HOME > 年次大会 > 第44回大会(報告要旨・報告概要) > 自由報告 第1部会
年次大会
大会報告:第44回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第1部会)

 第1部会  6/9 10:00〜12:30 [N棟N201教室]

司会:藤田 弘夫 (慶應義塾大学)
1. 熊本県小国町における地域自治組織の重層 久木元 真吾 (東京大学)
2. 伝統的意識の後退と個人化の進行
――滋賀県愛東町住民意識調査結果に基づいて――
石原 豊美 (農業総合研究所)
3. 新時代に向けての企業組織と雇用
――活力ある企業社会を求めて――
佐々木 仁 (無所属)
4. 知識人・民衆・クローズ4 尾上 正人 (東京大学)

報告概要 藤田 弘夫 (慶應義塾大学)
第1報告

熊本県小国町における地域自治組織の重層

久木元 真吾 (東京大学)

 いわゆる「町内会」という地域自治組織は、これまでに数多くの社会学者の関心の対象となってきたが、そうした諸研究において無条件に前提とされてきたと思われるのが、「ある一つの地域にはただ一つの町内会だけが存在する」という理解である。しかし、熊本県阿蘇郡小国町においては、町内会に相当する地域自治組織として、「部」および「組」(以下部−組)と「大字協議会」の二つが存在する。いずれも当該地域の全世帯がメンバーであり、したがって基本的にすべての町民は部−組と大字協議会の両方に所属していることになる。二つの組織は、競合・対立しているわけではなく、また単一のヒエラルキーに入れ子状に位置づけられるわけでもない。それにもかかわらず、両組織はそれぞれ固有な組織として、実質的な活動を伴いつつ、厳密に区別されながら運営されているのである。

 本報告では、こうしたユニークなあり方をみせている小国町の地域自治組織について、従来の町内会研究をふまえつつ、その歴史的な展開と社会学的な背景について検討し、組織の重層性がもつ意味について考察を行う。また、この小国町は、近年活発な住民参加を伴うまちづくりを進めていることでも知られており、こうしたまちづくりの展開と地域自治組織のもつ意味との関係についても、あわせて検討する予定である。

第2報告

伝統的意識の後退と個人化の進行
――滋賀県愛東町住民意識調査結果に基づいて――

石原 豊美 (農業総合研究所)

 1985年1月(第1回調査と略す)および1995年8月(第2回調査と略す)に実施した滋賀県愛東町住民意識調査の結果を概略報告する。

 調査は、第1回、第2回とも同町の2つの集落において、18歳以上の全住民を対象とし、留置法により実施した。有効回答数および有効回答率は、第1回調査が551(79.3%)、第2回調査が511(69.5%)である。

 意識に関する23(1985年実施の第1回調査より抜粋)および24(1995年実施の第2回調査)の調査項目への回答結果について検討した。第1回調査と第2回調査の間で、「隣近所との付き合いは煩わしい」、「集落や村内の行事に参加したくない」および「社会福祉の施設は近くに作ってほしくない」の3項目の支持率が大幅に増加し、「子供のいない家では家系が絶えないよう養子をとるのがよい」および「長男夫婦は親と一緒に暮らすのがよい」の2項目において支持率の減少が著しい。

 結果は、2回の調査の間で家の継承に関わる伝統的な意識が後退し、地域社会の中で「私」の領域が重視されるようになったと要約される。この傾向は、「18-29歳」および「30-39歳」層の意識の動向を反映したものである。この2つの年齢層は、「事務・サービス」業従事者および「工員・作業員」が多い。また「30-39歳」層については、第2回調査によって、「レクリエーションの機会が充実すること」を望む割合が高いことが示されている。

 報告当日には、農村社会における伝統的意識の変容過程と個人化の志向についての理論的な検討を併せて行う予定である。

第3報告

新時代に向けての企業組織と雇用
――活力ある企業社会を求めて――

佐々木 仁 (無所属)

 世界的な貿易自由化の波の中、我が国の経済構造の改革が求められるようになって久しい。それはひいては、我が国の企業が、国際競争力に対応しうるため、企業組織や企業体質の改善をも求めるものである。そうした折、バブル崩壊後の長期にわたる不況時代に入り、それらについては余儀ないものとなっている。そのため、多くの企業においては、さまざまな改革が断行されつつあるが、それは、これまでも度々問題とされながら、なかなか改善されることのなかった年功序列、終身雇用といった雇用慣行をも含め、新たな時代へ向けての企業活力の維持・復活を求めたものである。

