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年次大会
大会報告:第46回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第3部会)

 第3部会  6/14 9:45〜12:45 [3号館313教室]

司会:岩永 真治 (明治学院大学)
1. 企業統治の問題と公共性の探求 永岡 圭介 (立教大学)
2. 抗議活動における要因間関係の考察
――あるゴルフ場建設反対運動を事例にして――
荻野 達史 (東京都立大学)
3. 民間非営利活動とその組織特性
――神奈川県の民間非営利活動団体の現状から――
宮垣 元 (慶應義塾大学)
4. 公共圏・インターネット・NPO
――震災から今日までのインターNPOネットワーキングの展開――
干川 剛史 (徳島大学)
5. 「服属者の語り」という問題 深澤 進 (東京大学)
6. 共同体の現象 江川 茂
(茨城県立コロニーあすなろ)

報告概要 岩永 真治 (明治学院大学)
第1報告

企業統治の問題と公共性の探求

永岡 圭介 (立教大学)

 企業は管理の主体でありかつその客体でもある。高度な資本主義市場経済の定着化の中で企業の役割は市民社会全体に中心化してきた。日本の戦後の経済成長に照らし合わせて言うなれば、それは先ず生活者の物質的基盤が企業の生産の論理に従って形成された過程であろう。それはまた戦時下の総動員・総力戦といった経済・社会体制との連続であり、ねじれの様相としても捉えられよう。つまりそれは平たく言われるところの日本的経営慣行とそれによる企業社会のイデオロギーである。

 しかし今日の企業は単なる利益創出のエージェントにとどまらず、政治はもちろん市民社会の中の多様なエージェントとの網の目の中で多様な利益や価値を創出・吸収する「公器」といえるのではなかろうか。企業は合目的な営為を志向するに限り、物質的利益の創出と同時に様々な弊害を随伴的に流出する。かつての中心化においてはこうした問題をめぐって企業と市民運動体とが対立的に向き合った。企業にとってもはやこうした不確定な問題は単なるリスクにとどまらず、営為志向に密着した戦力的で選択的な課題なのである。

 企業と社会の関係をめぐってこれまでに社会的責任論やCI、社会的貢献といった様々な議論がなされてきた。本報告では先ず私は企業経営をめぐる統治(ガバナンス)と管理(マネジメント)を等価的かつ相互的な影響力行使として捉える。この視点から次のような概念布置を提起する。企業統治の担い手あるいはステイクホルダー(利害関係者)は市民的個人としてとりうる多様な社会的役割であり、その企業との関係は錯綜的な社会関係である。企業と市民的個人との間に成り立つ意味システムの複合的・不確実な様相と社会秩序の可能性を探求する視点で私はN・ルーマンの社会システム論に依拠する。

第2報告

抗議活動における要因間関係の考察
――あるゴルフ場建設反対運動を事例にして――

荻野 達史 (東京都立大学)

 近年、社会運動論における要因群の体型化が急速に進められている。その作業の性質は、例えば運動論の中で一時期等閑視されてきた要因(文化的諸要因)をも再度説明の図式に取り込んでいくという意味で、非常に網羅的であるといえよう。そこで本報告では、ある地域社会において展開された集合行為に関する事例研究を通して、特に〈要因間の関連性〉について検討し、仮説構築のための理論的知見を幾つか引き出してみたい。確かに、一つの抗議活動を分析単位として、政治的機会構造・動員構造・フレーミングといった要因を指標化し、計量分析を行うことの緊要性に疑問の余地はない。ただし、この報告は、ある抗議活動の出現・展開・帰結とその条件を仔細に記述・分析することのメリットを生かし、上述の要因間に働いた作用の内実を、地域社会的なリアリティに即して示すことに意義を見出すものである。事例には、ゴルフ場建設計画をめぐって、山梨県下の町で91年から95年にかけて展開された抗議活動を使用する。当該地域の政治文化、それを文脈にして有意味化する各アクターの地域内コードのも注意した上で、以下のような要因間の関係を取り上げる予定である。地域の政治体(権力構造)の様態と、動員構造である活動家のネットワーク(の活用可能性)との関連性。事前の活動家の下位文化との関連性。動員構造あるいは政治的機会(の流動的側面)とフレーミングとの関係性などである。

第3報告

民間非営利活動とその組織特性
――神奈川県の民間非営利活動団体の現状から――

宮垣 元 (慶應義塾大学)

 民間のボランティア活動や非営利活動が一定の社会的認知を得るようになり、また「特定非営利活動促進法」の成立など、それらを支える社会的基盤の整備もようやく形を見せはじめた。民間非営利活動も新たな段階を迎えているといえそうだが、一方で活動分野や活動主体の組織形態・規模が多様であることが指摘されていながら、こうした活動の全体像は必ずしも十分把握されてこなかった。近年では、経済企画庁による「市民活動団体基本調査」や東京都による「NPOに関するアンケート調査」によりようやくそのプロフィールが明らかとなってきたが、今後の課題も決して少なくない。

