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年次大会
大会報告:第58回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第4部会)


第1報告

生活文化の活用にもとづいた観光開発型地域振興に関する調査研究――長野県塩尻市奈良井宿と小布施町市街地における町並み修景の事例から[PP]

小山 裕(東京大学)

 観光開発を利用した地域振興には、その地域に残る自然の活用にもとづくものから、地域にとっての外部資本との提携によるリゾート開発に至るまで、いくつかの形式が存在する。その中でも本報告が着目するのは、生活の中の文化、とりわけ地域の伝統的な町並みの活用にもとづいた地域振興である。これは、生活文化が元来、住民の生活に深く根ざしたものであるという意味で、雄大な自然や外部資本との提携可能性を持たない町村部でも展開可能な地域振興の形式である。

 地域外からの人々の来訪を前提とする観光開発型の地域振興の継続のためには、対外的な広報だけでなく、観光資源の開発ないし保全が必要である。特に後者の点は、リゾート施設などの物的な観光資源にもとづく地域振興と地域の生活文化の活用にもとづく地域振興との違いを明瞭にする。すなわち、文化が意味的な存在であるという点で、文化を活用した観光開発型の地域振興は、リゾート開発や自然の保全といった物的な資源の整備には還元しえない、地域住民自身による生活文化の対象化とその意味的な継承を不可欠とする。

 本報告では、生活文化を活用した地域振興の継続のためのいくつかの条件を析出するために、長野県塩尻市奈良井宿と小布施町市街地を事例に、(1)生活文化の対象化、(2)生活文化と観光地化の間の緊張関係、(3)生活文化の物的基盤の維持のための財源、の3点について分析を行う。

第2報告

社会の地形と社会の地層――区史にみる日本橋の表象作用

楠田 恵美(筑波大学)

1878(明治11)年の郡区町村編制法の施行において、東京府内は新たに15区6郡に分けられるとともに、各郡区には名称が与えられた。この編制は微調整を加えながら、戦後から今日まで続く東京都23区(施行当初は22区)制の施行(1947)まで実施された。

現行の東京都の23区制は、東京が東京であることを制度的・想像的に支える一つの条件であり、この区分が東京の多層的に織り成される社会の地形の一つの層を占めているといえる。

本報告では、こうして広がる<社会の地形>(若林幹夫)に横たわるモニュメントや、残されたドキュメントから、<社会の地層>を露呈させることを試みる。

具体的には、1878年に成立し1947年に解消した日本橋区、1911年に完成した記念碑と都市建造物の両方を兼ね備える橋である日本橋、そしてその橋の竣工後すぐに編纂に着手し1916年に完成した『日本橋区史』、さらには不定型な街衢としての日本橋(界隈)の関係を明らかにする。その上で、叙述と図像の相補的関係から成立つ区史から、そのなかで展開される日本橋の表象作用を読み解く。

この試みは、現在の都市の「情報環境としての過去」に対する理解を超えて、その「不在の過去」へ接近するための足掛りとなるだろう。

第3報告

市民活動の継続要因――1970年代から活動を続ける市民活動団体を対象として[PP]

松元 一明(法政大学)

本報告の目的は、NPO法成立以前における市民活動の実態を把握することで、市民活動の概念(社会運動との対比)をめぐる論議と、市民活動の制度化(継続性の担保)への批判(NPO法成立以降の批判性の低下、体制内化)の課題に応えることである。

これまでに報告者は、量的なデータを通じて「新しい社会運動」と市民活動、さらにNPOなどの現在の市民セクターとの相関性について論じてきた。そのことに加え、市民活動が「一般化」した1970年代から、NPO法成立前までの市民活動を、社会的環境とあわせ動態的に捉えることによって、前述した課題に応えられると考えた。

