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年次大会
大会報告:第50回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第6部会)

第6部会:ジェンダーの社会学  6/1 10:30〜13:00 [社会学部A棟406教室]

司会:岩上 真珠 (聖心女子大学)
1. 『歴史的構築物としての身体』について 山下 大厚 (法政大学)
2. フィギュアスケートに見る sexualized sports の形成過程
−1920年代のソニヤ・へニーを手がかりに−
中川 敏子 (日本女子大学)
3. 現代日本の結婚事情
−未婚化・晩婚化の要因分析を中心に
井上 善友 (東京都立大学)
4. 大卒女性の結婚行動の規定要因 中村 三緒子 (日本女子大学)

報告概要 岩上 真珠 (聖心女子大学)
第1報告

『歴史的構築物としての身体』について

山下 大厚 (法政大学)

 社会学において,「身体」を一つの歴史的構築物として理解するあり方は,すでに十分な一般性を持つに至っていると言って差し支えないであろう。にもかかわらず,身体の歴史を主題とする研究が,一様に同じ認識論的前提に立っているとは言い難いのである。単純にこの問題は,方法論的に複数のバリアントが存在しているというだけに留まるものではなく,生物学主義をどのように切断するかによって,理論的,且つ政治的な差異がもたらされる結果を生んでいると考えられるのである。とりわけ,この問題は,性差の生物学的本質主義の取り扱いをめぐって重大な争点となっていると言えよう。

 B・ドゥーデンによる整理にしたがえば,B・エーレンライク/D・イングリッシュに代表されるような議論のモデルは,専門家による科学の応用/濫用が女性の身体の病理化を強化したとして,生物学主義を告発するものであるが,その批判の立脚点自体が生物学主義にあると批判される。

 一方,ドゥーデンやL・ジョーダノヴァは,こうした立場を批判し,所与とされる生物学的身体それ自体を歴史化する必要性を主張する。本報告では,ドゥーデンやジョーダノヴァによる,身体史の実践における生物学主義との折り合いを手がかりに,「歴史的構築物としての身体」を議論して行く上での諸問題を取り上げる。

第2報告

フィギュアスケートに見る sexualized sports の形成過程
−1920年代のソニヤ・へニーを手がかりに−

中川 敏子 (日本女子大学)

 本報告は女性に相応しいスポーツ、フィギュアスケートが今日、いかにして女性に「相応しく」なったのかを明らかにすることを目的としている。近代スポーツ誕生の当初、フィギュアスケートも男性だけが競技に出場していた。20世紀に入り、女性もフィギュアスケートの競技会に参加しつつあったが、女性に対する差別はしばしば見られた。ところが、1920年代半ばに、ソニヤ・ヘニーが登場したことにより、フィギュアスケートは大きな転換期を迎える。彼女は今日見られる、バレエのような振付け、きらびやかな衣装、健康的な色気を持つ「女性に相応しい」スポーツとしてのフィギュアスケートを作り上げたと言われている。

 しかし、フィギュアスケートにおける劇的な変化が一少女の登場のみによって、説明することは考え難い。そのため、時代的、文化的要因から、フィギュアスケートが女性に相応しいスポーツとして作られたものと仮定し、考察を進めていく。 尚、タイトルのsexualized sports とは「美しさに性的な特徴を付与し、それを見ること/見せること、また、その美的特徴を増大させることを目的としたスポーツ」と定義した。

 今回、主にソニヤ・ヘニーの活躍と時代背景を関連させることで、フィギュアスケートがいかにして、sexualized sports となり、女性たちに影響を与え続けているのか、その一端を明らかにしたい。

第3報告

現代日本の結婚事情
−未婚化・晩婚化の要因分析を中心に

井上 善友 (東京都立大学)

 我が国では近年、未婚化・晩婚化が著しく、大きな社会問題となっている。それは、未婚化・晩婚化が少子化の主要原因であることが明らかになったからである。未婚化・晩婚化現象に対し、いくつかの要因分析がなされているが、決定打となる説が存在しないのが現状であろう。主な仮説は「女性の経済力が向上したから」というものであり、晩婚化の理由を尋ねた総理府の世論調査においても、この説を支持する人が最も多い結果となっている。また最近では、パラサイトシングルが未婚化の原因であるとの説も出てきている。これらの仮説について調査データを用いて、検討を試みたい。

