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年次大会
大会報告:第48回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会A)

テーマ部会A 「エスニシティと資源・行動・戦略」  6/11 14:00〜17:15 [1202教室]

司会者:梶田 孝道 (一橋大学)  広田 康生 (専修大学)
討論者:竹沢 泰子 (京都大学)  小井土 彰宏 (上智大学)

部会趣旨 宮島 喬 (立教大学)
第1報告: ニューカマー家庭の教育戦略
――3つのエスニック・グループの比較から
志水 宏吉 (東京大学)
第2報告: 移民マイノリティにおける文化資本の利用可能性
――日本とフランスの比較の視野のなかで――
宮島 喬 (立教大学)
第3報告: 政治参加をめぐる機会・資源・戦略
──在日外国人はどのような戦略をとりうるのか
樋口 直人 (徳島大学)

報告概要 梶田 孝道 (一橋大学)
部会趣旨

宮島 喬 (立教大学)

 外国人・移民の滞在が長期化し、社会生活への参加が進むにつれて、彼ら自身が自らの社会的位置を築くべくふるまう行為者として立ち現れる。近年の日本でもそうした傾向が看取されるようになった。その場合、行為者の行為に関わる主体的かつ客観的諸条件を社会学的に捉えるにはどんな視点、コンセプトが必要だろうか。本テーマ部会で討議したいのはこの点である。当該行為主体にとってどのような資源(言語、知識、人間関係等)が利用可能であり、どのような機会が開かれているか。また、それらの資源はどのような社会的文化的被規定性を帯びているか。外国人にとって所与の行為の場に適合した資源を備え、動員していくことは容易ではなく、これはニューカマー外国人の子どもの学校への適応の困難などをみるにつけ気づくところである。しかしそれらの条件は宿命的ではなく、当人は学習を通して、関係構築を通して、さらには参加すべき場を自ら選択したり構成することを通して、できるだけ障害を回避し、不利をミニマム化しようとする(ただし常に成功するわけではない)。ここに「戦略」というコンセプトを導入してもよいだろう。ただ、これを功利主義的な行為カテゴリでみることはあまり適切ではなく、社会文化的に条件づけられた「ハビトゥス的戦略」として捉えるのが多くの場合妥当なようである。

 以上の視点を多少とも共有し、三報告は経験的データを用いながら、それぞれ、外国人家族の教育の戦略、日仏の比較における移民・外国人の教育と文化資本の関わり、外国人の政治参加の行為の諸条件、を明らかにする。日本を含む先進社会のエスニックマイノリティの現状分析としての妥当性、行為―資源―戦略というスキームの理論的有効性の両面から、生産的で高度な社会学的議論が展開されうるものと期待される。

第1報告

ニューカマー家庭の教育戦略
――3つのエスニック・グループの比較から

志水 宏吉 (東京大学)

 本報告では、報告者らのグループが1998年から99年にかけて実施した、ニューカマー家庭に対する聴き取り調査の結果を素材として、彼らが有する教育戦略の共通性と相違点を、グループ間比較の観点から明らかにしてみたい。

 本研究の初発の関心は、わが国の学校・教室におけるニューカマーの子どもたちの適応の様態を把握することにあった。教室でのフィールドワークを通じて浮かび上がってきたのは、彼らの適応のプロセスを理解するためには、来日の経緯や現在の生活状態をふくむ、家庭の状況を知ることが不可欠であるという当たり前の事実であった。そこで、われわれは、 3つのエスニック・グループ(「日系南米人」「インドシナ難民」「韓国系ニューカマー」)を設定し、首都圏を中心にインテンシブな家族対象の聴き取り調査を実施した(サンプル数はそれぞれ29・49・20で、合計98家族)。

