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年次大会
大会報告:第50回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第3部会)

第3部会:異文化適応  6/1 10:30〜13:00 [社会学部A棟403教室]

司会:佐久間 孝正 (立教大学)
1. 北東イングランドにおける日本人の文化適応(1):
北東イングランドの地域と調査の概要
藤田 弘夫 (慶應義塾大学)
2. 北東イングランドにおける日本人の文化適応(2):
「ことば」に関する期待・不安と現地の教育状況について
土居 洋平
(特定非営利活動法人 地域交流センター)
3. 北東イングランドにおける日本人の文化適応(3):
北東イングランドの生活習慣・宗教への日本人の遭遇
福田 光弘 (慶應義塾大学)
4. 北東イングランドにおける日本人の文化適応(4):
北東イングランドの生活構造と医療制度
西山 志保 (日本学術振興会)

報告概要 佐久間 孝正 (立教大学)
第1報告

北東イングランドにおける日本人の文化適応(1):
北東イングランドの地域と調査の概要

藤田 弘夫 (慶應義塾大学)

 日本と北東イングランドは幕末以来、密接な関係を持ってきた。北東イングランドはあまり知られることは少ないが、日本の近代化と深く関係しているのである。しかし第二次世界大戦は長く続いた日本と北東イングランドの関係を断絶させた。ミドルスブラ市に形成されていた日本人のコミュニテイも消滅することになる。

 戦後、北東イングランドは経済的に低迷する。そこで1970年代以降、積極的な外国企業の誘致政策をとるようになる。当時、経済大国として日の出の勢いだった日本企業は格好の標的となる。その結果、現在までに、日系企業はこの地に62社が進出し、16,000以上の現地雇用を生み出している北東イングランドの日本企業はほとんどが製造業であり、日本から派遣されている従業員も技術系の人がほとんどである。この点で、ロンドンなどに住む日本人像から見ると、かなり違った社会的性格をもっているようである。しかも、かれらは一箇所に集まって住むこともなく、工場の周辺に分散して生活している。日系企業は多くの現地雇用を生み出している割には、日本人従業員はわずかである。北東イングランドの日本人の登録数は全体でも650人程度でしかなく、イギリスの在住登録人口55,000人の1%にも満たない。本報告は日本人がイギリスの片田舎ともいえる北東イングランドで、ことばの問題をはじめこどもの教育、医療、生活習慣の違いなどを、どのように感じながら現地での生活に適応しているのかを報告したい。

第2報告

北東イングランドにおける日本人の文化適応(2):
「ことば」に関する期待・不安と現地の教育状況について

土居 洋平 (特定非営利活動法人 地域交流センター)

 北東イングランドに赴任する日本人の企業関係者やその家族が、渡航に際して抱える最も大きな不安として、ことばの問題と子供の教育の問題をあげることができる。とりわけ言葉の問題は渡航前に挙げている割合が高く、ことばの問題は帰国後の不安としてあげている割合が高い。

 そこで本報告においては、北東イングランド在住の日本人雇用者およびその家族へのアンケートとインタビューをもとにして、彼らの言語と教育に対する意識と当地におけるその状況を示していく。報告の前半では主に言語の問題に焦点を当て、アンケート調査をもとにその概況を示すとともに、インタビュー調査から言語に関する個別の状況を例示する。ここでは、渡航者が多様な形で言語に対する不安や期待を抱いている様子や、言語上の問題が慣習・文化的な問題と密接に関係している点が示される。また、報告の後半においては主に教育の問題に焦点を当て、アンケート調査から当地における教育の姿を描いていく。ここでは、現地校と当地の日本人補習校が相補的な関係になっていることや、在住日本人が帰国を前提としたものとして当地での教育を捉えている点などが示される。また、とりわけ特徴的な点として「帰国子女」が単なる海外赴任にともなって生まれるものではなく、家族の持続的な計画・努力の結果生まれていく様子を示す。

第3報告

北東イングランドにおける日本人の文化適応(3):
北東イングランドの生活習慣・宗教への日本人の遭遇

福田 光弘 (慶應義塾大学)

