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研究例会
研究例会報告: 1999年度
1999年度 第1回

開催日程

テーマ: 社会学の方法と対象
担当理事: 玉野 和志(東京都立大学)、草柳 千早(大妻女子大学)
研究委員: 鈴木 智之(法政大学)、矢島 正見(中央大学)、山田 真茂留(立教大学)
日 程: 1999年12月18日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学  太刀川記念館 1階 会議室
報 告: ●葛山 泰央 「友愛の歴史社会学」
●前田 泰樹 「『記述の論理学/倫理学』としての社会学」
司 会: 玉野 和志(東京都立大学)

研究例会報告

担当:玉野 和志(東京都立大学)

 昨年12月18日に立教大学で行われた第1回研究例会では,「社会学の方法と対象」というテーマで学術振興会(東京大学)の葛山康央氏と一橋大学の前田泰樹氏のお二人にご報告をいただきました.葛山氏からは「友愛の歴史社会学」という題目で,フーコーにもとづく言説分析という方法を用いて自伝など特定の「ジャンル」を対象とする社会学の新たな構想が提示され,具体的な題材として16世紀以降の近代フランスにおける友愛をめぐる言説がその男性性ゆえに19世紀後半には「同性愛者の自伝」へと展開することが紹介されました.他方,前田氏からは「『記述の論理学/倫理学』としての社会学」という題目で,相談者とカウンセラーという医療場面での会話を題材とした詳細な分析例が提示され,会話という相互作用の記述を行うことから,そこにはたらく社会的な論理や倫理を浮かび上がらせようとするエスノメソドロジーの試みが紹介されました.いずれも社会学の方法と対象という点ではきわめて斬新な立論であり,当日は主として旧来の社会学から見た場合の違いや疑問点などが議論されたように思います.議論の詳細をここに尽くすことはできませんが,今回はこのテーマで大会のプリナリーセッションが企画されていることもあり,いくつか重要な論点を列記しておきます.

 まず,葛山報告をめぐって戦争や革命という当時の時代背景との関連をどう考えるかという疑問が出されたのにたいして,報告者はそのような問題領域が重要であることは重々承知したうえで,言説自体の独自の問題を追究してみたいとのことでした.同様に,前田報告にたいしては方法的に禁欲することはよいとしても,なぜより大きな社会との関連を論じようとしないのかという意見が出されました.これにたいしては,ここで記述される言語こそが社会であり,エスノメソドロジーは言語現象が実は社会的に構成されているという点に新しい社会学の対象を発見したのだという主張がなされました.そのうえで他の方法を否定するわけではなく,それでどこまでいけるかやってみているのが現状ではないかということでしたが,それがかえって実体としての社会との接点を失い,単なる言語ゲームに堕することになってはいないかという疑問も出されました.

 以上の議論もふまえて,大会では社会学の方法と対象について,改めて論議を深めたいと思います.最後に困難なテーマに果敢に挑戦してくれたお二人の報告者に改めてお礼を申し上げます。

1999年度 第2回

開催日程

テーマ: 文化的再生産とエスニシティ
担当理事: 宮島 喬(立教大学)、梶田 孝道(一橋大学)
研究委員: 小井土 彰宏(上智大学)、西澤 晃彦(神奈川大学)
日 程: 2000年1月29日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 太刀川記念館 1階 会議室
報 告: ●清水 睦美(東京大学大学院) 「「ニューカマー家庭の教育戦略:インドシナ系ニューカマーの『家族の物語』と子どもの学校適応の視点から」
●稲葉 奈々子(茨城大学講師) 「社会権行使における移民と文化資本: 90年代フランスの例から――統合を媒介する制度の変化」
司 会: 梶田 孝道(一橋大学)

研究例会報告

担当:梶田 孝道(一橋大学)

 2000年1月29日、立教大学太刀川記念館にて、本年度第2回の研究例会が開催された。部会の名称は、問題へのアプローチをより広いものとするために「エスニシティと資源・行動・戦略」と変更した。例会では、清水睦美氏(東京大学大学院)の「ニューカマー家庭の教育戦略:インドシナ系ニューカマーの『家族の物語』と子どもの学校適応の視点から」と、稲葉奈々子氏(茨城大学講師)の「社会権行使における移民と文化資本: 90年代フランスの例から−−−統合を媒介する制度の変化」の二報告がなされた。

