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年次大会
大会報告:第46回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第4部会)

 第4部会  6/14 9:45〜12:45 [3号館314教室]

司会:渡辺 雅子 (明治学院大学)
1. 滞留的移民社会と企業家活動
――20世紀初頭ロサンゼルスにおける日系移民の事例から――
南川 文里 (一橋大学)
2. カルフォルニア州におけるベトナム系アメリカ人の教育的戦略
――第一波入国難民とその子供をめぐって――
田房 由紀子 (立教大学)
3. 中国人の滞在長期化
――1980年以降の中国人留学生を中心に――
坪谷 美欧子 (立教大学)
4. 市場型定住モデルとブラジル人 丹野 清人 (一橋大学)
5. 多文化主義に関する批判的一考察
――共有の不可能性からの出発――
岡村 圭子 (立教大学)

報告概要 渡辺 雅子 (明治学院大学)
第1報告

滞留的移民社会と企業家活動
――20世紀初頭ロサンゼルスにおける日系移民の事例から――

南川 文里 (一橋大学)

 今日、北米を中心とした移民の社会学的研究において、「移民労働者」の枠組みに収まらない「移民企業家」の活動が注目されている。本報告は、このような移民の企業家活動の「典型的」・歴史的事例としての20世紀初頭の日系移民の企業家活動を、ホスト社会に対する移民の態度およびホスト社会側の対応の変化という観点から再検討するものである。ロサンゼルスにおける日系移民の企業家活動は、1908年日米紳士協定による移民政策の変化を契機とし、「県人会」を制度的基盤としながら、ロサンゼルス経済の機会構造の空白た日系移民集団内の需要に応えるという形で活発化した。本報告ではこれを「滞留」という概念を用いて解釈したい。「滞留」とは「帰国の意志を維持しながらホスト社会に留まること」と解釈されるが、それゆえ「滞留」型と呼べる経済活動を行うことがあるとされている(スモールビジネスへの集中、ハードワーク、節約、エスニックな結束の維持など)。しかし1910年頃の日系企業家の多くはそうしたスタイルを維持しながらも、米国への滞在希望を待ち続けていた。これは経済的動機の強さと「滞留の長期化」と呼べる逆説的過程によって説明される。すなわち滞留型の企業家活動による経済的獲得の増加および、それゆえの滞在の長期化である。ここでの移民の企業家活動展開は「定住」と解釈するのではなく、むしろ「出稼ぎ」の延長上での意図せざる結果として捉えるべきである。

第2報告

カルフォルニア州におけるベトナム系アメリカ人の教育的戦略
――第一波入国難民とその子供をめぐって――

田房 由紀子 (立教大学)

 1975年前後にアメリカ合衆国に難民として入国してきたベトナム出身者は、概してあめりか社会に適応しているといわれる。実際に「モデル・マイノリティ」と呼ばれている者は、彼らやその子どもたちに集中しているようである。

 アメリカでは「バイリンガル教育法」が制定され、公立初頭中等学校において言語マイノリティに対する特別な教育的指導の実施が連邦レベルで許可されている。しかし、その実施については地域レベルで決定されており、カルフォルニア州では、ほとんどの学校がベトナム出身者のために母語による教育的援助を実施していない。一方、同様の言語マイノリティであるヒスパニックけいに対する当該教育は広く実施されているようである。ところが、政治的結集力が相対的に高いいわれるベトナム系はそのプログラム実施を要求する動きもなく、むしろプライベート・レベルで母語教育を実施している。それは、ベトナム系が主体に当該教育を受けないことを選択しているとも考えられないだろうか。

 本報告ではこの仮説をもとに、彼らのアメリカでの教育に対する態度や、ベトナム語および英語に対する態度について考察する。その際、主として次のような要因を検討したい。当時のベトナムでの教育が持つ権威、75年前後に入国したものの多くに共通する社会階層と文化資本、アメリカ社会で生き延びるための「戦略としての教育」観、「難民」や「バイリンガル教育」に付随するスティグマ化された認識などで、それらの要因の複合性から彼らの行動を検討したい。

第3報告

中国人の滞在長期化
――1980年以降の中国人留学生を中心に――

坪谷 美欧子 (立教大学)

 日本に留学した中国の留学後の滞在は、長期化しつつある。留学後の単なる '帰国'だけではなく、日本で就職や進学、起業、第三国へ移動といった将来設計から見ると、あくまで「留学」を最初の契機に、自己実現の場としての日本滞在が深化していると考えられる。中国人にとって日本留学が、国家と結びついた行為としてではなく、個人の自己実現の手段と捉えていると考えてよいだろう。ここに留学生特有の滞在への認識がうかがえ、中国人の滞在長期化・定住への指向は従来型の経済的移民とは異なる、新しい国際移動の類型として注目できる。

 そこで、日本に長期滞在する(元)中国人留学生とはどのような集団なのか明らかにするために、受け入れ社会・送り出し社会双方の社会構造における彼らの位置づけを考慮した分析を試みる。まず、滞在長期化に伴い比較的高い職業階層者とその家族たちを中心として、日本の中国人社会内の階層化や階層意識が形成されていると考える。この新たな中国人エスニック・アイデンティティやそれを支える文化資本とは何か。また、日本留学や滞在についての認識を決定付ける重要な要因としては、留学の意味づけや'単位'などの身分管理制度・移動の自由への感覚が中国において時代によって異なるため、文化革命と改革開放政策を経験した年齢の違いによる、3つの '留学世代'の存在を仮定している。

