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年次大会
大会報告:第58回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第2部会)


第2部会:移民(1)

司会:山本 薫子(首都大学東京)
1. アルゼンチンから日本へのデカセギを考える――(1)求職をめぐる人的資本と社会関係資本の分析 ○樋口 直人(徳島大学)・稲葉 奈々子(茨城大学)
2. アルゼンチンから日本へのデカセギを考える--(2)日系アルゼンチン人の移住と世帯戦略 ○稲葉 奈々子(茨城大学)・樋口 直人(徳島大学)
3. 欧州と日本の極右の収斂?--日本版極右としての石原慎太郎の支持基盤をめぐって[PP] ○松谷 満(桐蔭横浜大学)・樋口 直人(徳島大学)
4. 高度外国人人材受け入れ政策の現状と課題--留学後日本国内で就職した元留学生の就労経験と意識調査[PP] 松下 奈美子(一橋大学)
第1報告

アルゼンチンから日本へのデカセギを考える――(1)求職をめぐる人的資本と社会関係資本の分析

○樋口 直人(徳島大学)・稲葉 奈々子(茨城大学)

滞日日系南米人の労働市場に関する研究は、製造業や人材派遣業といった雇用者側に対する調査にもとづくものが圧倒的に多かった。個々の労働者に対する調査をもとにした研究も、賃金や職種を被説明変数としたものにほぼ限られている。本報告では、労働市場と移民の人的資本・社会関係資本をつなぐ接点としての求職行動に注目する。具体的には、2005〜2009年に日本とアルゼンチンで行った聞き取り調査にもとづき、アルゼンチンからデカセギに出た労働者の離職理由・求職方法を分析していく。デカセギ労働者の大半は、先行研究が明らかにしてきたように人材派遣業が介在する高度にセグメント化されたデカセギ労働市場の範囲内で求職する。少数ではあるが、正社員・直接雇用・自営業といった形で、デカセギ労働市場から抜け出た者も存在し、そうした人たちの分析は社会移動の条件を解明するに当たって決定的な重要性を持つ。そうした問題意識と構造把握を前提としつつ、報告では以下の問いに答えていく。(1)セグメント化されたデカセギ労働市場内での離職・求職は、どのようなメカニズムで作動しているのか。移動に際して、人的資本と社会関係資本はどのような意味を持つのか。(2)デカセギ労働市場を脱出するに際に、人的資本と社会関係資本に関してどのような条件が必要なのか。(3)滞日経験の蓄積は、労働者の社会関係資本の組み換えをもたらすのか。すなわち、渡日前の社会関係資本と渡日後の社会関係資本をどのように組み合わせて活用するのか。

第2報告

アルゼンチンから日本へのデカセギを考える――(2)日系アルゼンチン人の移住と世帯戦略

○稲葉 奈々子(茨城大学)・樋口 直人(徳島大学)

移住はマクロな経済・政治状況に規定されると同時に、個人の選択でもある。個人の移住を世帯というメゾ・レベルの規定要因から考察する必要は、すでに先行研究が指摘してきた。1980年代末以降に日本に働きにきたアジア系の外国人の多くは、単身の出稼ぎにより出身国の家族に送金する場合がほとんどだったが、滞日日系南米人は、アジア系の外国人との在留資格の相違から、家族でのデカセギが可能である点が特徴である。そのため単身デカセギと家族デカセギの差異の比較が可能な集団である。

本報告では、2005〜2009年に日本とアルゼンチンで行った聞き取り調査にもとづき、アルゼンチンからデカセギに出た労働者の(1)日本出稼ぎの決定、(2)職の選択、(3)帰国する、しないの決定を規定する要因を、家族という単位から分析する。

滞在の過程で、日本から出身国の家族に還流していく「お金」の量や流れる方向が変わっていくこともある。その変化は移住者にとっての「家族」との関係の変化でもあり、そこに分析の焦点をあてることで、政治・経済状況が移住過程を媒介にして個人の行為に及ぼす影響を明らかにすることができる。

第3報告

欧州と日本の極右の収斂?――日本版極右としての石原慎太郎の支持基盤をめぐって[PP]

○松谷 満(桐蔭横浜大学)・樋口 直人(徳島大学)

極右というと日本では西欧の現象と捉えられてきたが、日本にとってそれはもはや対岸の火事とはいえない。すなわち、近年の日本では西欧の極右と収斂するような現象が生じつつあるのではないか。本報告の目的は、「旧来型の右翼とは異なる西欧型の極右が出現する地政学的条件」と「それに符合して形成されつつある、西欧と類似した極右支持の論理」の分析を通じて、上記の問いに答えることにある。前者についてはナショナリズム・反共主義・排外主義の重なりが変化することに注目する。すなわち、冷戦期には反共とナショナリズムの重なりによりソ連が敵手となったのに対し、冷戦終焉以降には反共イデオロギーが有効性を失い、それに対してナショナリズムと排外主義が重なるようになった。その結果、旧来型の右翼は明確な目標をもてなくなり、在日外国人を敵手とする排外主義的な右翼運動が発生している。極右支持の論理の分析に際しては、排外主義的な極右政治家として石原慎太郎を取り上げ、彼に対する支持について以下の3つの仮説を立てる。(1)石原支持の属性的基盤は西欧のそれと同様に、若年、ブルーカラー・自営、低学歴層、男性である。(2)旧来の極右とは異なり、石原に対する支持はゼノフォビアと有意に関連している。(3)石原支持とゼノフォビアの関連は、新しい争点を受容しやすい若年層において強い。2007年のサーベイデータを分析した結果、(1)は部分的にしか支持されないが(2)(3)は支持された。西欧と日本の収斂という命題を確認しつつ、それが政治社会学的に持つ意味については当日詳述したい。

第4報告

高度外国人人材受け入れ政策の現状と課題――留学後日本国内で就職した元留学生の就労経験と意識調査[PP]

松下 奈美子(一橋大学)

本報告では、日本の大学・大学院を卒業した外国人労働者が来日することを選択した動機や日本での就労満足度について実施したアンケート調査をもとに、彼らがどのような意識で日本を選択し、就労しているのかを報告する。

 日本はすでに本格的な少子高齢化時代に突入している。日本人の生産年齢人口は今後減少の一途をたどることはかなり以前から指摘され、日本政府は高度人材あるいは、特定職種に限定した形で、外国人労働者の受け入れを進めている。しかし、高度人材の受け入れに関して課題は多く、政策的に機能しているとは言い難い。また、現在留学生の受け入れ政策も推進されているが、留学生に関しても卒業後日本で就職できずに帰国を余儀なくされる留学生が多く、教育と就職が有機的に連携していないのではないかといった問題点も指摘されている。

 本報告は、日本の大学・大学院を卒業した後、現在日本国内で就労している外国人に対して実施した就学経験および、現在の就労に関する意識調査の報告である。彼らの日本での就学、就労に対する意識、評価、満足度などから、外国人にとってどのような要因が日本で働く動機となっているのか、彼らのキャリアにとって日本で働くということはどのような位置づけなのか、といったことを探り、今後の高度外国人人材受け入れ政策への課題を考察する。