2007年度 第1回

開催日程

テーマ: 人口減少時代の地域づくり
担当理事: 赤川学(東京大学)、西山志保(山梨大学)
研究委員: 田渕六郎(上智大学)、原田謙(いわき明星大学)
日 程: 2008年2月9日(土)14:00〜18:00
場 所: 日本女子大学目白キャンパス 百年館低層棟2F 204教室
報 告: 報告(1):斉藤康則(東京大学大学院)
「地方鉄道廃線後にみられる新たな交通手段の創出とその課題
――日立電鉄線廃線後の乗合タクシー事業に即して」(仮)

報告(2):高木竜輔(日本学術振興会)
「ポスト55年体制における公共事業と地方政治」(仮)
司 会: 赤川学(東京大学)、西山志保(山梨大学)

研究例会報告

赤川学(東京大学)

 第1回研究例会「人口減少時代の地域づくり」は、2月9日(土)14時から18時、日本女子大学・目白キャンパスで行われた。

 まず齋藤康則さん(東京大学大学院)が、「地方圏における乗合タクシー事業と展開と課題−−日立電鉄線配線後の「地域の足」をめぐる合意形成と協働」と題する報告を行った。企業城下町といわれる日立市の鉄道廃線に伴い、公共交通が空白化したコミュニティで、いかなる対応がなされたか、そこにどのような課題があるかが、詳細なフィールドワークに基づいて論じられた。報告によると、鉄道や路線バスの廃止といった課題は同じでも、地区ごとの対応は異なる。たとえば高齢化率30%で「陸の孤島」と化した坂下地区では行政主導型の乗合タクシーが、高齢化率18.3%と比較的若い塙山地区では市民主導型の乗合タクシーが展開していった。その際、前者では「利用者1割、地域2割、市7割」という応分負担の原則、後者ではタクシー事業者・利用高齢者・コミュニティ推進会の「三方一両損」という論理に基づいて合意が形成されたという。質疑応答では、行政の縮小と空白を埋める<補完>と<代替>の論理が、どのような地域特性に基づいて形成されるのか(ないし、されないのか)という論点が浮かび上がった。

 次いで高木竜輔さん(日本学術振興会)が、「ポスト55年体制における公共事業と地方政治」と題する報告を行った。徳島・吉野川可動堰をめぐる徳島市での住民投票運動と県知事選挙の動向を事例に、利益媒介型の地方政治が再編される過程と住民意識を丁寧にフォローしている。報告によると、かつて地方の政治行動を規定した保革軸は衰退し、「底辺民主主義/テクノクラシー/ポピュリズム」という新しい亀裂が現れている。たとえば脱開発のソフト型公共事業を掲げて当選した知事は、左派自由主義的で表出的な底辺民主主義を基盤としたが、その後、左派/右派を問わない用具的なテクノクラシーに依拠する改革派知事にとって代わられた。そこでは従来の利益媒介型の地方政治ではなく、既成組織に依存しない中抜き型の地方政治が生まれつつあるという。質疑応答では、三層の亀裂という概念規定をめぐる問題(その西欧固有の文脈と日本社会への適応可能性の是非)や、保革にかかわらず改革フレームに依拠する地方政治の現状、川という流域全体の問題に特定の市の決定が強い影響をもつことの意味について、突っ込んだ討議が行われた。

 両者の報告は、かたや行政の縮小に対応する地域コミュニティに、かたや保革の軸で割り切れない地方政治に焦点をあてており、いっけん異なる対象を扱っている。しかし今後少なくとも数十年、日本が直面する人口減少という現実に、地域住民や政治がどのように対応すべきか、という論点を共有していたように思われる。たとえば鉄道廃止に乗合タクシーで対応した二つの地区は、成り立ちも高齢化率も異なる。そのことと「応分の負担」の比率にはなんらかの関連があるのか。また吉野川可動堰をめぐる政治過程でも、人口減少下における地方の自立(ないし「切り捨て」)という文脈のもと、従来の保守/革新、開発/保全などの二項対立は消滅し、「改革」というキーワードが共有される。しかしその先には、どんな対立軸がありうるのか。この例会で提出された「宿題」を、大会当日のテーマ部会でさらに深めたい。なお当日は、凍てつく雨と強風にもかかわらず、約20人が出席。ほぼ全員が質疑応答に参加し、予定終了時間をオーバーして熱のこもった討議が続けられた。報告者、司会者、出席者の方々に感謝したい。

