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研究例会
研究例会報告: 2004年度
2004年度 第1回

開催日程

テーマ: 文化の社会学
担当理事: 藤村 正之(上智大学)、川崎 賢一(駒澤大学)
研究委員: 吉見 俊哉(東京大学)、片岡 栄美(関東学院大学)
日 程: 2005年2月12日(土) 14:00〜18:00
場 所: 大正大学(巣鴨校舎)  2号館3階 231教室
報 告: ●友岡 邦之(高崎経済大学) 「地域活性化における文化的資源の動員」
●小山 彰子(慶応義塾大学) 「上層資産階層の教育:インタビュー調査と観察から」
司 会: 川崎 賢一(駒澤大学)

研究例会報告

担当:川崎 賢一 (駒澤大学)

 本年度の第1回研究例会は、2月12日(土)に大正大学巣鴨キャンパスで行われた。当日はまだ入試シーズンで寒かったこともあって、参加者が20名程度と、昨年の50名を越える参加者数と比べると少なかったが、友岡・小山会員の発表には熱がこもっていて、なかなか充実した例会となった。両氏の研究分野は、研究者数の少ない分野であるが、内容的には優れたものであった。

 まず、友岡邦之(高崎経済大学)氏は、「地域活性化における文化的資源の動員」と題して、地方都市における地域活性化を、現代的な文化社会学的イシューから見事に批判・分析した。近年における地方都市の衰退の例として群馬県高崎市を取り上げ、その活性化のためにどのように文化的資源を動員することができるのか、その可能性を探った。その際、近年注目されている<創造都市論>に着目し、その概念・方法論・応用可能性などを的確に紹介し、創造都市論と中規模地方都市との親和性への疑問・文化に関する合意形成の困難さ・行政の文化化への疑問・指定管理者制度の問題、などの論点を指摘し、地方都市における発展の可能性と限界を分析した。

 次に、小山彰子(慶應義塾大学大学院)氏は、「上層資産階層の教育:インタビュー調査と観察から」と題して、大学院博士課程において蓄積されてきた数多くの調査結果をもとに、きわめて興味深い発表を展開した。まず、上層資産階層を定義し、特に、その階層に属する助成に着目し、彼女たちへのインタビューや調査結果を通じて、上昇資産階層の文化階層としての特色を浮き彫りにすることに成功した。具体的には、彼らを世代別に4つに区分し、第一世代(1895年生まれ前後)から第三世代(1945年生まれ前後)を一つにまとめて、第四世代(1970年生まれ前後)に焦点をあてて分析を進めた。その際、各世代のライフイベントに着目して分析を進めた。ここでその詳細を紹介することは出来ないが、あまり知られていない上層資産階層の現実が開示されていて、きわめて興味深い内容の分析であったことを付記しておきたい。

 お二人に共通しているのは、新しい視点の導入と、きわめて地味な実証作業への真摯な取り組みの姿勢である。これらの研究がさらに深みを増し、大きな社会的現実や社会構造へと分析がさらに広がっていくことを今後期待したい。

2004年度 第2回

開催日程

テーマ: グローバリゼーションの中の階級・階層構造
担当理事: 伊藤 るり(お茶の水女子大学)、橋本 健二(武蔵大学)
研究委員: 佐藤 香(東京大学)、山田 信行(駒沢大学)、杉野 勇(お茶の水女子大学)
日 程: 2005年3月12日(土) 14:00〜18:00
場 所: 大正大学(巣鴨校舎)  2号館3階 231教室
報 告: ●小ヶ谷 千穂(学術振興会特別研究員、一橋大学)  「グローバリゼーション下のジェンダーと階層・階級──フィリピン女性の国際労働移動を手がかりとして」
●竹ノ下 弘久(慶應義塾大学)  「国境を越える移動に伴う階層移動──既存の階層研究のモデルの拡張とその含意」
司 会: 橋本 健二(武蔵大学)

研究例会報告

担当:橋本 健二(武蔵大学)

 3月12日に行われた今回の研究例会では、日本ではこれまであまり接点を持つことのなかった、階級・階層研究とエスニシティ研究およびエリアスタディの双方にまたがる問題設定で野心な研究を進めているお二人に報告をお願いしました。参加者は、約25人でした。

