目次


2023年度 第1回

第1回研究例会
科学技術革新による社会再編の可能性:AI・情報技術のインパクト

 最近のAIやIT技術の発展は、自動運転車による交通革新、遠隔医療の普及による医療格差の是正、スマート家電の進化による生活様式の変化など、社会の様々な領域に大きな影響を及ぼしつつある。これらの技術進歩は私たちの生き方そのものを変える可能性を秘めている。
 そこで、本研究例会では、AI・情報技術が社会に及ぼす影響に着目し、その実態と本質に迫ることを目指したい。具体的には、先進的なテーマに取り組んでいる研究者を招き、技術革新が社会の各層にどのように影響するのかを事例から探る。
 技術革新による社会変容の実態に迫り、社会学が新時代で果たすべき役割を議論できればと思う。多様な背景をもつ参加者の積極的な議論を期待する。

開催日時

日 時: 2024年3月2日(土)14:00〜17:00
報 告: 田中瑛(九州大学)
前田春香(京都大学)
片桐雅隆(千葉大学名誉教授)
会 場: Zoomによるオンライン形式で開催
   

研究例会への参加を希望される方は、2月28日(水)までに、以下のリンク先のGoogle Formsに必要事項を記入し、送信して下さい。前日までにオンライン参加に必要な情報をお知らせ致します。
https://forms.gle/fsSVogcLSfX6p4Se8

連絡先: 立教大学文学部 堀内進之介研究室
東京都豊島区西池袋三丁目34番1号
E-mail: s-horiuchi[at]rikkyo.ac.jp ([at]を@に置き換えてください)
   
[テーマ部会A]
担当理事: 赤堀三郎(東京女子大学)、堀内進之介(立教大学)
研究委員: 馬渡玲欧(名古屋市立大学)、柳原良江(東京電機大学)
 
◆報告要旨

田中瑛(九州大学)
「「AIをめぐる世論」はいかにして可能か?」
 生成AIに対する関心が高まる中で、民主主義に必要な人間の主体性や社会の安定に必要な雇用をAIが剥奪することへの懸念が広がりを見せている。これに対し、本報告では、メディア・コミュニケーション論の観点から2つの点を検討する。第1に、強い主体性を備えた市民を前提としてきた民主主義の在り方を問い直し、「AIをめぐる世論」をメディアが構築する必要性を指摘する。第2に、AIと労働をめぐる新聞言説を取り上げ、生産性を重視する資本主義以外の選択肢がいかにして「AIをめぐる世論」から排除されているのかを分析する。以上を踏まえて、メディア環境の設計をめぐるメディア言説の増大に着目する必要性を提起する。

前田春香(京都大学)
「アルゴリズムによる差別は人間によるそれと何が違うのか:影響力に着目して」
 近年、AIによって「実行」されている差別が注目を集めている。例えばアメリカの再犯予測システムCOMPASは黒人よりも白人に有利な判定を出しており、その判定は果たして公平なのかという議論が続いている。AIの判断が公平であるかどうかは数学的な議論もあるが、文脈によって公平かどうかは異なりうると考えられる。
 本研究では、AIによる差別について、その影響力に着目して人間による差別と人工知能(AI)による差別の違いを明らかにする。より具体的には、第一に哲学的手法を利用してそれがなぜ不当であるといえるのかを説明し、第二に実証的手法を利用して人間にとってどれほどの影響力があ(りう)るのかを分析する。

片桐雅隆(千葉大学名誉教授)
「AIロボットは社会のメンバーか」
 「科学技術革新による社会再編の可能性」に関して、本報告は「AIロボットは社会のメンバーか」というタイトルで、とりわけAIを内蔵したソーシャルロボットを対象として考えたい。ソーシャルロボットは、家庭や高齢者施設などに入り込み、「誰が社会のメンバーか」=「社会とは何か」への根本的な問いを発している。その問いは、ロボットと人間の関係だけでなく、動物と人間の関係にも言える。したがって、本報告は、ロボットのみではなく動物を含めて、言い換えればポストヒューマン論の視点から、社会のあり方を考える点に特徴がある。そして、その理論的な視点は解釈的社会学、認知社会学、クーケルバーグの関係的アプローチなどに求められる。

 

(文責:堀内進之介)

2023年度 第2回

第2回研究例会
「社会規範」の〈変化〉をどう捉えるか?

