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年次大会
大会報告:第54回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第11部会)


第11部会:ジェンダー・労働  6/18 10:00〜12:30 [西校舎・1階 515教室]

司会:大槻 奈巳 (聖心女子大学)
1. <半日だけ働く>という選択
――30代40代のパート主婦たちに見る女性たちの生活戦略 [PP使用]
徳久 美生子 (武蔵大学)
2. 子供の職業希望にみる「主体的」な職業選択の陥穽
――<教育的>にみて望ましい言語的資源の獲得と利用に注目して
寺崎 里水 (お茶の水女子大学)
3. 就業者のキャリア構築と自己投資 [PP使用] 酒井 千絵
(日本女子大学、東京外国語大学)
4. 感情労働で燃え尽きるのか?
――感情労働と心理的結果との連関についての一考察
三橋 弘次 (東京都立大学)

報告概要 大槻 奈巳 (聖心女子大学)
第1報告

<半日だけ働く>という選択
――30代40代のパート主婦たちに見る女性たちの生活戦略

徳久 美生子 (武蔵大学)

 近年、働き手としてのパート主婦は、様々な観点から注目されている。
子育てが一段落し働こうとしている主婦たちは、少子高齢化がすすむ社会での潜在的な労働力として期待されている。また103万円の範囲内で働くパート主婦たちは、配偶者特別控除や年金の3号指定が見直されている中で、これまでの特権を享受してきた人々とみなされてもいる。

 他方で、今でもM字型を描く日本の女性労働に目を転じれば、女性の再就職先がパート労働に限られていることが、性差別役割分担の帰結として問題にされている。

 だが、注目される働き手であり、差別の当事者でもあるパート主婦たちは、自分たちが主婦であることや働くことをどのように考えているのだろうか。
本報告では、はじめに、潜在的労働力や男女格差の解消といった視点から離れて、当事者の視点から主婦を定義しなおしながら主婦のパート労働を考える必要性と意義を提示する。

 その上で、30代40代のパート主婦たちへのインタビュー調査の概要を紹介し、この調査が当事者の視点からパート労働を考える上でどのような貢献をするのかを明らかにする。

 さらに現在東京都内で実施しているインタビュー調査の中間報告を行う。今回の中間報告では、パート主婦たちが、主婦であることや家事の担い手であることをどのように考えているのかを紹介する。また家族・個人・企業に対する価値意識からくる自主的な職業選択の要因と、経済的要因とを関係付け、短時間だけのパート労働を選択する主婦たちがどのような生活戦略を描いているのかを明らかにしたい。

第2報告

子供の職業希望にみる「主体的」な職業選択の陥穽
――<教育的>にみて望ましい言語的資源の獲得と利用に注目して

寺崎 里水 (お茶の水女子大学)

 報告者はこれまで、子どもの「主体的」な職業選択として一般に評価されている「好き」という言説に代表される職業選択の理由づけが、実は教育指導を通じた社会の構造的要因によって媒介されていることを明らかにし、そうした職業選択に対する昨今の好意的評価を批判することを行ってきた。今回の報告ではさらに分析をすすめ、本来望ましい発達を意図したはずの教育が、利用することで判断を停止してしまうような言語的資源を提供しているという状況(現行のキャリア教育の意図せざる帰結)の指摘を行うことを目的とする。とくに注目するのは、小中学生が将来やりたい「しごと」とその理由としてあげている「人のため」「人の役に立つ」といった言説と、これらと学校現場における教育的価値との関連である。分析にはお茶の水女子大学21世紀COEプログラムの一環として行われている追跡調査JELS2003の小中学生データを用いる。もちろん、職業を選択する理由に注目した場合、子どもが本当に「主体的」な意志によってこれらを理由に挙げた可能性を排除できないという限界があることは、あらかじめ了解しておかなければならない。しかし一方で、なにがしかを表明することが「主体的」と容易に置き換えられる=ポーズとして成立する状況のもつ危うさについては社会学的な分析をもとに議論を重ねる必要があるだろう。

第3報告

就業者のキャリア構築と自己投資

酒井 千絵 (日本女子大学、東京外国語大学)

 本報告では、就業に関する意識調査から、ジェンダーや家族構成、雇用形態による、キャリアの構築と自己投資、ライフスタイルの相違を分析する。現代の日本では雇用や産業が変容し、派遣労働、国外での就業や起業など新しい働き方が認知され、同時に家族形成を含む人生設計も多様化している。そのため、就業の機会に格差が生じるとともに、キャリアやライフスタイルに合わせて自己投資を行い、働き方を自ら選ぶという意識もまた強まっていると考えられる。こうした状況を踏まえ、キャリアへの投資をめぐる意識と実際の就業との関係を分析する。