 以上のような仮説を明らかにするため、中国人(元)留学生を対象にした面接調査を行い、彼らの滞日への態度・認識に関する報告を行う予定である。

第4報告

市場型定住モデルとブラジル人

丹野 清人 (一橋大学)

 市場は財の供給者と需要家、そして供給者と需要家が等しくなるような価格を設定する競り人(オークショナー)という3つのアクターによって構成される。この3者のうち、前記2者はそれぞれ自身の取り分大きくなるように行動するのに対して、後者競り人は供給者の利益とも需要家の利害とも異なる独自の動機づけをもっている。この競り人を通して、市場での需要と供給は一致するように調整される。すなわち、過剰な供給あるいは需要が市場から退去されることによって均衡に至るのである。

 日本における日系ブラジル人を論じるに当たって、この市場モデルを導入することで日系人のあいだに見ることのできる移動の激しい定住を説明する。日系ブラジル人はデカセギにきているのであり、この意味で労働市場に参入することで日本に組み込まれている。労働力商品の供給者であるデカセギ労働者と彼の労働力の需要家である日本の製造業は、業務請負業を通して雇用し、それは短期の必要労働力として取り入れられたものである。このために製造品の数量にあわせて増やされたり減らされたりする。その結果、この短期の雇用を中心とするブラジル人の雇用は、そこに常にブラジル人が働いているのだがそのメンバーは固定しない。つまり地域から見ると顔が見えない定住になるのである。こうした現象を創り出した請負業と請負業に人を供給する旅行会社との関係に突いて報告する。この報告は1998年1月から3月にかけて行われたブラジル現地調査に基づく。

第5報告

多文化主義に関する批判的一考察
――共有の不可能性からの出発――

岡村 圭子 (立教大学)

 われわれは互いに何らかのコミュニケーション過程において「概念の共有」が到達可能なことである、無意識的に前提としてしまってはないだろうか。しかしながら、そもそも互いに異なる文化間において、相手の意図を≪正確に≫自分の中へとシフトさせることは不可能であろう。報告者はむしろ、そのような「不可能性」に注目しており、異文化間のみならず一文化内での「共有」の真偽さえも問うに値する事項として捉えている。

 以上のような視点に立脚しつつ、本報告では一例として「多文化主義(Multiculturalism)」を取り上げる。それぞれの文化間に生じる文化的差異を積極的に承認してゆこうとする「多文化主義」においても、「共有」(あるいは「同一性」)が無批判に前提とされてしっまているからである。

 主にこの報告で批判的に検討したい課題としては以下の2点が挙げられよう。まず多文化主義においては、ある一定の「文化内」での多様性や「差異」は見過ごされ、同時に文化変容などの流動的・動的な「文化性」を、取り逃がしてしまってるということ。次に、個人的権利の普遍化するリベラリズムを批判しながらも、多文化主義は「普遍的なものの存在」を前提としたうえで「差異の承認」を展開していることである。

報告概要

渡辺 雅子 (明治学院大学)

 本部会で行われた報告の多くは、エスニシティに関連したテーマであった。南川文里氏と田房由紀子氏の報告は、時代的には異なるがアメリカへの移民にかかわるものである。南川報告「滞留的移民社会と企業家活動」は、20世紀初頭ロサンゼルスにおける日本移民の企業家活動を「滞留者ビジネス」であるとし、それを可能にした社会的資本としての県人会、金融講の存在に注目した。さらに、一時滞在/定住という対立する志向を含む「滞留」概念の有効性について論じた。田房報告「カリフォルニア州におけるベトナム系アメリカ人の教育的戦略」では、1975年前後にアメリカに入国した第一波ベトナム難民が公教育にバイリンガル教育を要求せず、母語は家庭内やベトナム系コミュニティの中での習得を志向し、かつアメリカで社会階梯をのぼるために教育を重視していることが示された。なお、彼らは他の時期のベトナム難民と比較して、都市部出身、高学歴、外国語教育経験者、留学経験者といった社会階層的な特徴をもつ。坪谷美欧子氏と丹野清人氏の報告は、滞日外国人の事例である。坪谷報告「留学後の長期滞在化にともなう滞日中国人のライフプランの変容」では、留学目的終了後も日本滞在が長期化する中国人(元)留学生を、文化大革命、一人っ子政策といった中国側の時代背景の変化をもとに分類し、従来の経済移民とは異なる自己実現型ともいうべき彼らの定住意識やライフプランの変更の要因を考察した。丹野氏の「市場型定住モデルと日系ブラジル人」では、労働力の売り手である日系ブラジル人と買い手である製造業者を媒介する制度として業務請負業をあげ、この制度を通して日系人が雇用を獲得し定住化が進行する事態を「市場型定住」モデルとして提示している。製造業者は業務請負業を通じて労働力の需要の変化に対応しているので、その結果、日系人の定住は移動が常につきまとうことを前提とした、地域住民にすると「顔の見えない定住」になりがちであることが示された。

 上記4つの報告が、「移民」を対象にしていたのに対して、岡村圭子氏の「多文化主義に関する批判的一考察」では、多文化主義をめぐる議論で文化の差異を積極的に認めることが強調されているが、実は同質性・同質化可能性を自明のこととしていることが述べられた。

 全体として若手の研究者の意欲あふれる報告で、フロアからも活発な議論が展開され、この分野のさらなる深化が期待された。

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