 聴き取り結果を整理する際にわれわれが設定した概念が、「家族の資源システム」「家族の物語」「家族の教育戦略」の3つである。「家族の資源システム」とは、彼らがどのようなリソースを用いて日本での生活を組織化しようとしているかにかかわるもの、「家族の物語」とは、その日本での生活を彼らがどのように主観的に意義づけているかという点にかかわるものである。そして、本報告の中心をなす「家庭の教育戦略」を構成する要素として、ここでは「家庭での母語使用・母文化伝達」、「学校観・学校とのかかわり」、「子どもの進路への希望とそれへの対応」の3つを設定した。結果の概略は、以下の通りである。まず、もっともポジティブな「挑戦の物語」を有する韓国系ニューカマーは、「手段的利用」と名づけられる戦略を中心的に採用していた。それとは対照的に、ややネガティブな「安住の物語」のなかに生きているインドシナ難民たちは、日本の社会や学校に対して「盲従」と形容できるような構えを強く有していた。また、「一時的回帰の物語」をもち暫定的に日本社会に暮らしている日系南米人たちは、「アンビバレント」な教育戦略を採ることが多かった。
 当日の報告では、これらの点について、より詳細な議論を行いたい。

第2報告

移民マイノリティにおける文化資本の利用可能性
――日本とフランスの比較の視野のなかで――

宮島 喬 (立教大学)

 ブルデューの文化的再生産論の影響もあり、フランスの移民・マイノリティ研究には文化資本の視点からの考察は一定の地歩を占めている(サイヤッド、ゼルルー、エスタブレ、ライール等)。近年では文化資本をストック的なものよりも構成的(編成的)なものとして捉える見方が強調されるようになり、アクターとその意識的・無意識的戦略に力点を置く傾向が強まっている。近年の具体的研究テーマとしては、出自・家族文化環境等からみて不利を負っているとみられながら能動的アクターとして現れる移民の子どもたちの学校的成功、職業選択、脱コミュニティの結婚戦略などに光があてられている。

 他方、日本でニューカマー外国人の社会適応や教育の研究にこの視点を適応してみると、文化資本の継受・活用を困難にしている特有の条件、および不利を補う戦略的行動のとりうる範囲の狭さという特徴が指摘されるように思われる。それは以下のような点である。

(1) 学歴からみた在日外国人の親の位置はマグレブ移民の親のそれより相当高いにも 拘わらず、それが有利な条件となりにくく、文化資本の変換を阻む条件があると思われる。
(2) 教育への価値付与は高く、就学経験も一応ありながら、日本の社会コード、学校文化 コードを読むことはかなり難しく、適切な戦略が立てられない。
(3) 「日本語」はやはり大きな壁で、旧植民地出身のマグレブやアフリカ移民が 「フランス語」という多少とも連続的は言語界(champ linguistique)に身を置いているのに 対し言語界の切断の否定的意味は大きい。
(4) 頻繁な移動、親の長時間労働等のため子どもへの配慮を日常化するのが難しい。

 データとしては、「地域の国際化研究会」(代表・宮島)が神奈川県下で行ってきた外国人児童・生徒インタビュー、フランスにおけるゼルルー、ヴァレ=カイユ、トリバラらの調査を手がかりとする。文化資本仮説に立つ研究が考慮すべき媒介変数について整理し、提示するつもりである。

第3報告

政治参加をめぐる機会・資源・戦略
──在日外国人はどのような戦略をとりうるのか

樋口 直人 (徳島大学)

 本報告では、近年話題となっている在日外国人の政治参加を取り上げる。その際、経済社会学的なエスニシティ研究と社会運動論の成果に依拠しつつ、機会・資源・戦略という 3つのキーワードを用いて論を進めたい。報告にあたっては、報告者の調査データや二次資料に基づき一定程度の実証性・具体性を確保するものの、主なねらいは政治参加に関する分析枠組を整備することにある。その際、(1)機会は個々の行為者の主観を媒介する限りで意味を持つ、(2)個々の行為者は、期待される効用を計算した上で合理的に戦略を決定する、(3)とはいえ、行為者の戦略は自らが埋め込まれた社会的文脈(特にエスニックなそれ)の影響を受ける、という3点を行為論的な前提とする。この前提に沿った形で、政治的行為に要する費用の規定要因(政治的機会構造、階級資源、エスニック資源)とそれがもたらす便益の規定要因(退出オプションの有無)という説明変数を用意する。

