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年次大会
大会報告:第38回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第3部会)

 第3部会  6/24 10:00〜12:30 [5号館505教室]

司会:川崎 賢一 (東京学芸大学)
1. 我が国の西洋医学導入期における準拠国の模索
−歴史・科学社会学的視点に基づいて−
北嶋 守 (駒澤大学)
2. 若者論の諸相
−その批判的検討−
岩佐 淳一 (中央大学)
新井 克弥 (東洋大学)
3. 精神薄弱者の無断外出について 江川 茂
(茨城県立コロニーあすなろ)

報告概要 川崎 賢一 (東京学芸大学)
第1報告

我が国の西洋医学導入期における準拠国の模索
−歴史・科学社会学的視点に基づいて−

北嶋 守 (駒澤大学)

 我が国の近代化・西洋化の歴史の中で大きな位置を占める幕末から明治初期という時代は、「西洋科学の系統的な導入過程」として観察が可能であり、この問題に関しては、既に、歴史学、特に科学史(History of Science)の分野において多くの研究成果が蓄積されている。

 そこで、我々は、我が国の近代化・西洋化という歴史的転換点に関し、そうした研究成果を踏まえながら、19世紀初頭から中葉にかけての西洋学術導入に注目し、その社会学的分析を試みた。本報告では、特に医学分野における西洋学術導入がどのような過程で進行し、また、最終的には「ドイツ医学制度採用」という一つの結論に達したその意思決定(decision-making)がどのような状況において行われたのか等について、「準拠国(reference nation)」という分析概念を用意し、その準拠  国の模索過程について、マクロ分析(準拠国指数の推移)とミクロ分析(ドイツ医学制度採用に関係した成員間の社会的ネットワークの性質)の2つの側面から社会学的考察を行った。

 今回の報告は、まだ、プリ・サーベイの段階ではあるが、上述したように本研究は、歴史的事象及び科学(学術)の制度化(institutionalization)の問題を対象にしていることから、それは、歴史・科学社会学(Historical Sociology/Sociology of Science)的研究と呼ぶことができよう。

第2報告

若者論の諸相
−その批判的検討−

岩佐 淳一 (中央大学)・新井 克弥 (東洋大学)

 今日、いわゆる「若者論」は記号論、社会心理学、消費社会論、マーケティングなど様々な視角からのアプローチがなされている。社会学においても同様にいくつかのアプローチが行なわれているが、しかし社会学の一領域として十分にその地位を確立しているとは言い難い。その原因としては(1)概念の不明確さ、(2)実証研究の不足、(3)それに伴う理論展開の恣意性、(4)ジャーナリスティックな取り扱われ方等があげられよう。上記のような若者論の多様な展開によって現在若者像は見えにくくなっているとは言えまいか。こうした状況を踏まえ、本報告においては「若者論」の整理を試みる。内容は以下の通りである。(1)「若者論」という領域の明確化、(2)80年代を中心として「若者論」の鳥瞰,(3)その批判的検討。

第3報告

精神薄弱者の無断外出について

江川 茂 (茨城県立コロニーあすなろ)

 精神薄弱者が幻想によって自己自身が分からなくなるというのはどのようなことであろう。それは施設に入所する前の記憶が施設入所後とその後の変化によって異なった場合に起こるのであろう。

 カントは、一生自分の住んでいた所を離れなかったという。精神薄弱者も同じことが言えるのではなかろうか。施設生活を送るとそこで一生を過ごすわけである。精神薄弱者とて人間であるのでやはりどこかへ行きたいと思う。それが無断外出なのである。無断外出したがるのは、幻想の中で地図があるのだろうか。地図は、自分の住んでいた所の地図なのである。時間、空間の中を無断外出するのである。なぜ、自分でコピーされた地図が基になって、どのような動機で無断外出するのであろう。それは、自分の欲求が満たされない時に起るのである。精神薄弱は、知的幻想でなく感覚的な幻想なのである。

 だから方向はどこへ行くか分からないのである。コピーされている地図と無断外出して歩く地図は異なっているのである。でも何か同じ所がある。そこに向かっていることはたしかである。精神薄弱者も幻想の中に存在しているに違いない。これはあくまでも仮説である。

報告概要

川崎 賢一 (東京学芸大学)

 本部会は、分野別にみて、相互に独立したものが、三つ集まった。

 第一報告は、北嶋守(駒沢大学)氏が、「我が国の西洋医学導入期における準拠国の模索――歴史・科学社会学的視点に基づいて」という、興味深い発表をおこなった。彼は、準拠集団概念に依拠し、〈準拠国〉という概念を提案した。それを用いて、明治初期における、西洋医学の準拠国が決定されていくプロセスを次の指標を用いて明らかにした。分析内容はマクロ・ミクロ分析から構成され、前者の指標は、西洋医学に関する翻訳書数を用い、また、後者の指標は、社会的ネットワークに関するものを用いた。その結論は、マクロには、ドイツ医学が明治期以前から、蘭学書と並んで訳されている事実が明らかにされた。また、以外にも、ネットワーク分析からは、二つの社会的勢力のバランスから、第三国のドイツが選択されたことが明らかにされた。今後の展開が楽しみな研究である。

 第二発表は、岩佐淳一(中央大学)・新井克弥(東洋大学)両氏の「若者論の諸相――その批判的検討」という発表で、内容は、いわゆる〈若者論〉を、ここ20年間にわたって批判的に総括し、今後の研究の方向を提言するものであった。70年代の青年論は、アイデンティティとモラトリアム――E.H.Eriksonの強い影響のもとに――概念を中心に展開し、80年代はそれを引き継ぎつつ、いわゆる、新人類論が登場した。しかし、実際に調査すると、新人類の特質である、自己忠実性・親メディア性・対象化能力・モラトリアム等は、調査結果に出ないというのが発表者の判断である。したがって、90年代の青年論の課題は、地道な実証の積み重ねと概念倒れを避けることだという。この主張は、もっともなものと判断され、今後の彼らの研究成果に期待したい。

 最後の報告は、江川茂(茨城県立コロニーあすなろ)氏のもので、その職業キャリアに基づき、「精神薄弱者の無断外出について」を報告した。その中で、無断外出が、単に逸脱的な行為ではないことを指摘する一方で、無断外出の内容についても次の仮説を述べられた。それは、無断外出者の認知地図は、一見するとアットランダムに見えるが、実は、その人自身の認知地図(例:その人の住んでいた近所・施設までのルート等)が大きく関係していること、である。仮説の妥当性は、司会者の専門ではないので判断できないが、できれば、もう少し整理して報告していただきたかったように思う。

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