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年次大会
大会報告:第51回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第12部会)

第12部会:エリア研究とエスニシティ  6/15 10:00〜12:30 [3号館3階333教室]

司会:関根 政美 (慶応義塾大学)
1. 「エスニック・スタディーズ」の誕生:
アメリカにおけるエスニシティ理論の歴史的文脈
南川 文里 (日本学術振興会)
2. 空間的周縁と文化的周縁
−フランスの郊外問題と若者文化
森 千香子 (一橋大学・パリ社会科学高等研究院)
3. 90年代フランスの<持たざる者の運動>と自己表象のアート 稲葉 奈々子 (茨城大学)

報告概要 関根 政美 (慶応義塾大学)
第1報告

「エスニック・スタディーズ」の誕生:
アメリカにおけるエスニシティ理論の歴史的文脈

南川 文里 (日本学術振興会)

 アメリカ合衆国における「エスニシティ」「エスニック集団」の状況を考えるにあたって、1960年代末以降に高等教育機関を中心に制度化された「エスニック・スタディーズ」の存在を無視する事はできない。アメリカにおけるエスニシティ概念は、特定の社会的・歴史的な文脈に強く条件づけられて形成されてきた。しかし、一般的には、いわゆる「同化論的からエスニシティ論へ」という潮流(M. M. GordonやN. Glazerなど)に対し、もう一つの潮流ともいうべき「エスニック・スタディーズ運動」の展開や構想は十分に検討されてはこなかった。60年代末に活発化した「エスニック・スタディーズ」運動は、同化論的なエスニシティ解釈に対し、人種マイノリティによる「民族自決self-determination」と「第三世界の被抑圧民族としての連帯」を掲げて展開され、教育機関における独自の制度(エスニック・スタディーズ学部The School of Ethnic Studiesなど)の設立を要求した。1969年以降、これらの制度をもとに、人種マイノリティの歴史や同時代的状況を「エスニック」な経験として解釈する枠組が定着し、多元的なアメリカ社会像の構築に大きな影響を与えた。本報告では、特に「アジア系アメリカ人」をめぐる展開を中心に、エスニック・スタディーズの構想を検討し、70年代以後の「エスニック集団」概念と多元的なアメリカ社会像を支えた歴史的な文脈を、エスニシティ/ナショナリズムの複合的な関係に着目しながら明らかにする。そのうえで、エスニシティ概念の比較社会学的な方法による相対化を可能にするための論点を提示したい。

第2報告

空間的周縁と文化的周縁
−フランスの郊外問題と若者文化

森 千香子 (一橋大学・パリ社会科学高等研究院)

 先進国で80%、全世界で50%の人口が都市部で暮らし、その割合はなお急速に増加する今日、都市問題は21世紀の最重要課題の一つである。だが世界的な都市化現象も、その過程と形態の面では多様である。低所得層がインナーシティに集中し、中流階級が郊外に転出した英米などのアングロサクソンモデルに対し、貧困、社会疎外、非行などの問題が都市郊外でいち早く現れたフランスはもう一つのモデルとして問題を提示する。

 フランスの「郊外」で注目に値するのは経済・社会・政治問題だけではない。旧植民地出身などの移民が多く、多民族、多文化が混在する「郊外」に生まれた若者の都市文化が関心を集め、社会学の分野も例外ではない。だがその評価は様々で、「文化の貧困化」またはエリアスの文明化概念を援用し「脱文明化の過程」を危惧する声もあれば、反対に新しい混交文化の創造性を褒め称える声もある。こうした善悪二元論的言説は、相対的視点に基づく「文化的分析」と、社会における位置・正当性の理論に基づく「イデオロギー的分析」の連結の困難という、ポピュラーカルチャーの社会学が直面する理論上の問題を如実に反映している。