2007年度 第2回

開催日程

テーマ: 社会学における歴史的資料の意味と方法
担当理事: 小林多寿子(日本女子大学)、野上 元(筑波大学)
研究委員: 大出春江(大妻女子大学)、菊池哲彦(東京大学)、武田俊輔(滋賀県立大学)
日 程: 2008年3月1日(土)14:00〜18:00
場 所: 日本女子大学目白キャンパス百年館低層棟2F 204教室
報 告: 報告(1):香西豊子(東京大学大学院・日本学術振興会)
「『人体』の記述、『社会』の記述」
報告(2):角田隆一(東京都立大学大学院)
「写真の語りから何をみるのか?」(仮)
司 会: 菊池哲彦(東京大学)

研究例会報告

菊池哲彦(東京大学)

 記録の保存や公開にかかわる制度的な整備や情報技術の発達にともなって、アクセス可能な資料の「量」が爆発的に増大している現在、資料を社会やその歴史を記述するための「情報」と捉えるだけでなく、「資料とは何か」「その資料によって何が書けるのか」についてより意識的になる必要に迫られているのではないでしょうか。この部会のテーマは、社会を捉えていくためのさまざまな資料が持っている可能性や、社会学研究者のそれらとの「向かい合い方」を議論することによって、社会学における「歴史」を、方法論の問題としてだけではなく、資料を通して新たな社会のリアリティを提示する可能性について議論するという主旨で立ち上げられました。

 3月1日(土)に日本女子大学で開催された研究例会では、献体・献血・臓器提供をめぐることばを丹念に渉猟・読解するという地道な研究を『流通する「人体」』(勁草書房)にまとめられた香西豊子さんに「『人体』の記述、『社会』の記述」を、家族や若者の写真実践とそこに付随してくる語りに着目した研究を展開されている角田隆一さんに「写真の語りから何をみるのか?──ライフストーリーにおける写真の意味と方法をめぐって──」を、それぞれの研究における資料との関わり方、そして、その資料による社会記述・歴史記述の可能性をめぐって報告していただきました。

 香西さんには、ご自身の学位論文や御著書を書かれた過程において、資料とどのように向き合ったのかというところからご報告いただきました。日本最初の篤志解剖として知られている「ミキ女」について、ある資料は意志(特志であるかないか)として語り、別の資料は身分(罪人ではなく平人である)の問題として語るという「ことばのゆらぎ」に注目し、そこから研究を進めていったご自身の経験をもとに、こうしたゆらぎを、理論的に説明ないし解釈してしまうのではなく、解剖体をめぐる膨大なことばを蒐集し付き合わせていくことによって、なんらかの「術語」で説明しきれない、ある社会性を付与された「人体」をめぐることばの「輻輳ぶり」を、その輻輳ぶりにしたがって記述していく「事象内記述としての社会記述」の可能性を示していただきました。続く質疑応答では、事例を理論によって一般化しないことの社会学的な意義、資料選択の問題──悉皆調査が不可能という現実における資料の外延の確定、先行研究が資料の読み方を方向付けるような場合の両者の区別、資料群における事例と理論の区別などをどう考えればよいのか──という論点を中心に議論が展開しました。

 角田さんには、ご自身のフィールドワーク「写真を用いたライフストーリー・インタビュー」をふまえて、資料としての写真の可能性について報告していただきました。インタビューのなかで、インフォーマントが、持参してくれた写真をきっかけに、自分でも忘れていた幼少時の体験を突然さまざまな身体的反応をともないながら思い出し、その偶発的に〈突き刺す〉ような想起がそれまでの滑らかな「語り」を頓挫させ、異なった語り方へと開いていったという事例がとりあげられました。その事例を中心とした考察から、写真は、ある瞬間における記録であるだけでなく、時間的にも空間的にもダイナミックな変容過程を抱え込んだ「記憶メディア」として捉えうること、そしてそれゆえに、歴史資料としての写真が、映像として写しとられた情報以上の多義的な「意味」を示す資料でありうるということをご指摘をいただきました。ご報告を承けて、研究者によるインタビューという状況や対象者である若年女性の事例をどこまで「写真実践」として一般化可能か、といった問題、ここで資料になっているのは写真であるのかそれとも語りであるのか、という資料の固有性の問題、写真の実証性と個人の歴史性とをどう関連づけていくのか、という問題などが討論されました。

 お二人の報告と、それぞれに対する質疑応答の後、総括討論を行い、個別事例と理論化・一般化のあいだでどのような社会記述・歴史記述が可能か、そして、アクセス可能な資料が量的に増加する状況において資料選択をどう考えるか、という論点を中心に活発に討論されました。

 今回の研究例会は、30名を超える多くの方々にご参加いただき、大変な盛会となりました。歴史的な資料や記述と向き合った時に、多くの研究者が直面せざるをえない、本質的な議論が成されたと思います。報告者のお二人と、積極的に発言くださった参加者のみなさまのおかげで非常に有意義なものになりました。会を企画した担当理事・研究委員一同、感謝いたします。6月の学会大会におけるテーマ部会では、今回の研究例会で提出・議論された論点を承けつつ、それをさらに深化させるような議論を期待したいと思います。

