第7部会:地域と場  6/19 10:00〜12:30 [5号館・1階 5124教室]

司会:浦野 正樹 (早稲田大学)
1. 車内空間の身体技法
──戦前期・電車交通における「公共性」と〈猥雑さ〉──
田中 大介 (筑波大学)
2. 都市・クラブカルチャー・ネットワーク 石渡 雄介 (東京都立大学)
3. 地域社会の担い手にとっての地域活性化政策の存在と意義
──千葉県栄町商工会TMOの事例──
 [PP使用]
倉持 裕彌 (立教大学)
4. 社会階層・移動の地域間格差
──高度経済成長期以降の趨勢──
 [PP使用]
林 雄亮 (立教大学)

報告概要 浦野 正樹 (早稲田大学)
第1報告

車内空間の身体技法
──戦前期・電車交通における「公共性」と〈猥雑さ〉──

田中 大介 (筑波大学)

 現在の東京で職住が分離した状態で生活する人々にとって、電車のなかで少なからぬ時間をすごすことは、ほとんど自明のことになっているようにみえる。それゆえ、車内空間とそこで費やされる通勤時間をいかにして「安全・快適にやりすごす」かという課題は、大都市に住む人々とって必須のものと言える。

 例えば平成13年5月21日 に東京都交通局は、「最近、鉄道駅構内・車内において痴漢をはじめとする迷惑行為や暴力行為が多発しています」として様々なキャンペーンを張った。電車というネットワークは、大都市の広域空間を結びつけているため、車内という局在空間に出自・属性・性別の異なる人々を超・近接状態で閉じ込めることになる。それゆえ、痴漢・暴力・窃盗といった〈猥雑なもの〉が現象しやすい。それを抑制するために、音楽機器の音漏れ、携帯電話の使用、大声での会話、車内で呑み食い、あるいは傘、カバン、本・雑誌の持ち方まで、五感の細部にいたる規範が駅や車内に必要とされるのである。

 ただし、このいわば「車内規範」ともいうべきものは、法律としてであれ慣習としてであれ、東京の路面電車が明治末期に公営化して以来、繰り返し言説化されてきた。本論は、明治末期に路面電車が公営化する過程でどのようにして「車内規範」が形成されたか、そして人々がその規範を上手くやりすごす技法をどのようにして身につけるかの歴史を追尾する。そして車内空間が、労働と家庭、公的領域と私的領域のあいだにある「(消極的)第三空間」(磯村英一)となったことを明らかにし、さらにその上で、この交通空間がもつ「公共性」と〈猥雑さ〉の両義性を調停するような遊動的な身体技法(=「窃視のエロティシズム」)が現れたことを指摘する。

第2報告

都市・クラブカルチャー・ネットワーク

石渡 雄介 (東京都立大学)

 本報告は都市におけるサブカルチャーの変容を、ネットワークの視点から分析することを目的とする。事例として挙げるのは、報告者が参与しているクラブのイベントを主催するオーガナイザー集団である。オーガナイザー集団というクラブイベントを主催する立場からイベントにかかわる人びとのネットワークの変容を考察し、主催するクラブイベントと他のクラブイベントとの相互の影響関係を考察する。分析の手法としては、ミッチェルらマンチェスター学派の人類学が練り上げてきたネットワーク分析の知見を用いる。

 本報告で用いる事例は東京、特に渋谷・新宿において活動しているものである。この地域はクラブの集積地域であり、クラブカルチャーを支えるレコード店の集積地域でもある。この場所の近接性は、クラブカルチャーにかかわる人びとが相互依存的に参加することを容易にしている。クラブという人びとが直接的に相互作用する「場所」が、人びとのネットワークをつくり、クラブ間のネットワークをつくりあげているのである。

 以上のように本報告は、都市におけるサブカルチャーの一例であるクラブカルチャーを検討することにより、人びとがつくりだすサブカルチャーの動的な側面を検討するものである。

第3報告

地域社会の担い手にとっての地域活性化政策の存在と意義
──千葉県栄町商工会TMOの事例──

倉持 裕彌 (立教大学)

 本報告では、地域社会の担い手が地域活性化を目的とする政策を利用して活性化を試みていく事例を通して、その政策の存在や意義が彼らにどのように受容され、彼らの行動にどんな影響を与えたのか、という点に検討を加えていく。さて、中小零細の小売業者などの多くは、商工会や商工会議所に所属しており、結果的に地域社会の主要な担い手となっていることが多い。具体的に本報告でとりあげる「TMO」と呼ばれる制度は、中心市街地の衰退に直面する商工会などの組織が、その活性化に取り組む場合に主体的な役割を果たすことができるように、国によって与えられた新たな枠組み(政策)である。その枠組みを利用すれば、実施する事業に応じて様々な便益(例えば補助金)を受けることが出来る。