具体的には、1970年代以降90年代前半までの、環境および地域/福祉分野をイシューとする複数の市民活動団体の活動記録(出版物)を対象に、「質的データ分析法」を用い、思想、リーダー、担い手、ボランティア、行為レパートリー、事業モデル、メディア、行政との関係性などのコードに分けて抽出、分析をおこなった。その分析をもとに従来の社会運動との比較や、環境系団体と地域/福祉系団体の相違を検証し、市民活動の特性を把握した。

以上の結果から市民活動には、偶然性によるイシューの現前、非イデオロギー性、行政との合理的な関係性などの共通する要素と、イシューと思想との相関性などが確認でき、そのことから活動の継続要因を捉えることができた。このように、生成期の市民活動の実態を明らかにすることにより、現在の市民セクターに内在する課題も浮き彫りにし、その解決に寄与するものと考える。

第4報告

まちづくり条例の可能性と課題[PP]

山岸 達矢(法政大学)

景観法の成立に象徴されるように,身近な空間を連続性のある都市景観として捉える意識が高まっている。しかし,都市景観紛争は依然として頻発している。この要因として、景観保全の活動が、景観が破壊されるという危機感を背景に急速に活発になることが挙げられる。景観保全活動は、一方で活動が活発になるためには、個々人の多元的な場所性を、地域の意志として統合することが必要不可欠となる。しかし、他方で建築計画が存在しない段階に、ひとつの場所性を確立することが困難であるため、建築計画が明示されてから活発になる傾向がある。

このような現状がある中で、地方分権化に伴い、自治に基づく制度過程が注目されている。この制度過程は、各種制度を時系列に望ましい順序にして位置づけると、(1)地域の場所について平時から協議するまちづくり協議会の設置→(2)地区計画の策定→(3)まちづくり条例に基づく土地利用の初期段階からの市民参加手続き→(3)都市計画法に基づく手続きとなる。これらの各制度過程の中で、特に注目されるのが、(3)のまちづくり条例に基づく市民参加手続きである。なぜならば、建築計画に基づき空間制御のあり方を協議する機会であるため、建築計画のない段階で地域の意志を形成することが困難であることを鑑みると、その有効性が認められるためである。つまり、土地利用の初期段階に、市民参加手続きが位置づけられたことは、自治に基づく景観保全を自動的に担保する制度ではないものの、その可能性を拡大したといえるのである。まちづくり条例によって、自治に基づく制度過程が、どの程度実質的に担保されたのであろうか。

そこで、本報告では、まちづくり条例運用実態について、国分寺市や逗子等の事例分析を通じて、個々人によって異なる場所性を統合する社会過程との適応度合いについて把握し、その課題について考察する。

第5報告

地方都市における乗合タクシー事業の展開と課題――公共性の再編と繰り延べられた生活圏の危機[PP]

齊藤 康則(山口学芸大学)

少子高齢化と人口減少の進行する地方都市では、公共交通の廃止が加速化している。鉄道事業法と道路運送法の改正によって、交通事業者の廃止決定が自由化されたからである。その結果、ローカルな公共交通は「地方鉄道/路線バス→コミュニティバス→乗合タクシー/ボランティア輸送」というようにハコを縮小させてきた【公的領域(需給調整規制という法・制度)および私的領域(事業者の内部補助)の縮減】。

本報告が取りあげる日立市坂下地区も、路線バスと地方鉄道の相継ぐ廃止によって公共交通が空白化した地域である。そこで、高齢世代が「買い物・通院の足」を奪われる「生活圏の危機」を地域課題として共有し、沿線世帯の費用負担に関する合意形成を踏まえて、乗合タクシー「みなみ号」を協働創出するに至った【共的領域(地域住民の責任・費用分担)の余儀なき拡大】。

だが、このようなシステムがそのまま「最終解」となるわけではない。地域負担をめぐる住民意思は"まだら模様"を呈する一方、運転免許を有する高齢世代も数多く、「みなみ号」利用者数は伸び悩んでいるからである。非制度的・非市場的であるがゆえに非安定的・非確実的なシステムを、どのように持続可能なものとしていくか――この点が地域社会のガバナンスとして問われることになるだろう。