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年次大会
大会報告:第55回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第10部会)


第10部会:職業・世代・移動  6/17 10:00〜12:30 〔1B棟・3階 1B302講義室〕

司会:岡本 英雄(上智大学)
1. 専門職研究の動向と今後の課題 鵜沢 由美子(日本大学)
2. 派遣会社の属性と派遣社員の働き方――派遣労働の多様性をめぐって 高橋 康二(東京大学)
3. 後期中等教育拡大期の高卒就職者の世代内移動
――社会移動研究における時系列的探索分析の試み[PP使用]
相澤 真一(東京大学)
香川 めい(東京大学)
4. 中高年層の社会参加をめぐる現状と背景
――「生涯現役プロジェクト」とその社会学的考察
小澤 考人(東京大学)

報告概要 岡本 英雄(上智大学)
第1報告

専門職研究の動向と今後の課題

鵜沢 由美子(日本大学)

 専門職の概念把握をめぐる研究は、大きく3つに分類できる。一つ目は、専門性や自律性などの専門職の特性をめぐる議論をふまえ、その特性の獲得程度に従って、現実の諸職業の専門職化の程度を推し量る研究である。特性論的アプローチと総称される。二つ目は、1970年代この特性論的アプローチを批判して登場した権力論的アプローチである。このアプローチでは、専門職の特性と見なされているものは、当該専門職が必ずしも有しているものではなく、専門職従事者はあたかもそれを有しているがごとく民衆に確信させる権力を有しているとみる。さらに、並行して専門職の特性や理念型を捉える際に、伝統的な確立した専門職を模し、種々の専門職を文化的、歴史的に画一的、単一的に捉えることや序例化して捉えることへの批判的議論もあった。フェミニズムからの批判的研究からは、専門職化とは「男らしさ」の追求であり、女性排除の過程であると議論された。1980年代後半から1990年代に入り、専門職研究の中に新たな流れが生じてきた。専門職の規範的な価値システムとしての側面を再評価する動きであり、専門職を多面的に把握する第3のアプローチと見なすことができる。ある職業が、専門職であるかどうかということよりも、専門職そのものは大枠で捉え、その内実を多面的に把握する研究に移行しているということができるだろう。本報告では、このような専門職研究の動向を踏まえ、今後の課題を提示する。

第2報告

派遣会社の属性と派遣社員の働き方
――派遣労働の多様性をめぐって

高橋 康二(東京大学)

 一般に、事務系派遣社員の働き方は画一的なものとみなされがちである。これに対し本報告では、派遣社員、顧客企業、派遣会社の3者から構成される人材派遣においては、雇用主である派遣会社の属性が派遣社員の働き方に少なからぬ影響を与えると考え、派遣会社の属性に応じた多様な派遣労働の実態を明らかにする。具体的には、事務系の派遣市場において、「大手独立系」と「中堅資本系」という対照的な事業展開を行なう派遣会社が存在することを示した上で、それぞれの派遣社員の働き方を比較するとともに、それぞれの派遣会社に適しているのはいかなるタイプの派遣社員なのかを明らかにする。分析には、大手独立系6社、中堅資本系4社の事務系派遣社員823名から得られたアンケートデータを用いる。

 分析の結果、以下の2点が明らかになる。第1に、中堅資本系の派遣社員の方が、職場において希望に合った仕事を任されており派遣先に対する満足度が高く、他方で、大手独立系の派遣社員の方が、カウンセリングや頻繁なフォローを受けられるとともに教育研修など就業支援の仕組みを利用しやすく派遣元に対する満足度が高い。さらに、このような違いは、派遣会社の事業展開のあり方と密接に関係している。第2に、このような違いが存在するがゆえに、仕事生活の全体的な満足度の観点からみて、派遣社員としてスキルアップを図りたいと考える者にとっては大手独立系が、そうでない者にとっては中堅資本系が適している場合が多い。

第3報告

後期中等教育拡大期の高卒就職者の世代内移動
――社会移動研究における時系列的探索分析の試み[PP使用]

相澤 真一(東京大学)
香川 めい(東京大学)

 本報告は、JGSS(日本版総合社会調査)累積データ2000-2003を用いて、2つの検証を行う。第一に、後期中等教育拡大期の男性高卒就職者の世代内移動を、生年一年ごとに連続写真のように追跡する探索的作業を行うことによって、戦後の教育拡大過程下で教育を受けた各年それぞれの学歴の意味を浮かび上がらせ、帰納的に妥当なフェーズを区分する。第二に、この区分によって、各世代の世代内移動の変化の様相がどのように浮かび上がるかを検証する。