 本テーマ部会では、「社会規範」が近年どのように変化し、現在どのような状況にあるのか、様々なトピックに関するフィールドと理論を往還しながら考えてみたいと思います。1990年代頃の社会学・社会批評では、「社会規範」の相対化や喪失は社会診断における共通の前提として語られていました。曰く、規範は社会を統合する上で重要な役割を果たしてきたが、社会が複雑化・多元化・個人化する中で統制的な役割を持つ社会規範は機能不全に陥っている。現在は相互が相互に他者として現れる時代であり、島宇宙化する中で共通のコミュニケーションの基盤の設定は可能なのか、そもそも社会は可能なのか、ということをこそ問わなければならない――。
 現在、この記述はどこまで妥当するでしょうか?確かに社会はより複雑になり、ライフコースや生の形式は多様化し、個人化の趨勢は顕著になっています。しかし同時に、極小化していくはずだった「社会規範」を濃厚に感じるようになった側面はないでしょうか?
 例えば、様々な発言や行動がモラルに抵触しているとして叩かれ炎上するということが頻繁に生じています。それを回避するために自己規律が求められる一方で、そういう息苦しさを打破するように炎上動画が投稿され続けるというループも観察されます。また飲酒や体罰、ハラスメント等かつて曖昧な形で容認されていた行為も厳格に対応されるような変化も生じています。これらの現状は「社会規範」の相対化・喪失というかつての社会記述と齟齬をきたしているように見えます。これをどう捉えるべきか、経験的な分析と理論的な検討の両方から検討していくことがテーマ部会Bの課題となります。
 1年目は、様々な領域における「社会規範」を巡る変化と現状について、経験的な研究に基づき検討していきたいと思います。そのキックオフ企画である研究例会では「若者」の規範意識に焦点を当てます。「若者」は多くの時代で、既存の「社会規範」を揺るがし緩める存在として語られてきました。しかしその中には当該の社会像を若者像に投射しただけのものも含まれています。両者がトートロジカルに循環しつつ過剰に言説化される中で、実際に「若者」がいかなる規範といかなる関係を取り結んでいるのかは見えにくくなっている面もあります。以上の問題意識を踏まえて、3月の研究例会では、若者の変化を実証的に研究されておられる気鋭の研究者をお招きして、努力や恋愛等に関する規範意識の分析結果を共有させて頂き、意見を交換していきたいと考えております。少しでもご興味のある方は、ぜひ議論にご参加いただければと存じます。

開催日時

日時: 2024年3月16日(土)14:00〜17:00
報告者: 寺地幹人(茨城大学)、木村絵里子(日本女子大学)
ファシリテーター: 土井隆義(筑波大学)、赤羽由起夫(北陸学院大学)
会場: 東京大学(本郷キャンパス)教育学部棟158教室
   
連絡先: 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学大学院教育学研究科
仁平典宏研究室
E-mail:nihenori[at]gmail.com([at]を@に置き換えてください)
   
[テーマ部会B]
担当理事: 仁平典宏(東京大学)、土井隆義(筑波大学)
研究委員: 赤羽由起夫(北陸学院大学)、橋史子(東京大学)
 
◆報告要旨

寺地幹人(茨城大学)
「成功要因についての考え方と『努力』の位置づけ――00年代・10年代・20年代の若者の意識の比較」
 頑張ることを価値とする努力主義は、日本社会で特に重視されてきた社会規範の一つといえる。この努力主義は、結果がどうであれ頑張ることが大事、皆頑張ることはできるといった前提をもつ。しかしながらそうした前提を、教育社会学を中心としたいくつかの研究が00年代に問い直した。また、若者を対象にした調査の結果から、努力主義が支持されなくなってきていること、社会に存在する格差や不平等に対して若者がある程度自覚的になってきていることが、みえてきた。
 今日いわゆるロスジェネは40代から50代前半になり、若者とされるのはそれより下の世代である。その世代が重視するとされるタイパやコスパといった考え方は、無際限な頑張りを否定し、いかに効率よく結果を出すかということを表しているように思える。また、親ガチャという言葉が流行語になった背景には、努力などの個人的要因だけでは成功できないことへの人々の強い共感があるのかもしれない。
 こうした状況も踏まえ、成功要因についての考え方の年齢・時代・コーホートごとの特徴を、青少年研究会が実施した質問紙調査のデータから確認し、若者にとっての「努力」の位置づけと変化について、考察したい。

木村絵里子(日本女子大学)
「恋愛関係にみる性別役割規範」
 「男性は仕事、女性は家庭」という性別役割分業意識は、さまざまな調査のなかで大きな変化が報告されてきた社会意識の一つである。これまで主に性別役割分業意識が他のどのような意識と関連しているかという多次元性や規定要因に関する知見が蓄積されてきている。
 ただし、この性別役割分業意識がどのようプロセスを経て内面化されるのかという問いを立てるとき、親密な関係性に着目する議論は少ない。性別役割分業意識は、稼得役割とケア役割をめぐる規範と関連するが、こうした役割は夫婦関係になってはじめてそれに従って行動するようになるわけではないだろう。とくに現在でも多くの結婚が恋愛を前提にしているのであるならば、この意識は、恋愛関係における役割や規範の延長上にあると考えることもできる。そこで本報告では、恋愛関係における性別役割規範について、生成過程と再意味化を考察するとともに、青少年研究会が2022年に全国の16歳から59歳までを対象にして行った質問紙調査データを用いてその実態を明らかにする。

 

(文責:仁平典宏)