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年次大会
大会報告:第56回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第6部会)


第6部会:理論(2)  6/22 10:00〜12:30 〔1号館1階101教室〕

司会:出口 剛司(明治大学)
1. ユルゲン・ハーバーマース「市民的公共性」概念の学史的再検討 小山 裕(東京大学)
2. ハーバーマスの公共性論における特殊歴史性をめぐって 河合 恭平(東京工業大学)
3. 役割と集団-アイデンティティの基礎についての一考察 見上 公宏(北海道大学)
4. 「バークレー学派都市民族誌」の研究動向――その方法論的革新と認識論的反省 田中 研之輔(法政大学)
5. イノベーション研究と集団構造
――「カテゴリー・ネット技法」を通して
○堀口 直人(首都大学東京)
高橋 和宏(首都大学東京)
山崎 哲史(首都大学東京)
鈴木 努(首都大学東京)
小林 幹生(首都大学東京)
前原 あゆみ(首都大学東京)
第1報告

ユルゲン・ハーバーマース「市民的公共性」概念の学史的再検討

小山 裕(東京大学)

 ユルゲン・ハーバーマースがヴォルフガング・アーベントロートのもとに提出された教授資格論文である『公共性の構造転換』(1962年)の執筆に際し、当時の公法学の議論を強く意識していたことは周知のことである。しかし既存の諸研究はそうした文脈をほとんど顧慮してこなかった。その結果、現在のハーバーマースの公共性論の受容に一定のバイアスが生じている。
 本報告は同書に結実するハーバーマースの初期公共性論をそうした1950年代のドイツ連邦共和国における公法学上の学説状況に位置づけ直すことにより、同書において提起された「市民的公共性」という概念の再考を試みるものである。主たる比較対象として取り上げられるのは、同じくアーベントロートのもとに提出された博士論文であるリュディガー・アルトマンの『公共性の問題と現代民主政に対するその意義』(1954年)である。
 両者の公共性論を対照させることにより、ハーバーマースの公共性論が、アルトマンによって定式化された再現的公共性と民主的公共性という公共性の二類型を再解釈する中から生まれたものであるということが明らかとなる。すなわちハーバーマースの市民的公共性という概念の同時代的意義はアルトマンが「万人の参加を通じて創出されるもの」として特徴づけた民主的公共性を、市民的公共性を特徴づける「公開と監査」という観点から批判的に基礎づけ直すという点にあった。

第2報告

ハーバーマスの公共性論における特殊歴史性をめぐって

河合 恭平(東京工業大学)

 ハーバーマスの公共性論は、システム―生活世界と公共圏の厳密な領域区分に基づいて、公共性を討議による意見・意思形成プロセスの総体と捉えており、そこには我々が通常、公共的だと考える行政、福祉などの公共政策等は含まれえない点に特異性がある。
 本報告の目的は、「特殊歴史性」の観点から公共性論の形成過程を跡付けることで、こうした特異性の起源をたどり、また公共性論とコミュニケーション論などの理論的文脈が密接不可分であることをも明らかにすることである。このことは、彼の公共性論の安易な取捨選択的乱用や批判を不可にする。
 ハーバーマスの公共性論は、特殊歴史的な市民的公共性の理念を現代において復権させようとする一方で、「公的領域/公共圏・私的領域」の歴史的区分を越えようとしており、ここにおいて両者の間にジレンマが生じている。ハーバーマスの公共性論における努力はこうした特殊歴史性への挑戦に注がれている。
 本論における三つの論点を挙げておく。第一に、コミュニケーション論的転回において公共性の脱歴史化の戦略を伴っていること、第二に、「公的領域/公共圏・私的領域」から「システム―生活世界」という領域区分への転換を歴史過程において位置づけ、歴史規定的な公共性の質の変化を直視していることである。第三は、それらの理論転換の延長上において、市民および市民社会概念をも脱歴史化し、新しい社会運動や他者の受容への視点の拡大を可能にしていることである。報告では以上の論点にしたがい詳論する。

第3報告

役割と集団-アイデンティティの基礎についての一考察

見上 公宏(北海道大学)

