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年次大会
大会報告:第44回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第3部会)

 第3部会  6/9 10:00〜12:30 [N棟N204教室]

司会:山崎 敬一 (埼玉大学)
1. 会話分析という方法について
――119番通話を事例として――
岡田 光弘 (筑波大学)
2. 相互行為と制度 浦野 茂 (慶應義塾大学)
3. 情報・ボランティア・ネットワーク
――コンピューター・ネットワークにおけるボランタリー・アクションの展開――
干川 剛史 (徳島大学)

報告概要 山崎 敬一 (埼玉大学)
第1報告

会話分析という方法について
――119番通話を事例として――

岡田 光弘 (筑波大学)

 本報告では、実際の119番通話のデータをもとに、会話分析が研究の方法論としてもっている諸特徴について考察していく!私たちの文化で使用されているいくつかの概念と相互行為としてのトーク(talk-in-interaction) が、会話分析という方法によって展開され、解明されるというとき、会話分析者たちは何をしているのだろうか? 通話の中で成員が相互行為としてのトークの組織化を通じて、社会組織をどのように動員していくのか、これを内側から(from within) 展開し、分析者がそれをどのように提示できるのかを示そうとする試み[岡田 1996a,b]の中で明らかになってきた、方法論的な問題について順に考えていく。たとえば、通信司令室員と通報者は、119番通話のなかで、自分たちの実践的な課題に指向しながら、相互行為としてのトークを行なっている。119番通話においても特定の課題に指向した慣行の構造がある。会話分析は、そういった構造を取り出そうとするときに大きな力を発揮してきた!しかし、会話分析者たちは、通話にあらわれる構造やある種の語彙の分布の多寡を問うことには大きな陥穽があるという。実証主義的な方法論は、相互行為の基底にある規範的な秩序の存在、そしてそれがさまざまな概念と結びついているということを見失ってしまうという[Schegloff 1991a]。一方、SchegloffがSearleやGoffmanとの論争で論じたように会話分析は徹底的に実際のデータ拘る[Schegloff 1988,1991b]。これはどのように調停されるのだろうか? また、これと関連して$伝統的に社会学が対象としてきた社会構造・制度を、日常の会話の構造の秩序だった変形として扱うという方向で研究が進められている会話分析(を用いた諸研究)[Drew & Heritage 1992]には構造と行為主体の再帰性といった「構造−行為主体」の二元論に絡めとられる危険性と、社会を会話の構造に切り詰める還元主義に陥る危険性とが存在することも示していきたい。

第2報告

相互行為と制度

浦野 茂 (慶應義塾大学)

 本報告の目的は、組織の課業(task)の対象が対話的および身体的実践を通じてどのように形作られてゆくのかを、録画データにもとづきながら探究することにある。具体的にいえば、119番通報における通報者とその通報の受け手である通信指令室員、およびその二者によるやり取りを傍受するその他の通信指令室員、この三者の共同作業によって、消防という課業にレリヴァントな対象のひとつである「傷病者」が形作られてゆく過程を、その産出へと方向づけられた可視的・可聴的な方法の行使に注目しながら分析すること、ということになる。ちなみに「傷病者」は単なる「病人」とか「怪我人」とは異なる。消防という組織の対処すべきものとして保証された対象である。制度なるものに「見方」が受肉しているという点を H. サックスは指摘しているが、「傷病者」という対象を産出し、それに組織的に対処してゆく消防という組織がもっている制度性を、その産出へと向けられた対話的・身体的方法の行使からかいまみることができればと考えている。またそのことを通じて、会話において経験を物語るという言語的実践に存する方法と含意、および電話や無線といった様々なメディアを介してなされる相互行為のあり様とその遂行方法、これらについても関説することになる。

第3報告

情報・ボランティア・ネットワーク
――コンピューター・ネットワークにおけるボランタリー・アクションの展開――

干川 剛史 (徳島大学)

 昨年の阪神・淡路大震災においては、通信回線の途絶や混乱で救援活動に必要な情報が得られないことが大きな問題になった。

 この問題を解消するために、インターネットやパソコン通信を利用して救援活動をサポートする「情報ボランティア」が活躍し、注目を浴びた。そして、震災以後に改正された政府や地方自治体の防災計画の中には、インターネットやパソコン通信の利用や情報ボランティアの活用が盛り込まれるようになり、また、現在いくつかの地域で、防災情報通信システムが政府のモデル事業として構築されつつある。

 そこで、本報告では、まず、1.阪神・淡路大震災における情報伝達の問題点を、各種の調査資料や報告書に基づいて検証し、次に、2.インターネット上のWWWホームページやネットニュースに掲載されている情報ボランティアの活動記録や諸資料から、当時の情報ボランティアの活動実態を把握し、さらに、3.災害に対する情報ボランティアの取り組みの現状と今後の課題を、「兵庫ニューメディア協議会」の報告書、情報ボランティアの議論や彼らが作成した「提言」をもとに明らかにする。

報告概要

山崎 敬一 (埼玉大学)

 この自由部会は、大学院生を中心に、若手の研究者が数多く参加し、活発な議論がなされた。岡田氏の発表は、119番通報の研究を材料に、会話分析の方法論的特徴を明らかにしようというものだった。また岡田氏は、エスノメソドロジー研究におけるフィールドワークの必要性を訴えた。浦野氏の発表は、同じ119番通報を題材に、組織の課業が、会話を通していかにして形づけられているかを問題にした。岡田氏と浦野氏の発表は、組織や制度の問題に対して、エスノメソドロジー的会話分析がどのような有効性をもっているかを、具体的な分析から示そうとしていくものだった。干川氏の発表は、阪神・淡路大震災において、どのようにしてインターネットやパソコン通信を利用した情報通信ボランティアが活躍したのかを、豊富な資料を用いて分析したものだった。また、情報通信ボランティアをめぐる今後の課題を問題にした。

 それぞれの発表が終わったあと、全体の討論がなされた。討論は、エスノメソドロジーとフィールドワークを巡る問題や、会話分析の有効性を主に巡ってなされた。発表者の発表課題や立場は、異なるものの、どの発表も危機的状況おける、組織と人間との関わりを問題にしたものだった。こうした研究の、さらなる発展を望みたい。

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