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研究例会
研究例会報告: 2000年度
2000年度 第1回

開催日程

テーマ: 情報化と労働の変容
担当理事: 安藤 喜久雄(駒澤大学)、上林 千恵子(法政大学)
研究委員: 佐藤 厚(日本労働研究機構)、石川 准(静岡県立大学)
日 程: 2000年12月16日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 太刀川記念館 1階 会議室
報 告: ●武井 麻子(日本赤十字看護大学) 感情労働としての看護」
●立道 信吾(日本労働研究機構) 「ソフトウェア産業の労働問題」
討 論: 佐藤 厚(日本労働研究機構)、石川 准(静岡県立大学)、上林 千恵子(法政大学)
司 会: 安藤 喜久雄(駒沢大学)

研究例会報告

担当:上林 千恵子(法政大学)

 第1回研究例会は「雇用と福祉部会」が「情報化と労働の変容」というテーマで2000年12月16日(土)に行われた。報告は立道信吾氏(日本労働研究機構)による「ソフトウェア産業の労働問題」および武井麻子氏(日本赤十字看護大学)による「感情労働としての看護」であり、出席者は総数43人に達する盛会であった。とりわけ看護関係者の出席が十数人みられたことは、報告者の尽力によるものであり、主催者側としては有り難かった。

 立道報告は、IT革命が2000年後半になってから日本で急速に注目されるようになった背景を考えると、非常にタイムリーな報告であった(報告書は『情報産業の人的資源管理と労働市場』日本労働研究機構、2000年、\2,500として出版されている)。それによると、情報技術者はそれ独自の労働市場を形成しているものの、その実態は他産業と比較してもそれほど転職経験者が多いというわけでなく、また賃金も年功カーブを描いている。またITの進展自体は雇用創出と雇用削減の2つの相反する側面があるが、見込み上、今後5年間で13万人の雇用純増と予測される。ただし不足するIT技術者と充足されている定型業務従事者との間で、労働市場の二重構造化が進展する可能性があるとの指摘であった。

 討論においては、アメリカではITの地域分業は可能であったが、果たして日本の場合、従来の産業集積がない地方でのIT産業推進は可能であろうかという疑問が出された。アメリカでは先端技術を持つ大学を核として7つの地域でIT産業が発展した。しかし、ほとんどの技術が首都圏あるいは京阪神地区に集中されている日本の場合、地方分権の掛け声とは裏腹に、情報技術が中央集権化を強化する側面があるのは注意されねばならないであろう。

 続く武井報告では、看護労働が感情の制御を他の職種以上に必要とされていることの指摘があった。看護職は感情をこめることが職務をより良く遂行する上で必要とされながら、そのこと自体が看護婦自身への跳ね返って燃え尽き症候群、共感疲労を及ぼすというジレンマを持っている。武井氏は既にパム・スミス『感情労働としての看護』(ゆるみ出版、2000年、2,000円)を前田泰樹氏と共訳されており、感情労働という概念を御自身の体験を踏まえた上で看護学の中で確立されてきた方であったから、その報告は非常に説得性をもっていた。

 討論は主として社会学専攻の参加者から提出されたが、看護労働とその他のサービス労働との差異、介護者・看護婦・医者などで構成される病院での看護婦の職務と位置づけ、情報化の進展と看護労働の変容、看護・介護労働者としての外国人労働力の是非、など多彩な質問が出た。看護関係者に直接に質問が出来る機会が少ないため、参加者にとっては貴重な機会であったのであろう。

 以上、6月の大会に向けて熱心な研究例会を持てたことはよい滑り出しであった。

2000年度 第2回

開催日程

テーマ: 社会構造の変容とエスニシティ
担当理事: 宮島 喬(立教大学)、梶田 孝道(一橋大学)
研究委員: 小井土 彰宏(上智大学)、西澤 晃彦(神奈川大学)
日 程: 2001年2月3日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 太刀川記念館 1階 会議室
報 告: ●山脇 啓造(明治大学助教授) 「戦後日本の外国人政策と在日コリアンの社会運動−アイデンティティをめぐって」
●南川 文里(一橋大学大学院博士課程) 「エスニック・ビジネスの問題圏−アジア系移民企業家と人種エスニック編成」
司 会: 宮島 喬(立教大学教授)