 このような現状を踏まえ、本報告では昨年行った「神奈川県の市民活動団体に関する調査」の結果を中心に、まず民間非営利活動の組織形態についての全体像をとりまとめる。次いで、それら民間非営利活動の特徴とされる柔軟性や革新性が、現実にはどのような組織や活動に見られるのかについて考えたい。革新性は、組織形態の変動と活動自体の変化という側面から捉えられ得るが、その源泉が他団体や被支援者などの組織外の主体との関係にあるという問題意識に立脚すると、当該組織が行政、他団体、被支援者とどのような関係にあるかを明らかにする必要があろう。本報告では、とりわけこの革新性の源泉と対外関係に焦点を絞って検討する予定である。

第4報告

公共圏・インターネット・NPO
――震災から今日までのインターNPOネットワーキングの展開――

干川 剛史 (徳島大学)

 本報告では、環境・人権・福祉などの地球規模の複雑な連関をもった今日の社会問題に対して、日常生活に根付いた取り組みを行う人々が、マスメディアやその他のコミュニケーション手段を通じて発言し議論し世論を形成して、議会や行政の政策決定・遂行過程に影響力を及ぼす社会的領域である公共圏が、インターネットという多様な形の情報を世界規模で安価・大量・迅速に収集し交換し、発信できるメディアを通じてどのように形成されうるのか、その可能性と課題を明らかにする。

 そこでまず、1.人々の自発的な問題解決活動が、インターネットが作り出すバーチャルコミュニティを通じてどのように組織化され公共圏を形成しうるのかを、理論的に考察する。次に、このような理論的枠組みに基づいて、2.阪神・淡路大震災における情報ボランティアの活動を事例としてとりあげ、自然発生的に各地で始まった情報ボランティアの活動が、効果的な救援活動の情報流通面での支援をめざして組織化され、バーチャルNPOによるNPOというべき組織体ができ上がって行く過程を分析する。そして、3.日本海重油流出災害における災害救援NPOのインターネットを利用したコーディネート活動の実体をとらえながら、それが、阪神・淡路大震災以降のバーチャルNPOによるNPOを対象にした情報化支援活動とネットワークづくりによって可能になったことを明らかにする。そして最後に、4.このようなNPOによるインターネットを通じたネットワーキング(インターNPO ネットワーキング)が公共圏を確立し社会を変えうるような活動となるには、どのような課題を乗り越えねばならないのかを明らかにしたい。

第5報告

「服属者の語り」という問題

深澤 進 (東京大学)

 服属者が語る、ということをめぐる議論はこれまでもいくつかの文脈でなされてきており、近年とくに注目されるようになってきているものだが、この議論は二つの重要な問題を含んでいる。

 第一に、言葉の流通にともなう問題である。ある言葉が流通するということは、その言葉が他者によって意味づけられるということであるが、「服属者の語り」が取り上げられる場合、この他者による意味づけの問題が先鋭化する。すなわち、その言葉が他者に承認されないということが問題となってきたのだ。これまでの議論の場合、「服属者の語り」が承認されない場が、「公領域」であるとされ、そこにおける「服属者の語り」のあり方(多くは抑圧のされ方)の分析がなされようとしていた。このような議論に対し、公/私の対立を脱構築しようとするという立場もありうるのだが、まず「公領域」という場を設定することによって、これまでの「服属者の語り」についての議論がどのように組み立てられてきたのかを分析することが必要である。

 第二に、語る主体の根拠がどこに置かれるかという問題がある。すなわち、「服属者とは誰のことか」、ということである。このことはフェミニズムの「女とは誰か」をめぐる論争からもわかるように、重大な問題である。「服属者の語り」についての議論は語る主体をどこに措定してきたのか(あるいはこなかったのか)。

 本報告では以上の二点について考察する。それによって、「服属者の語り」という問題のもつ固有性を浮かび上がらせることにしたい。

第6報告

共同体の現象

江川 茂 (茨城県立コロニーあすなろ)

