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年次大会
大会報告:第50回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第11部会)

第11部会:福祉とサポートの社会学  6/2 10:30〜13:00 [社会学部A棟405教室]

司会:小林 良二 (東京都立大学)
1. ドイツ精神障害者の受難とその後
−生命観と自立観再編の一社会史
松崎 祐子 (法政大学)
2. ハンセン病療養所で生きる在園者の生活史
−人生の再構築に及ぼす病の受容過程−
青山 陽子 (東京大学)
3. 自己決定と『支え合い』 佐藤 恵 (立教大学・東京女子大学)
4. 韓国における子育て支援の生成と変容
−保育施策を中心に−
相馬 直子 (東京大学)

報告概要 小林 良二 (東京都立大学)
第1報告

ドイツ精神障害者の受難とその後
−生命観と自立観再編の一社会史

松崎 祐子 (法政大学)

 ナチスドイツにおいて精神障害者が計画的に殺害されてきたことが歴史的に解明されるようになったのは、1980年代以降である。ナチスの行った「安楽死」の対象はユダヤ人という人種排除に転換する以前に、価値なき生命の抹殺という意図で、ドイツ人の障害者に対しての断種、強制収容、殺害に至っていた。そして、ほとんどの精神科医、精神医療関係者がこのことに直接的にせよ間接的にせよ関わっていたのである。障害者、特に精神障害者の「安楽死」計画は、ナチズムの人種差別主義による特異な犯罪行為ととらえるべきではなく、むしろ、人間の存在価値に対し、「産業的にどれくらいの価値を生み出すかどうか」あるいは「社会的な扶養コストはどのくらいかかるのか」というような、西欧近代の作り出してきた経済至上主義の反映であると考えるべきである。ドイツの医師会議においては、このような歴史をふまえ、安楽死および優生学的思想に基づく中絶に対して警鐘を表明している。また、一方では、ベーテルに代表されるように、障害者を受け入れる病院と地域が一体となった福祉都市をを発展させてきたという事実も無視できない。ただ、その中においても、精神障害者が施設に依存せずにどのように現実の社会に復帰するかということは「脱施設化」の問題として課題となっている。本発表では、20世紀における歴史的な解明作業をふまえ、ドイツの精神医学および精神障害者に対する福祉がどのように転換しようとしているのかということについて社会学的観点から述べたいと思う。

第2報告

ハンセン病療養所で生きる在園者の生活史
−人生の再構築に及ぼす病の受容過程−

青山 陽子 (東京大学)

 ハンセン病は1873年、らい菌を発見したノルウェーのアルマウェル・ハンセンにちなんでつけられた疾病である。慢性の感染症で、感染力は弱く、抵抗力の弱い子ども時代に感染すると見られている。末梢神経や皮膚などが侵され、手足に障害が起きたり、視力を失ったりと、後遺症が残る患者も少なくない。

 ハンセン病療養所は、「入るに易く、出るに難し」と言われているように、園内に納骨堂が設けられていることが、その他の国立療養所、病院あるいは障害者施設と大きく異なる点である。また、園内では、世帯ごとに長屋風の家屋および個室での生活が一般的で、まさに生活に根ざした環境ができ上がっており、コロニー的要素を含んでいる。一方、ハンセン病療養所は「隔離施設」として、生活の局面を画一的な場所、画一的な権威によって支配されている「非日常的」な社会、全制的施設 a total institution(アサイラム)的要素を含んでいる。

 本報告では、ハンセン病療養所はコロニーとしての共同体的特性とアサイラム的な画一的で強制的な特性の二つの側面を合わせ持った『場』であると理解し、そこで生活する在園者の生活史に注目する。特に、これまで明らかにされてこなかったハンセン病在園者の日常生活に焦点を当てることで、「このまま余生を『ここ』で暮らしたい」という多くの在園者の意志が、どのような思いから生まれてくる選択なのかに着目したい。

第3報告

自己決定と『支え合い』

佐藤 恵 (立教大学・東京女子大学)

