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年次大会
大会報告:第48回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第2部会)

第2部会:住空間とコミュニティ  6/10 10:00〜12:30 [1209教室]

司会:森岡 清志 (東京都立大学)

空間デザインとコミュニティ形成――K県H団地の事例から 「住空間とコミュニティ」研究グループ
1. 作品としての住宅と公共事業 上野 千鶴子・佐藤 健二
祐成 保志・疋田 真祐
(東京大学)
2. 居住空間と性・世代 安田 剛史・金田 淳子
近藤 未佳子・菊池 英明・蔡 志豪
(東京大学)
3. 集住形態と近隣関係 松井 隆志・瀬田 宏次郎
内藤 準・伊藤 奈緒・小川 慎一
(東京大学)
4. 住み替えプロセスのなかのH団地 祐成 保志・高橋 康二・北村 文
(東京大学)

報告概要 森岡 清志 (東京都立大学)

空間デザインとコミュニティ形成――K県H団地の事例から

「住空間とコミュニティ」研究グループ

 K県では88年から当時の県知事の強いリーダーシップのもと、アートポリス計画の名において、県下の公共建築を著名な建築家に設計依頼することを通じて、次の世紀に遺産を残そうとする文化事業が始まった。99年までに100を超えるさまざまな公共建築のうち、 91年に磯崎新コミッショナーの指名のもと、気鋭の建築家、山本理顕氏が設計した県営H団地が完成。従来の51C型といわれるnLDKモデルを超える新しい集合住宅の実験として、建築ジャーナリズムの注目を集めた。

 設計にあたった建築家、山本氏は、かねてより家族と住宅モデルとのずれに関心を抱いており、H団地では(1) 外部と直結したインディビデュアル・スペースの集合+閉じたコモンスペースとしてのLDK、(2) 各世帯の単位住宅+閉じたコモンスペースとしての中庭、という閉じたコモンスペースの二重性を空間的に実現することによって、逆に空間の介入による共同性の構築を試みようとした。設計理念上の実験が、そのまま生きられた生活のなかで住み手によって実践されるか、その追跡調査をおこなったものが本研究である。 K県H団地で実現された空間理念は、モデルとして定着しておらず、現在までのところ全国的に見ても追随事例はない。このような理念上の実験が公共事業のなかで、しかも県営住宅という場で実現されたのは希有な例である。その過程には、どのような要因が働いたのか。さらに完成後8年を経て、コミュニティの成熟にはじゅうぶんな時間の経過ののちに、建築家の意図は住み手の実践によっていかに応えられ、いかに裏切られているのだろうか?

 以上の問いをあきらかにするために、本研究ではH団地に関与する要因を、次の3つの側面および4つのアクターに分解し、それぞれの視点から評価を試みた。その3つの側面とは (1) 作品としてのH団地、(2) 公共事業(県営住宅)としてのH団地、(3) 生活の場としてのH団地、そして4つのアクターとは(1) 建築家、(2) 建築ジャーナリズム、(3) 県庁、(4) 住民である。研究グループは社会学と建築学の学際的な集団からなり、先行研究のフォローを踏まえたうえで、関係者の聞き取り調査およびH団地総戸数110世帯を対象に、定量及び定性調査を実施した。さらに対照群として近接する他の県営団地の住民調査も行った。

 研究結果からは、以上3つのそれぞれの側面が交錯し、4つのアクターによって評価のあいだにずれがあることがあきらかになった。本研究が示唆するのは、公共事業の手法と評価、新しい住宅モデルの提示の限界、住み替えサイクルのなかでの公共住宅の位置などの問題群である。共同報告の構成は以下の通りである。

第1報告

作品としての住宅と公共事業

上野 千鶴子・佐藤 健二・祐成 保志・疋田 真祐
(東京大学)

 第1報告「作品としての住宅と公共事業」では、調査者である我々の問題意識を示すとともに、供給側(設計者・発注者)の問題意識と、この「特異」な集合住宅の建設経緯について述べる。特に焦点となるのは、空間デザインを通じて、住民生活に何らかの作用を及ぼそうとする設計者の思想であり、それと発注者である自治体の思惑との関係である。 2、3、4は、設計者や発注者の意図、またはそれらを媒介にして作り出されたH団地に対する住民の反応について報告するものであり、1は、それらに対する導入となる。

