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年次大会
大会報告:第55回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第2部会)


第2部会:若者(1)  6/16 14:00〜16:30 〔1B棟・2階 1B208講義室〕

司会:中西 新太郎(横浜私立大学)
1. 不登校・ひきこもり・就労困難にみる若者たちの問題
――東京都との連携研究の成果から[PP使用]

玉野 和志(首都大学東京)
2. 不登校問題への行政による対処の現状と問題点[PP使用]
岩田 香奈江(首都大学東京)
3. 若者たちの職場への適応の困難
――東京都しごとセンター就職カウンセラーの聞き取りから[PP使用]

村木 宏壽(法政大学)
4. 「ひきこもり」からの<回復>とは何か 石川 良子(横浜市立大学)

報告概要 中西 新太郎(横浜市立大学)
第1報告

不登校・ひきこもり・就労困難にみる若者たちの問題
――東京都との連携研究の成果から[PP使用]

玉野 和志(首都大学東京)

 本報告を含む4つの報告は首都大学東京の社会学研究室が2005年度から2006年度にかけて東京都と行った連携研究の成果にもとづくものである。それらは相互に関連しているが、それぞれ独立した報告になっている。第1報告に当たる本報告では、連携研究の経緯とその成果の概要について述べる。

 この研究は2005年度に当時話題になっていた「ニート」などの若者たちの問題について考えるための基礎研究として行われた。初年度の成果としては、ニートといっても日本の場合、働きたいのに働けないというひきこもりとの連続性でとらえられることが多いこと、フリーターを含めてそれらの問題は何よりも90年代以降の非正規雇用の拡大という構造的な要因によるものであることが確認された。

 これを受けて次年度には主としてひきこもりへの政策的な支援を考えることが要請された。検討の結果、改めて「ひきこもり」の問題とは何かが問われ、不登校や就労困難(ニート)も含めた若者たちに見られる社会関係の忌避が特徴であり、それらは思春期における自己形成の課題と関連していることが想定された。しかも、それはある世代以降に顕著になっていることから、自らの社会的位置づけを確認するという思春期の課題の克服を困難にする社会的な変動が起こったという構造的な背景を考える必要のあることが、仮説的に提示されることになった。

 以下に続く3つの報告は、これらの成果を生むに至った個々の知見や独自の関心について、それぞれ論ずるものである。

第2報告

不登校問題への行政による対処の現状と問題点[PP使用]

岩田 香奈江(首都大学東京)

 本研究プロジェクトでは、不登校が「ひきこもり」や「ニート」といった若者の社会的紐帯からの撤退に結びつく契機となっているという問題認識に基づき、その政策的対応を考えるために、東京都下の各行政機関における不登校対策の現状についてヒアリングを行い、問題をもたらす諸要因について議論を重ねてきた。

 本報告の前半では、東京都における90年代以降の不登校の急増傾向に着目し、マクロ統計を用いた分析により、その要因について弱冠の考察を加える。市区町村別不登校発生率の推移と社会指標の関連を明らかにし、階層構成や再都市化など社会構造的要因の影響について検討する。

 後半では、都行政による不登校問題への対処の現状と、その問題点について言及する。都教育委員会では、文部科学省の基本方針に基づき、「教育相談体制の充実」をスローガンにスクールカウンセラーの設置・適応指導教室の整備などの施策を行い、一定の成果を挙げている。しかし、心理関係の専門家が中心となって問題に取り組んできた経緯からか、対症療法に終始する傾向があり、前半で検討した社会構造的要因は殆ど考慮されていない。また、「教育相談体制」のもとでは、相談主体=問題を抱えている人々とみなされる傾向が強く、深刻なケースが表面化しない可能性もヒアリングから明らかとなった。保護者が問題解決に積極的でない「怠学」的な不登校や、保護者が子どもを家に閉じ込める「登校禁止」といったタイプの不登校に関しては、現行の制度では対応が非常に困難である。

第3報告

若者たちの職場への適応の困難
――東京都しごとセンター就職カウンセラーの聞き取りから[PP使用]

村木 宏壽(法政大学)

 本報告は、「東京しごとセンター」における就職カウンセラーからの聞きとりから、若年者の職場への適応の困難について、その現状と背景としての雇用環境の変化や職場内の人間関係の実態について紹介するものである。

