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研究例会
研究例会報告: 2005年度
2005年度 第1回

開催日程

テーマ: 若者のコミュニケーションの現在
担当理事: 土井 隆義(筑波大学)、浅野 智彦(東京学芸大学)
研究委員: 松田 美佐(中央大学)、久木元 真吾(家計経済研究所)
日 程: 2006年1月28日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 太刀川記念館・第一会議室
報 告: ●石川 良子(東京都立大学大学院) 「ひきこもりと若者のコミュニケーション」(仮)
●金田 淳子(東京大学大学院) 「おたく女性のコミュニケーション」(仮)
司 会: 松田 美佐(中央大学)、久木元真吾(家計経済研究所)

研究例会報告

担当:土井 隆義 (筑波大学)

 この研究例会のテーマである「若者のコミュニケーションの現在」は、今年度からスタートした新たな企画です。昨年度までの大会テーマ部会と研究例会の諸成果を横断的に継承しつつも、理論と実証両面でのさらにフレッシュな議論の契機となることを期待して、従来にはない新たな視角から設定されたものです。その企画の意図については、大会テーマ部会の案内文をご覧ください。

 さて、このテーマの下での第1回研究例会は、去る1月28日(土)に立教大学で開催されました。今回は、「若者のコミュニケーションの現在」について端的な特徴を示すと思われる「ひきこもり」と「オタク系サブカルチャー」に焦点を合わせ、それぞれについて精力的なフィールドワークおよび理論的検討を行なっている二人の研究者を報告者としてお招きしました。お一人は、「ひきこもり」の若者たちへのインタビューを続けてこられた石川良子さんであり、もうお一人は、「やおい」のコミュニティを研究されていらっしゃる金田淳子さんです。どちらも、このテーマにふさわしいフレッシュな若手研究者であり、それぞれの現象を「問題」としてではなく、若者のコミュニケーションの現代的様相を明らかにする戦略拠点としての立場から、トピックについて論じていただきました。また、それらのご報告を踏まえ、研究委員である久木元真吾さんと松田美佐さんの司会進行により、参加者のあいだでも活発な議論が展開されました。

 石川良子さんによる第一報告、「なぜ『ひきこもり』当事者は社会とつながれないのか?−自己・他者・コミュニケーションをめぐる規範意識から−」では、ご自身がこれまで蓄積してこられた具体的なインタビュー・データから、「ひきこもり」の核心とされる「社会とつながりたいのにつながれない」という当事者たちの葛藤が、就労に対する強い規範意識のみに由来するものではなく、自己・他者・コミュニケーションをめぐる規範意識にも由来するものであることが明らかにされました。報告後のディスカッションでは、「ひきこもり」が問題視されるようになった時代的背景や不登校問題との相違について、また他者の予測不可能性に関して、さらにはそもそも「社会」とはいったい何なのかといった根本的な問いにまで議論の争点が拡大され、熱気のこもった討論が行なわれました。

 金田淳子さんによる第二報告、「おたく女性のコミュニケーション−『非おたく』と『おたく』との(不?)自由な往還−」では、ご自身がこれまで手がけてこられた同人誌販売会フィールド・ワークと、「おたく」を自称する人びとに対するインタビュー・データにもとづいて、とくに女性「おたく」のコミュニケーションについての考察が示されました。いわば「萌え話」が中心となる「おたく」仲間どうしのコミュニケーションが示すクールな特徴と、そのアイデンティティを隠蔽されつつ行なわれる傾向が強い「非おたく」とのコミュニケーションにおける緊張状態について、同人誌の資料を提示しつつその具体的な様相を語ってくださいました。報告後のディスカッションでは、そもそも「おたく」とは何かという定義の問題から始まり、「おたく」とジェンダーとの関係について、また「フリッパー志向から全体化志向へ」という近年のコミュニケーション様式の変容との関連性についてなど、かなり幅広い議論が大変熱心に展開されました。

 今回の研究例会では、40名を超える会員の参加者を得て、若手中心の研究例会ならではの活気に満ちた意見交換が行なわれました。また、学会理事会からも多くのメンバーが参加され、ディスカッションにも積極的に加わっていただいたこともあり、世代を超えて熱っぽい充実した研究会となりました。この熱気と勢いの下で、6月の大会テーマ部会へも多くの皆さまが参加され、さらに突っ込んだ高度なディスカッションが行なわれることを期待しています。

2005年度 第2回

開催日程

テーマ: 「保守化」を検証する
担当理事: 奥村 隆(立教大学)、岩上 真珠(聖心女子大学)
研究委員: 渡戸 一郎(明星大学)、米村 千代(千葉大学)
日 程: 2006年3月18日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 太刀川記念館1階 第1・第2会議室
報 告: ●片上 平二郎(立教大学大学院)
「ネット社会における『差別者』の構成−ノスタルジーの暴走、反権威主義の転倒−」
●瀧川 裕貴(東京大学大学院)
「公共哲学における『保守』の位置」
司 会: 米村 千代(千葉大学)

研究例会報告

米村 千代(千葉大学)