 まず報告者自身による日本人の海外移住調査から、海外移住・滞在経験の語りを、キャリア構築の観点から分析する。特に調査対象者が「日本的」とされるコミュニケーションを資格やスキルとして利用していること、海外滞在を将来への「投資」とみなしていることに注目し、海外移住・滞在におけるキャリア構築の認識を提示する。ついで2000年代に行われた『ワーキングパーソン調査』から、正社員や派遣、パートタイマーなど多様な雇用形態で働く人々のキャリア構築や資格習得に対する認識を分析する。特にジェンダーと家族構成、学卒後の雇用形態や職種によって、将来的な「働き方」への意識に相違は見られるのか、希望するキャリア構築の中で、何が必要な資格や経験と見なされているのか、資格取得への投資は人々の就業に影響を与えているのか、などの問題を中心に議論を行う。さらに、この二つの調査結果を対比し、グローバルな雇用や産業の変化が人々の就業意識に影響を及ぼす中で、人々が海外就業や起業を含むさまざまな選択肢をどのように選び取っているのかについて、議論を行う。

第4報告

感情労働で燃え尽きるのか?
――感情労働と心理的結果との連関についての一考察

三橋 弘次 (東京都立大学)

 日本の社会学においてすっかり定着した感のある「感情労働emotional labor」概念――対人サービス職を中心に、労働者の感情の意識的な管理が職務の与件として課された労働のことで、それは一般的に組織目的のために顧客の感情や行動を操作することを意図してなされる――ではあるが、近年の実証研究を見ると、感情労働者の困難な感情経験(特にストレスや燃え尽き)を問題化することに終始する議論が目立つ。そこでは、組織や労働過程は焦点から外れがちである。確かに、この概念を提起したArlie Russell Hochschildは、感情労働の心理的コストを強調していた。しかし同時に、業務のスピードアップ化など、感情労働が労働者の感情的疲弊をもたらす労働組織レベルの背景を描き出しており、(純粋な意味で)感情労働の遂行が否定的な感情経験に帰結するとは主張していないのである。にもかかわらず、日本の実証研究では感情労働が困難であることが前提とされ、感情労働の遂行が主に否定的な心理的結果と連関することが結論されがちである。しかもほとんどの場合、その連関の機制は明らかにされておらず、つまり連関することが当然視されている。そこで本報告では、感情労働と心理的結果との連関の必然性に疑問を呈し、連関の機制に関して若干の考察を加える。

報告概要

大槻 奈巳 (聖心女子大学)

 自由報告部会「ジェンダー・労働」では50名ほどの参加者をむかえ4つの報告が行われた。

 徳久美生子(武蔵大学)さんの「<半日だけ働くという選択>30代40代のパート主婦たちに見る女性たちの生活戦略」は、短時間パートとして働く大都市圏の主婦たちにとって、短時間パートで働くことは、主婦である自らの位置づけを放棄することなく、新たな居場所を確保することになっており、その結果、報酬よりも働きやすさを大切にしているとの見解を提示した。寺崎里水(お茶の水女子大学)さんの「子供の職業希望にみる「主体的」な職業選択の陥穽−<教育的>にみて望ましい言語的資源の獲得と利用に注目して」は近年のキャリア教育において「自分自身にいい感じを持つ」ことが重視されているが、子どもの好みは既に社会構造の影響を受けていることを明らかにし、その結果、各階層の閉鎖性が高まることを示唆した。酒井千絵(日本女子大学)さんの「就業における「資格」と「能力」−日本社会の雇用と海外移住経験のジェンダー差をめぐって」はキャリアへの投資をめぐる意識と実際の就業との関係を分析し、スキルアップを希望する分野、就業において重視される能力におけるジェンダー差について論じた。三橋弘次(東京都立大学)さんの「感情労働で燃え尽きるのか?−感情労働と燃え尽きとの連関についての一考察」は、感情労働におけるソーシャルサポートは人間関係的な効果以上に、自己と職務を分離する契機を与える効果をもつから重要であること、よって「分離の契機」となるサポートが大切であることを指摘した。4報告とも具体的なデータの分析を基にした報告であり、「仕事」や「働くこと」の意味、「働くこと」と「教育」のあり方をジェンダーのあり方と絡めながら問うものであった。分析手法に関することをはじめ、活発な質疑応答が行われた。

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