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研究例会
研究例会報告: 1997年度
1997年度 第1回

開催日程

テーマ: 質的調査法
日 程: 1997年12月6日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 5号館 第1・2会議室
報 告: ●古賀 正義(宮城教育大学) 「エスノグラフィーの可能性─「対話的」「実践的」「多声的」などが意味するものをめぐって─」
●後藤 範章(日本大学) 「社会的リアリティの感応力と想像力─集合的写真観察法の試み─」
司 会: 有末 賢(慶応義塾大学)
1997年度 第2回

開催日程

テーマ: ジェンダーとエスニシティ
日 程: 1998年1月31日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 5号館 第1・2会議室
報 告: ●コガ・エウニセ(日本学術振興会特別研究員・立教大学) 「国際労働移動における家族及び女性の実態−来日日系ブラジル人のケースを中心に−」
●嘉本 伊都子(日本文化研究センター講師) 「「明治期」「国際結婚」とネーション・ビルディング」
●劉 夏如(東京大学大学院総合文化研究科) 「台湾における近代国家と家族(1895−1945)」
司 会: 直井 道子(東京学芸大学)
1997年度 第3回

開催日程

テーマ: 情報とネットワーク
日 程: 1998年3月7日日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 池袋キャンパス 5302教室 5号館3階
報 告: ●小豆川 裕子(ニッセイ基礎研究所) 「コンピュータネットワークを通じた企業組織と個人の新しい関係」
●金澤 朋広(駒澤大学) 「医療ネットワークにおける新しい患者交流の可能性」
司 会: 園部 雅久(上智大学)

研究例会報告

担当:園部 雅久(上智大学)

 「情報とネットワーク部会」の研究例会は、1998年3月7日(土)に立教大学で開催された。当日の参加者は20名ほどであったが、2つの興味深い報告とそれを受けての活発な議論が展開された。

 最初の報告は、小豆川裕子氏(ニッセイ基礎研究所副主任研究員)で、報告タイトルは「コンピュータネットワークを通じた企業組織と個人の新しい関係」であった。氏は、企業組織内での情報インフラを持った個人の行動様式に焦点を当てた日米比較調査(日米情報ネットワーク調査)の結果から、個人の情報ハンドリング力の点で、日本人は、具体的な情報源にアクセスし、必要な情報を取捨選択するなどの情報入手には比較的自信を持っているが、ツールやメディアを利用しての情報発信に対しては自己評価が低いこと、また、インフォメションテクノロジーの進展により、ミドルマネジメントの必要性が低下するのではなく、その役割に変化が生じていることを指摘した。さらに、スライドを用いて、アメリカにおけるサテライトオフィスやホームオフィスなどの新しいワークスタイルの現状を紹介された。第2報告は、金沢朋広氏(駒沢大学大学院生)の「医療ネットワークにおける新しい患者交流の可能性」であった。氏は、パソコン通信を用いて、精神障害者の新しい交流の場としてのフォーラムの開設・運営に携わっており、その経験から、医療ネットワークのメリットとデメリット、ボランティアとしてのスタッフの限界などに触れられた。

 討論の中では、情報リテラシーと階層格差の問題、企業内での情報ハンドリング力と市民活動との関連、国際比較調査の方法的問題、メディア・コミュニティの概念の曖昧さ、メディア・サークルと専門機関との連携の問題など、多くの課題が提起された。時間の制約もあり、すべての問題を十分に議論しつくすことはできなっかたが、コンピュータ・ネットワークと社会の関係性をめぐって、実証的に議論ができたことは部会のスタートとして有意義であったと思う。

1997年度 第4回

開催日程

テーマ: 正義・公共性・市民権
日 程: 1998年4月11日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 池袋キャンパス
報 告: ●久保山 亮 (東京大学大学院総合文化研究科)  「福祉国家ドイツと移民問題−労働市場を中心に」
●上村 泰裕 (東京大学大学院人文社会系研究科) 「アジアNIEsの福祉国家形成」
司 会: 中島 康予 (中央大学)

研究例会報告

担当:中島 康予 (中央大学)

 「正義・公共性・市民権」部会の研究例会が,1998年4月11日(土),立教大学で開催された。この部会は,福祉国家という媒介変数の導入により,正義・公共性・市民権をめぐる規範的議論と,現実の政策的問題との架橋を試みようとしている。今回の例会は,その前提となる課題として「グローバル化と福祉国家」を取り上げ,久保山亮氏(東京大学大学院総合文化研究科)の報告「福祉国家ドイツと移民問題−労働市場を中心に」,上村泰裕氏(東京大学大学院人文社会系研究科)の報告「アジアNIEsの福祉国家形成」,そして,下平好博氏(明星大学)によるコメントを受け,出席者による活発な議論が行われた。

 久保山氏は,従来,移民問題が論じられるとき,文化・差別・エスニシティ・国籍といった「上部構造」=国民国家体制に関心が集中してきたが,雇用や経済的地位など,移民問題の「下部構造」=福祉国家体制に注目しなければ,各ホスト国社会の体制や構造の相違が見えにくくなると指摘する。このような問題意識に基づき,氏は,移民の社会権を現実化させる福祉国家システムの違い,労働市場を中心とした移民の統合/生存戦略の分岐に基づき,福祉国家を類型化する。そして,80年代末までのドイツは,移民の福祉国家へのメンバーシップなき統合を可能にしたが,グローバル化の進行は,こうした統合の変容,ドイツ型福祉国家の亀裂と揺れを引き起こしているという。

 上村氏は,新興工業国の社会保障制度研究は,比較福祉国家研究の新しい課題提示と,先進福祉国家の「危機」の性格の再検討に資すると述べる。氏は,NIEsの年金制度を,工業化のタイプ([1]先発国か,後発国か×[2]国民経済か都市経済か)とコーポラティズムのバリエーションを組み合わせることによって類型化する。そして,今後の進路を規定する分割線は,国民経済と都市経済のあいだに引かれるとする。

 討論者の下平氏は,福祉国家の形成・発展・崩壊が,国際化と連動している点,国境を越えた資本・労働の移動が福祉国家に対して与えるインパクトを,ストック・フローの両面から問わなければならないことを強調された上で,お2人の報告について詳細なコメントをされた。出席者も加わった全体の討論では,マーシャルのシティズンシップ概念の性格,アジアの福祉「国家」と制度の将来展望とシヴィル・ミニマムのような図式の再現等々の問題が提起された。移民問題をめぐって,久保山氏のいう「上部構造」と「下部構造」という視点は,この部会の試みにとって貴重であり,大会で,さらに深めていきたい論点である。

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