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年次大会
大会報告:第55回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第12部会)


第12部会:相互行為・生活/意味世界  6/17 10:00〜12:30 〔1B棟・3階 1B308講義室〕

司会:小林 多寿子(日本女子大学)
1. インタビューにおける相互行為秩序 田邊 尚子(一橋大学)
2. 価値意識のパラドックスと差別者の構成 片上 平二郎(立教大学)
3. 「社会復帰」という選択・生活を通して獲得される主体性
――ハンセン病療養所を退園していった人々の経験から
坂田 勝彦(筑波大学)
4. 当事者のパースペクティヴの重要性と限界――心理学化に抗して 大河原 麻衣(首都大学東京)
5. ケアと仕事の狭間で――小児がんの子供を持つ母親の葛藤と経験の意味づけ 鷹田 佳典(法政大学)

報告概要 小林 多寿子(日本女子大学)
第1報告

インタビューにおける相互行為秩序

田邊 尚子(一橋大学)

 インタビューは、それ自体どのように成り立ち、行われているのだろうか。このことは、インタビューを実施する上で、また分析する上で大きな問題であるが、これまでしばしば自明視されてきた。もちろんこれまでも、一方では、インタビュー協力者(回答者/インタビュイー)との関係、その築き方について議論されてきたが、まさにそのインタビューという営み、相互行為自体がどのようにしてなされているのかということについては十分目が向けられてこなかった。

 その一方で、近年、インタビューを実践と捉えた上で、発言内容が考察の対象とされるようになってきた。それは、協力者の発言をインタビューの場における物語の構築として捉えたり、インタビュイーとインタビュアーによる共同的な意味構築の場として捉えたりするものであり、インタビューの場でまさにそうした発言がなされていることとして論じる必要性を提示している。

 こうした議論が、これまでその発言内容に焦点を当ててきたのに対して、本報告では、インタビュー自体がどのようになされているのか、役割演技の視点から取り上げ、インタビューにおける相互行為秩序について論じる。そして、両者がインタビューという状況の達成に向けた発言を行っていること、またその中でとられる多層的な役割を指摘し、インタビューにおけるインタビュアーの優位性の問題についての検討を行いたい。

第2報告

価値意識のパラドックスと差別者の構成

片上 平二郎(立教大学)

 差別者は、多くの場合、自らの姿を隠しながら差別行為を行うため、分析対象として観察することが難しい。本報告は、この差別現象の特徴を、差別者の内面における、差別に対する価値意識のパラドックスとともに考察する。差別者は、差別観念を持ちながらも、それが"悪い"ものであるという反差別的な観念も同時に持つがゆえに、差別行為を行う際、自らの姿を隠すものと考えられる。このような差別に対する価値観念の間の対立と葛藤に着目しながら、差別意識という問題を理論的に考えてみたい。

 差別的価値意識を内面化することで、人間は、差別的な観念を持つことになるが、その段階では、いまだ「差別者」になる可能性を秘めた存在であるにすぎない。多くの場合、それとは相反する価値規範である反差別的な価値意識を内面化することによって、現実的な差別行為の実行を制御して、「差別者」となることを避けることが可能である。しかし、この2つの価値意識は相互に矛盾した主張を持ったものであり、その双方を内面化した人間は、ダブルバインド的な状況を自らの内側につくりだし、「葛藤」の感情を持つことになる。この価値規範に関するパラドックスや葛藤の感情は、ときに、差別へと向かう欲望や反差別的な価値観への反感を生み、人間を差別的な行為へと促す複雑な役割を果たすものとしても考えられる。差別的な価値意識は、それに相反する反差別的な価値意識が導入されることによって抑制されるどころか、逆に、そこから生み出されるパラドックスや葛藤によって、より大きなものになっていく可能性がある。

第3報告

「社会復帰」という選択・生活を通して獲得される主体性
――ハンセン病療養所を退園していった人々の経験から

坂田 勝彦(筑波大学)

 本報告は、ハンセン病療養所を退園していった人々の経験に焦点を当てることで、かれらが〈隔離〉の及ぼす力を相対化し、自らのアイデンティティや生活世界の多元的な在り方を獲得していこうとしてきた主体性について検討する。

 1996年に「らい予防法」が廃止されるまで、日本においては全てのハンセン病罹患経験者を療養所へ終生隔離することを目的とする隔離政策が行われてきた。そして隔離政策の下で行われてきた〈隔離〉は、療養所入園者を社会から切り離すという物質的な水準だけでなく、かれらのアイデンティティを管理し、生活世界を一元化する権力として機能してきた。そうした〈隔離〉に対し、療養所入園者の多くは、法規の未整備や社会の根強い偏見・差別のため療養所を出ることが難しいなか、療養所という場所に留まりつつも、〈隔離〉の及ぼす権力を読み替える営みを行ってきた。

 他方で療養所入園者のなかからは、療養所を出て「社会復帰」する人々も戦後になると現れるようになる。なぜかれらは多くの療養所入園者と異なり「社会復帰」という選択を行い、またかれらは「社会復帰」という選択・生活を通して何を獲得していこうとしてきたのか。本報告は、「社会復帰」という選択・生活をしてきた人々の経験を通して、かれらが〈隔離〉の持つ力を相対化し、自己のアイデンティティや生活世界の多元的な在り方を獲得してきた主体性について明らかにする。