 従来、社会移動研究が、世代や時代を論じようとする時、機械的に5年または10年といった区切りを設定したものや、先行研究に依拠したア・プリオリな区分にとらわれがちであった。それに対して、本報告は、時代や出生世代の違いによる関心を一歩推し進めて、生年世代や時代の変化を帰納的、探索的に問い直すことを試みる。つまり、学歴、初職、現職の関係を探索的に見ながら歴史叙述を行い、変化のフェーズを区分するカテゴリーを作成する試みを行う。もちろん、探索的アプローチに基づく帰納的な世代区分の妥当性は吟味されなければならないため、後半では、これまでの世代内移動研究の成果から導出される仮説に対して、この世代区分がどのような意義を与えるかについての検証を行う。

第4報告

中高年層の社会参加をめぐる現状と背景
――「生涯現役プロジェクト」とその社会学的考察

小澤 考人(東京大学)

 近年、若年雇用問題(学校から仕事への移行)と並んで社会問題として急速に注目を集めているのは、中高年層の地域社会への参加(職場から地域への回帰)である。とくに2007年以降に「団塊の世代」が定年退職を迎えるに当たり、各地方自治体でも中高年層の地域社会への回帰・参加を手助けする取組みが喫緊の課題となっている。

 本報告ではこうした趨勢を踏まえ、東京都世田谷区を調査フィールドとして、中高年層の社会参加に対して現在いかなる取組みがなされているのか、という現状報告を第一の論点とする。その主題は、2005年度の基本計画からスタートした「生涯現役プロジェクト」である。ところで「団塊の世代」の地域回帰が当面の課題であるとして、そこで暗に前提とされているのが、回帰の対象としての地域社会の受け皿である諸々の市民活動の存在である。本報告の第二の論点は、このような市民活動の多くがどのような経緯で出現したのかという、現状の起源に対する探究である。そこに浮上するのは、1970年代当時、「団塊の世代」の一部を中心とする青年たちが創り上げた市民活動とグループ間ネットワークである。そのうえで本報告の第三の論点は、この1970年代の地平という文化的背景との対照において、現在の「生涯現役プロジェクト」をめぐって生じていることの社会学的意味の考察である。そこには労働と余暇の社会的配置の再編ともいうべき現代社会の一端が浮かび上がる。

報告概要

岡本 英雄(上智大学)

 この部会では4本の報告がおこなわれた。午前の部会であったが、参加者は多く(20数名)、発表をめぐって活発な議論がおこなわれた。

 第1報告は鵜沢由美子氏の報告で、「特性論的アプローチ」から「「権力論的アプローチ」へ変化してきた専門職研究が、現在は「第3のアプローチ」といえる新しいアプローチに移行しつつあることを、自身の日本の専門職研究の事例を用いながら論じた。第2報告は高橋康二氏の報告で、「大手独立系」の派遣会社と「中堅資本系」では教育研修、カウンセリング、希望に合った仕事に就ける程度などが異なり、そのため満足度や応募者の特性の差などがあることを、アンケートデータをもとに論じた。第3報告は相沢真一・香川めい氏による報告で、JGSSのデータを用いて生年1年ごとに世代内移動を追跡し、そこから妥当性のある区分をみつけ、さらにその区分ごとに世代内移動どう異なるかを論じた。最後の報告は小沢考人氏によるもので、世田谷区をフィールドとして中高年層の社会参加についての取り組みの現状、その出現の経緯、1970年代の青年たちの活動との関係が論じられた。

 専門職研究については各国での定義や位置づけの違い、その社会的背景をめぐって活発な議論がなされた。人材派遣をめぐっては、派遣元の違いに注目した点に新しさがあるとされた。高卒者の世代内移動の研究に関しては、出発点であるサンプル・母集団の解釈をめぐって疑問がだされ、実質的な内容の議論までいかなかった。中高年層の社会参加については、現在の市民活動を、1970年代の青年たちの活動と結びつけて考える報告者の枠組みに対する批判がめだった。

 上野会長をはじめヴェテランの参加が目立ち、若い報告者とのあいだに各報告の基本的論点に関して意見のやり取りがあり、部会として成果があったのではないだろうか。

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