2018年度 第1回

 テーマ部会Åでは、「はたらく経験へのアプローチ」をテーマに、社会における当事者の経験に対して、社会学の立場からどのように関わりを深めていくのかを課題に、労働現場における人々の専門的な実践としての「ワーク」を取り扱う、「ワークプレイス研究」を手掛かりに考察しています。今年度は、研究のフィールドを専門的な労働の現場以外に広げるとともに、研究による行為の記述が当事者に還元されるプロセスに着目し、そのためのフィールドの一つを「家庭」として設定しました。
 家庭では、メンバーの構成や居住空間といったそれぞれにおける独自の環境の中で、それらに適合するような形で日々の活動が営まれています。とくに、現在の家庭では、インターネットの普及などにともない、従来の家庭にはなかった多様な活動が展開する可能性も大きくなりつつあります。今回の企画では、このような背景から、家庭を特定の作業環境(ワークプレイス)として位置づけ、そこでのメンバーが独自の「ワーク」をどのように実践しながら活動に従事しているか、について検討することをねらいとします。
 はじめに、本企画の背景となっている、家庭における生活行動観察のプロジェクトについて、企業側の主管者として富田さんに説明をいただきます。続く研究報告として、森さんと須永さんには家事における実務的な作業の観察事例について紹介いただき、池上さんと筆者からは、メディアを介した記憶の共有という、近年の家庭に特徴的な事例について紹介します。
 討論者としては、落合さんには家族社会学の視点から、五十嵐さんには学習に関わる相互行為研究の視点から、それぞれのご専門を背景としたコメントをいただく予定です。 本企画を通じて、家庭での「ワーク」に関わる経験を多様な視点から議論したく、専門分野に関わらず広く参加をお願いする次第です。

開催日時

テーマ: はたらく経験へのアプローチ:
「ワークプレイスとしての家庭:行動観察の事例分析から」
日時: 2019年3月10日(日)13:30−17:00
報告者及びタイトル: 富田晃夫(ミサワホーム総合研究所)
「生活行動観察プロジェクトについて」 関東社会学会ニュース No. 150 2019. 2. 4
森 一平(帝京大学)・須永 将史(立教大学)
「行動観察事例から(1):家事における協働:片付けを中心に」
是永 論(立教大学)・池上 賢(立教大学)
「行動観察事例から(2):家庭におけるインターネット利用:記憶の再生と共有」
討論者: 落合 恵美子(京都大学)
五十嵐 素子(北海学園大学)
司会: 秋谷 直矩(山口大学)
会場: 東京都世田谷区桜上水3-25-40 日本大学文理学部 図書館3階オーバルホール
https://www.chs.nihon-u.ac.jp/map/
連絡先: 立教大学社会学部  〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1
是永論研究室(E-mail: ronkore(アットマーク)rikkyo.ac.jp)
[テーマ部会A]
担当理事: 中村英代(日本大学)、是永論(立教大学)
研究委員: 秋谷直矩(山口大学)、森一平(帝京大学)
 
◆報告要旨
富田 晃夫(ミサワホーム総合研究所)
「生活行動観察プロジェクトについて」
 ミサワホーム総合研究所では、2013年から社会学者等との共同研究として、実際の家庭での行動をビデオカメラで撮影しながら観察し、生活環境のデザインについて検討するプロジェクトを展開してきた。本報告では、住居に関する社会的な背景などもふまえながら、プロジェクトの概要について説明する。

森 一平(帝京大学)・須永 将史(立教大学)
「行動観察事例から(1):家事における協働:片付けを中心に」
 片づけは、家庭において定期的かつ頻繁に行われるごく日常的な家事の「ワーク」である。しかし、他の様々な家事・育児との関係の中でそれを完遂することは――とくに子どものいる家庭においては――思いのほか難しい。そこで今回の報告では、複数の子どもがいる家庭の日常を対象とし、なかでも特にきょうだいが協働して片づけを行う場面に焦点を当て、かれらが作業を分担し・進行を調整するといった活動をどのように成し遂げているのかについて検討する。片づけが実際に展開されるありようは、「何」を片づけるかや「誰が」片づけるか等によって、さまざまな「規範」を動員しながら多様な仕方で成し遂げられている。報告当日はそのことの検討を通し、片づけが「道徳的」かつ「教育的」に成し遂げられる側面に光を当て、そのことを通して家庭での片づけについて新たな仕方で(「効率性」や「審美性」とは違う目線で)振り返るきっかけづくりを行いたい。

是永 論(立教大学)・池上 賢(立教大学)
「行動観察事例から(2):家庭におけるインターネット利用:記憶の再生と共有」
 家族の写真によって象徴されるように、家庭では、いわゆる「思い出」として、共同的な記憶の再生や共有が一般的に行われていると考えられる。しかしながら、実際の観察によれば、写真を見るという活動は、さまざまな文脈との関わりの中にあり、「記憶の再生(想起)」というものの位置づけもその関係において多様である。本報告では、家庭でのインターネット利用場面を対象に、想起という活動が、写真やオンライン地図などのメディアを介した活動とどのように結びついているかについて検討する。その検討を通して、メディアを利用することや、記憶を取り扱うことが家庭での「ワーク」としてどのような意味を持つのかについて考察する。

