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年次大会
大会報告:第56回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第5部会)


第5部会:就労・移行過程  6/21 14:00〜16:30 〔1号館1階109教室〕

司会:西城戸 誠(法政大学)
1. 市民事業体ワーカーズ・コレクティブの持続可能性 朴 姫淑(東京大学)
2. 若年不安定就労者をめぐる社会問題の構成
――「フリーター問題」以降の新聞報道を事例として

仁井田 典子(首都大学東京)
3. 現代大学生における予期的な進路戦略
―― 高校‐大学時代の生活意識の比較分析
小澤 昌之(慶應義塾大学)
4. 現代日本の非正規滞在者を規定する二つの社会構造と生活世界 熬J 幸(移住労働者と連帯する全国ネットワーク)
5. 年休取得率向上に有効なものはなにか 井草 剛(早稲田大学)
第1報告

市民事業体ワーカーズ・コレクティブの持続可能性

朴 姫淑(東京大学)

 ワーカーズ・コレクティブ(以下、ワーカーズ)とは、1982年生活クラブ生協を母体として第1号が生まれ、全国に広がった「全員出資・全員経営・全員経営の協同組合型非営利事業体」である。ワーカーズは、1990年代団体数も会員数も事業高も急速に増えてきたが、2000年代半ばになると、その停滞現象が起きる。ワーカーズ内部では「世代交代の危機」と捉えているが、事業体の経営的視点から、ワーカーズの持続可能性を探る。
 ワーカーズに対する先行研究が、「働き方」や生協運動の延長線上での運動としての意義を強調してきたが、ワーカーズの持続可能性を論じる際には、事業体の経営の側面に注目する必要がある。本発表では、ワーカーズを、請負型ワーカーズ、コミュニティ型ワーカーズ、自立型ワーカーズ、社会的連帯型ワーカーズに類型分類する。そのなかで、ワーカーズの代表的形態のコミュニティ型ワーカーズと、それと共存してきた自立型ワーカーズを事例に取り上げ、経営分析を行う。
 経営分析の知見とともに、インタビュー調査結果を用い、ワーカーズの持続可能性に対する考察をする。まず、「ワーカーズらしさ」という初期理念の呪縛から抜け出す必要があること、次に、現の担い手である第三号被保険者以外の多様な担い手を受け入れる仕組みが欠かせないこと、さらには、ワーク・ライフ・バランスという潮流の中でワーカーズは、世帯単位ではなく個人単位のワーク・ライフ・バランスに向き合う必要があることを提起する。

第2報告

若年不安定就労者をめぐる社会問題の構成
――「フリーター問題」以降の新聞報道を事例として

仁井田 典子(首都大学東京)

 本報告の課題は、マス・メディアによって構成されてきた「若年不安定就労者」をめぐる社会問題の構成プロセスを明らかにすることである。本報告で主として取り扱うのは、一般に「フリーター」や「ニート」と呼ばれる社会問題カテゴリーである。もともと「フリーター」の語源は、アルバイト情報誌『フロム・エー』(リクルート刊)で、「従来の終身雇用に象徴される日本的就労慣行に背を向けて、自由な生き方を志向する最先端の若者たち」を意味する言葉として誕生した。本報告では、この「フリーター」という言葉が、若年者の不安定就労問題を意味する「フリーター問題」という社会問題カテゴリーへと展開されて以降、若年不安定就労問題が社会問題として構成されていく過程を、新聞報道を中心に検証していく。さらに、こうした社会問題が構成されていく過程で作られていく「若年不安定就労者像」を提示することを試みる。
 2005年4月より、報告者は、若年不安定就労者の生活世界を明らかにするために、東京都内にある若年者就業支援施設における参与観察調査と若年不安定就労者に対するインタビュー調査を行ってきた。本報告は、社会問題としてカテゴライズされる若年不安定就労者たちの自己認識に対して、マス・メディアによって構成された「若年不安定就労者像」がどのような影響を及ぼしているのかを検証していく作業の一つである。

第3報告

現代大学生における予期的な進路戦略
―― 高校‐大学時代の生活意識の比較分析

小澤 昌之(慶應義塾大学)