 「東京しごとセンター」の若年者雇用・就業支援事業において、利用者の約半数が受ける個別カウンセリングは中心的な役割を担っている。相談者は大別して@自分の職業適性に対する迷い・不安を訴える者と、A職場に適応できない、あるいは就業中の失敗によって離職した者とに分けられるという。@については、現在の支援プログラムによって円滑に就業まで結び付けやすいが、Aの場合は深刻である。一度職場で強い挫折感、恐怖感を覚えた人々には、現行の支援プログラムを受けることすら困難な状況となり、次のステップに踏み出せなくなってしまっているケースもある。このような若者の出現には、彼ら自身のコミュニケーション能力や就業意識の未成熟、労働に関する知識の欠如などの個人的要因も無視できないが、近年の雇用環境や職場内人間関係の変化、とりわけ成果主義導入や労働力の非正規化/専門化・流動化による影響を検討する必要がある。

 報告では、まず「東京しごとセンター」の支援事業と利用状況、就職カウンセラーへの聞きとりにおける何人かの相談者の離職の原因を紹介し、それをふまえた上で現在の支援事業の限界と今後の課題について考察する。

第4報告

「ひきこもり」からの<回復>とは何か

石川 良子(横浜市立大学)

 本報告は、当事者へのインタビューをもとに、「ひきこもり」とは一体どのような経験であり、またそこからの〈回復〉がどのように捉えられるのか論じるものである。

 「ひきこもり」は一般に "家族以外の他者との交流が長期にわたって失われた状態"と定義されており、まずもって対人関係の獲得が〈回復目標〉とされてきた。ところが3〜4年ほど前から、対人関係を取り戻した後、なかなか就労に結びついていかない当事者が目立ち始め、就労の達成が〈回復目標〉として強調されるようになっている。こうした傾向は、2004年に「ニート」がにわかに注目を集め、その概念が「ひきこもり」支援にも導入されてから、よりいっそう顕著になっている。しかし、対人関係の獲得であれ就労の達成であれ、〈社会参加〉を〈回復目標〉とすることは果たして適切なのだろうか。

 インタビューからは、以下のようなことが明らかになった。「ひきこもり」の当事者は、ひきこもる以前に自明視していた生き方から外れることで、自身の存在意義や、働くことの意味などを問わざるを得なくなっている人々と捉えられる。この観点からすれば、〈社会参加〉を果たすこと(あるいは社会に適応すること)よりも、むしろ実存的な諸問題に折り合いをつけ、自己や他者に対する根源的な信頼感を醸成することが、当事者にとっては極めて重大な課題となる。

報告概要

中西 新太郎(横浜市立大学)

 本部会では、東京都との連携研究の結果得られた、不登校・ひきこもり・就労困難の若者たちの問題について、カウンセリング対応の限界や社会構造に関する経年データの必要等、総括的に述べた松野報告に続き、不登校対策(岩田報告)、就労プロジェクト(村木報告)、ひきこもりからの回復(石川報告)の各分野にわたる報告が行われ、フロアとの活発な質疑応答があった。議論のなかでは、不登校発生率の地域特性と社会構造とのかかわり、エンプロイアビリティに特化した就労支援の問題性と就労支援スキームのあり方、ひきこもりからの「回復」における就労観念のとらえ方などについて、それぞれフロアと報告者とのやりとりがあった。量的・質的調査データに裏付けられた報告に対し、そこにふくまれる理論的含意ならびに若者問題へのアプローチ法が問われ、議論を通じて深められたと言える。

 松野報告・発言で強調されたように、本部会で報告された若者たちの困難は、「対人関係の処理の問題」ではなく、したがって、各報告で指摘されたような、個別のいわばカウンセリング型対応によって対処する手法には限界がある。松野報告では、「自らの社会的位置づけを確定する自己形成の課題」が普遍的に存在すると指摘されており、そうした思春期問題の側面をとらえるならば、問題は教育分野にも投げかけられることになる。ヒヤリングを通じてこうした「問題圏」があきらかにされたことが、若者の抱える困難と社会構造との関連に対する注目とならんで、本報告の意義と言える。

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