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年次大会
大会報告:第51回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第14部会)

第14部会:国際移動  6/15 10:00〜12:30 [3号館3階335教室]

司会:田嶋 淳子 (淑徳大学)
1. 国境を越える移動に伴う職業移動
−出身国の職業と日本での現職との比較
竹ノ下 弘久 (慶應義塾大学)
2. ニューカマー韓国人女性の渡日要因に関するジェンダー分析
−首都圏の調査結果を中心に−
柳 蓮淑 (お茶の水女子大学)
3. 現代社会における国際移動と市民権:
国民/外国人の二分法を越える移動戦略
酒井 千絵 (日本学術振興会)

報告概要 田嶋 淳子 (淑徳大学)
第1報告

国境を越える移動に伴う職業移動
−出身国の職業と日本での現職との比較

竹ノ下 弘久 (慶應義塾大学)

 本研究は、日本に居住する外国籍住民の、出身国で従事していた職業と日本で現在従事する職業との関連性について、階層研究で用いられている移動表分析の枠組みにもとづいて分析することで、彼、彼女らが、国境を超える移動を経ることで、いかなる職業移動を経験しているのかを明らかにする。

日本の外国籍住民を対象とした職業移動に関する研究は、日本への移動を経た外国籍住民が、日本の労働市場の構造にどのような形で編入され、組み込まれているのかを明らかにする研究が大半をしめ、外国籍住民の出身国社会での職業と、国境を越える移動に伴う日本社会での職業とのずれや両者の関連に焦点をあてる研究はほとんど見られない。とはいえ、近年日本の研究者も注目する移住システム論は、国際移民、労働移動を論じる際、受け入れ社会における外国人の編入過程だけでなく、出身国社会と受け入れ社会との相互規定的な関係に注目する意義を強調している。

こうした近年の研究潮流をかんがみると、これまでの日本における外国籍住民に関する社会階層、労働市場の研究は、受け入れ社会の構造に議論が偏っており、国境を越える空間的移動に伴う階層移動の議論は、その重要性が一層強調されるものとなる。本研究では、かながわ自治体の国際政策研究会が、神奈川県内の外国人登録者を対象に1999年から2000年にかけて調査を実施しており、その報告書に掲載した集計データにもとづいて議論を行う。

第2報告

ニューカマー韓国人女性の渡日要因に関するジェンダー分析
−首都圏の調査結果を中心に−

柳 蓮淑 (お茶の水女子大学)

 従来の女性の移動は配偶者の移住に伴なう家族移動が主流であったが、1980年以降からは単身での移住が増加し、「移動の女性化(Feminization of Migration)」が目立ってきた。日本にも近隣アジア諸国からの単身女性の移住が注目されている中で、とりわけ韓国からの単身女性の移住者が目立つ。1990年半ばからニューカマー韓国女性の超過滞在者は男性を上回るばかりか、アジア諸国女性の中でも最も高い数値を表している。しかし、今までの研究はこのような単身での韓国女性の移動に注目してこなかったため、社会学アプローチにおける研究が少ないのが現状である。今は外国人の受け入れ国でもある韓国から、なぜ韓国人女性が単身で日本へ移住してくるのか。本報告では1980年以降移住してきて首都圏に居住している125名の質的調査を通じて、ニューカマー韓国人女性の渡日に関するジェンダー分析を試みたい。

 韓国にはいまだに強い儒教的なジェンダー規範が存在していて、女性に期待されているライフサイクルから外れた人が渡日する傾向が強い、といえよう。本報告では、どのような環境に置かれている女性がどのようなきっかけで渡日を決心するのか、その渡日要因を中心に議論を進めながら、韓国における儒教的なジェンダー規範のあり方やその変容についても明らかにしていきたい。さらに、ニューカマー韓国女性の渡日にかける目標や戦略及び渡日後の彼女たちの生活実態と将来構想にまで踏み込んで明らかにすることを目指している。

第3報告

現代社会における国際移動と市民権:
国民/外国人の二分法を越える移動戦略

酒井 千絵 (日本学術振興会)

 近代以降の国際移動において、国民を基盤とした義務と権利のシステムを持つ「国民国家」が、19世紀以降世界的に広まったため、国境を越えて移動する人々は、同化、適応して国民化する者と、他者として排除される者との二種類に区分されていくようになった。だが、国際移動がますます活発化するなかで、現在では国民対外国人という二分法は実態と乖離してきている。西欧では、第二次世界大戦後に導入された移民労働力やその後の家族結合、難民の流入によって増加した外国人の多くは、依然として市民権をもたない。だが、彼らは労働組合、エスニック団体、学校や地域などの組織や制度を通して、受入国に参入している。国際移動を行う個人にとっては、市民権や文化的帰属を一カ所に一致させるのではなく、受入社会の組織や制度に合わせた滞在戦略が必要となっている。

 本発表では、このような国際移動と権利の変容を整理し、日本社会の事例から検討を加える。日本では普遍的な人権の議論が依然低調であり、外国人居住者の存在を公式に認識する枠組に著しく欠けているため、国民への同化と排除の二分法を回避するような外国人定住のあり方を強調することは難しい。しかし、日本社会に定住者・一時滞在者として生活する人々は177万人を越え(2001年末)逆に海外で生活する日本国籍保持者は83万人(2001年10月1日現在)と、1974年以来最高を記録している。こうした現状をふまえ、日本の定住外国人政策・移民政策を西欧と比較し、同時に個人の側から見た国際移動戦略の変化について考察する。

報告概要

田嶋 淳子 (淑徳大学)

 第一報告「国境を越える移動に伴う職業移動―出身国の職業と日本での現職との比較」(竹ノ下弘久)では外国籍住民の職業経歴に関し、国境を越える移動が移住者の職業移動に与える影響を分析した。既存データを再集計することで既往の研究(SSM調査)との接続を試みた点は意欲的な取り組みであった。しかし、多様な出身国における職業経歴をまとめて分析することの問題性、男女別での分析ができなかった点、入職経路と差別や排除の関係、これを構造変動ととらえることの妥当性など、分析を精緻化する上で検討が必要な点が指摘された。第二報告「ニューカマー韓国人女性の渡日要因に関するジェンダー分析―首都圏の調査結果を中心に―」(柳蓮淑)は、ニューカマー韓国人女性の増加を促している要因を「文化的避難」仮説におき、27の事例から配偶関係別に5つのパターンを析出した。フロアからは渡日要因が「文化的避難」という否定的な要因のみで構成されているのか否か、インタビュー方法と回答者へのフィードバックの方法、調査者の立場性などについて質問が出された。報告は興味深い内容だったが、調査は全体で125人の聞き取り調査であり、残されたデータからの知見を加えたさらなる分析が期待される。第三報告「外国人の社会編入:政治の言語と外国人の戦略」(酒井千絵)はソイサルの議論をふまえ、日本における外国人政策の変遷ならびに川崎市における外国人市民会議の経過から、政策上の窓口を置かないことが外国人側の組織的対応を生み出さなかったと指摘する。本報告に対しては研究の独自性に関する疑問が出された。以上の3報告は国際移動研究の新しい方向を模索したものであり、完成度の面で若干のばらつきはみられたものの、視点や研究枠組みは確実に広がっていることを示すものであった。3つの報告は前日の国際移動部会での論点を参照することがあれば、さらに議論は深まったのではないかと考える。

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