 厚生労働省の統計調査によれば、2007年3月卒業の大学生の就職率は67.6%となっており、戦後最低を記録した2003年卒業者の55.1%から大幅に回復した。一方で「売り手市場」と目される近年の大学生の新卒市場においても、大学進学率の増加により、大学の校風やキャンパス環境の良さよりも、大学の偏差値や就職実績などの実益を優先して進路を決める大学生が増加しているという。実際に、1990年代以降から少しでも就職活動を有利にするために、人間関係やサークル活動よりも、学業や資格取得を重視する傾向は、岩田弘三や伊藤茂樹などが行った調査結果でも現れている。
 その背景には渡部真などが指摘したように、大学を中学や高校などのような機能を持つ学校に変えることを意味する「大学の学校化」が関係していると考えられる。渡部は、その要因として@新設大学の増加による生き残り戦略の必要性、A学生生活全般に渡る指導の徹底、B大学教員の信頼低下、の3点を挙げた一方、学生の間にも授業参加を重視するなど一定の評価を得ているとされている。
 本報告では以上の議論を踏まえた上で、就職実績や資格などの実益を重視する近年の大学生における進路動向に注目して、予期的に進学動機が形成されるプロセスについて考察を行う。具体的には、発表者が大学生を対象に行った質問紙調査の結果をもとに、将来の職業志向と進学動機との関連性を中心に分析を行い、大学生の進学目的の変容について先行研究との比較を行いながら議論を行う。

第4報告

現代日本の非正規滞在者を規定する二つの社会構造と生活世界

熬J 幸(移住労働者と連帯する全国ネットワーク)

 80年代後半から日本の「外国人労働者」の一部を占めてきた非正規滞在者は、定住化が進むなかで市場での地位を上昇させてきた。また主に日本人との結婚によって、合法的滞在資格を得たものも少なくない。彼らは、「企業と家族」という産業社会を形づくる基礎的集団の中に包摂され地位上昇を経ていったと言える。
 一方で、90年代後半頃からは、彼らを「不法滞在者」としてまなざす傾向も強まっていった。このまなざしは「不法滞在者半減政策」として政策にも導入され、彼らの生活に影響を与えている。このとき、「不法滞在者」は社会の安全を脅かすリスクとして捉えられており、その意味で、このまなざしは、リスク社会の規範を表現していると言える。
 以上の二つの構造に重層的に規定されつつも、非正規滞在者は、生活世界での営みを繰り広げてきた。本発表では、複数の男性(元)非正規滞在者のライフストーリーを、特に、移民・宗教ネットワーク、労働組合でのインフォーマルなつながりに着目して描きだす。非正規滞在者にとって、両者はともに親密圏としての側面を有している。それに加えて後者は、彼らの姿をあらわにするという公共圏の基盤ともなっていたが、その後、このつながりは弱体化していった。他方、前者は、親密な関係性を維持しているものの公共圏の側面を有していない。

第5報告

年休取得率向上に有効なものはなにか

井草 剛(早稲田大学)

 昨今、ファミリーフレンドリー企業の重要性が、多くの論文や記事で盛んに議論されている。ファミフレの一角は年次有給休暇(年休)取得率の向上であり、すべての労働者が安心して年休を取得できる職場にすることで、育児休業やその他様々なファミフレ施策も生きる。しかし、企業にとっては、年休は間接コストが大きいため、完全取得が難しい。年休の消化率が低下傾向にあるため、厚生労働省は、最低取得単位が原則1日とされている年次有給休暇制度について、時間単位で取得できるように通常国会で関連法を改正し、早ければ今年にも新基準を導入する。
 本報告では、年休問題の焦点を企業側に置く。すなわち、企業の年休問題に関する諸施策と職場における運用である。その諸施策と運用及び代替要員への対処を企業はどのように考え、具体的に職場ではどのように行っているかを、インタビュー調査から考察する。また、企業のどのような諸施策や、年休に関する制度が年休取得向上に有効かも統計分析により明らかにしていく。
 このような作業によって、職場の特徴ごとに有効な方法を見出し、また有効な制度の単独効果や交互作用を明らかにして、年休取得向上のための方策を示していきたい。

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