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年次大会
大会報告:第49回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第7部会)

第7部会:ジェンダーと社会  6/10 10:00〜12:30 [9204教室]

司会:木本 喜美子 (一橋大学)
1. 女子フィギュアにおける「美」の再生産 中川 敏子 (日本女子大学)
2. 階層再生産におけるジェンダー構造と文化 片岡 栄美 (関東学院大学)
3. 育児期間における労働移動 松村 真木子 (お茶の水女子大学)

報告概要 木本 喜美子 (一橋大学)
第1報告

女子フィギュアにおける「美」の再生産

中川 敏子 (日本女子大学)

 本研究の目的は女子フィギュアスケートがスポーツにおけるジェンダーの再生産構造であることを指摘する。フィギュアスケートは近代スポーツが誕生した当初から,競技に対して,男女のダブルスタンダードを有し,現在に至っている。分析にあたり,Jennifer Hargreavesの“sporting females”における身体や女子スポーツ選手に対するイメージに関しての分析を援用し,フィギュアスケートが「女子に相応しいスポーツ」として認識される状況を考察した。女子フィギュアがアメリカにおいて,競技スポーツにおける優位性と女子フィギュアの持つ上品さと華麗なイメージにより,理想化されている。その結果,女子フィギュアの選手でオリンピックのメダリストは「理想の女性」として<価値>を持つ。ただし,女子フィギュアにおける「美しさ」とは既存の女性性を強調したものであり,それがジャッジたちに好まれる。フィギュアが採点競技であるため,ジャッジへの印象を良くすることで,選手たちは自分への評価を有利にする。そのためには既存のイデオロギーを遵守しなくてはならない。この結果,女子選手はジャッジへの印象操作を行い,ジャッジの求める「美」を再生産していく。この「美」の相互作用は競技会の場で行われるため,既存の価値観が助長されやすい構造になっている。またその選手に対する見方にはジェンダーだけではなく,人種のバイアスも多分に含まれていることが明らかになった。

第2報告

階層再生産におけるジェンダー構造と文化

片岡 栄美 (関東学院大学)

 わが国の階層再生産はジェンダー構造をもっている。中学校時代から成人後の地位形成のプロセスを分析すると,学校市場,労働市場,婚姻市場の地位形成段階において,メリトクラティックな選抜と文化的選抜のあり方がジェンダーにより異なっている。男性では,学校システムを経由するメリトクラティックな地位形成が主な地位形成ルートであり,女性では文化資本を経由する文化的再生産メカニズムとメリトクラティックな再生産メカニズムが両方作動する。すなわち女性でのみ,文化資本は社会移動の通貨(文化的再生産プロセスが作動)となる。男性の再生産メカニズムだけでは,わが国の再生産構造の全体像はみえてこない。婚姻を通じて男女の異なる再生産メカニズムが互いに補強しあうことにより,支配階層は社会的再生産と文化的再生産を達成し,ジェンダー・カテゴリーによる再生産の分業構造が存在する。この構造を支えているのは,わが国における文化消費におけるジェンダー差である。男性エリートが文化的エリートとはなりにくい状況のなかで,わが国の文化的同質性神話が作られてくる。また文化のヒエラルヒーとジェンダーの関係について,文化活動のヒエラルヒーを検討すると,歴史的に文化活動に偏ったジェンー・イメージが付与されている。その結果,文化的選好がジェンダーにより異なるとともに,文化がジェンダーを構築し再生産する側面にも検討を加える。

第3報告

育児期間における労働移動

松村 真木子 (お茶の水女子大学)

 女性労働研究は,常勤または短時間労働者として働いている女性の割合が多い業種,職種など労働市場における女性の位置づけを中心課題としてきた。

 ところで,定時労働力調査実施時点で調査対象となった労働者は,労働市場の同じ位置に終生居続けるのであろうか。いや,時間の経過と共に何らかの理由で,別の業種,職業,労働形態を選択し労働市場上を移動する労働者も多いだろう。さらに,労働市場から退出参入を繰り返す労働者もいるだろう。従来の定時労働力調査は,登録住所から無作為抽出によって選択された対象者を集団としてまとめ,労働者全体の傾向を分析してきた。しかし,この方法では,時間の経過と共に変化する労働者の移動という視点を導入することが困難であった。