 清水報告は、インドシナ系難民家庭と受け入れ学校への参与観察に依拠し、それを分析したものである。報告者はインドシナ系難民の本国での生活と脱出、さらには日本への定着の経緯を周到に分析し、彼らの日本での「安定」した生活への「安住」を指摘し、彼らの間には「安住の物語」という家族の物語が形成されているとした。また、こうした「安住」と文化的資本の欠如が、彼らの日本の学校への盲目的ともいえる「信頼」につながり、結果として子供たちの学校適応への障害となっている点が指摘された。これに対して、こうした「安住の物語」の構築はそもそも家庭の「教育戦略」といえるのか、「家族の物語」の定義の精緻化が必要等の意見が出された。その一方で、清水氏を含む研究グループが進めている調査研究には、南米日系人、韓国人ニューカマーも含まれており、従って相当に異なった「家族の物語」、エスニックグループ毎に異なった教育戦略が形成されていることが示唆され、こうした問題意識が次回大会での報告に引き継がれることとなった。

 稲葉報告は、90年代のフランスにおける移民統合の諸制度について、独自の参与観察に基づく形で分析したものである。高度成長期の移民の住宅問題等は労働運動のなかで解決が目指されたが、90年代に至ると労働者としての自己規定が後退し、また労働運動も後退し、福祉受給者としての性格が強まったという。とはいえ、フランスにおける共和国的統合の言説は依然として強い一方で、労働運動ではなくエスニシティに基づく媒介によって統合の実現が模索されており、共和国的言説と実態との間に大きな乖離が生じているとの指摘がなされた。これに対して、労働運動の媒介は依然として存在しそれにエスニシティに基づく媒介が加わったのか、それとも統合の媒介原理が根本的に変わったのかという疑問が出された。また、そうした原理を変更させた社会の変化とは何なのか、さらには、男女同数(パリテ)法案に象徴されるジェンダーに基づく大きな変化とエスニシティの領域での変化は関係するのかしないのかといった疑問も出された。

 いずれも熱のこもった意欲的な報告であり、フロアーとの間に熱心かつ多岐にわたる議論が展開された。次年度の学会の本セッションでは、志水宏吉(東京大学助教授)「ニューカマー家庭の教育戦略:3つのエスニックグループの比較から」、宮島喬(立教大学教授)「エスニシティ、教育、資源の利用可能性:日本とフランスの比較の視野のなかで」、樋口直人(徳島大学講師)「外国人の政治参加における資源と戦略」(いずれも仮称)を予定している。

1999年度 第3回

開催日程

テーマ: 職業生活と家庭生活の調和
日 程: 2000年3月4日日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 太刀川記念館 3階 多目的ホール
報 告: ●岩澤 美帆(国立社会保障・人口問題研究所) 「“両立”の意味するもの――理想と予想のギャップにみるライフコースの現状分析」
●前田 信彦(日本労働研究機構) 「仕事と家庭生活の調和――国際比較の視点」
討 論: 平岡 公一(お茶の水女子大学)、佐藤 厚(日本労働研究機構)、上林 千恵子(法政大学)
司 会: 安藤 喜久雄(駒沢大学)

研究例会報告

担当:上林 千恵子(法政大学)

 第3回研究例会は「雇用と福祉」部会が担当し、「職業生活と家庭生活の調和」というテーマで2000年3月4日(土)に立教大学で行われた。なお部会の名称は、6月の大会時点では「雇用・ジェンダー・家庭――仕事と家庭の調和」に変更される。例会は岩澤美帆氏(国立社会保障・人口問題研究所)による「“両立”の意味するもの――理想と予想のギャップにみるライフコースの現状分析」、および前田信彦氏(日本労働研究機構)による「仕事と家庭生活の調和――国際比較の視点」の2報告であった。

 岩澤報告は、社会保障・人口問題研究所が5年毎に実施している「出生動向基本調査」の個票データのうちから25−34歳の独身・就業女性のみを取り出し、独身女性が理想とする自分のライフコースと、実現が予想される自分のライフコースとの間のギャップを明らかにしたものである。分析手法は多変量解析(多項ロジスティック回帰)を用い、87年、92年、97年の 3時点間での変化も視野に入れている。その結果によると、女性のキャリアからみたライフコース類型を就職型、再就職型、専業主婦型、両立型に分類し、再就職型を除いて現実とのギャップの存在とその規定要因が報告された。

