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研究例会
研究例会報告: 2001年度
2001年度 第1回

開催日程

テーマ: ケアの社会学
担当理事: 池岡 義孝(早稲田大学)・渡辺 雅子(明治学院大学)
研究委員: 出口 泰靖(山梨県立女子短期大学)・平岡 公一(お茶の水女子大学)
日 程: 2002年1月26日(土) 14:00〜18:00
場 所: 慶應義塾大学 三田キャンパス 研究室棟1階 A会議室
報 告: ●井口 高志(東京大学) 「家族介護者の困難経験と家族関係―家族介護の「秩序付け」の様態に注目して」
●土屋 葉(武蔵野女子大学) 「障害者家族におけるケアの<しがらみ>の関係性―障害をもつ人と母親への聞きとり調査から」
討 論: 出口 泰靖(山梨県立女子短期大学)
司 会: 池岡 義孝(早稲田大学)

研究例会報告

担当:池岡 義孝(早稲田大学)

 本年度の研究例会の口火を切って、1月26日(土)に「ケアの社会学」の研究例会を慶應義塾大学で開催した。本部会設定の意図は、介護保険制度導入を直接的な契機として注目度が高まっている「ケア」をめぐって、多様な対象に対してさまざまなアプローチによって行われている研究と議論を交差させ、既存の研究領域の境界を横断する「ケアの社会学」を展望することにある。その第一歩を踏み出す今回の研究例会では、このテーマに関して綿密なフィールドワークにもとづく研究をされている井口高志氏(東京大学大学院)と土屋葉氏(武蔵野女子大学)のお二方に報告をお願いし、次のステップに進むための一里程とした。

 まず、井口氏の報告「家族介護者の困難経験と家族関係―家族介護の「秩序付け」の様態に注目して」では、介護者家族会へ参加している家族介護者に対する聞き取り調査のデータから、家族によって生活の場で行われる介護を、専門家によって専門的な組織の場で行われる介護と対比して、そのケアに特有の秩序付けのあり方から家族介護者の経験する困難性が考察された。つづく、土屋氏の報告「障害者家族におけるケアの<しがらみ>の関係性―障害をもつ人と母親への聞きとり調査から」では、障害者家族において行われる介助場面での介助を行う母親と介助を受ける子ども、それぞれの当事者への聞き取り調査のデータから、介助を介して障害者家族に生起している関係に着目することにより、家族が介護することの意味が問い返された。このあと、コメンテータの出口泰靖氏(山梨県立女子短期大学)から、それぞれの報告者に対して報告にそって多岐にわたるコメントが寄せられ、またフロアからも多くの質問が提出された。そのため、それらの応答で議論の時間がついやされ、残念ながら特定の論点にしぼって議論を深めるところまでは至らなかった。しかし、そうした応答を通じて、ケアの対象は異なるものの、お二方の報告に共通していた家族によるケアをめぐるさまざまな問題、方法としての質的調査法をめぐる問題という2点については、ある程度の議論を構成することができたのではないかと思っている。

 研究例会には若手研究者を中心に40名ほどの参加者があり、さまざまな「ケア」をめぐる調査研究に関わっている立場から多くの質問が寄せられ、報告を含めて濃密な時間を共有することができた。このことから、本テーマ部会の設定が時宜を得たものであることを再確認することができたと考えている。

2001年度 第2回

開催日程

テーマ: 都市底辺層の比較社会学
担当理事: 伊藤 るり(お茶の水女子大学)、玉野 和志(都立大学)
研究委員: 園部 雅久(上智大学)、稲葉 奈々子(茨城大学)
日 程: 2002年2月23日(土) 14:00〜18:00
場 所: 慶應義塾大学 三田キャンパス 研究室棟1階 A会議室
報 告: ●山口 恵子(東京都立大学) 「野宿者の増加と建設日雇い労働市場の変容」
●荒木 剛(山谷争議団) 「日本都市底辺層の現状と運動―80年代以降の山谷を中心として―」
討 論: 稲葉 奈々子(茨城大学)
司 会: 伊藤 るり(お茶の水女子大学)

研究例会報告

担当:伊藤 るり(お茶の水女子大学)

 第2回研究例会は、下記の要領で開催された。参加者は約30名。

 日時:2002年2月23日(土)2:00-6:00
 場所:慶応義塾大学・三田キャンパス研究室棟1階A会議室
 報告:山口恵子(東京都立大学大学院)「野宿者の増加と建設日雇い労働市場の変容」
     荒木剛(山谷争議団)「日本都市底辺層の現状と運動―80年代以降の山谷を中心として―」
 討論:稲葉奈々子(茨城大学)
 司会:伊藤るり(お茶の水女子大学)

 2月例会はテーマ部会「都市底辺層の比較社会学」の準備を兼ねて開かれた。テーマ部会ではグローバル化のもとで進行する格差拡大問題として都市底辺層の問題を位置づけ、国際比較を試みることになるが、例会ではその前提として、日本、特に関東圏における都市底辺層の問題の特徴と現状把握が行われた。当日は山口会員のほかに、山谷争議団の荒木剛氏をゲストとして迎え、現場活動家の立場からお話しいただいた。