 調査対象とした首都圏(50km圏内)のベッドタウンであり農村である千葉県栄町は、地域活性化に利用できる資源が乏しいこともあり、商工会が積極的にTMOを利用して活性化に取り組んでいる。しかしながら彼らの取り組みの多くは、計画から先に進めることができていない。その中で、商工会の若い世代は「価値の創出」を目指した活性化に取り組み、地域社会の担い手として存在感を増している。そのような実態を通して、先に述べた検討に加え、活性化に対する世代的な価値観の差や、商業を営むものにとっての活性化とは何か、また、地域活性化を地域社会の担い手が主体的に実践するための前提として、たとえば「場」の存在などの諸条件を満たしていたかどうか、という視角もあわせて検討していく。

第4報告

社会階層・移動の地域間格差
──高度経済成長期以降の趨勢──

林 雄亮 (立教大学)

 日本社会は産業化の進行程度が異なる地域によって構成され、その地域間で社会的資源や階層間移動機会の不平等な分配状況が成立している。本報告では、社会階層・移動の地域間格差について、高度経済成長期以降を対象とした計量分析によって論じる。使用するデータは、第3‐5回社会階層と社会移動(SSM)全国調査であり、分析は男性で新制学歴の者を対象とする。社会的地位をあらわす指標として4つの階層変数(職業威信、学歴、収入、財産)を用い、地域間格差は人口密度、産業構成別に、多元的に検討する。

 分析の結果、現職威信の地域間格差は75年から95年にかけて構造が変化したが、格差の大きさは維持されている。学歴は75年から85年にかけて格差は縮小したが、85年から95年にかけては維持されている。個人収入の格差は75年から95年にかけて緩やかに縮小したが、保有財産は75年から95年にかけて明確に拡大している。また、4つの階層変数の主成分分析によって抽出された総合的な社会的地位の地域間格差は拡大後、維持されている。世代間移動では、移動率と総合開放性係数から、95年時点でも地域的均質化は実現しておらず、農村や規模の小さい地域では純粋移動率や総合開放性係数が一貫して低く閉鎖的な性質が維持されている。これは個別開放性係数、オッズ比によると特定の階層によってもたらされているのではなく、農業以外の階層が農村部や規模の小さい地域で他の地域よりも閉鎖的な傾向があり、その総合的な結果としてもたらされている。

報告概要

浦野 正樹 (早稲田大学)

 第7部会では、<地域と場>に関連する4本の報告が行われたが、それぞれ手法が異なり内容も多岐にわたっていたため、個別の報告に関する質疑応答・討論を中心に進行していった。ここでは、ごく簡略に報告と質疑のポイントを紹介しておきたい。

 第1報告は田中大介氏による「車内空間の身体技法――戦前期・電車広告における『公共性』と<猥雑さ>――」で、明治末期から戦前期にいたる電車空間における身体技法の作法を、規則集や小説などさまざまな資料の紹介と解読を通じて丹念に読み出すことにより、超・近接状況にある諸身体が危険な群集に変ることを防ぎ、適切な身体技法のルールが発生してくるプロセスを描いた報告であった。質疑では、ワースの提示した近接性に伴う刺激の回避・制御の問題、逸脱を抑えるルールに見出される公共性の問題などが論じられた。

 第2報告は石渡雄介氏による「都市・クラブカルチャー・ネットワーク」で、ダンス・クラブの集積とクラブカルチャーを担うネットワークの形成という観点から宇田川町の空間変容を描き出そうとした報告であった。とくに、労働と余暇が渾然一体とした地域空間編成に変りつつある姿とそうした重層的な視点が重要性になる地域社会の状況を浮き彫りにしたといえよう。

 第3報告は倉持裕彌氏による「地域社会の担い手にとっての地域活性化政策の存在と意義――千葉県栄町商工会TMOの事例――」で、伝統的な商工会の体質とリーダーシップのあり方が新しいTMOをめぐる政策誘導を介して揺らいでいく姿、伝統的な親会と若い次世代の商工会の担い手の世代交代のプロセスに焦点をあてた分析であり、商工会TMOの活動とその制度的な意義を、とくに若手の活動を焦点にあてて解明しようとした。

 第4報告は、林雄亮氏による「社会階層・移動の地域間格差――高度成長期以降の趨勢――」であり、SSM調査の詳細なデータ分析を踏まえて地域移動データをどのように解明できるか、その現状と今後の可能性を吟味しようとした報告であった。これら4報告は、ともに新しい領域に挑戦しようとする意欲が感じられる報告であり今後の積極的な展開を期待したい。