第2報告

居住空間と性・世代

安田 剛史・金田 淳子・近藤 未佳子・菊池 英明・蔡 志豪
(東京大学)

 第2報告「居住空間と性・世代」では、世帯レベルでの団地の住み方について報告する。公室/私室を分棟させた「分離型住戸」という新しい試みに対する住民の反応とともに、性、世代によって、居住空間が違った意味を持って現れるという点に注目する。

第3報告

集住形態と近隣関係

松井 隆志・瀬田 宏次郎・内藤 準・伊藤 奈緒・小川 慎一
(東京大学)

 第3報告「集住形態と近隣関係」では、世帯をこえた近隣関係について報告する。団地外部に対して閉じ、内部に対して開かれた「中庭」という新しい試みに対する住民の反応を中心に、近隣関係の成立/不成立の条件について考える。

第4報告

住み替えプロセスのなかのH団地

祐成 保志・高橋 康二・北村 文
(東京大学)

 2と3で扱ったのは、ある一時点における空間と生活の関係であった。第4報告「住み替えプロセスのなかのH団地」では、H団地に住むということが、各世帯の住み替えプロセスをはじめとする時間的推移のなかでしか成立し得ないということに注目する。本調査で得られた知見を踏み越える内容を伴ってはいるが、H団地が新しい「住宅モデル」の実験として実現され、この報告がそれに対する評価を行うものである以上、欠かすことのできない論点である。その意味でこの報告は一つの問題提起であり、全体のまとめとなる。

報告概要

森岡 清志 (東京都立大学)

 第2部会では、実験的デザインとして建築家の注目を集めた熊本市の県営保田窪団地を対象とするはじめての社会学的調査研究の成果が、17名の連続する登壇者によって報告された。たいへん興味深い報告であった。第1登壇者、上野千鶴子氏は、建築家山本理顕氏の設計理念を紹介した上で、この理念の実験が県営団地において現実のものとなった過程を説明し、全国的に類例を見ないこの稀有な事例を対象とすることの意義および調査研究の目的について、きわめて明解な報告をされた。建築家の意図と住民の実践にもとづく評価とのズレ、建物の空間構成と住民の共同営為としてのコミュニティ形成との関連等、建築家が造る実験的住空間が住民の意識と行動にどのような効果を実際にはもたらしたのか、このような調査の目的自体、高い関心を呼ぶものである。第2登壇者、佐藤健二氏は調査対象団地居住の110世帯、および比較対象団地居住の154世帯に関する定性的および定量的調査が多様な手法によって実施されたこと、データ整理時のテクスト・データの共有という新しい試みが意義を有することについて報告された。これら2つの報告は、聴き手に対し、この調査研究の企画における発想の斬新さとセンスのよさを充分にアピールしていたと思われる。

 残る15名の登壇者による報告は、対象団地を3側面に、すなわち作品としての、県営団地としての、生活の場としての団地という側面に分解し、またさらに建築家、建築ジャーナリズム、県庁、住民という4つのアクターに分解した上で、これらに即して実施された調査の有意な知見をテーマごとにまとめたものであった。いずれも若い院生の方々による報告であったためか、知見の整理と意味づけのしかたはともかく、みずみずしい緊張感のみなぎる好印象の報告であったと思われる。中でも最後の2報告は、この団地の住民構成が県営団地としての特性、たとえば入居資格における所得制限、若年夫婦層の 2〜3年ごとの入れ替わり、高齢者世帯の残留等の特性に強く規定されているために、実験的居住空間(作品としての団地)が住民に与える純粋の効果を簡単には見出しえない点を指摘しただけではなく、さらに、居住者の中の深夜勤の男子勤労者と女子単身者において見出される一定のライフスタイルがこの団地に特徴的な住空間構成と親和的な関連にあることを「発見」し、このことから、戦後の住宅政策の主流をなした属性拘束的な住み替えパターンにとってかわる、ライフスタイルにもとづく選好的住み替えパターンが現実に誕生していることを読み取ったという点で、とりわけ注目すべき報告となった。

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