2007年度 第3回

開催日程

日 程: 2008年5月31日(土)14:00〜18:10
場 所: 立教大学池袋キャンパス12号館地下1階 第1・第2会議室、第3・第4会議室

■セッション1〔第1・第2会議室〕
司会:浅野 智彦(東京学芸大学)

14:00〜 「日本橋の比較社会学的考察――都市表象分析の試み」

楠田 恵美(筑波大学)
コメンテーター:菊池 哲彦(東京大学)

15:00〜 「都市コミュニティの意味と可能性に関する研究
      ──新宿大久保・歌舞伎町地域における地域活動実践者が
      形成するネットワーク」
横山 順一(専修大学)
コメンテーター:高木 恒一(立教大学)

16:10〜 「フランス郊外における社会的排除と「経験の共同体」
      ──2005年秋の「暴動」に対する社会学的分析についての一考察」
村上 一基(一橋大学)
コメンテーター:中筋 直哉(法政大学)

17:10〜 「Honorary or Honorable?:
     A Study of Japanese Residents in South Africa during the
     Apartheid era With Special Reference to their Experiences and
     Understanding of their Status in the White-Dominant Society」
山本 めゆ(ケープタウン大学)
コメンテーター:水上 徹男(立教大学)

■セッション2〔第3・第4会議室〕
司会:井腰 圭介(帝京科学大学)

14:00〜 「日本の男性学における生殖論の臨界
      ――フェミニズム以降の男性の権利と義務の再構成を通して」
齋藤 圭介(東京大学)
コメンテーター:江原 由美子(首都大学東京)

15:00〜 「カミングアウトから見る「家族」
      ――ゲイ・バイセクシュアル男性の生まれた家族の語りから」
三部 倫子(お茶の水女子大学)
コメンテーター:赤川 学(東京大学)

16:10〜 「日露戦争の〈記憶〉と日本社会 ――歴史社会学的考察」
塚田 修一(慶應義塾大学)
コメンテーター:野上 元(筑波大学)

17:10〜 「労働時間における『分布の分散化』とその下での長時間労働者像
      ――労働時間短縮政策後の変化を探る」
高見 具広(東京大学)
コメンテーター:上林 千恵子(法政大学)

修論フォーラム開催報告

浅野 智彦(研究委員会委員長・東京学芸大学)

 昨年度、学会大会とあわせて開催された「修論フォーラム」が、3年目の今年は立教大学で5月31日に開催されました。今回は、2007年度に修士論文を提出した7大学・8名の報告者を2つのセッションに分け、修士論文の概要の報告と、報告者が希望したコメンテーターからのコメントと応答、参加者をまじえた討論が行われました。

 このうち、セッション1(司会・浅野智彦)では、楠田恵美氏(筑波大学)「日本橋の比較社会学的考察――都市表象分析の試み」(コメンテーター・菊池哲彦氏)、横山順一氏(専修大学)「都市コミュニティの意味と可能性に関する研究──新宿大久保・歌舞伎町地域における地域活動実践者が形成するネットワーク」(コメンテーター・高木恒一氏)、村上一基氏(一橋大学)「フランス郊外における社会的排除と「経験の共同体」──2005年秋の「暴動」に対する社会学的分析についての一考察」(コメンテーター・中筋直哉氏)、山本めゆ氏(ケープタウン大学)Honorary or Honorable?: A Study of Japanese Residents in South Africa during the Apartheid era With Special Reference to their Experiences and Understanding of their Status in the White-Dominant(コメンテーター・水上徹男氏)の4報告がなされました。また、セッション2(司会・井腰圭介氏)では、齋藤圭介氏(東京大学)「日本の男性学における生殖論の臨界――フェミニズム以降の男性の権利と義務の再構成を通して」(コメンテーター・江原由美子氏)、三部倫子氏(お茶の水女子大学)「カミングアウトから見る「家族」――ゲイ・バイセクシュアル男性の生まれた家族の語りから」(コメンテーター・赤川学氏)、塚田修一氏(慶應義塾大学)「日露戦争の〈記憶〉と日本社会――歴史社会学的考察」(コメンテーター・野上元氏)、高見具広氏(東京大学)「労働時間における『分布の分散化』とその下での長時間労働者像――労働時間短縮政策後の変化を探る」(コメンテーター・上林千恵子氏)の4報告がなされました。

 同時に開催されたこの2セッションにはあわせて60名ほどの参加者があり、コメンテーターからは修士論文を事前に深く読み込んだ評価のコメントや鋭い質問がなされ、大学院生を中心にした参加者からも多くの質問・発言がありました。セッション終了後に行われた懇親会には30名ほどの参加者がありなごやかな雰囲気の中セッションに引き続いて意見交換が行われていました。