 ここ20年の間、マスコミでは「クロワッサン症候群」、「結婚しないかもしれない症候群」が大きく取り上げられる等、非婚を選択する女性が増加しているかのイメージを人々に印象づけた。ところが、人口問題研究所が行った調査によると、非婚指向は男性の方が高まっているのである。

 ここ十数年の間、未婚化・晩婚化の要因分析としていくつもの試みがなされているが、疑問に感じるのは経済的要素、女性の意識の変化に原因が求められ過ぎていることである。結婚は経済的要素だけで決まるのではないし、両性の合意の上で決まるのである。既存の仮説からは、さも結婚は経済的要素と女性の意識のみで決まるかのような印象を受ける。

 実際、結婚に対する意識の変化(非婚指向)が起きているのは、人口問題研究所の調査結果にみられるように、男性の方なのである。既存の仮説に対する再検討を行い、さらに既存の説とは違った観点から、未婚化・晩婚化の要因分析を試み、未婚化・晩婚化の実態解明を目指す。

第4報告

大卒女性の結婚行動の規定要因

中村 三緒子 (日本女子大学)

 女性の高学歴化は、女性の就業機会の拡大や賃金を上昇させ、結婚年齢を上昇させるといわれてきた。本報告では、大卒女性を対象にした調査データをもとに、ロジステック回帰分析を用いて結婚行動を規定する要因を検討する。調査データは、女子大学と共学大学を1986-1996年に卒業した女性を対象に、2001年に行った質問紙郵送調査に基づく。調査票は、未婚者(現在の生活)と既婚者(結婚前の生活)の結婚行動を比較できるように工夫した。

 結婚行動に与える年齢の影響を考慮して、年齢階層別の分析を行った結果、30歳以下層では「月収」、「社会的立場の確立意識」の説明力が強い。31-34歳層では、「月収」と「社会的立場の確立意識」だけではなく、「職種ダミー」、「父親職ダミー」の影響力が強かった。35歳以上では「月収」、「社会的立場の確立意識」、「職種ダミー」、「父親職ダミー」に加えて、「職場の結婚環境」も影響を与えていた。この結果から、大卒女性の結婚行動には、「収入」や「職種」だけではなく、「社会的立場の確立意識」や「職場の結婚環境」などが影響を与えていることが明らかになった。

報告概要

岩上 真珠 (聖心女子大学)

 この部会では、以下の4本の報告があった。1.山下大厚氏(法政大学)「歴史的構築物としての身体について」、2.中川敏子氏(日本女子大学)「フィギュアスケートに見るsexualized sportsの形成過程−服装の変化を手がかりに−」、3.井上善友氏(愛知大学)「現代日本の結婚事情−未婚化・晩婚化の要因分析を中心に−」、4.中村三緒子氏(日本女子大学)「大卒女性の結婚行動の規定要因」である。第1報告は、特に女性の「身体」に関する言説を指摘しつつ、「解剖学的身体を歴史化する作業」(報告者)を提案する。第2報告は、フィギュアスケートが20世紀初頭のソニア・へニーの登場以来「女性にふさわしいスポーツ」に変わった要因をフィギュアの服装からあとづけ、服装の変化がフィギュアスケートに女性性をつねに与えてきたと結論づける。第3報告は、未婚化・晩婚化の要因に関して従来の何人かの研究者の説(女性の経済的自立説、パラサイトシングル説等)を批判的に検討したうえで、外見重視の風潮と情報化が未婚化の進展に寄与しているという見解を述べ、またこのテーマに関するフィールドワークの欠如を指摘する(この点に関しては、報告者の検索不足であると筆者は考えるが)。第4報告は、大卒女性(28〜38歳、既未婚含む)を対象にした共同調査データを使用した分析で、結婚行動に関するいくつかの既存の仮説のうち、Easterlin仮説に依拠しつつ、女性の結婚行動も結婚前の職業達成と密接な関連があり、「社会的立場の確立」の自覚が結婚行動に正の影響を及ぼすと指摘する。

 最後に、司会の任からは逸脱するが、本部会を通じての感想を述べておきたい。まず、運営上やむを得ざることとはいえ、「ジェンダーの社会学」という枠でこれら4報告をくくることは、かなりムリがあったように感ずる。また、報告者には、明確な概念規定、メソドロジーの明記、結論の明示を求めたい。報告と議論は、参加する研究者全員にとって共有財産となるべきだと考えるからである。

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