研究例会報告

担当:梶田 孝道(一橋大学)

 本年度第2回の研究例会が,2001年2月3日,立教大学で開催された。エスニシティ部会では,年間テーマとして「社会構造の変容とエスニシティ」を掲げ,社会構造や社会運動の変化と関係させてエスニシティや外国人の問題を実証的・理論的に考えることにしている。本例会では,山脇啓造氏(明治大学)「戦後日本の外国人政策と在日コリアンの社会運動−アイデンティティをめぐって」,南川文里氏(一橋大学大学院)「エスニック・ビジネスの問題圏−アジア系移民企業家と人種エスニック編成」という二報告をお願いした。第1報告では,朝鮮民族への帰属意識,国家(韓国・北朝鮮)への帰属意識,日本(地域)社会への帰属意識の3点の有無に着目して6つのアイデンティティ類型がつくられた。第1類型(+++,多国籍社会としての日本社会志向),第2類型(++−,一時的滞在者としての外国人),第3類型(+−+,多民族社会としての日本社会志向),第4類型(+−−,日本社会にも同胞社会にも帰属意識なし),第5類型(−−+,単一民族社会としての日本社会志向),第6類型(−−−,日本社会にも同胞社会にも帰属意識なし)がそれである。この類型に基づいて日本政府の在日コリアン政策と在日コリアンの社会運動が分析された。日本政府の政策という点では,1970年代までは第2類型と第5類型が主であったが,80年代以降は第1類型と第2類型の中間への移行も認められるという。在日コリアンの社会運動という点では,定住化を反映して第2類型から第1類型への移行が見られ,近年では新たな主体が登場し,第3類型への傾斜も認められるという。討論者からは,日本政府の在日コリアン政策とアイデンティティ類型とは区別すべきである,日本政府の在日コリアン政策は社会運動以外の要因(外圧等)によっても規定される,第4類型と第6類型が曖昧である,といった意見が出された。第2の南川報告では,アメリカ・エスニシティ研究におけるエスニック・ビジネスとアメリカ社会の「人種エスニック編成」についての説明がなされ,これらの理論的レビューを前提として1965年以降のアジア系移民の事例から,(1)ダウンタウンに集中する衣服産業や小売業に見られるエスニックな編成,(2)比較的豊かな「郊外」に登場した郊外型の企業家移民が紹介され,最後にエスニック企業家の活動がカテゴリー化を通してエスニック対立を一面では促進している点が指摘された。討論者からは,エスニック・コミュニティが可視化する場合としない場合との区別が必要である,ロスアンゼルス等の「郊外」の産業とコミュニティの展開についてより深い調査と分析が求められるといった意見が出された。いずれの報告も内容豊かなものであり,若手研究者を中心に40名弱の参加者があり活発に議論がなされた。

2000年度 第3回

開催日程

テーマ: 社会学の方法と対象──新しい方法の可能性
日 程: 2001年3月3日日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 太刀川記念館 1階 会議室
報 告: ●伊藤 智樹(千葉大学) 「語りと変容――あるアルコホーリクの物語と自己に関する考察」
●池 裕生(上智大学) 「宗教のconstructionism?――ナラティヴ,そして語彙の生きられ方へ着目して」
司 会: 山田 真茂留(立教大学)

研究例会報告

担当:山田 真茂留(立教大学)

 昨年度大会のプリナリーセッションの流れを汲む第3回研究例会「社会学の方法と対象――新しい方法の可能性」が,3月3日に立教大学で開催された。本年度は例会・大会双方を通じて,新しい諸々の方法が経験的研究としていかなる成果を生み出しているか具体的に検討することを主眼とし,本例会では伊藤智樹氏(当時千葉大学・現在富山大学)ならびに菊池裕生氏(上智大学)に報告をお願いした。

 「語りと変容――あるアルコホーリクの物語と自己に関する考察」と題する伊藤報告は,一人のアルコホーリクとの2回にわたるインタヴューを通じて,物語られる自己がどういった様相を呈しているかを綿密に記述したものであり,また「宗教のconstructionism?――ナラティヴ,そして語彙の生きられ方へ着目して」と題する菊池報告は,新宗教教団・真如苑の弁論大会での弁論構築過程において,自己物語がどのように編成されていったかを探究したものである。その対象とするところは大いに違うものの,自己物語という視座ないし現象に定位するという点では共通した2つの報告は,ともに自己や相互行為に関する詳細な事例分析を含んでおり,社会学の刷新を考えるにあたって具体的な示唆にきわめて富むものであった。

