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年次大会
大会報告:第51回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会A)

テーマ部会A 「グローバル化と都市底辺の再編」  6/15 14:00〜17:15 [3号館2階322教室]

司会者:伊藤 るり (お茶の水女子大学)  玉野 和志 (東京都立大学)
討論者:池田 寛二 (日本大学)  田嶋 淳子 (淑徳大学)

部会趣旨 伊藤 るり (お茶の水女子大学)
第1報告: 自由労働者の終焉?−日本三大ドヤ街の現状 Tom Gill (明治学院大学)
第2報告: マージナル化の進展か、ニッチ形成か−在日バングラディシュ人の労働市場、1985-2001 樋口 直人 (徳島大学)
第3報告: 出口なし:ジャカルタのベチャ引き達、2002年 東 佳史 (茨城大学)

報告概要 園部雅久(上智大学)
部会趣旨

部会担当: 伊藤 るり (お茶の水女子大学)

 第50回大会テーマ部会「都市底辺層の比較社会学」では、フランス、コートジボアール、そして日本における都市底辺層の状況を比較し、「都市底辺層」概念それ自体の相対化、現在化、そして広がり、さらには資本主義経済浸透によってもたらされる市場イデオロギーのさまざまなかたちとそのなかでの「生き残り」や連帯の戦略の諸相を検討した。

 今年のテーマ部会は比較の視点を引き続きもちつつも、日本の事例を中心にグローバル化が日本の都市底辺層にどのようなインパクトをもたらしているのかを考えたい。ただし、グローバル化といってもその指し示す現実は広い。この点は研究例会でも指摘されてきた点である。そこで、部会ではグローバル化をあらかじめ限定して捉えるのではなく、むしろ都市底辺層へのグローバル化のインパクトとして何が重要であるのかを、具体的な報告のなかから考えていくことを目的とする。

 以上を踏まえ、部会では3つの視点からの報告を予定している。トム・ギル氏(明治学院大学)には日本の都市底辺としての寄せ場の近年の動向を検討していただく。次に、樋口直人氏(徳島大学)には同じく日本の都市底辺として外国人労働者、特にバングラデシュ人資格外労働者の事例を中心に、80年代後半から今日までの労働市場におけるその位置と変化について、最近の調査をもとに報告していただく。最後に、東佳史氏(茨城大学)には、インドネシアの都市底辺としてベチャ引きの事例を取り上げていただき、農村から都市への移住とインフォーマルセクターへの参入という過程をつうじて、グローバル化が都市底辺層に与えるインパクトについて論じていただく。また、討論者としては、田嶋淳子(淑徳大学)と池田寛二(日本大学)の両氏を予定している。

第1報告

自由労働者の終焉?−日本三大ドヤ街の現状

Tom Gill (明治学院大学)

 日本の寄せ場・ドヤ街は昔から失業・家庭崩壊と野宿の間にワンクッションの役割を果たした。クビになっても、寄せ場で何とか日雇い労働者として仕事を取り最低限の収入を確保した。奥さんと一緒に暮らせなくなっても、ドヤの部屋で最低限の暮らしが出来た。そして大阪・釜ヶ崎、東京・山谷と横浜・寿町の場合、「寄せ場」と「ドヤ街」が同一地区にあり、ある種のオルターナティヴ共同体になっていた。

「終身雇用」や「年功序列」と大分違う存在だったが、行動成長の時代ではドヤ街も「うまく機能する日本経済」の一面として取り上げられることがあった。日本にはホームレスが少ない、そして物乞いはいない。内外の研究員は寄せ場を米国のスキッド・ロウと比較し、「労働する・独立である」というプライドを前者に指摘した。後者はアルコール・麻薬依存者や物乞い・犯罪の町だとされがちであった。

 現在、寄せ場の伝統的な「青空労働市場」の役割は相当速いペースで衰えている。元労働者が確実に生活保護者または野宿者に変身しつつある。去年の7月、日本の政府はやっと野宿者の存在を無視できなくなり、ホームレス自立支援法を成立させた。根強い地域住民の反対運動と戦いながら、大都市の当局は少しずつシェルターを建てている。

 これは「日本の自由労働者の終焉」でしょうか?それに、もしそうであれば、昔の「プライド持ちの自由労働者」は「大和魂」のおかげで独立性を守っていたのではなく、高度成長や公共事業の過大予算という一時的な事情に甘えてだけでその生活ができたという意味なのか?確かにスキッド・ロウとの相違点が次第に減少しているように見える。しかし単なる収斂論ではない。むしろ日本のドヤ街の事情には強い地域性も見られると思う。それに野宿問題に対する各大都市の政策も独特の色がある。三大ドヤ街とその近くにあるホームレスシェルターの事情を比べながら都市底辺の再編を検証してみたい。

第2報告

マージナル化の進展か、ニッチ形成か−在日バングラディシュ人の労働市場、1985-2001

樋口 直人 (徳島大学)