 山口報告は、建設業就業者数が近年まで減少していないなかで日雇い労働者の求人は減少しているという傾向を捉え、その背景にある日雇い労働者の就労経路や形態の変化、とりわけ新聞求人・駅・公園手配の増大と寄せ場の機能低下を明らかにするものであった。また、1980年代以降の野宿者増大がこのような寄せ場の変化との関わりで説明された。荒木報告では流動性、単身性、匿名性を特徴とする日雇い労働者が戦後、歴史的にどのように形成されてきたのか、山谷の事例を中心に検討された。特に、労働行政と日雇い労働者の生活実態との乖離、近年著しくなっている高齢化の問題への言及があった。また、討論者の稲葉会員からは、「都市底辺層」の概念化をめぐり、欧米での議論の紹介を交えた問題提起があった。以上を受けて参加者を交えた討論では、外国人日雇い労働者の問題、野宿者の構成に見られる近年の多様化(若年層・女性)、文化、労働運動の展開などをめぐって質疑応答がなされた。なお、荒木報告では、日本の社会学研究者の寄せ場研究における関与のあり方に関する問題提起もなされたが、司会の不手際で会場から十分な応答を引き出すことができなかった。この点を含め、反省材料もいくつか残ったが、全体としてはテーマ部会での国際比較に向け、日本の事例に関して整理されるべき問題群が引き出されたと考えている。報告者、討論者、参加者のみなさん、特にゲストの荒木氏のご協力に感謝したい。

2001年度 第3回

開催日程

テーマ: 文化の社会学の可能性
担当理事: 奥村 隆(千葉大学)、浜 日出夫(慶應義塾大学)
研究委員: 伊奈 正人(東京女子大学)、渋谷 望(千葉大学)、若林 幹夫(筑波大学)
日 程: 2002年3月16日(土) 14:00〜18:00
場 所: 慶應義塾大学 三田キャンパス 研究室棟1階 A会議室
報 告: ●瓜生 吉則氏(東京大学)「マンガの非・場所:あるいは、梶原一騎と小林よしのりに架ける橋」
●本山 謙二氏(東京大学)「異郷で聞かれる音楽、そこで作られる音について:島唄を例に」は、沖縄の「伝統文化」
司 会: 奥村 隆(千葉大学)

研究例会報告

担当:奥村 隆(千葉大学)

 「文化の社会学の可能性」部会の研究例会は、3月16日に慶応義塾大学で開催された。「文化を研究すること」にはどのような方法があり、それにはどんな可能性と課題があるのか。2年間の出発点となるこの例会では、具体的な研究対象にアプローチしているふたりの研究者に報告いただき、討論を行うことで、この問題の検討を開始することにした。

 瓜生吉則氏(日本学術振興会)の報告「マンガの非・場所:あるいは、梶原一騎と小林よしのりに架ける橋」は、マンガを語るいくつかの方法を浮かび上がらせる。一方にマンガをそれが生まれた時代や「社会情況」に置き戻す立場が、他方にはマンガ表現の内部で分析を進める「表現論」の立場がある。これに対し瓜生氏は、石子順造の劇画批評を参照しながら、作り手と受け手の間で劇画が成立する<場>に着目する。この<場>は作品に先立って存在するのではなく、そこで作品をめぐる受け手の<わたし>語りや身体性が登場する。この<場>から、瓜生氏は意味が通過する「透明性」ではなくざらざらとした「もの」として、「マンガ=メディア」をとらえ直そうとする。

  本山謙二氏(東京大学)の報告「異郷で聞かれる音楽、そこで作られる音について:島唄を例に」は、沖縄の「伝統文化」と考えられがちな「島唄」が、1920年代以降の大阪で沖縄からの移住者によって成立したことを描き出す。この「異郷」で音が漏れないように「押入れ」で演奏されたこの音楽は、大阪での新しい音の経験による変化を見せながら、沖縄民謡の父・普久原朝喜によってレコード化され、移住者にとって「ひとつの沖縄」を形成するものとなっていく。本山氏は、島唄が「移動の経験」のなかで「他者」と関係しながら生まれた過程をたんねんに辿るとともに、それを土着の「沖縄文化」ととらえる「まなざし」の政治性を指摘する。

  このふたつの報告が提起した、「文化」をある「場」のなかで考える、という論点を軸に、さまざまな討論がなされた。その「場」をどんなものとして想定するか、「場」とマンガの作品性の関係をどう考えるか、「場の反復」ともいえる歴史性を議論にどう組み込むか、そこで「他者」(「異郷」)はどう考えられ「自己」(「沖縄」)はどう生成するのか。また、「文化」という言葉によってある領域をそれ以外の「場」から囲い込むこと自体の問題性への提起もなされ、議論が行われた。参加者は、約30名であった。

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