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年次大会
大会報告:第55回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第9部会)


第9部会:文化  6/17 10:00〜12:30 〔1B棟・2階 1B203講義室〕

司会:桜井 洋(早稲田大学)
1. <スピリチュアル・ブーム>の展開と受容についての一考察 平野 直子(早稲田大学)
2. 録音産業の成立と印刷技術に関するメディア論的考察 周東 美材(東京大学)
3. 「音(楽)メディア」としてのFM
――初期FM放送におけるメディアの役割の生成と変容
溝尻 真也(東京大学)
4. 孤独なボウリング」と「孤独なカラオケ」 宮入 恭平(東京経済大学)
5. グローバル化のなかの「和風」――変容する消費嗜好の実証分析 寺島 拓幸(立教大学)

報告概要 桜井 洋(早稲田大学)
第1報告

<スピリチュアル・ブーム>の展開と受容についての一考察

平野 直子(早稲田大学)

 2006年末から2007年にかけて、「現在は〈スピリチュアル・ブーム〉である」とみなす発言や、それについての考察がマスメディアで多数みられた。ここで使われる「スピリチュアル」という片仮名の形容詞は、2000年前後までは「一般化」していなかったが、2003年前後に江原啓之の登場等によって「霊」「魂」「生まれ変わり」といった、「この世」を超えた存在や事がらについての語りを表す言葉として急速に普及してきた。

 こうした「この世」を超えた事がらがオープンに語られる状況は、先行する「ブーム」――たとえば1990年前後のニューエイジ/精神世界ブームや並行する新新宗教の隆盛、もしくはそれに先行する1970年代の「オカルトブーム」――がただ繰り返されているだけのようにも見える。また「スピリチュアル・ブーム」の「癒し」ブームとしての側面は、もっと遡って明治末期からの〈癒す知〉の系譜に位置づけることも可能であろう。

 「スピリチュアル・ブーム」の個々の要素には、たしかにこれら先行する「ブーム」からの影響が認められる。しかしそれらが消費される仕方に注目すると、そこには2000年代半ばという社会的背景ならではの、独特の展開が起きていると見ることができる。

 そこで本報告では、「スピリチュアル」をテーマとするブログのリンク集の分析を中心に、「ブーム」を受容(もしくは需要)する側が、それら「スピリチュアル」な言説や実践にどのような意味づけを与えているのかを考察する。

第2報告

録音産業の成立と印刷技術に関するメディア論的考察

周東 美材(東京大学)

 本報告は、昭和初期における日本の録音産業がいかなる諸契機に媒介され成立したのかについて、メディア論の視座から新たな理解を目指すものである。報告者は、印刷技術と録音技術の関係、あるいは出版産業と録音産業の関係に注目し、両者の相互媒介的な過程を通じて、近代日本の音楽産業が形成されたことを歴史社会学的に明らかにする。

 印刷は、最も早くから大衆文化の根幹を支えてきた大量複製技術である。大正末期から昭和初期の日本において、出版産業は従来の知識階層向けの雑誌・書籍の発行から、巨大な発行部数をもつ大衆雑誌や円本の発行へと移行するなど、消費社会が台頭する際の主要な原動力のひとつであった。後発的に登場した録音産業は、この流れとほぼ同時期に、出版産業や文芸運動などの成果を流用しつつ、本格的に「音楽」産業として確立する。本報告では、録音技術の出現によって直ちに「大衆音楽」なるものが成立したと見なすのではなく、この異なるふたつの複製技術やシステムが、政治的、経済的、技術的、身体的、人材的な諸側面において、いかに手を取り合い、かつ分化していったのか考察し、録音産業が大衆文化の一領域を形成していく過程について考究する。

 なかでも本報告では、具体的な事例として各レコード会社内において制作上の強い権限を持った「文芸部」の存在や、詩人・作家であり、なおかつレコード産業へとコミットを強めるようになっていった北原白秋や西條八十に注目しつつ、上記の問題について明らかにしていく。

第3報告

「音(楽)メディア」としてのFM
――初期FM放送におけるメディアの役割の生成と変容

溝尻 真也(東京大学)

 1969年の本放送開始以来、FMは送り手 / 受け手の双方に「音楽メディア」として認識されてきた。「音楽の伝達」という極めて特化された役割を担ってきたFMは、マスメディアの中でも独特の位置づけがなされてきたメディアであるといえるだろう。本研究は、こうした「音楽メディア」というFMに対する独特の役割期待が、どのような歴史的過程を経て形成されてきたのかを明らかにすることを目的とするものである。

 実験局時代、民放FMは自らを「教育メディア」として位置づけていた。しかし本放送開始までの間に、FMはその役割を「音楽メディア」へと変容させていく。その変容とは、1950〜1960年代の日本における、「音」をめぐる技術・教養を文化資本とみなすような送り手 / 受け手の差異化戦略と密接に結びついて起こったものであった。