 1980年代以降の「労働市場の国際化」はどのように進展し、景気後退以降どのように変化したのか。本報告では、このような問いに答えるため、次の2つの作業を行う。第1に、外国人労働市場の構造およびその変遷に関する議論をレビューする。「ニューカマー」外国人は、基本的に二次労働市場に包摂されてきたが、その中でも一定の階層構造が存在する。90年代前後の状況については、「緩やかな二重構造」(稲上毅)など外国人労働市場に関して一定の実態把握がなされてきた。しかし景気後退後の状況に関しては、南米出身者に関する研究が増える一方、超過滞在者は研究の埒外におかれてきた。93年をピークとして超過滞在者が漸減したのはなぜか。彼らの労働市場はどのように変化したのか。内外の研究の検討を通じて、こうした問いに対する仮説群を提示したい。そのうえで第2に、報告者らが行ったバングラデシュ調査のデータにもとづき、滞日バングラデシュ人の事例に則して、提示した仮説の当否に関して暫定的な検証を行う。データをみる限りでは、バングラデシュ人は景気後退により労働市場から排除され帰国したという「マージナル化」仮説は全体としては当てはまらない。むしろ、そのなかにあっても内部労働市場での上昇や外部労働市場の活用により、労働市場での位置を高めていったという「ニッチ形成」仮説の方が妥当であるように思われる。聞き取り人数が50名でバイアスもかかっているため、結果の解釈には慎重でなければならないが、「不景気だから帰国した」という単純な景気循環論が妥当しないことは確実にいえる。上昇移動の基盤となる人的資本や社会的資本の蓄積、および帰国を促すライフサイクル上の要因や入管の取り締まりといった要因を加味した分析が最低限必要だろう。こうした点を考慮しつつ、報告当日は「グローバル化のなかの都市底辺の再編」を一方で体現する超過滞在者の軌跡を、限定的な範囲であっても描いてみたい。

第3報告

出口なし:ジャカルタのベチャ引き達、2002年

東 佳史 (茨城大学)

始めに
本稿は低開発国(LDCs)の都市底辺層の暮らしがグローバル化の中でどのように翻弄されて来たかを、1988−2002年にわたる筆者の調査をもとにジャカルタのベチャ引き(輪タク車夫)を例として検証する。

Key Words   
・変化   
・連続性   
・外部世界からの圧力 (グローバル化)   
・KKN (Korupsi, Kolusi Dan Neposism)=汚職、癒着と縁故主義   
・暴力の連鎖

概要
1940年代にジャカルタに出現したベチャは庶民の足として長く親しまれてきたが、スハルト「開発独裁」の下で長く弾圧され1991年の全面禁止となった。しかし、グローバル化の進展でインドネシアの政治経済体制そのものに対する信頼が揺るぎ、それは1998年5月のスハルト失脚に繋がった。民主化のうねりの中でベチャはジャカルタに再出現したが、ジャカルタ州政府に禁止・弾圧されることとなった。その再出現と再弾圧はベチャ引きの問題を更に複雑化した。 

スハルト失脚後のベチャを取り巻く環境の主な変化は3つある。1)民主化による言論の自由、2)アドボカシ−型NGOの誕生とその活動、3)ベチャ引きによる抗議デモの頻発とそれを鎮圧しようとする官憲との衝突 (暴力の連鎖)などがあげられる。

一方、連続性(変わらないもの)に関しては以下があげられよう。1)ベチャ業従事者はジャワ北海岸からの出稼ぎ農民(貧農)である。2)KKNに象徴されるジャワの政治文化も連綿と続いている。たとえば、Money Politicsによるジャカルタ特別州スティヨソ知事の再選も変わらないものの最たるものであろう。 3)理不尽なベチャへの蔑視も変わらない。

かかる対立は、べチャ引き達の働く権利の主張(デモ)とジャカルタ州政府の弾圧といった終わりのない暴力の連鎖が続く原因を生み出したといえよう。外部世界の圧力 (グローバル化)にさらされ言論・表現の自由を知った都市貧困民と相変わらずのジャワの政治文化(KKN)の狭間で、べチャひきたちは「出口なし」の状態に追い込まれている。
以上

報告概要

園部雅久(上智大学)

 テーマ部会「グローバル化と都市底辺の再編」では、昨年からの比較の視点を引き続きもちつつも、グローバル化が都市底辺層にどのようなインパクトをもたらしているのかを主に日本の事例を中心に具体的に検討することを目的とした。部会の構成は、報告者3人に討論者2人とした。

 ギル報告では、日本の三大ドヤ街である、山谷、釜ヶ崎、寿町を取り上げ、近年その青空労働市場としての機能が衰退し、福祉依存者や野宿者の増加がみられ、アメリカのスキッドロウに似てきていること、また、野宿者の増加をグローバル化で説明することの問題が提起された。樋口報告では、バングラディシュ調査のデータを用いて、在日バングラディシュ人の労働市場が、景気後退期後もマージナル化の進展というよりもニッチの形成に向かっていることが報告された。東報告では、ジャカルタのベチャ引き達を取り上げ、グローバル化が、民主化による言論の自由と依然変わらぬ州政府の弾圧の狭間で、暴力の連鎖に苦しんでいる実態が報告された。

 これらの報告に対して、討論者の田嶋氏からは、グローバル化と都市底辺層の再編を結びつける分析枠組の精緻化の必要性が指摘された。また、池田氏からも、都市下層の明確化とともにグローバル化がどういう側面にどのような影響を与えたのかを整理してみることの重要性が指摘された。

 都市底辺層へのグローバル化のインパクトとして何が重要であるのかを具体的な事例から考えてみたいという部会の趣旨からみて、個々の報告からは大いに学ぶべきことがあったが、グローバル化と都市底辺の再編を媒介するメカニズムの解明が今後の発展にむけた重要な課題であることが明らかになったと思う。最後に、当日積極的に議論に参加していただいた多くの会員に感謝の意を表します。

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