 北東イングランドに赴任した日本人従業員とその家族たちは、突然、それまでとは異なる文化の中に入りこむこととなる。ここでは彼らの異文化体験のうち、生活習慣と宗教経験に焦点を当ててみたい。彼らは北東イングランドのさまざまな経験を、当然ながら日本での生活の枠組みの中で理解しようとする。しかし彼らはそれまで自明としてきたことを、改めて考えさせるようなさまざまな出来事に遭遇することになる。イギリスは日本人にとって、もっとも身近な外国のひとつである。英語は学校教育のなかで必修科目であり、英語や世界史などの授業を通じてイギリスについてのある程度の知識をもっている。マスコミも含めた、日本で供給されるイギリスのイメージは好意的なものである。それに加えイギリス側の日本へのイメージは、さらに一面的である。それゆえに企業派遣などで、思わずこの地の日本人に住むこととなった人びとは、かなり素朴な姿勢でイギリス文化との遭遇をすることとなる。しかし彼らはイギリス文化を身近に体験するなかで、自分たちの文化を見つめ直す機会を持ち、自文化中心主義的な思考を反省的に見直す契機を一様に得たようである。そうしたきっかけは、現地での生活にとまどいながらも、日本人なりに現地の生活に適応しようとする過程において特によく見いだされる。本報告ではさらに、こうした過程を考察することで、日本人が生活習慣や宗教を考える際にもつ思考の枠組みを逆照射する可能性も探りたい。

第4報告

北東イングランドにおける日本人の文化適応(4):
北東イングランドの生活構造と医療制度

西山 志保 (日本学術振興会)

 英国は、日本と比べて住宅事情が良く、比較的生活しやすい国だといわれる。しかし日本と異なる文化圏において、日本人雇用者とその家族が抱える問題は少ないわけではない。本報告の目的は、北東イングランドに赴任する日本人の企業関係者やその家族の生活構造(食生活、住まい暮らし、健康、医療などを中心として)の実態を、調査アンケートとインタビューを通して明かにすることにある。

 報告の前半では、主に居住形態や余暇、食生活や買物、人間関係などといった多面的な視点から、北東イングランド在住の日本人のライフスタイルを明かにする。そこでは、英国での暮らし向き満足度が比較的高いのに対し、食生活に関しては不満を持っている人が多いことが示される。また後半では、海外赴任において、とりわけ不安を抱える健康・病気という側面から、英国の医療制度に注目する。英国の医療制度(NHS: National Health Service)は、日本と全く異なっているため、とまどいを感じている人が多い。そこで医療制度の国際比較、最近の変化などを指摘した上で、実際に英国在住日本人がどのような病気にかかり、何を問題として抱えているのか検討する。これらのことを通して、北東イングランド在住日本人の生活構造が実証的に明かになると思われる。

報告概要

佐久間 孝正 (立教大学)

 これまでイギリスの日本人コミュニティの様子は、ロンドンやオックスフォード、ケンブリッジ在住の生活実態の紹介が主であり、その他の地域にどのくらいの日本人がいるかも含めて、その姿が紹介されることはほとんどなかった。藤田氏を中心とする4人の発表は、北東イングランドに在住する日本人の生活の実態を、日本と北東イングランドとの歴史的なつながり(藤田)、北部訛の方言を含む言語への不安や違和感(土居)、習慣・宗教への適応(福田)、医療に対する評価(西山)などを中心に紹介したものである。

 子どもを入学させるというより、日頃の英語教育によるストレス解消としての機能をも持ち合わせていること、イギリスといえばロンドンを基準に考えがちであるが、北東地域には独自の地域文化・階級文化があること、日本とは根本的に異なる医療制度へのアンビバレントな評価、また、企業では、残業などを好まず私的な時間を重視するイギリス的な文化を理解しないで従業員分の仕事を押しつける本社とのギャップ、イギリスに滞在しながらも帰国後の子どもの教育に多くの心労をさかざるを得ない現実などが印象に残った。日本の国際化を阻止する最大の要因は、案外、帰国後の日本の教育のほうかもしれない。

 現在、北東イングランドにいる日本人は、登録しているものだけでも700名を超えており、その多くが日本企業で働く社員なり家族である。それだけに今回の調査で明らかになった傾向は、企業人なり、その家族に偏る傾向は否めないものの、赴任する前の社内研修から実際に生活してみた印象の紹介まで貴重なものである。討論では、調査で明らかになった現地の姿と、個人差、地域差、階級差との関係をどう考えればよいのか、同じアジア人のコミュニティでも、中国人の定住型コミュニティと日本人の非定住型コミュニティの差などが問題となった。EUとの関係は、ほとんど討議されなかったが、これは今後の課題であろう。

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