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年次大会
大会報告:第54回大会 (報告要旨・報告概要:テーマセッション)

テーマセッション 「市民活動と社会的ネットワークの新しいリアリティ」  
6/17 14:30〜17:00 [西校舎・1階 512教室]

司会者: 秋吉 美都 (専修大学)

テーマセッション趣旨 秋吉 美都 (専修大学)
1. まちづくりにおける社会的ネットワーク [プロジェクター使用] 籠谷 和弘 (関東学院大学)
2. コミュニティ形成におけるNPOと地域社会の関係性 高久 聡司 (東京工業大学)
3. 複雑ネットワークの生成過程のシミュレーション分析 [PP,Java JRE使用] 徳永 健一
(アドバンスソフト株式会社)
4. 暗黙知そして感覚の共鳴
―― 社会関係資本論の可能性についての実証的一試論
平井 太郎 (日本学術振興会)

報告概要 秋吉 美都 (専修大学)
テーマセッション
趣旨

司会: 秋吉 美都 (専修大学)

 社会的ネットワークが私的財や公共財の生産にかかわる過程について、社会学は多くの知見を積み重ねてきた。トクヴィル、ジンメル、デュルケムらの社会学は、近代社会固有のネットワーク編成原理を問題としていたといえる。また、20世紀後半にはネットワーク分析が長足の進歩を遂げた。たとえばこの時期、労働社会学は「空席の鎖」や「弱い紐帯の強さ」といった概念を手がかりとしてネットワークの構造が労働市場における地位達成に影響することを見出し、都市社会学は都市住民の紐帯が環境保全などのいわゆる「社会的ジレンマ問題」の解決に寄与することを確認している。移民研究では親族関係や出身地を基盤とするネットワークの役割が検討され、社会運動論ではアイデンティティ資源としてのネットワークに注目した動員の説明が試みられている。

 私的財や公共財の生産にかかわるネットワークはソーシャル・キャピタル(社会関係資本)としてJ.コールマンらによって概念化され、日本でも2003年に内閣府が『ソーシャル・キャピタル―豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて』という報告書を発表するなど、近年その政策的意義に対する関心が高まっている。社会的ネットワークや社会関係資本に対する注目はしかし、その衰退や変質に対する懸念と表裏一体である。R.パットナムのBowling Aloneは「衰退論」の代表的見解であり、またB.ウェルマンらは衰退傾向を否定しつつも、情報技術の普及によるネットワークの変質を指摘している。

 このセッションでは、社会関係資本に対する近年の関心の高まりを受けて、市民活動と社会的ネットワークに関する理論的・経験的研究を広く求める。市民活動と社会関係資本の関係はどのように概念化されるのか、市民活動の促進・阻害要因とその帰結は何か、特定のネットワークの構造は社会関係資本の形成にどのような含意を持つのか、またそもそも社会関係資本とは何か、など多様な問題提起を期待したい。理論・実証・方法論など各方面で進められている研究活動の相互交流を促進し、成果の共有と精緻化を進めることがこのセッションの目的である。

第1報告

まちづくりにおける社会的ネットワーク

籠谷 和弘 (関東学院大学)

 本報告は、日本における「まちづくり」活動に存在する問題を、郊外化と社会的ネットワークの視点から論じることを目的とする。

 現在日本各地で、「まちづくり」の活動が進められている。その成果にかんする評価基準は確定していないが、一般に「成功」とされている事例の多くは、交流人口の増加によって評価されている。これは市街地の空洞化を、観光客の増加などによって解決していることによっている。一方でこのような「まちづくり」には、地域社会の郊外化という観点から見ると、問題が内包されていると思われる。まず収入基盤を居住地域に持たない住民の、経済的利害関係による活動参加が望めなくなることである。そしてそれにより、地域社会全体の利害にかかわる活動、たとえば治安を守るための活動などを、まちづくりの課題として組み入れることができなくなることである。

 まちづくりにおいては、多様な次元による利害関係における公共財供給問題の解決が必要になる。そのうち経済的利害に基づく公共財供給問題は、交流人口の増加によって公共財供給問題をそもそも問題としなくなることによって解決されている。しかし経済的利害によらない公共財供給問題は、異なる方法によって解決されなければならない。ソーシャル・キャピタルを利用してその問題を解決しようとするとき、利害の次元が異なる地域住民・組織間ネットワークを結びつけることが必要になる。

第2報告

コミュニティ形成におけるNPOと地域社会の関係性

高久 聡司 (東京工業大学)

 近年、地域社会における「社会関係資本」の豊かさとボランティア活動の活発化の相関と同時に、両者の相互作用が「社会関係資本」の涵養に関係するとも指摘される。このように言われる時、「社会関係資本」には潜在的に存在するもの/形成されるものという二つの側面があると考えられる。本報告は、「社会関係資本」と地域社会のコミュニティ形成との関係を、あるNPOの活動を通して考察し、コミュニティの形成に対してNPOの活動が持つ意味を指摘する。

 事例とするのは、「小学校の校庭を緑いっぱいの芝生に」というテーマで活動をしているNPO団体「芝生スピリット」である。「芝生スピリット」の目的は、校庭の芝生化だけにあるのではなく、当該地域のコミュニティ形成に貢献することにある。当該地域で活動する際、「よそ者」であるNPOは、他者――地域社会ならびに地域社会の人――との関係を構築することが活動の継続につながる(1)。そして、視点を「NPOと地域社会との関係」に移すならば、当該地域の学校の校庭を芝生にし、それを維持していくための日常的な実践が、「芝生スピリット」の指摘するコミュニティ形成への貢献とされる(2)。