 その上で、受動的−能動的、参加−非参加という2つの軸からなる戦略類型が被説明変数となる。ここから導かれる、サイレント・マジョリティ化(受動的参加)、エスニック化(能動的参加)、サイレント・マイノリティ化(受動的非参加)、ゲスト・ワーカー化(能動的非参加)という4つの戦略が、いかなる条件によって、また誰によって選択されるのか追求してみたい。これにより、さまざまな変数のなかでエスニック資源(エスニックな連帯の動員促進効果)が意味を持つ文脈を分析するとともに、政治行動にみられるエスニックな相違の要因を明らかにしたい。具体的には、(1)外国人住民への地方参政権の付与、(2)外国人諮問機関の設置、(3)それ以外の政策変更という3 つの場合を想定する。こうした変化が、在日コリアン、ブラジル人、中国人、日本人の配偶者、インドシナ難民といった人たちの戦略をどのように変える(変えない)のか、どのような結果をもたらしうるのか、仮説群を提示する。

報告概要

梶田 孝道 (一橋大学)

 本年度は、エスニシティの問題を資源・行動・戦略の側面から理論的・実証的に考察することとし、志水宏吉氏(東京大学)、宮島喬氏(立教大学)、樋口直人氏(徳島大学)に報告をお願いした。討論者としては竹沢泰子氏(京都大学)と小井土彰宏氏(上智大学)にお願いし、司会は広田康生氏(専修大学)と梶田孝道(一橋大学)が務めた。志水氏は、第一報告「ニューカマー家庭の教育戦略−3つのエスニック・グループの比較から」で、日系南米人、インドシナ難民、韓国系ニューカマーへの聞き取り調査に基づき、各カテゴリーの家庭が、どのような「家族の資源システム」に依拠し、いかなる「家族の物語」を構成し、いかなる「教育戦略」をたてているかを比較した。同じく「外国人」に属しながら、3者の家庭での教育戦略が大きく異なる事実が明らかとなった。討論者からは、「家族の物語」を構成する上でもっと出身国での知見が生かされて良い、「親の物語」と「子どもの物語」は異なる、「家族の物語」という概念の使用が原典と異なるといった意見が出された。宮島氏は、第二報告「移民マイノリティにおける文化資本の動員可能性−日本とフランスの比較の視野のなかで」で、文化資本という概念に依拠し、フランスの移民第二世代および日本のニューカマーの子どもを分析対象として、文化資本の動員の状況、文化資本の継承の難しさ、サポートの必要性、子どもにとってのモデルと家族の戦略について論じた。討論者からは、階級を前提としたP. ブルデューの「文化的資本」の概念を移住した移民に使用することは適当か、分析の単位は階級なのかエスニック・カテゴリーなのかといった意見が出された。樋口氏は、第三報告「政治参加をめぐる機会・資源・戦略−在日外国人はどのような戦略をとりうるか」で在日外国人の政治参加を取り上げ、まず機会・資源・戦略というキーワードに基づいて分析枠組みを提示し、受動的−能動的、参加−非参加という2軸に着目して外国人の戦略類型を説明し、「サイレント・マジョリティ化」「エスニック化」「サイレント・マイノリティ化」「ゲスト・ワーカー化」という4つの戦略を提示した。またこの枠組みに従って、在日コリアン、ブラジル人、中国人、日本人の配偶者、インドシナ難民等について取りうる戦略という点から考察した。討論者からは、政治参加にはNGOの援助といった間接的な政治参加もある、在日コリアンを一つのカテゴリーでくくるのは適切ではないといった意見が出された。エスニシティというテーマを反映してか、本部会には若い研究者が多数参加した。日本ではエスニシティを資源・行動・戦略という概念と絡めて理論的に議論することは初めての試みであり、日本でのこの分野の研究が、調査の積み重ねだけでは限界があり、理論的課題に直面している点が明らかになった。またこの分野の研究は、それ自体として研究されるだけではなく、より大きな社会学的課題と関連づけて議論されることも必要であると感じられた。

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