第4報告

当事者のパースペクティヴの重要性と限界――心理学化に抗して

大河原 麻衣(首都大学東京)

 後期資本主義としての現代では、社会の流動性が増すことによって、個人としての承認の契機が摩滅すると言われる。個人の尊厳を承認する社会的な関係性を取り結ぶ機会の減少もさることながら、自明性の喪失によって、そもそもなぜ「この関係性の中で承認されねばならないのか」というような関係性自体の正統性も問題となり得る。

 過剰流動性が個人に与える負荷を、個人に還元されるかたちで対処する心理学化の進展は、ギデンズやベックが「私化」と呼ぶもののコロラリーではないだろうか。心理学化は個人の内面に対する関心を高める一方で、心の問題・ストレスの問題の対処を身体に帰する側面を持つ。こうした社会問題の心理学化を介した身体化は、根本的な人間学的な問題や社会構造上の問題を放置する。このような中で、現在、臨床にある当事者らの間から、人を全体として捉えるケアや意味探求のニーズをサポートする必要性がいわれつつある。しかし、このような対処は、ケアする者/される者という人為的で閉ざされた関係性の中での応急処置でしかない。社会的文脈の中で、個人の尊厳を承認する関係性の正統性をいかに回復するかという根源的な問題には、依然として向き合えておらず、私化の域を出てはいない。当事者のパースペクティヴの重要性と、それに拘泥することがもたらす別様な問題について、議論していくつもりである。

第5報告

ケアと仕事の狭間で
――小児がんの子供を持つ母親の葛藤と経験の意味づけ

鷹田 佳典(法政大学)

 小児がんの子どもを持つ家庭では、母親が患児のケア全般(入院時の付き添いや医療従事者との交渉、サポート資源の調達など)において中心的な役割を担い、一方の父親は主に「一家の稼ぎ手」として収入面から闘病生活を支えるというふうに、性別による役割分業がなされているのが一般的である。つまり、共働き夫婦の家庭では、子どもの発病に伴って、母親が仕事を辞めるか、あるいは休職をしてケアに専念する場合が多いということであるが、なかには母親が仕事をしながら子どものケアにあたるというケースもないわけではない。しかし、このような母親の存在は、その数が少ないこともあってか、これまで十分に目を向けられてこなかったように思われる。そこで本報告では、仕事や学業を継続しながら小児がんの子どものケアを行う母親に焦点を当て、その経験や思いについて検討することにしたい。

 今回の報告で取り上げる二人の女性は、いずれも仕事(学業)とケアの狭間で深い葛藤に直面している。このことは、小児がんの子どもを持つ母親をケアへと向かわせる強固な役割期待の存在を示唆しているが、そうした状況のなかで、二人の女性が葛藤や困難を抱えつつも仕事とケアを両立できたのはなぜなのか。本報告ではその理由を探ると共に、彼女たちが自らの経験をどのように(肯定的に)意味づけているのかを明らかにしたい。

報告概要

小林 多寿子(日本女子大学)

 第12部会では5人の若手研究者の報告があった。第1報告の田邊尚子氏(一橋大学大学院)「インタビューにおける相互行為秩序」は、インタビューの成り立ちをとくにインタビュイーに注目してポジショニング理論から検討し、当事者としてのポジショニングがインタビュイーであることを達成し続けているインタビューの相互行為性を示した。

 第2報告の片上平二郎氏(立教大学)「価値意識のパラドックスと差別者の構成」は、日常の「差別」に注目し、「差別」をめぐる価値意識のパラドクスのなかでの「差別」事象の存在とこの「葛藤」を消去しようとする行為が孕む「差別」の暴力性肥大化の可能性を指摘した。

 第3報告の坂田勝彦氏(筑波大学大学院)「「社会復帰」という選択・生活を通して獲得される主体性―ハンセン病療養所を退園していった人々の経験から―」は、ハンセン病療養所を退園した人々への聞き取り調査や体験記をもとに療養所へ引き戻す力とその力とのせめぎあいを生きる実践と<主体性>の遂行を明らかにした。

 第4報告の大河原麻衣氏(首都大学東京大学院)「当事者のパースペクティヴの重要性と限界―心理学化に抗して」は、現代社会における主体化と私事化という二つの個人化の相貌のなかで当事者主義を取り巻く状況を批判的検討し、当事者主義の意義が個人をより広範な社会関係に開くことにあるのに反して対処療法的な当事者主義が自己撞着を促進させてしまう限界を指摘した。

 第5報告の鷹田佳典氏(法政大学大学院)「ケアと仕事の狭間で:小児がんの子どもを持つ母親の葛藤と経験の意味づけ」は、小児がんの子どもを持つ家庭の二つの事例から小児がん患者の母親が伝統的な性別役割分業体制の維持されたなかで仕事とケアの狭間での深い葛藤や罪責感を持つさまを明らかにした。

 以上のような報告のなかに人びとの相互行為へ着目する多様な視点が示されたとおもう。

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