 

(是永 論(担当理事))

2018年度 第2回

 テーマ部会Bでは昨年より「人間の尊厳」を共通テーマとして掲げています。昨年の研究例会および学会大会では、移民・難民を事例に、アーレントの政治思想から各国の移民・難民をめぐる政策や社会運動において「尊厳」という語がもっている政治的・社会的な機能まで幅広い議論が行われました。
 その成果を踏まえつつ、今期は、「life(生活・生命・人生)」という観点から尊厳の社会学を展開したいと考えています。「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等」(世界人権宣言)であり、また「人間の尊厳は不可侵である」(ドイツ連邦共和国基本法)ということは、現代社会においては譲ることのできない規範となっています。しかし、社会学的な観点からすれば、そうした尊厳や「自分らしさ」の尊重が日々の生活を形づくる相互行為やコミュニケーションを通じていかにして達成されるかが大きな問いになりえます。中でもさまざまな障害を抱える人々にとって、自分らしい生を他者との関わりの中でいかにして実現するかという問いは、今もなお極めて切実なものであり続けています。その一方で、近年では、介助者や介護者が当事者の主体性や人格を尊重しようとする思いが、かえって支援のあり方を硬直的なものにしてしまう可能性も指摘されています。また、そもそも何をもって「自分らしさ」や「人間らしさ」と考えるかは、その時代その時代の社会意識にも大きく規定されていると考えられます。
 以上のような「life」をめぐるさまざまな論点を踏まえ、今期のテーマ部会Bでは、「人間の尊厳」を問い直し、同時に、尊厳という観点から「life」に対する社会学的理解を深めていきたいと考えています。第2回研究例会では深田耕一郎さん(女子栄養大学)と染谷莉奈子さん(中央大学大学院/日本学術振興会特別研究員)に報告していただきます。皆さまのご参加をお待ち申し上げます。

開催日程

テーマ: 人間の尊厳と生(Life)
日時: 2019年3月17日(日) 14:00−17:00
報告者及びタイトル: 深田 耕一郎(女子栄養大学)
「〈共生社会〉における人間の尊厳――障害者の自立生活の現場から」
染谷 莉奈子(中央大学大学院/日本学術振興会特別研究員)
「障害者総合支援法以降、知的障害者はいかなる親との関係性の中でどのように生きているのか」
討論者: 石島 健太郎(帝京大学)
司会: 本田 量久(東海大学)、小山 裕(東洋大学)
会場: 東洋大学白山キャンパス6号館6215教室
http://www.toyo.ac.jp/site/access/access-hakusan.html
連絡先: 東洋大学 〒112-8606 東京都文京区白山5-28-20
小山裕研究室(E-mail: koyama5042(アットマーク)toyo.jp)
[テーマ部会B]
担当理事: 本田量久(東海大学)、小山裕(東洋大学)
研究委員: 昔農英明(明治大学)、石島健太郎(帝京大学)
 
◆報告要旨
深田 耕一郎(女子栄養大学)
「〈共生社会〉における人間の尊厳――障害者の自立生活の現場から」
 日本では2013年に障害者差別解消法が成立し2016年に施行された。この法律は、すべての障害者が個人としてその尊厳が重んぜられなければならないと明記し、障害を理由とした差別の解消を法の目的に掲げている。その後、政府は国連の障害者権利条約を批准するに至っている。こうした法制度の変化を受けて、福祉、教育の分野では〈共生社会〉を謳う言説が流通するようになった。しかし、現実に目を向けてみると必ずしも〈共生社会〉が実体を伴ったものとして姿を現しているとはいえない。2016年に相模原市で起きた津久井やまゆり園事件や、優生保護法下の強制不妊手術の問題、行政機関における障害者の水増し雇用など、むしろ逆行する事態が生まれていると考えることもできる。こうした動向のなかで、いま障害者はいかなる現実を生きているのか。〈共生社会〉の時代において人間の「尊厳」とは何を意味するのか。自立生活の現場から考えたい。

染谷 莉奈子(中央大学大学院/日本学術振興会特別研究員)
現在、障害者総合支援法により公的な福祉サービスによる生活の保障がある程度整っている。制度上、知的障害者にとって家族が必ずしも第一の生存の場ではなくなった。実際に、特別支援学校を卒業後、通所サービスを利用することは就学と同じくらいあたりまえになってきた。しかし、いまだ、多くの知的障害者の責任は、成人以降も親がとることが前提にあり、特に、高齢になっても親と同居し続けることはふつうの選択でありつづけている。他方、少数ではあるが、たしかに、グループホーム等の福祉サービスを利用する知的障害者もいる。しかし、この場合にも、毎週末帰宅する息子/娘に対し、親は、「できることをしてあげたい」と思い、さらに知的障害者本人も「土日は家族の日」と決めてしまうことから、グループホーム利用前に行っていた余暇活動の機会、特に知人と過ごす時間を縮小してしまう状況がある。このように、いままで親としか暮らしたことのない人も、グループホームなどで暮らす経験のある人も、多くが、親との繋がりを居場所に生きている。本報告では、知的障害者の親へのインタビュー調査を基に、知的障害者はどのように生きているのか、親との関係性を通し論じてみたいと考えている。
 

(小山 裕(担当理事))