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研究例会
研究例会報告: 2002年度
2002年度 第1回

開催日程

テーマ: グローバル化と都市底辺の再編
担当理事: 伊藤 るり(お茶の水女子大学)、玉野 和志(都立大学)
研究委員: 園部 雅久(上智大学)、稲葉 奈々子(茨城大学)
日 程: 2003年1月25日(土) 14:00〜18:00
場 所: 慶應義塾大学 三田キャンパス 大学院棟1階 313教室
報 告: ●南川 文里(日本学術振興会) 「ロスアンジェルスにおけるエスニック経済と人種編成――多民族状況における『都市底辺層』をめぐって」
●山本 薫子(山口大学) 「外国人労働者の流入・定着と都市底辺の変容――横浜の事例を中心に」
司 会: 玉野 和志(東京都立大学)

研究例会報告

担当:玉野 和志(東京都立大学)

 本年度の第1回の研究例会は、1月25日(土)慶応義塾大学三田キャンパスで行われた。残念ながら、当日は例年よりも参加者が少なく、のべ10名あまりであったが、活発な議論が行われた。グローバル化が都市底辺にどのような影響を与えているかをめぐって、横浜寿町に関する事例とロスアンジェルスに関する事例が報告された。

 まず、山本薫子(山口大学)の報告「外国人労働者の流入・定着と都市底辺の変容――横浜の事例を中心に」では、外国人労働者の動向と寄せ場としての寿町の変化には、何らかの関連が予測されるとはいえ、その因果関係は必ずしも明確ではなく、また確かめられているわけでもないことが指摘された。寄せ場の場合、むしろ建設産業の動向や行政による政策の変化が大きな影響を与えていると考えられる。

 また、南川文里(日本学術振興会)の報告「ロスアンジェルスにおけるエスニック経済と人種編成――多民族状況における『都市底辺層』をめぐって」では、人種・エスニックな居住隔離と移民集団のエスニック経済が形成されていくことによって、都市底辺における貧困問題というよりも、全体としての人種関係の権力的な再編がより重要なテーマになっていることが指摘された。その結果、グローバル化は単純な意味での都市底辺の再編を進めるというよりは、より広い文脈でその影響の進展と都市底辺にたいする意味合いをトータルに評定することが求められるような、かなり複雑な状況にあることが確認された。

 2つの報告をめぐって行われた総括討論では、グローバル化を人の国際移動の局面に絞るというやり方では、都市底辺との関連をつかまえることが困難であり、むしろ広い意味でのグローバル化がどのように都市底辺の変容と結びついているかを、具体的な実証研究からひとつひとつ紐解いていくことが必要であることが明らかになったように思う。

 大会時のテーマ部会では、これらの成果をふまえて、グローバル化と都市底辺の関係をできるかぎり具体的に考えていきたいと思う。会員諸氏の積極的な参加をお願いしたい。

2002年度 第2回

開催日程

テーマ: 文化の社会学の可能性
担当理事: 奥村 隆(千葉大学)、浜 日出夫(慶応義塾大学)
研究委員: 伊奈 正人(東京女子大学)、渋谷 望(千葉大学)、若林 幹夫(筑波大学)
日 程: 2003年2月22日(土) 14:00〜18:00
場 所: 慶応義塾大学 三田キャンパス 大学院棟1階 313教室
報 告: ●北田 暁大氏(筑波大学) 「文化の「社会」学と「政治」学のあいだ」
●中筋 直哉氏(法政大学) 「文化と社会構造−都市・地域社会研究における文化の位置づけをめぐって」
司 会: 渋谷 望(千葉大学)

研究例会報告

担当:渋谷 望(千葉大学)

 2003年2月22日、慶応義塾大学三田校舎において本部会研究例会が開かれた。参加者は50人強。今回の例会は隣接領域とのかかわりのなかで文化の位置づけを再検討することをねらいとして(1)北田暁大(筑波大学)「「文化の社会学」と「文化の政治学」のあいだ」、(2)中筋直哉(法政大学)「文化と社会構造――都市・地域社会研究における文化の位置づけをめぐって」の両氏による報告が行なわれた。

 北田氏による報告は、まずウェーバーの『客観性論文』を手がかりに、文化の科学としての社会学を検討し、そもそも「文化」および「社会(学)」が「残余カテゴリー」として成立していた点を示した。さらにこの議論を土台に、レイヴなど文化実践へのコミットを強調している(日本の)カルチュラル・スタディーズが、ポジティブに規定された、それゆえ限定的な文化概念に依拠しているのに対し、残余カテゴリーとしての文化/社会へコミットすることの可能性を示唆した。

 中筋氏の報告は、戦後の日本における地域社会学の研究をたどりなおすことにより、産業社会からポスト産業社会への構造転換によって、<社会構造>と<文化>の関係の認識のモードが、構造機能主義に典型的な「社会《と》文化」から、言説分析などに顕著な「文化《が》社会構造」へと変容してきたことを指摘し、地域研究がこの変容に結果的に対応していないのではないかという論点を示した。またさらに「文化《と》社会構造」の新たな構図が要請されていることも示された。

