまで操作化できるのか−、成元哲(東京大学)他3名
 5. 抗議サイクルと住民運動−地方政治の対立軸とダイナミクスを中心に−、樋口直人(一橋大学)他3名

 当部会の報告は、第1、第2報告が整備新幹線の政策決定の分析、第2報告が反原発住民投票の事例研究、第3、第4報告が住民運動のコンテキストの分析と、対象や分析レベルは多様であったが、 Pulic Arena Model、政治的機会構造、抗議サイクルなど、近年の分析モデルの適用を試みた報告が多かった。第1、第2報告は、整備新幹線建設に関する中央の意思決定が、それぞれ、中央と地方の意思決定の重層性の中で地方の意思決定の構造的制約条件となること、在来線の廃止や経営分離など通過自治体の合意の欠如(総合性の欠如)の原因が中央省庁・政党中心の決定アリーナの構造にあることなど、公共事業の意思決定の不均等性を問題にした。第3報告は、住民投票の成功を、従来の反原発の主体とは異なる地元保守層による「みんなで決める」というフレーミングや過半数の支持を得ていない推進派町長の正当性の欠如という政治的機会の活用から分析した。第4報告は、よりマクロに、1960年代以降の日本の住民運動の政治的機会構造を、構造的−流動的、制度的−文化的という2軸から導く、行政主導の中央集権的政治、経済-福祉・環境というイシュー競合などから分析した。第5報告は、住民運動の変容、とりわけ衰退過程に注目し、包摂-排除、再政治化−脱政治化の2軸から、制度化、インボリューションなどの変容を分析し、昨今のNPO論等へ問題を投げかけた。

▲このページのトップへ