 さらに、この「教育メディアから音楽メディアへ」とでもいうべき変容過程には、「音」をめぐる「"技術のゲーム"から"文化のゲーム"へ」という、「音」をめぐる文化資本と差異化戦略のあり方自体が変容していく過程が内包されていた。初期FMをめぐる各主体にとってFMとは常に「音のメディア」であった訳だが、その「音」が媒介する文化資本そのものが、当時の時代背景の中で決定的に変化したのである。

 本報告では、これら「音」をめぐる差異化戦略の中で、初期FMにメディアとしての役割が付与されていく過程、そしてそれが今日的な「音楽メディア」へと収斂していく過程について、分析を試みたいと考えている。

第4報告

「孤独なボウリング」と「孤独なカラオケ」

宮入 恭平(東京経済大学)

 カラオケはレジャーとして、また文化としても、日本の社会に定着している。日本国内におけるカラオケに関する学術的な研究は、カラオケが興隆した1990年代初頭に数多くおこなわれ、1990年代後半には到達点に達したといわれている。最近でも国内におけるカラオケに関する研究はみられるが、技術的な側面からみた産業に関する研究が主流となっている。そのような視点からの考察はもちろん重要だが、カラオケという行為について考えれば、それをとりまく環境や、そこに含まれる人々といった、文化的側面を忘れてはならない。たとえばアメリカでは、カラオケを文化的な側面から扱う研究が継続的におこなわれている。

 報告者の関心は、日本とアメリカのポピュラー音楽をとりまく状況や環境(シーン)の違いを、文化的側面から検証することにある。カラオケに着目すれば、日本とアメリカのカラオケ―言い換えれば<カラオケとKaraoke>―は、ポピュラー音楽と同様に、その背後にある文化的な差異によって影響を受けている。日本では近年、ひとりでカラオケをする人たち(通称「ヒトカラ」)が増加傾向にある。本報告ではロバート・パットナムのソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の研究に注目し、アメリカにおける「孤独なボウリング」と、日本における「孤独なカラオケ」を比較検討する。

第5報告

グローバル化のなかの「和風」――変容する消費嗜好の実証分析

寺島 拓幸(立教大学)

 グローバル化の波は、政治、軍事、製造業、流通業、金融業、情報通信、労働など社会諸分野のあり様を変化させただけではなく、人々の暮らしに深く入り込み、それぞれの地域の文化をも変容させてきた。周知のように、日本の生活文化は、明治以来西洋化、欧風化の傾向を如実に示しており、太平洋戦争後は、その中でもアメリカ化の様相を強く示してきた。こうしたなかで、在来の和風文化は他の文化と影響を与え合い、溶け合い、交じり合いながらも、次第に衰退しつつあると思われた。ところが近年では、食生活を筆頭に和風なものが再評価され新しい需要を生み出し、和風回帰ともとれるような現象がみられるようになっている。

 こうした背景から本報告では、伝統的な生活文化である和風が、グローバル化の進展にともなってどのように位置づけられ、人びとに受け入れられているのかを明らかにする。本報告では、2004年11〜2005年1月に立教大学間々田研究室が東京都で実施した標本調査にもとづきながら以下を検討する。第一に、和風離れが進んでいるのか、それとも回帰の傾向がみられるのかという観点から、嗜好や衣食住の現状を確認する。第二に、和風と外国風に対する嗜好の相関関係を分析することによって、どの程度混交化がみられるかを検討する。第三に、世代間における和風の意味変容について検討する。

報告概要

桜井 洋(早稲田大学)

 第9部会のテーマは「文化」である。5本の報告が予定されたが、当日一名が都合により報告を取りやめたために、4本の報告が行われた。周東美材氏(東京大学)の報告は、昭和初期の日本における録音産業の成立について、特に印刷技術(出版産業)と録音技術(録音産業)の関する歴史社会学的研究である。録音技術の成立が直ちに音楽文化に結びついたのではなく、文芸運動などと関わりをもつ出版産業との関わりにおいて成り立った経緯を具体的な資料を示しつつ明らかにした。溝尻真也氏(東京大学)の報告は、FM放送の社会的な意味づけの変容を跡付けた研究である。1969年に開始されたFM放送は、その当初は「教育メディア」であると考えられたが、その後「音楽メディア」へと変貌してゆく。その過程には、「技術のゲーム」と「文化のゲーム」に関わる文化資本をめぐる差異化の戦略があったことを明らかにした。宮入恭平氏(東京経済大学)の報告は、カラオケをテーマとした比較社会学的研究である。日本とアメリカにおけるカラオケ受容の差異を、ロバート・パットナムの社会関係資本の概念に注目しつつ、アメリカにおける「孤独なボウリング」と日本における「孤独なカラオケ」の対比を焦点に分析した。最後に寺島拓幸氏(立教大学)は「和風」文化の変容についての研究である。日本の文化は明治以来欧風化の傾向を示し、戦後はアメリカ化の様相を示したが、最近では和風回帰の傾向もみられる。氏は標本調査に基づき、和風離れか回帰か、また嗜好の混交化の程度、世代間における和風の意味変容などについて報告した。それぞれの報告に関して、活発な討議が行われた。

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