 中筋報告に対しては、社会と文化の関係の「構図」の変容を促すようなより具体的な力や要因を記述することの困難さの問題などが指摘された。北田報告に対しては、文化へのコミット――「愛」という言葉も使われたが――の不在が指摘された。北田氏はこの指摘に対し、そこかしこで見出すことのできる「テレビをだらだら見るような」(言い回しは必ずしも正確ではないが)文化実践――"無為の"文化実践とでも言うべき?――の分析の必要性を論じた。

 両報告はその問題関心は異なるものの、ともに文化の社会学の系譜を再検討する作業であるといえ、少なからず接点があったように思える。この点に関して、かつての「文化《と》社会構造」の構図はフロイトとマルクスの接合に対応しており、これがその後に継承されないことに何らかの問題性を見出せるのではないかといった中筋報告に対する質疑は、十分に議論されなかったものの、文化社会学の系譜学への補助線の一つであるように思えた。ただ全体として司会(渋谷)の力量不足もあり、二つの議論を照合させる議論には至らなかったことは残念であり、シンポジウムに課題の一つを残したといえよう。たとえば強引な整理を試みれば、中筋報告においては「文化《が》社会」となったのはポスト産業社会的状況においてであるのに対し、北田報告では残余カテゴリーとしての「文化」と「社会」の等値可能性は、社会学の出生時にまでさかのぼるものとして提示されたように見えた。両者の認識の相違は、社会的なもの、文化的なものをどう捉えるかという問題とかかわると同時に、現在の社会を問題化する視点の違いであるように思える。両氏にはシンポジウムのコメンテーターも引き受けていただいており、大会でのより深まった議論が期待される。

2002年度 第3回

開催日程

テーマ: ケアの社会学
担当理事: 渡辺 雅子(明治学院大学)、池岡 義孝(早稲田大学)
研究委員: 平岡 公一(お茶の水女子大学)、出口 泰靖(山梨県立女子短期大学)
日 程: 2003年3月15日(土) 14:00〜18:00
場 所: 慶應義塾大学 三田キャンパス 第一校舎1階 107教室
報 告: ●村山 浩一郎(一橋大学) 「福祉サービスの自由化と公私関係の再編成−ケアハウスとグループホームの事例から−」
●新田 雅子(立教大学) 「在宅要介護高齢者の日常生活における『制度化』の問題−ホームヘルプサービスをめぐるトラブルのプロセスを通して−」
討 論: 高橋 万由美(宇都宮大学)、藤崎 宏子(お茶の水女子大学)
司 会: 平岡 公一(お茶の水女子大学)

研究例会報告

担当:平岡 公一(お茶の水女子大学)

 本部会では、前年度と同様のテーマを掲げ、研究例会を2003年3月15日に慶應義塾大学三田キャンパスで開催した。参加者は30名前後であった。

 今回の例会の企画にあたっては、前年度に積み残した課題ともいえる社会的なケア、あるいはサービスのシステムや制度・政策に関わる問題に焦点をあてることとし、これらの問題についての研究実績をお持ちの村山浩一郎(一橋大学大学院)、新田雅子(立教大学大学院)のお二方に報告をお願いした。

 村山氏の報告「福祉サービスの自由化と公私関係の再編成−ケアハウスとグループホームの事例から−」では、近年の規制緩和・市場化推進策のなかで進展しつつある社会福祉事業主体・公的助成対象の自由化に焦点を合わせて、ケアハウスとグループホームという2つのサービス領域を中心に、自由化の実態と、それに伴う公私関係(政府と民間社会福祉の関係)の再編成の状況が分析され、今後の課題が検討された。続く新田氏の報告「在宅要介護高齢者の日常生活における『制度化』の問題−ホームヘルプサービスをめぐるトラブルのプロセスを通して−」では、「制度化institutionalization」を鍵概念としつつ、人々が要介護高齢者・サービス利用者になる際の日常生活の秩序形成のプロセスを解明することを目的として実施された質的調査の枠組みと分析結果が報告された。

 討論者は、高橋万由美氏(宇都宮大学)と藤崎宏子氏(お茶の水女子大学)にお願いした。高橋氏からは、村山氏の報告に対して、非営利組織のガバナンスや国家責任のあり方等に関するコメントがなされ、保育など他のサービス分野も分析対象とすることの必要性が指摘された。藤崎氏からは、新田氏の報告に関して、理論と実証の接合への意欲的な取り組みであるとの評価がなされるとともに、「制度化」概念を基軸に据えたことの意義など多岐にわたるコメントが寄せられた。その後、フロアからの発言を交えて、活発な討論が行われた。

 ケアの社会学的研究というと、従来は、ケアを担う家族の困難な状況を明らかにし、そこから政策上・実践上のインプリケーションを引き出すというタイプの研究がイメージされがちであったが、今回紹介された2つの研究は、政策やサービス供給システム、あるいは専門的実践を分析の主な対象とするものであった。今回の例会での報告・討論を通して、そのようなタイプの社会学的研究の意義が明らかにされるとともに、ケアという研究領域の「未耕の沃野」的性格が改めて確認されたといえるだろう。

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