 現代人は、一般的な意味で単位としての「個人」であること、一貫した生活様式を形成し、社会に対し独自の貢献を果たすことを要請されている。他方、そうした単位としての「個人」は一義的に機能分化した社会の中で表現されることは困難である。このジレンマは、包括的アイデンティティと排除的アイデンティティという人間の社会システムへの参入の二つの原理に対応している。
 様々な排除的アイデンティティ(それらは様々な制度的役割やある種の集団において見られるものだが)が「個人」において、何らかの方法でまとめられていることは暗黙裏に認められてきた。アイデンティティ理論では、諸アイデンティティを束ねる自己として、社会的アイデンティティ理論では自己に内在化された価値とそれはされる。しかし、どちらの場合も、当の「個人」は私秘化され、社会的コミュニケーション上に顕現しない。
 しかし、包括的アイデンティティを諸社会の境界付けを、排除的アイデンティティを社会の内的分化を成立させるものとするなら、「個人」は包括的アイデンティティ上において生じることになろう。この様に考えれば、近代社会は、排除的アイデンティティの包括的アイデンティティ化、もしくは排除的アイデンティティの包括的アイデンティティによる管理のダイナミクスにより成り立つと言えるのではないか。この点を、エコロジーと共同体の二つの観点から検討する。
参考文献:Cornelia Bohn, "Inklusionsindividualität und Exklusionsindividualität" in: Cornelia Bohn, Herbert Willems(Hg.), Sinngeneratoren: Fremd-und Selbstthematisierung in soziologisch-historischer Perspektive, UVK-Verl.-Ges., 2001

第4報告

「バークレー学派都市民族誌」の研究動向――その方法論的革新と認識論的反省

田中 研之輔(法政大学)

 本報告では、カリフォルニア大学バークレー校社会学部の現代都市民族誌に関する研究動向を取り上げる。都市民族誌に関してバークレー校では、(1)現代都市民族誌センター(中心的スタッフは、現在、Michael Burawoy,Martin Sanchez-Jankowski, Nancy Scheper-Hughes,Sandra Smith,Loic Wacquantらである)を設置し、(2)ジャーナル『Ethnography』で民族誌の成果を蓄積してきている。
 もちろん、バークレー社会学部では、Claude Fischer,Neil Fligsten,Samuel Lucas,Michael Houtといったスタッフらが数量的調査に取り組んでいる。そこでここでは、バークレー社会学部の研究動向の中でもとくに、都市民族誌に関する研究蓄積を把握するために、本報告では便宜的に、「バークレー学派都市民族誌」と名づけることにする。その上で、初期シカゴ学派都市民族誌の蓄積からの方法論的革新ならびに、認識論的反省について検討することを本報告の目的としたい。
 初期シカゴ学派都市民族誌とバークレー学派都市民族誌を比較検討した際に導きだせるのは、次の四点である。(1)Single-site approach からへ Multi-sites Approach の同一事例の比較調査。(2)Multi-sites Approach から Multi-cases Approach 複数事例の比較調査(3) Visit から Revisit の継続調査法の確立、(4) Urban EthnographyからReflexive Ethnographyの認識論的展開にまとめることができる。
 報告では、初期シカゴ学派都市民族誌とバークレー学派都市民族誌の方法論的・認識論的差異について、上記四点を中心に詳細に検討していく。

第5報告

イノベーション研究と集団構造
――「カテゴリー・ネット技法」を通して

○堀口 直人(首都大学東京)
高橋 和宏(首都大学東京)
山崎 哲史(首都大学東京)
鈴木 努(首都大学東京)
小林 幹生(首都大学東京)
前原 あゆみ(首都大学東京)

 本報告は、イノベーションの発生には、その背後に集団のネットワーク構造の影響が必須条件として存在していることを指摘する。イノベーションは関与概念が変質していく過程で起こるが、かかる場は、多様な集団の成員どうしの複雑な交絡の場だと考える。とりわけその場として、特定成員を巡る集団間の連携に注目し、Structural Holes(R.S.Burt 2005)に依拠したい。ここでの集団とは組織的な関係や非組織的な関係、それとそれらを結びつける関係の総体として、ネットワーク集団を指す。イノベーションはマクロ〜ミクロの社会事象に適用できるが、『集団の構造とそこでの概念の変質過程』に焦点を当てたい。
 集団内で人間関係が維持されるためには、相互交流での概念のやりとりが避けがたい。しかし、多様な人間関係や所属集団を背景にもつ人々が集団を形成するとき、成員の関与概念は相互に低い透明度で対立もしている。かかる隘路において、集団を維持し問題を解決しようと成員が努めるとき、関与概念を放棄、放置させずに、寧ろ連合化させる変質化の苦闘が始まる。これこそイノベーションの要件である。このような集団においては、異質な情報が流れ込んでくる"Holes"に位置する人間が、そこに位置するからこそ、強迫的に概念連合に突き進んでいく場合がある。
 革新を行為者個人の資質に還元する既存の見方への異議はもとより『場と概念の同時編成の方法』を提起し、新しいイノベーション研究の出発点を構築することが本報告の目的である。分析には「カテゴリー・ネット技法」が適切であり、模擬データを用いてこれを行う。

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