 「『保守化』を検証する」テーマ部会の研究例会は、3月18日に立教大学において開催され、片上平二郎氏(立教大学)、瀧川裕貴氏(日本学術振興会特別研究員・東京大学)からそれぞれ「ネット空間における差別者の構成−“小文字”の批判と“大文字”の保守の接続」(片上氏)、「公共哲学における『保守』の位置について−『社会の保守化』に対する批判はいかにして可能か」(瀧川氏)と題して報告いただいた。片上氏は2ちゃんねるにおける差別や社会批判言説を取り上げ、2ちゃんねるにおける“批判”を“小文字の権力批判”と位置づけ、それが“大文字の批判”へと繋がっていかないという接続の問題を論じた。瀧川氏の報告では、クイントン、マンハイムらの「保守」概念、ギデンズの「ポスト伝統主義」の議論の再検討を通して、保守主義理論から「社会の保守化」を批判的に捉える方法が論じられ、さらには保守主義とは異なる規範理論の可能性が提示された。

 参加者は25名程度と決して多くはなかったが、今後このテーマを深化させていく上で重要な発見に満ちた議論が展開された。その一つは、フロアとのやりとりのなかで何を「保守化」と考えるか、「保守化」をどう感じ取っているかにおいて世代差がみられたことである。例えば、若いお二人の報告者からそれぞれ“大文字の権力”の見えにくさ(片上氏)、“大きな物語の終焉”、“存在論的不安”(瀧川氏)として提示された現代社会の不安定性に対して、フロアからはより具体的に“大文字の権力”を捉える視点が提示された。「保守化」という用語が多義的であることはテーマ設定の折から認識されていたことであったが、その多義性の一端がこの例会で鮮明になった。お二人がそれぞれの領域、立場から「保守化」を具体的あるいは理論的に論じてくださったことで、その多義性をひもといていく糸口が少しずつ見えてきたように思う。ここでの議論が今後テーマ部会における討議を深め、展開させる契機になればと願っている。

2005年度 第3回

開催日程

テーマ: 「修論フォーラム」の開催について
日 程: 2006年5月27日(土) 13:00〜18:00
場 所: 立教大学 池袋キャンパス
12号館地下1階 第2会議室、第3・第4会議室

「修論フォーラム」の報告と次年度大会での開催のお知らせ

奥村 隆(立教大学)

今期理事会の新しい試みである「修論フォーラム」が、第3回研究例会として5月27日(土)13時〜18時、立教大学池袋キャンパスで開催されました。今回は2005年度に修士論文を提出した大学院生7名の応募があり、これを3つのセッションに分けて、報告者が希望したコメンテーターからのコメントと応答、参加者をまじえた討論が行われました。

 プログラムから再録すると(敬称略)、セッション1(司会:奥村隆)では立教大学・川野佐江子「「スーツ」を着る身体――近代理性とアンチ近代理性の対峙の場として」(コメント:草柳千早)、早稲田大学・伊藤聡洋「消費社会と宗教」(コメント:浅野智彦)の2報告、セッション2(司会:土井隆義)では筑波大学・湯野川礼「性的虐待をめぐる「語り」の社会学――「被害」の病理化」(コメント:上野千鶴子)、東京大学・野辺陽子「変容する親子規範――特別養子制度からみる血縁規範のゆくえ」(コメント:山田昌弘)の2報告、セッション3(司会:浅野智彦)では早稲田大学・関水徹平「現実の構成と相互行為」(コメント:奥村隆)、立教大学・深田耕一郎「生のほうへ――自立生活における全身性障害者と介助者の関係性にかんする実証的研究」(コメント:藤村正之)、青山学院大学・井上美砂「医療現場における多文化協働の試み――ベトナム人看護師受け入れの事例から」(コメント:玉野和志)の3報告がなされました。

 各会場には30〜40名の参加者があり、事前に修論を読むことをお願いしていたコメンテーターからは、コメントのレジュメを用意していたコメンテーターもいるなど、充実したコメントがなされ、多岐にわたる大学の参加者からも多くの質問・発言がありました。全セッション終了後に同会場で懇親会を行いましたが、ここにも20名ほどの参加があり、異なる大学に所属する大学院生と教員が交流する機会になったように思います。

 その後、報告者・コメンテーターからは、他大学の教員からのコメントをもらうこと、他大学の院生の修士論文を読むことが貴重な機会であったという感想、今回質疑を含めて1人50分という設定でしたが、もっと長い時間をとればさらに議論が深まったという感想が寄せられました。また、学会大会での報告との関係をどう考えるか、非会員が多い修士課程の院生への周知がもっと必要ではないか、という意見や提言も伺っています。


 理事会では、今回の「修論フォーラム」の結果について議論してきましたが、一定の成功を収めたと判断して、2年目も継続して行うこととし、次回は筑波大学での2007年大会の1日目・午前に開催することにいたしました。大会時に設定することで、この研究交流の機会をさらに多くの参加者を得た活発なものにできるのではないか、と考えました。

 次回も1回目と同様、報告者は2006年度に修士論文を提出した大学院生から公募することとし(ただし応募時にすでに関東社会学会会員であるか、同時に入会申し込みをすることを条件とします)、応募者が希望するコメンテーターが論文を事前に読んでコメントをするという形を予定しています。応募要領および開催の詳細は、次号ニュースに掲載します。

 該当する会員の多数のご応募を期待するとともに、会員各位から非会員の修士課程院生のみなさんへの周知をお願いいたします。また、今回の「フォーラム」のために、ご多忙のなか修士論文をお読み下さり、コメント下さったコメンテーターのみなさんのご協力に、この場を借りて改めて深く感謝申し上げます。

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