 その後の討論の場では議論が百出し,例えば伝統的な社会学の問題設定や探究方法との異同,語りと自己変容との相互影響関係,語りの場への研究者の介在の扱い方,小さな物語の噴出を促進する現代社会的状況,制度化されてしまっている自己物語の捉え方など,実に様々な問題が俎上に乗せられている。ただ,これらいずれに関しても確たる答えが出たわけではなく,とりわけより広い制度的(ないし組織的)文脈との接合可能性という問題については曖昧な部分を多く残す結果となった。が,これら諸々の問題はけっして今回の報告者だけのものではなく,むしろ社会学研究に携わる者一人ひとりが真剣に検討していくべき開かれた課題にほかならないという確認が,最後になされている。

2000年度 第4回

開催日程

テーマ: グローバリゼーションと市民運動
日 程: 2001年4月7日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 太刀川記念館
報 告: ●干川 剛史(大妻女子大学) 「グローバリゼーションとデジタル・ネットワーキング」
●志田 早苗(グリーンピース・ジャパン) 「NGOから見たグローバリゼーション―グリーンピース・ジャパンの場合―」
コメンテーター: 高田 昭彦(成蹊大学)、伊豫谷 登士翁(一橋大学)、小川 葉子(慶應義塾大学)
司 会: 長田 攻一(早稲田大学)

研究例会報告

担当:長田 攻一(早稲田大学)

 当部会における昨年の議論の中心は,グローバリゼーションと国民国家との関係であった。これを踏まえて今年は,グローバリゼーションの担い手として国家,企業,消費者と並んで重要な位置を占める「市民」に注目し,国民国家の枠組みを超えて展開するNGO,NPOなどの活動はどのような問題を提起し,社会学はこれをどのように受け止めたらよいのか,究極的にはグローバリゼーションとは何かをこの観点から考えることとした。

 研究例会では,(1)志田早苗氏 (グリーンピース・ジャパン事務局長)に,「NGOから見たグローバリゼーション―グリーンピース・ジャパンの場合―」,(2)干川剛志氏(大妻女子大学)に「グローバリゼーションとデジタル・ネットワーキング」と題する報告をしてもらった。志田氏は,グリーンピースの活動の紹介を通じて,環境破壊をストップさせるために国家や企業に対抗する力の結集が必要であるという意識を持つ人々が必然的にグローバルな運動を組織せざるを得なかったこと,その過程でパソコン通信やインターネットが不可欠であったことについて報告した。干川氏は,A. ギデンズのグローバリゼーションの概念を踏まえ,今日のデジタル・ネットワーキングの進展により多様なトピックをめぐって多様なサイバー空間が国境を越えて多元的,多層的に形成されてくるなかで,J. ハバーマスの公共圏概念の有効性と限界についての試論的報告を行った。質疑の中で,インフォ・デバイドの問題,文化や価値観の違いの問題,ナショナルな権力に対するNGOの対抗権力形成の問題,市民の概念をめぐっては,個人化との関係,運動を展開する側と働きかけを受ける住民との関係などの問題が議論される一方,グローバリゼーションについては,インターナショナリゼーションとどのように区別しうるのかが議論の焦点となった。志田氏が,捕鯨や塩ビ玩具などの問題めぐって,文化や価値観の違いを克服することが日々の活動の中でいかに大きな部分を占めているかを指摘した点が印象深かった。また,干川氏については,グローバル化と国際化の相違点,ハバーマスの公共圏概念とサイバー空間の関係について質問が集中した。グローバリゼーションと「市民運動」について,アプローチすべき重要な視点と局面のいくつかが示された研究例会であったといえよう。

 〔なお,学会ニュースの案内の段階では,広野良吉氏(成蹊大学名誉教授)のご報告を予定していましたが,ご本人の海外出張の予定との調整が困難となり,直前になってご参加いただけなくなりましたことにつき,深くお詫び申し上げます。〕

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