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年次大会
大会報告:第57回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第6部会)


第1報告

中国の「中産階層」とそのメディア・イメージ――グローバルな視点からの検討

周 倩(東京大学)

 中国が改革・開放を掲げてから、今年ですでに30年が経過した。この30年間で、グローバル経済へ参入した中国では、社会の各側面において著しい変化が起こっている。改革・開放以降に現れた新興階層の社会地位に対して、中国政府が2001年に肯定的な態度を示して以来、「中産階層」に関する様々なイメージが中国のメディアを賑わすようになってきた。これら「中産階層」のイメージの多くは、広範なメディア・テクスト、たとえば映画、テレビドラマ、広告、書籍など、多岐に渡る外来のテクストの影響下にある。 本報告では、この現象に焦点を当て、グローバルな視点から、中国のメディアがなぜ外来のテクストを多用しているのかについて、中国の社会構造の変動とメディア変化という双方の点から考察する。また、中国のメディアがいかに外来のテクストを取捨選択し、中国の「中産階層」を構築しているのかについて、「間テクスト性」と「汎テクスト性」概念を用い、新聞、雑誌、テレビドラマ、広告における言説分析を行う。そこでの分析結果を、それぞれのメディアの送り手に対するインタビューと照らし合わせ、さらなる検討を加える。 本報告は、この分析を通して、グローバル時代における中国「中産階層」のメディア・イメージの構築過程を明らかにするとともに、中国の「中産階層」とそのメディア・イメージに見られるトランスナショナルな性格とその形成要因を明らかにすることを目的とする。

第2報告

日中高学歴大生と母親間の緊密的親子関係――親子間の親密性と母親が抱く子どもへの期待感

吉田 かおり(早稲田大学)

 本研究の目的は、日中における高学歴大学生とその母親の緊密的親子関係を、二者間の親密性と母親が抱く子どもへの期待感に着目することで明らかにすることである。子どもとその親のデータを合わせ持つことは親子の関係性を議論する上で非常に重要であり、また貴重なデータであることが本研究の特徴の一つとして挙げられる。本研究では、2006年に行なわれた早稲田大学(日本)と復旦大学(中国)に通う大学生とその両親を対象とした親子関係に関する質問票調査を用いる。その結果、中国の親子関係は日本と比較すると遥かに緊密的であることが明らかになった。特に母親と娘の関係が親密的であり、親子関係を「友達のような関係」と回答している割合が中国の母娘間で非常に高く示されている。また、中国の母親は子どもに学歴と仕事、両方での成功を望み、また娘に対しては結婚相手によっての経済的安定も求めている。それに対し中国の子どもも「親の望みや期待に答える事が人生の目標の一つである」と回答している割合が日本と比較すると遥かに高いことが分かった。 本研究から市場経済の発展と共に中国社会で浸透する業績主義、学歴主義が、中国親子の価値観にも反映されていることが明らかになった。そしてこのような影響を受け中国の親子、特に母娘間の関係が変化しているのではないかと考察する。現代社会の緊密的親子関係を考察することは、親子間の学歴の一致と再生産による階層の固定化に影響をもたらす重要な議論であり、また日中だけでなく東アジアという広い領域で存在する共通の親子関係を考察する上で看過できない要因であると考える。

第3報告

トルコの人びとの意識変化に関する政治社会学的一考察 ――イスタンブルにおける選挙結果に着目して

滝本 順子(昭和大学・カリタス女子短期大学)

 これまで報告者はトルコの人びとの意識変化を選挙結果から分析してきた。1980年代までは、政教分離政策の下、近代的国民国家の建設・統合を行うケマリスト・ナショナリズムを維持しようとする中道政党が支持されてきた。90年代には、ケマリスト・ナショナリズムに変わる国家統合のあり方を主張する政党が台頭し、支持政党の多様化・分散化がみられた。2000年代になると、親イスラーム政党の流れを汲みながら、保守的民主主義政党を自認し、プラグマティックな政策を採るようになった公正発展党(AKP)に人びとの支持が集まるようになった。これは、建国以来のケマリスト・ナショナリズムを維持しつつ、自由の領域を宗教にまで拡大することを人びとが願うようになった意識変化の現われだと考えられる。すなわち、東西冷戦が終結した90年代以降のグローバル化の進展にともなう世界的なナショナリズムの再構築の流れの一環だといえよう。 本報告では、トルコで最も都市化・近代化が進んだ、社会的・経済的中心都市イスタンブルでどのような意識変化がみられているのか、選挙結果を基に分析する。特に、AKPが支持基盤としてきた「新都市貧困層」が多く住む地区と、それ以外の地区の違いに注目して分析を行う。これにより、ナショナリズムの再構築の背景にある問題の一端を明らかにしたい。

第4報告

結婚移民の定住過程における移民ネットワークとジェンダー −−インドシナ難民の配偶者呼び寄せの事例から

長谷部 美佳(東京都立大学)

 1990年代後半以降、インドシナ難民の配偶者として日本に入国する、女性の結婚移民が急増している。彼女たちの来日後の定住過程における移民ネットワークの役割を、ジェンダーの視点から分析することが本報告の目的である。  結婚を契機に日本に来日する女性たちは、親族や知人のつてを頼る、いわゆる「相互扶助型」の移民ネットワークによって来日する。親族によって構成されている移民ネットワークは、従来定住過程での障害を低減するものだと認識されている。特に居住空間の提供や、雇用の紹介など、定住初期段階の困難を軽減する。定住が進展し、場合によっては起業の際の資本も融通される。しかし女性たちの多くが、この移民ネットワークの提供するこうした社会的資本から必ずしも利益を受けられない。それはなぜなのか。  本報告では、その要因を@再生産労働へのサポートの限界、A夫方親族によるネットワーク構成、の2点から考察し直す。移民ネットワークが子育てや介護など、いわゆる女性にその役割が振られている部分へのサポートの提供に限界があること、妻が移動に利用する移民ネットワークは、妻にとっては夫方親族によって構成されているために、必ずしもそのネットワークから十分な利益を受けられない場合があること、などが定住の困難の要因となっている可能性を提示する。そのうえで女性たちが再生産労働への負担を軽減する際に、トランスナショナルなネットワークによって解消する事例を提示する。

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