 小ヶ谷千穂さんのご報告「グローバリゼーション下における階級・階層とジェンダー──フィリピン女性の国際労働移動を手がかりに」は、先行研究の検討とフィリピン都市部・農村部でのフィールドワークをもとに、国際労働移動が職業(階級・階層所属)と女性の世帯内での位置にもたらす変化に焦点を当てたものでした。海外に就労するフィリピン女性の多くは、移動前には専門職・半専門職、移動後はマニュアル職(主に家事労働者)と下降移動を経験していますが、収入は増加しており、ここからしばしば世帯内の位置を向上させています。つまり国際労働移動は、従来は想定されてこなかったタイプの「矛盾した階級移動」と、ジェンダー関係のダイナミズムを伴っているということになります。

 竹ノ下弘久さんのご報告「国境を越える移動に伴う階層移動──既存の階層研究のモデルの拡張とその含意」は、移民研究と階層研究との対話が伝統的に行われてきた米国の諸研究を紹介するとともに、日本に住む国際移動者を対象とした調査から、在日韓国人と滞日中国人男性の教育達成・地位達成について検討したものです。分析の結果からは、日本では人的資本の国際的移転可能性が小さく、日本で地位達成するためには日本国内で人的資本を蓄積することが必要になっているということが指摘されました。

 報告の後の時間では、移動先の先進国での家事労働者の労働内容をどう評価するか、非正規雇用が中心の滞日外国人に対して地位達成モデルをどう適用するか、エスニシティとジェンダーの相互作用をどう把握するかなど多くの論点が出され、実りある討論ができました。グローバリゼーションと階級・階層研究というテーマについて、これほど長時間の討論が行われたのは、あるいは日本で最初のことだったかもしれません。報告者、参加者の皆さんに感謝申し上げるとともに、今後さらに場を設けて検討を続けていくことを提案したいと思います。

2004年度 第3回

開催日程

テーマ: 社会学のアイデンティティ
担当理事: 井出 裕久(大正大学)、山田 真茂留(早稲田大学)
研究委員: 数土 直紀(学習院大学)、安川 一(一橋大学)、矢野 善郎(中央大学)
日 程: 2005年3月26日(土) 14:00〜18:00
場 所: 大正大学(巣鴨校舎)  2号館3階 231教室
報 告: ●数土 直紀(学習院大学)  「社会学のアイデンティティ――理論研究の視点から――」
●矢野 善郎(中央大学)  「社会学のアイデンティティ――学説史研究の視点から――」
司 会: 井出 裕久(大正大学)

研究例会報告

担当:井出 裕久(大正大学)

 前号の本ニュースで予告したように、「社会学のアイデンティティ」部会例会は、「自由な討議形式」をとった。具体的には、あらかじめ複数のトピックを用意し、1つのトピックについて数土直紀氏と矢野善郎氏からそれぞれ話題を提供してもらい、それをもとに参加者全員で自由に討議するということを、各トピックごとに行なっていった。

 事前に用意したトピックは、以下のとおりである。1.社会学理論の混迷──社会学における理論研究・学説史研究の意義、個別事例研究の隆盛と社会学、ミニ・パラダイム林立状況の評価、2.社会・行動諸科学の溶解──「社会学」アイデンティティの歴史的変遷、学際的研究の隆盛と社会学、3.社会学は生き残れるか──「日本」の社会学のアイデンティティ、社会学教育の今日的可能性。

 これらの各トピックについて交わされた討議・対話を要約的に提示することはできないが、数土・矢野両氏の話題提供の基本的な方向性と、参加者の発言のいくつかを紹介したい。数土氏は、「理論とは、哲学であるべきではなく、方法であることを目指さなければならない」という認識をもとに、「学の多様性を維持し、それでもなお学としてのアイデンティティを維持するためには、方法論を共有することで緩やかに結び付けられていることが理想」という観点から発言された。一方、矢野氏は、1980年代から社会学史のテキストが更新されず、社会学の「物語」化が途絶えたと社会学のアイデンティティの危機を捉えたうえで、「これからの社会学のアイデンティティ」の在処を、「経験科学的な行動科学と、意味解釈(文学的)との二つのアイデンティティの相克」を孕みながらも、「単なるピースミール臨床学でなく、包括的なコンテクストからの意義診断」に見出そうとする観点から発言された。

 また、各トピックに関する討議のなかで参加者からは、「社会学はアイデンティティが常に問題になる学問だ」という見方や「競い合う仮想敵がないために混沌としているのではないか」という認識が示されたり、さらには、「マルチ・パラダイム状況のなかで、理論研究と調査研究とで依拠するパラダイムを使い分けている」といった自身の実情に言及されたりした。

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