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年次大会
:第61回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会A)


テーマ部会A 「リスク・個人化・社会不安(社会運動・社会政策)U)」〔本館2階 21番教室〕

司会者:武川 正吾(東京大学)・町村 敬志(一橋大学)
討論者:舩橋 晴俊(法政大学)・原田 利恵(国立水俣病総合研究センター)

部会要旨 山本 薫子
1. 「分断を越える協働」はいかにして可能なのか−「安全・安心の柏産柏消」円卓会議の経験から 五十嵐 泰正(筑波大学)
2. 〈社会的なもの〉の複数の亀裂とリスクの多元性 仁平 典宏(法政大学)
3. 原発避難者とは誰か−連帯の困難と分断をめぐる問題 山本 薫子(首都大学東京)
部会要旨

 今年度のテーマ部会Aでは昨年度に引き続き、「リスク・個人化・社会不安(社会運動・社会政策)」を再びテーマとして現代社会における個別具体的な社会問題およびそれに対する社会運動・社会政策に注目した議論、検討を行ってきました。昨年度の大会シンポジウムでは、いわゆる「弱者(ヴァルネラブルな存在)」のさらなる「弱者」化ともいえる状況について震災•福島第一原発事故の以前・以後という時間軸でとらえたときに見えてくる今日の社会問題・社会運動(抗い)の特質や課題、それらと「リスク・個人化・社会不安」との関連の有り様に関する議論、検討を試みました。大震災、原発事故から2年以上が経過した今日、改めてリスク認知をめぐる変化とその背景を問い、社会運動における連帯の可能性(およびその困難)について議論を深めていくために、東日本大震災[後]の時間軸を念頭に置き、「リスク・個人化・社会不安」に関わる政策的課題および社会運動の取り組みについて検討を行いました。
 第一報告では五十嵐泰正さん(筑波大学)から「分断を超える協働」は可能なのか―「安全・安心の柏産柏消」円卓会議の事例から」と題して、原発事故後に「ホットスポット」となり風評被害に直面した千葉県柏市での取り組みについて「円卓会議事務局長」としての立場から報告がなされました。報告では、円卓会議立ち上げと独自の測定プログラム構築に至るまでの経緯に関する説明の後、円卓会議が選択したマーケティングという戦略も含め、不確実なリスクを前に社会の一般的信頼が毀損した状況下で利害の異なる人々の協働によって分断を越えるひとつのビジョンを示そうとした社会運動について実践的な観点も交えながら検討がなされました。
 第二報告では、仁平典宏会員(法政大学)から「3.11の諸問題における確率論的リスク評価の位置」と題して、ポスト311におけ「津波被害からの復興」、「原発再稼働問題」、「放射性物質拡散問題」といった諸課題についてどのようなリスク評価が可能であるか、確率論の観点から検討がなされました。第三報告では、山本薫子会員(首都大学東京)からは「原発避難者とは誰か−連帯の困難と分断をめぐる問題」と題して、原発避難をめぐる社会的分断の状況について、避難者の間で、避難者と支援者の間で、避難者と避難先地域との間で生じている事象などを挙げながら説明がなされ、さらに福島県富岡町からの避難者による社会運動の試みとそこでの課題について検討がなされました。
 以上の報告に対して、討論者の舩橋晴俊会員(法政大学)、原田利恵さん(元国立水俣病総合研究センター)からそれぞれコメントがなされました。舩橋会員からは、今日生じているポスト311の状況は社会全体の取り組み体制の失敗と見なされるがそれに対してどのような取り組みを、どのような形態でフィードバックしていけばよいか、また「社会的なもの」という枠組みで考える際の公論形成の在り方とそこでの合理的および倫理的規範についてどのように考えるか、といった指摘が3報告全体に対してなされました。また、原田さんからは今日の水俣市の現実と照らし合わせながら地域の自主性をいかに担保するかという問題提起があった後、風評被害の定義をどう考えるか、などの指摘がなされました。
 全体討論では、舩橋会員から福島の今後を念頭に置きながら、倫理的政策研究とそれに基づいた費用便益分析の相対化の可能性について言及がなされ、線量基準については社会的合意形成、社会契約として位置づけることに関する提言がなされました。そして、「現在の利得を最大化すること」と「原則的にしてはいけないこと」を区別した対処の必要性が述べられ、前者に対しては合理性基準に基づいて、後者に対して倫理的基準に基づいた検討が必要であり、さらに両者の接合についても模索していくべき、との指摘がなされました。
 計4カ年にわたって社会運動・社会政策の観点から「リスク・個人化・社会不安」に関する議論を行ってきましたが、途中、東日本大震災、福島第一原発事故が発生し、そのことによってテーマ部会での議論もより実践的、具体的な事例に向き合うことになりました。特に、今期(2012年-2013年)は震災後2年という時間軸の中で一定の危機感を共有しながら、しかし現実社会の課題に専門知をいかに活かしていくことができるか、という参加者の熱意のもと、活発な討論がなされてきました。多分野の社会学者の集う場である関東社会学会であるからこそ、その特徴を活かしてこのような幅広い議論を重ねることが可能であったと考えます。そして、研究例会、シンポジウムにご参加いただいた方々、報告者・討論者・研究委員等の皆様のご尽力によってそうした場をつくることができました。改めて感謝申し上げます。

(文責:山本 薫子)

プログラムはこちら

第1報告

「分断を越える協働」はいかにして可能なのか−「安全・安心の柏産柏消」円卓会議の経験から

第2報告

〈社会的なもの〉の複数の亀裂とリスクの多元性

第3報告

原発避難者とは誰か−連帯の困難と分断をめぐる問題

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