 社会福祉基礎構造改革の一環として、2003年4月より知的・身体障害者福祉分野にも「支援費制度」が導入され、障害者福祉制度の骨格が措置から契約へ転換することが確定されているが、そこでは、サービス利用者/サービス提供者/行政という三者の「対等に向かい合う関係」の構築、及びそうした関係における障害者の自己決定の尊重が、理念として掲げられている。本報告では、その理念の現実化に向けた被災地障害者センター(神戸市長田区、以下ではセンターと略記)の活動を事例研究する。センターは阪神大震災直後に被災障害者支援のボランティア・グループとして発足し、発足当初から、「障害者問題へのこだわり」という「原点」=ミッションに立脚している。センターの活動は、救援期から復旧・復興期へと移行するにつれ、被災に着目した緊急時の障害者encouragementから、被災に限定されない日常的・恒常的な障害者empowermentへと転換し、1999年にはNPO法人格を取得、2000年4月からは、障害を持つ高齢者を対象とした介護保険指定事業を展開し、同年5月以降は、神戸市から障害者ホームヘルプサービス事業の指定を受け、サービス提供を行っている。本報告は、障害者の「どこで、だれと、どのように生活するか」に関する自己決定を支援し、「支え合い」を基盤とした上で、行政との関係性を再編しようとしていくセンターの取り組みについて、ヒアリング調査に基づき考察する。

第4報告

韓国における子育て支援の生成と変容
−保育施策を中心に−

相馬 直子 (東京大学)

 本報告では、子育ての「社会化」に関する国際比較分析の基礎作業の一貫として、韓国を事例に取り上げ、戦後から現代における保育施策を中心にその生成と変容に関する考察を行う。

 子育ての「社会化」に関する研究成果に照らし合わせてみると、日本自体に関する議論はもちろん、欧米や北欧を対象にした知見は積み重ねられてきている。その重要性はもちろん疑い得ないが、一方で、今回取り上げる韓国などアジアを対象にした子育て支援に関する日本国内の研究は非常に数が限られている状況である。

 しかし、日本と同様、現在の韓国社会も急速に少子化が進展し、子育て環境の整備に関する議論も活発化しており、その歴史を振り返ると、日本の問題を考える上で非常に興味深い事例が浮かび上がってくる。例えば、「幼保一元化」の問題をとっても、1980年代に保育事業を幼児教育の領域へ一元化する形で国家の介入がなされた後、ひるがえって90年代には「幼保二元化」に組替え直され、現在再び「一元化」の議論が活発化しているなど、このわずか20-30年の間で大きな動きが見られる。

 本報告では、就業環境の変容・少子高齢化などマクロな社会変容の様相、家庭内の家事育児分担の様相などとあわせて、保育施策を中心に子育て支援施策を歴史的な文脈で捉え直す。こうした作業を通じて、制度として比較的に未整備だといわれる韓国の子育て支援施策から、逆に日本は何を学べるのかを考察する。

報告概要

小林 良二 (東京都立大学)

 第1報告者の松崎祐子氏(法政大学)は「ドイツ精神障害者の受難とその後−精神医学社会史の一考察−」というテーマで、ドイツの精神医学が人種的排除や価値なき生命の抹殺に加担したということを踏まえ、近代以前の社会における「狂気」と「遊び」が、近代以後の社会では、理性に反するものとして、合理的、効率的な社会から排除されるようになるなどの社会史的言説との関連で解明されるべきであるとして、精神医学発達史上のさまざまな論点を提起した。第2報告者の青山陽子氏(東京大学)は、「ハンセン病療養所で生きる材園者の世界史−人生の再構築に及ぼす病の受容過程−」というテーマで、ハンセン病療養所で61年間生活する入園者の聴き取り調査を紹介し、長期にわたる入所が在園者のアイデンティティ形成にどのような影響を与えたかを、ゴフマンの『アサイラム』の分析枠組みに言及しながら論点を提示した。第3報告者の佐藤恵氏(立教大学)は、「自己決定と『支えあい』−障害者支援NPOによる対行政関係の変容可能性−」というテーマで、神戸市のNPO法人・被災地障害者センターにおける障害者支援活動の事例研究を紹介し、この団体が、障害者の自己決定を支援する自薦型ヘルパーの組織化を通して、行政との関係性を、それまでの運動=要求型から、行政の意思決定に関与するものに変化していることなどについて論じた。第4報告者の相馬直子氏(東京大学)は、「韓国における子育て支援の生成と変容−保育政策を中心に−」というテーマで、韓国の保育政策が1980年代には「幼保一元化」に向かったのに対して、90年代に入ると「幼保二元化」政策に切り替えられ、さらに最近では再び「幼保一元化」の議論が出されるなど、日本と比較して、政策の頻繁な方向転換が見られることを、東亜日報などの記事を中心に整理し、分析している。

 第11部会における報告は、第1報告を除いて、インタビューや新聞記事などの1次資料を丹念に収集し、その結果を整理・分析することを通して議論を展開するという方法を採用しており、論じられた内容は、それぞれ興味深いものであった。反面、資料の整理がまだ完成していないという事情もあったためか、収集された資料を記述するための分析枠組の考察はやや不十分であり、改善の余地があるという印象をもった。

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