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年次大会
大会報告:第56回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会A)


テーマ部会A 「人口減少時代における地域づくり」  6/22 14:30〜17:30 [1号館1階110教室]

司会者:赤川 学(東京大学)、田渕 六郎(上智大学)
討論者:西山 志保(山梨大学)、原田 謙(実践女子大学)

部会趣旨 西山 志保(山梨大学)
1. 人口減少による社会の構造変化に関する一考察 松谷 明彦(政策研究大学院大学)
2. 産業・福祉分野の構造変化と外国人労働者の動向
――日本社会の将来予測をみすえて
大久保 武(東京農業大学)
3. 都市(まち)のリハビリテーション
――「人口減少時代」における町並み保存運動の意義
堀川 三郎(法政大学)

報告概要 西山 志保(担当理事・山梨大学)
部会趣旨

部会担当: 西山 志保(山梨大学)

 日本は、急速な少子高齢化を背景として、人口減少の時代を迎えるといわれています。これに伴い、さまざまな社会システムの再編が求められるようになっています。そこで今年度は、「人口減少時代の地域づくり」をテーマとして部会を開設します。とりわけ人口減少という問題に対して、少子化対策によって人口増加をめざしたり、大規模開発や企業誘致などの拡大路線をとるのではなく、人口減少を前提とした新しい地域づくり、持続可能なまちづくりをどのように進めていくのか、またそのためにどのような制度設計が可能になるのかを中心テーマとして、さらにこれらの点を領域横断的(福祉・環境等)に検討することを目指します。

 既に今年2月の例会報告では、人口減少時代において公共サービスの切り捨てという「行政の縮小」に対応する地域コミュニティの取り組み、保守・革新という従来の政治構造ではもはや把握できない地方政治における「地方の自立・切り捨て」という、日本の地域社会が直面している諸問題から、大変興味深い論点が提示されました(詳しくは本ニュース「例会報告」をごらんください)。社会構造の大きな転換の中で、地域住民や地域政治が大きく揺れ動いている、まさにその現場から提起された様々な問題に社会学者がどのように関わっていくのか、大きく問われているといえます。

 今大会では、こうした論点を踏まえ、「地域社会の構造変化」に様々な立場からアプローチしている3名の方に登壇していただきます。人口減少を前提とした日本人の働き方、住まい方、過ごし方の変化を予測している松谷明彦氏(政策研究大学院大学)には、人口減少による社会構造変化について論じていただき、外国人労働者の状況や問題を研究している大久保武氏(東京農業大学)には、産業・福祉分野における構造変化と外国人労働者の動向を、また歴史的環境の保存と観光開発の関係性などを調査されている堀川三郎氏(法政大学)には、社会の構造変化におけるコミュニティの再編について、それぞれご報告いただきます。

 いずれの報告においても、「人口減少」と「社会の構造変化」をキーワードにして、具体的な事例・現場から浮かび上がってくる諸問題とその解決可能性について、様々な論点を提示していただく予定です。討論者、フロアを含めて活発な議論を期待したいと思います。

第1報告

人口減少による社会の構造変化に関する一考察

松谷明彦(政策研究大学院大学)

 人口の減少高齢化は、日本の社会システムにとってもまた巨大な環境変化となる。
 それは一つには、これまで社会的統合の主軸として機能してきた社会的価値を縮小ないし消滅させる。労働力率の低下によって一人当り国民所得の増加が望めなくなるからだが、それが増加型価値であっただけに、その影響するところは大きい。
 二つには、福祉国家たることも後退ないし放棄せざるを得ない。そのコストを負担し得る者の人口比率が低下するからだが、その比率つまりは労働力率の低下は基本的には寿命の伸長に由来しているのであるから、潜在労働力の活性化や輸入労働力といった方策は中長期的には意味を持たない。
 三つには、近代社会の重要な軸の一つである都市の存立を危うくする。人口減少下ではストックは常に過大化するが、その全てが人工構造物たる都市にあっては、不可避かつ基盤的な問題としてそれに直面せざるを得ない。
 四つには、地域間の人口動態も変化する可能性が高い。今後は大都市ほど高齢化が著しく、地方分権の進捗によって地域間で税率が異なることとなれば、税率は大都市ほど高くならざるを得ない。戦後一貫して進行した人口の極集中は転機を迎えることになる。
 人口の減少高齢化は現在の社会システムを持続不可能なものとする。いかなる社会システムであることが、人口減少下の日本人により多くの幸福をもたらすことになるのか。社会科学もまた存在意義を問われることなる。

第2報告

産業・福祉分野の構造変化と外国人労働者の動向
――日本社会の将来予測をみすえて

大久保 武(東京農業大学)