 愛に渇きがあるように知にも渇きがある。学問での知の渇きが生ずるのは何故なのであろう。それは知に対する飢えのようなものではなかろうか。共同体の存立構造に価値内在化するのは何なのであろう。あらゆる状況に対応しなくてはないのではなかろうか。そのような意味からも共同体状況とは我々の精神に内在化しているのではなかろうか。共同体とはどこから来てどこへ行くのであろう。彼岸的なる状況で何を思い出すのであろうか。共同体の精神的なる状況とはまさしく知の合理的なる状況にすぎないのではなかろうか。そのような意味からも共同体の精神状況とは我々の認識の奥深い所にあるカオスと合致する共同体の根源があるのではなかろうか。そのような意味とは意味の構造と機能なのではなかろうか。共同体とは精神の共有化と共に疎外化を生むものではなかろうか。共同体の果てしない状況とはまさしく精神の永遠性そのものではなかろうか。共同体の本源的なるものとは個々人の苦悩と生活の産物なのではなかったのか。そのような意味からも共同体とはまさしく精神の非合理と情念と営利なるM・Weber的なる状況なのではなかろうか。共同体の存立構造に価値内在化するのは何なのであろう。あらゆる状況での対応ではなかろうか。そのような意味からも共同体状況とは我々の精神に内在化しているのである。その限りに於いて精神状況とは我々の感情や情念の発生形態なのではなかろうか。共同体とはどこから来てどこへ行くのであろうか。共同体の新たなるとはどこから形成すればよいのであろうか。その限りに於いて共同体の観念化とは我々の精神の根源的なるものでなければならないのである。ある種の霊的なるものが乗り移す事によって我々の精神は自分を離れて他者的なる感覚で書けるのではなかろうか。その意味合いに於いて我々の精神は何処から来て何処」へ行くのであろう。おそらくは他者から来て自己に来て他者に移行するのではなかろうか。生が自己であるように他者であり他者的な生から自己的なる死かつ生をして他者的なる生へ移行するのである。

報告概要

岩永 真治 (明治学院大学)

 本部会では五つの報告がなされた。報告で取り扱われている問題や報告のスタイルは多様であったが、主に公的領域(あるいは公共的領域、公共圏、公共性)と私的領域の関係が問題になった部会であった。

 第一報告の永岡圭介「企業統治の問題と公共性の探求」は、これまでの日本における企業統治(コーポレートガバナンス)をめぐる議論を整理したうえで、N.ルーマンの社会システム論に依拠しながら、企業社会システムと環境世界の関係、ガバナンスとマネジメントの関係を考察した。グローバル化する企業統治と公共圏(=市民社会)の再形成というアクチュアルな論点への議論の接続を期待させる報告であった。

 第二報告の荻野達史「抗議活動における要因間関係の考察−あるゴルフ場建設反対運動を事例にして」は、山梨県下のA町で 1991年から95年にかけて起きたゴルフ場建設反対運動を事例にしながら、運動の展開過程における政治的機会(構造)、動員構造、集合的行為フレーム(フレーミング)間の関係性を問題にした。フロアーとのやりとりのなかで、政治的機会と動員構造との関係において前者を動員可能な資源として扱うのか行為選択や資源を有意味化させる文脈として扱うのかなどが、議論になった。

 第三報告の宮垣元「民間非営利活動とその組織特性−神奈川県の民間非営利活動団体の現状から」は、1997年9月に質問紙郵送法でおこなわれた調査の報告で、財政規模が大きい組織ほど形式化(=組織の役割分化や機能分化)の度合いが高いことや、NPOの特徴は組織規模に応じて形式化する力とそれを変えていく力とが拮抗しているところにあることなどの指摘があった。

 第四報告の干川剛史「公共圏・インターネット・NPO−阪神・淡路大震災から今日までのインターNPOネットワーキングの展開」は、阪神・淡路大震災や日本海重油流出災害時の活動などを事例に、J.ハーバーマスの「公共性の構造転換」に関する議論に依拠しながらNPOを積極的に公共圏を構築する組織的な担い手として位置づけた。この報告では、インターネットを通じたバーチャルコミュニティの形成を契機とする新しい公共圏の構図と、必要なところにヒト・モノ・カネ・情報が行き渡るようにコーディネーション(仲介的調整活動)をおこなう活動主体としてのNPOとの関係が、興味深い論点となった。

 第五報告の深澤進「『服属者の語り』という問題」は、近年フェミニズムにおいてクローズアップされてきた「服属者の語り」という問題のもつ固有性を、公的領域(あるいは公共圏)という語彙の使用法をめぐって解き明かそうと試みた。公的領域(あるいは公共圏)は、「開かれた領域」として示される一方で、「女性と言語」研究などでは「服属者の支配を語る担保された外部性」としてもつねに用意されている領域であり、その公的領域においてどのような抑圧の力が働いているかはいまのところほとんど解明されていない点が指摘された。

 地域社会は、公的(demosiosの)領域、私的(oikosの)領域、共同体(koinosの)領域の三つの構成層をもっている。今回の部会報告は、全体としてこの構成層の歴史的な変化を表現するものであり、また多面的にその変化の質を吟味する作業であった。さらに、日米間のNPOの性格のちがいに関する議論は日米間で公共的−私的領域についての認識に依然としてズレがあることを浮かびあがらせる一方、将来、アジアにおいて共通市場を形成することになるであろう中国の公(gong)概念との調整の必要性という論点なども浮かびあがらせた。

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