 本報告では、(1)を「芝生スピリット」のメンバーに行なったインタビューデータを用いて考察し、(2)の帰結として「社会関係資本」の形成を捉える。そして、NPOが潜在的な「社会関係資本」を引き出すのみならず、「NPOと地域社会との関係」が「社会関係資本」を形成する契機となることを指摘し、両者の関係性を考察する。

第3報告

複雑ネットワークの生成過程のシミュレーション分析

徳永 健一 (アドバンスソフト株式会社)

 近年、スモールワールドネットワーク、スケールフリーネットワークなどの複雑ネットワークが人間関係、経済、インターネット、神経回路などを分析する手段として注目されている。ここでは、社会学においてネットワークを研究する場合に、仮説を立ててそれをシミュレーションで検証すること、および、ネットワーク構造が変化していく過程を可視化すること、を目的とし、そのための一つの方法を紹介する。実際に有名なネットワークモデルについては、その場でシミュレーションによる追試を行い、結果を可視化してみようと思う。

 報告の内容は以下のものを予定している。
・複雑ネットワークの簡単な説明
・数学の立場からのグラフ理論とそこでの問題意識について
・隣接行列を用いて様々なグラフの指標を計算する方法
・シミュレーターソフトの紹介
・自分の仮説をシミュレーションで検証するには
・ワッツ・ストロガッツのスモールワールドネットワークとそのシミュレーション
・バラバシ・アルバートのスケールフリーネットワークとそのシミュレーション
・バラバシ・アルバートモデルに現れる次数分布のベキ則についての検証
他にベキ則が現れるネットワークはあるか?

第4報告

暗黙知そして感覚の共鳴
――社会関係資本論の可能性についての実証的一試論――

平井 太郎 (日本学術振興会)

 Making Democracy Workは社会関係資本の含意として、市民共同体の伝統と州自治の成功との符合をとりだしていた。この着眼は、市民活動にアプローチする際の焦点のひとつとも響きあう。たとえば日常の近所づきあいと、いざというときの協力との折合いである。こうした符合や連鎖を概念化する手がかりとして、2つの知見を提供したい。

 1つは、流動性の低い地方都市(小田原市)で、町内と店を軸にして収集した、生活史によるものである。ここでは現在、商業高校を核にした市民活動が広がっている。じつはその商業高校は、約100年前の、商店街の私塾に由来していた。しかも関係者は、その符合をまったく自覚していない。ここでは「埋め込み」というよりも、「暗黙知」に近い現象が起きているのである。

 もう1つ、流動性の高い大都市郊外(世田谷区)で、市民活動のキーパーソンたちの生活史を収集した。同区は市民活動を促す先進自治体として知られている。だが内実は複雑である。一方では現実の生活課題にしたがった偏りを孕みながら、他方では世代間で協同への積極性が伝播しつつある。流動性の高さを踏まえればそれは、相互の「信頼」よりも「感覚の共鳴sympathetic emotion」による連鎖だと捉えるべきだろう。

 社会関係資本という概念と、ネットワーク分析や政策科学の志向とが整合しうるのか否か、再考の余地は残されている。

報告概要

秋吉 美都 (専修大学)

 本セッションは、社会関係資本に対する近年の関心の高まりを受けて、市民活動と社会的ネットワークに関する研究成果の共有を図ることを目的として設定された。籠谷和弘氏「まちづくりにおける社会的ネットワーク」、高久聡司氏「コミュニティ形成におけるNPOと地域社会の関係性――NPO団体『芝生スピリット』の活動を事例として」、徳永健一氏「複雑ネットワークの生成過程のシミュレーション分析」、平井太郎氏「暗黙知あるいは感覚の共鳴――社会関係資本の可能性についての実証的一試論」の4件の報告が行われた。籠谷氏は、「観光まちづくりにおいて観光に直接関係しない住民の参加を促すにはどうすべきか」という問題を提起し、長浜と湯布院の事例を整理した。籠谷氏はまちづくりを公共財供給問題として定式化し、効用関数の変換、応報戦略、サンクションの導入という観点からこれらのコミュニティの経験を一般化する視座を提出した。高久氏は、「小学校の校庭を芝生にしよう」という活動を行うNPOを事例として取り上げた。高久氏は、NPOメンバーの「プロ」意識の変容を検討することで、社会関係資本の形成を相互作用過程に即して説明することを試みた。徳永氏は複雑ネットワーク生成過程をシミュレートするソフトを開発しており、報告ではそのデモンストレーションと、社会学的意義の検討を行った。スモールワールド・ネットワークや、スケールフリー・ネットワークのシミュレーションを例として、社会学的研究におけるシミュレーション技法の可能性を示した。平井氏は世田谷と小田原を事例として、歴史的条件が社会資本の形成過程に多様な影響を与えていることを指摘した。セッション全体を通して、社会関係資本の定義や、新たなネットワーク・モデルの可能性にかんして、とくに若い世代の参加者から多くのコメントや質問が出された。スモールワールド研究の表現を借りて、この分野で新たな「リンク」が「張りなおされた」と考えたい。

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