 だがポピュリズムにも悲惨趣味にも陥らずに対象を分析するにはどうすればよいか?本報告では、共時態を重視するエスノグラフィー調査を補填する形での通時態的分析の必要性を重視し、郊外の若者文化という現象を歴史的文脈から再検討する。これはブルデューの言う「社会的現実を継続的に自然界に刻み込む『自然化の効果』」についての考察でもある。歴史的視点の導入によって、郊外の文化問題を「移民」「多文化社会」の側面のみから説明するのは不十分であることを、19世紀のフランスに生まれた『危険な階級』の文化の流れを踏まえながら明らかにしたい。

第3報告

90年代フランスの<持たざる者の運動>と自己表象のアート

稲葉 奈々子 (茨城大学)

 90年代フランスで社会的権利を求めて声をあげた野宿者や失業者、移住労働者など「持たざる者たち」が選んだ表現手段は「言語」ではなかった。住宅占拠、雇用占拠などによる公共空間の占拠、役所をおちょくった茶番劇、写真やアートにより路上を占拠しながら移動するデモなど、言語以外の表現手段が発達した。また、法的根拠や正義にもとづいて権利を要求するのではなく、そこで表現されていたのはむしろ、「生きる」「いま、ここに存在する」「抵抗する」という<自己の尊厳>であった。ミドルクラスを担い手とする「新しい社会運動」が活性化し、その後の社会運動不在といわれる80年代の後に登場したのが、野宿者、失業者、高卒・大卒後に就職できない若者を担い手とする「持たざる者の運動」であった。「持たざる者たち」は、いわば学歴社会から「落ちこぼれた」者たちであり、「言語能力」が低いとされる人たちでもある。「支配者」が言語を操る者だとすれば、彼らはそれに対して言語以外の表現手段を選び取ったともいえる。本報告では、社会運動の表現手段を分析することで、運動が開示する問題を読み取っていく。言語化された争点そのものではなく、行為の様式に注目することは、まったく異なる切り口から社会運動の性質を明らかにすることができるのではないだろうか。言語化されていない、あるいは社会運動として認知されていない行為も含めてプリズム状に広がる<持たざる者>の運動を考察していきたい。

報告概要

関根 政美 (慶応義塾大学)

 最大瞬間出席者数45名ほどの第12部会では、以下の報告が行われた。

(1)南川文里(日本学術振興会)「『エスニック・スタディーズ』の誕生:アメリカにおけるエスニシティ理論の歴史的文脈」。
(2)森千香子(一橋大学・パリ社会科学高等研究院)「空間的周縁と文化的周縁――フランスの郊外問題と若者文化」。
(3)稲葉奈々子(茨城大学)「90年代フランスの<持たざる者の運動>と自己表象のアート」

南川会員の報告は、米国のエスニック・スタディーズ(ES)運動が展開しはじめた1960年代から70年代に焦点を当て、ES展開の歴史的文脈を明らかにしようとする。ESとは、エスニシティに関する研究ではなく、米国の黒人系、ヒスパニック系、アジア系などのマイノリティ集団が自らの歴史や文化について学ぼうとする運動である。同化理論から多文化主義理論に関する理論的研究と、しばしば文化戦争とも表現される多文化主義論争の紹介は進んでいるものの、日本ではエスニック・マイノリティ集団が自らを知ろうというESについての研究は少ないので、南川会員の研究は貴重である。
森会員は、米国の中流郊外化過程と異なり、パリ郊外にマグレブ系若者が集住する移民郊外が生まれ、そこに社会問題が発生する歴史的経緯と同地域の文化状況を報告した。米国流都市郊外論のみが注目されている日本の研究状況への批判である。稲葉会員は、従来の新しい社会運動論が軽視したマイノリティ自身の異議申し立て運動の展開を報告し、中流階級主体の新しい社会運動との乖離を明らかにする。同報告ではパリでのフランス白人による持たざる者(失業者・ホームレス)の運動のなかにマグレブ系移民も含まれ、従来乖離しがちだった白人とマグレブ系移民の連帯が見られはじめると報告された。
国際移民の時代に関する研究は日本でも盛んになりその研究も進化しつつあることが了解できた分科会であったと思われる。今後もこうした報告が盛んになるよう祈念する。

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