 そこで,本報告では,労働市場上のステイタス(業種,職種,労働形態)の移動および労働市場への参入退出の過程を顕すために労働移動という分析視点を提示する。

 この視点に基づいて,女性労働者が育児との関連からどのように働く場を選択していくのか,その過程をイギリス特殊労働力調査から実証分析する。

 女性労働者は,育児期の労働選択において初職のステイタスに強い影響を受けている。さらに,労働移動という分析視点を導入することで,育児期間における女性労働者の多様性が実証される。

 (ところで,イギリス社会は階級社会であると言われており,社会的経済的な分析には職業による階級が重要な指標となっている。しかし,親または夫の職業階層(階級)は,多様な女性労働の現状を把握するのに充分であるとは言い難い。そのため,階級概念を否定するわけではないが,本報告では女性労働の現状を女性個人に付随する変数を基に検証する。)

報告概要

木本 喜美子 (一橋大学)

 第7部会「ジェンダーと社会」は三報告がなされた。

 第一報告は中川敏子氏(日本女子大学)による「女子フィギュアにおける『美』の再生産」である。中川氏は男性主流のスポーツ界にあって女性が注目される数少ないスポーツとしてフィギュアに注目し,この歴史をたどるなかで,文章化されていないコードの存在に光をあてた。そこではとりわけジャッジの判断基準が「好感度」に依存せざるをえない構造を分析し,女子フィギュアが白人主義による「女性美」を競う「ジェンダー・ゲーム」となっているとした。これに対して,判定基準として中川氏が対比的に論じた「技術力」と「芸術性」とは,実は分かちがたく結びついているのではないかといった鋭いコメントがフロアーから出された。

 第二報告,片岡栄美氏(関東学院大学)による「階層再生産におけるジェンダー構造と文化」では,文化消費のジェンダー差とこれを支えるジェンダー・ハビトゥスと構造との関係を解明しようとする報告であった。詳細なデータ分析を通じて,女性では成育過程での文化資本が結婚であれ職業世界であれその社会的地位達成に明確な影響をもたらすが,男性に関してはこの傾向が見られない。したがってハイカルチャー志向の女性,大衆文化志向の男性というかたちで明瞭に分化しており,「女らしさの資本」としての文化的洗練性が女性においてのみ地位アイデンティティの源泉となっていることが提起された。片岡氏はこうして文化的再生産と社会的再生産がジェンダーによって構造化されていることをクリアーに描き出した。フロアーとの討議のなかで,男性が企業社会の大衆文化に染まりゆく構造,あるいはハイカルチャー志向を仮りに持っていても「隠す」仕組みが存在することが日本の特徴であるのではないか,男性内部の世代差はどのようになっているのかなどといった興味深い論点が提起された。

 第三報告は松村真木子氏(お茶の水女子大学)による「育児期間における労働移動」は,イギリスにおける第2回 Women and Employment Survey(1995年)を用いて,第一子の出産というイヴェントを経た女性が出産直後の1年以内にどのように労働移動をしているのかを把握しようとするものである。松村氏は,第一子出産後1年以内に就労した女性の特徴を,1970年代から1995年までの4期に時期区分して分析した。それによれば1980年代以降,経済のサービス化の進展,女性の高学歴化,EUの社会憲章批准といった諸要素が作用するなかで,第一子出産後復職する女性の増大,しかもフルタイマー女性の増加傾向,広汎な職業領域にこうした女性が進出するようになっていることが示された。女性の就労動向を把握するさいに,家族変動を視野に入れた分析の必要性がフロアからアドヴァイスされた。

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