 現時、日本社会の「少子高齢化」によって生じた人口減少は、労働力人口の減退を招き、経済的活力の衰退につながると懸念されている。
 この間、財界・政府筋からは「人口減少社会」にむかう日本の労働力を確保する理由から、外国人労働力を積極的に活用すべきとの提言・議論がたかまっている。外国人労働力の導入拡大は、人口減少がもたらす悪影響を緩和する可能性をもつと期待されているからだ。確かに、人口減少時代に地域貢献する外国人労働者の可能性という問題提起は、魅力的だ。人口減少は、地方自治体にとってコミュニティの消滅につながりかねない。外国人の存在が、自治体やコミュニティの窮状を救う打開策となるかもしれないからだ。
 一方、日本の外国人労働者が確実に増えていることもまた、事実である。その数、1995年の62万人強から2006年の93万人強と急増し、いまや日本社会に必要不可欠な存在となっている。問題は、彼らの多くが無権利状態や劣悪な労働環境に放置されていることだ。
根本問題として、そもそも「人口減少社会」は忌避されるべきものだろうか。ややもすれば、「少子高齢化」という言説・話題のみが独り歩きし、問題視されてきた傾向は否めない。その意味で、出生率や高齢化率、人口水準や人口構造の歪みの是正という観点からの、外国人労働力の導入政策は不確実性と不安定性をともない、詰めるべき議論の余地を多分に残しているといえよう。
 本報告は、日本の将来予測を念頭に、産業・福祉・医療の分野の構造的変化から外国人労働者の動向を論じ、問題の一端に迫りたいと考える。

第3報告

都市(まち)のリハビリテーション
――「人口減少時代」における町並み保存運動の意義

堀川 三郎(法政大学社会学部)

 今回のテーマ部会を主導する問いが「人口減少を前提とした"まちづくり"とはいかなるものか」であるならば、その問いはすでに1960年代に、町並み保存運動というかたちで問われていたように思う。半世紀も前、人口減少/過疎化に喘ぐ都市/地域社会が生き残りをかけて「町並み保存」というコンセプトを掲げて行った実践は、「今ある古いものを残すことが開発だ」という「保存的開発」であった。別言すれば、それは「"すでにあるもの"だけで何ができるのか」という問いに徹底的にこだわり、「スクラップアンドビルド型都市再開発」ではなく「歴史的ストックのリハビリテーション型まちづくり」を、と明快に主張していた。人口減少局面に入った今、その主張は期せずして時代の要請と符合しているようにも思われる。そこで本報告は、私たちが今、向き合わねばならぬ「人口減少を前提とした"まちづくり"とはいかなるものか」という問いを考えるための一素材として、すでに行われた実践から学ぶという方法を採ろうと思う。長年、「歴史的環境保存の社会学」をテーマとしてきた報告者の調査事例をもとに、保存運動が提起した論点と成果とは何であったのか、そこから私たちは何を学ぶことができるのか、考えてみたい。誤解を恐れず に言えば、保存とは変化することである。衰退という変化に向き合ってきた保存運動は、「保存」というその名称とは裏腹に、「いかにして"変化"を住民主導でコントロールするか」という政治的課題を闘っていたことが明らかにされるだろう。

報告概要

西山 志保(担当理事・山梨大学)

 急速な少子高齢化を背景に、人口減少の時代を迎えた地域社会において、どのような社会システムの再編、制度設計が求められているのか。本部会では、こうした問題意識に基づき、例会、シンポジウムを行い、人口減少に伴う問題を領域横断的に検討することを目指してきた。赤川学氏(東京大学)、田渕六郎氏(上智大学)の司会によって3つの報告が行われた。

 松谷明彦氏(政策研究大学院大学)の報告「人口減少による社会の構造変化による一考察」では、具体的データーから人口減少の未来予測を行う中で、既存の制度やシステムでは対応できない領域(税金や福祉、都市インフラ整備など)に発生する様々な社会問題が指摘された。これらの解決のためには、中央―地方の統合的都市圏域で問題をとらえ、経済的価値以外の統合様式を考えていかなくてはならないなどの論点が示された。

 続く、大久保武氏(東京農業大学)の報告「産業・福祉分野の構造変化と外国人労働者の動向」では、産業・福祉・医療の分野の構造変化に伴う問題に対応する主体として外国人労働者を取り上げ、それをとりまく政治的状況、外国人労働力の積極的導入に伴う陥穽について指摘があった。そして人口減少、少子高齢化に対しては、エイジフリーな労働力、雇用制度の創出が鍵になるのではないかという提案があった。

 堀川三郎氏(法政大学)の報告「都市(まち)のリハビリテーション」では、すでに1960年から取り組まれていた人口減少を前提とした歴史的町並み保存の事例として小樽運河保存運動が取り上げられ、「保存とは変化すること」であり、その変化を住民主導でコントロールすることの重要性が指摘された。そして時代状況の変化に伴い、町並みの保存から「都市を創る思想と制度の再構築」への転回が必要になっているとの問題提起があった。

 討論者である原田謙氏(実践女子大学)及び西山を含め、人口減少社会において新しい制度設計やガバナンスを考える際に、新しい価値や思想の構築をいかに構築していくのか、それを実践的な問題解決にどのようにむすびつけていくのか、が大きな論点になったといえる。時間が足りなくなるほどの熱のこもった報告と質疑応答が展開され、「人口減少」のテーマは次年度にも引き継がれることになっている。

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