 一方、近年における情報化技術の進展は、企業社会にも大きな影響を及ぼしてり、多くの企業が、そういった技術を積極的に取り入れている。その結果、LANなどオフィスにおけるネットワーク化は既に常識のものとなり、さらに外部ネットワーク化によるSOHO(スモール・オフィス/ホーム・オフィス)の実現も具体的な段階にまで至っている。そういった状況の中では、社内コミュニケーションのあり方なども必然的に変化し、企業組織自体も変化してゆくものと考えられる。 本報告においては、以上2点を背景として、現在模索される新たな時代へ向けての企業組織や雇用のあり方を、昨年実施したヒアリング調査の結果をもとに探っていく。

第4報告

知識人・民衆・クローズ4

尾上 正人 (東京大学)

 アトリー政権(1945-51年)の成立とともに華々しく開始され、その末期には早くも政権担当者たちの士気がそがれていった産業国営化運動は、英国労働党にまつわる知識人と民衆の悲劇的・喜劇的隔絶を、もっとも雄弁に語るもののひとつである。たとえばつぎのような、一般にうけいれられやすい見方がある。すなわち、ある時期まで国営化の推進は、「労働者階級」じしんが希求する新しい社会への里程標であったが、ある時期からの国営化運動の停滞は、労働党幹部の資本主義体制の完全超克をおそれる「社会民主主義的」偏向によってこうした民衆の欲求が封殺されたものだ、とする見方である。だがこうした見方とはうらはらに、国民の国営化への関心ははじめからさほど高くなく、その傾向は終わりになるほど悪くなった。むしろ世論は戦時期からさほどプロ社会主義化しておらず、民衆は日々のプライヴェートな利害関心のなかで完結した生活をしていた。労働党幹部の高邁な社会主義的理念は――それは「共産主義」とよんでも遜色ないものだった――、「大資本の圧力」うんぬん以前に国民の無関心・忌避によって頓挫させられたというのが、実態にちかい見方のようにすら思われるのである。

報告概要

藤田 弘夫 (慶應義塾大学)

 第一報告は久木元真吾氏(東京大学大学院)の「熊本県小国町における地域自治組織の重層」であった。氏は小国町の調査から、従来一地域に一町内会が存在するという通説に疑問を呈する。氏は歴史的、社会的条件次第では、一地域に複数の町内会が成立するケ−スもあるのではないかという。しかし問題は「町内会」の概念に、どのような概念内容を与えるかで、大きく変わってくる。質疑も当然この点に集中した。行政学など隣接科学の成果を生かすことで、さらなる展開が期待される。第二報告は石原豊美氏(農業総合研究所)の「伝統的意識の後退と個人化の進行」であった。氏は滋賀県愛東町における2度にわたる住民意識調査結果に基づいて報告を行った。しかし報告主題に対して、配布された分厚い資料が未整理のままであったばかりでなく、資料の分析も中途半端であったことが惜しまれる。第三報告は佐々木仁氏の「新時代に向けての企業組織と雇用」は、バブル経済後の日本企業の体質改善を、雇用制度の改革と社内コミュニケーションの変化の観点から、ヒアリング調査をしたものである。報告では、ぶらさがり社員や上ばかり見ているヒラメ族の社員の存在など話のおもしろさに比して、調査結果が課題となっていた企業の活性化にどうつながるのか、調査主体など調査の概要が十分に明らかにされなかったこともあって、今ひとつ説得力に欠けていた。第四報告は尾上正人氏(東京大学大学院)の「知識人・民衆・クローズ4」であった。戦後の総選挙で戦争の英雄チャーチルを破って、労働党のアトリーが政権を樹立した。しかし同政権の産業国有化政策は、当初より大衆に不人気な政策であったことを強調する。イギリスの産業国有化政策は労働党の勝利の原因ではなく、むしろ結果であった。また、社会主義化の推進力となったのも労働者階級であるよりも、むしろ知識人・プロフェッショナルな層であったという。若いブレア党首のもとで国有化政策の放棄など、最近の労働党の大胆な政策転換との関連からも興味深い報告となっていた。

▲このページのトップへ