 次いで前田報告はオランダの雇用政策を取り上げ、夫婦2人がパートタイム化することにより、家事を外部化せず、仕事と家庭生活を調和させていく事例が報告された。オランダ政府は、パートタイム労働を、一つは失業の解消策のために、また一つは社会的保育施設の不足を補うために、積極的に推進しているという。日本がこうしたオランダ型に向かうのか、あるいは育児は私的領域の問題として政府が関与しない英米型に向かうのか、あるいはヨーロッパ大陸諸国のような社会的育児支援の方向に向かうのか、今後の行方が問われた。

 以上の報告に対して、討論の場では、家事労働をどう位置づけるのかという問題が提起された。無償の家事労働から解放されたいというジェンダー・アプローチがある一方、脱商品化された福祉国家の中で男女の労働の分かちあいの場として家事労働と雇用労働の双方を捉えるというアプローチも考えられうるという指摘、オランダがパートタイム政策をとった政策的背景や EU内での位置づけ、文化的背景との関連づけも要請された。

 「仕事と家庭」というテーマに対して、岩澤氏、前田氏の両氏の報告は最近年の実態を踏まえた上での具体的データに基づくものであり、6月の国際比較を中心とする大会テーマ部会への中心的課題を提供するものであった。

1999年度 第4回

開催日程

テーマ: グローバリゼーションとは何か
研究委員: 伊豫谷 登士翁(一橋大学)、川崎 賢一(駒沢大学)、庄司 興吉(東京大学)
日 程: 2000年4月8日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 太刀川記念館 太刀川記念館 1階 会議室
報 告: ●山田 信行(帝京大学) 「周辺社会の工業化と『ポスト国際分業』 ――マレーシアを事例として」
●小川 葉子(慶應義塾大学) 「グローバライゼーションを飼い馴らす ――ギデンズ、吉見論文に見るエイジェンシーと文化の『移植』をめぐって」
司 会: 長田 攻一(早稲田大学)

研究例会報告

担当:長田 攻一(早稲田大学)

 当部会では、多様な研究領域において多様な議論が進められているグローバリゼーションに関する問題を取り上げ、「グローバリゼーションとは何か」というタイトルの下に、お二人の研究報告を中心として研究例会を開催した。立教大学太刀川記念館にて、報告者、司会者を含め22名の方々の参加をえて、活発な議論が展開された。

 まず、山田信行氏(帝京大学)は、「周辺社会の工業化と『ポスト国際分業』 ――マレーシアを事例として」と題して、ウォーラスティンの世界システム論による中核−半周辺−周辺の三層構造の図式を踏まえて、多国籍企業の活動が活発化しNIES社会の発展が見られる新国際分業といわれる時代をへて、今日ではそれが危機を迎える一方周辺地域の一部において自生資本の育成による半周辺への移行を示す現象が見られるとし、それを契機とする国際分業システムの変容に注目して「ポスト新国際分業」への移行の可能性を指摘する報告を行った。そこではグローバリゼーションが、国境を越えた普遍的過程である一方でつねにナショナルな枠を媒介として進行することが強調された。これに対して、ウォーラスティンの議論そのものが国民国家の枠組みを前提にしておりその前提を踏襲しているのではないかという疑問や、周辺地域での自生資本の育成をポスト新国際分業への移行を示す指標と見なせるかなどの疑問点をめぐって活発な議論がなされた。

 次に、小川葉子氏(慶応義塾大学)は、「グローバライゼーションを飼い馴らす ――ギデンズ、吉見論文に見るエイジェンシーと文化の『移植』をめぐって」と題する報告において、イギリスの学問伝統における「グローバライゼーション」をアメリカ流の「グローバリゼーション」と用語上区別し、グローバル−ローカルの弁証法的関係の中で、どのようなレベルのエイジェンシーがグローバリゼーションに対してリフレクシィヴに対抗的関係を形成していかなければならないかという視点から、理論的枠組みの整理を試みた。これに対して、ここでローカルというのはナショナルなものとどう関係するのか、「権力」の問題はどのように説明されるのか、時空の再編成という場合、多様な具体的時空の重層的関係を踏まえて、いかなるグローバライゼーションとどのレベルのエイジェンシーがいかなる対抗関係にあるのかが示される必要がある、などの疑問点が出され議論が行われた。

 会場には、社会学者以外に、経済学者の伊豫谷登士翁(一橋大学)、政治学者の遠藤誠治(成蹊大学)両氏も参加され、社会学におけるグロ−バリゼーションをめぐる議論についての疑問や、富と権力、民主主義についての言及がないという指摘があった。専門分野間で議論のズレが存在すること、共通に議論しなければならないテーマを選定して相互に積極的な議論と意見交換を行う必要性と重要性を認識させられた。

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