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年次大会
大会報告:第52回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第2部会)

第2部会:景観・空間・観光  6/19 10:00〜12:30 [120年記念館(9号館)7階977教室]

司会:新原 道信 (中央大学)
1. 法的に守られる景観に関する考察 栗本 京子 (お茶の水女子大学)
2. 道空間の社会学
---茶堂を題材として---
河野 昌広 (早稲田大学)
3. 観光ミドルマンの多面性
---北タイにおける少数民族観光の事例から---
石井 香世子 (名古屋商科大学)

報告概要 新原 道信 (中央大学)
第1報告

法的に守られる景観に関する考察

栗本 京子 (お茶の水女子大学)

 景観に対する社会的な注目が高まっている。昨年(2003年)国土交通省による「美しい国づくり政策大綱」が発表され、また今年(2004年)度中の「景観法」の制定が目標とされている。その一方で、各地で様々な規模やタイプの「景観問題」が発生している。その中でも開発行為や大規模建築物の建設などによる景観の「破壊」という「景観問題」に関する社会学的研究によれば、景観保護の試みは、保護を訴える側にとっては景観を破壊するものにあたる行為や建築物の「合法性」、および景観に対する価値判断の「主観性」という2つの「壁」に直面するという(堀川 2001)。

 景観保護の手段としては、ナショナル・トラストなどに見られる対象自体の「所有」、および「観光開発」などが挙げられる。これらに加えて、訴訟によるその景観を保護するための法的な保障や権利の明確化ということも指摘できるだろう。この例として挙げられるのは、国立・大学通りマンションに関する一連の訴訟である。現在も係争中であるこの裁判の過程においては、原告に対して実質的に「景観権」を認める初めての判断が下されている。本報告がこの事例に注目するのは、現行の関連する法体系で保護することが難しいとされる都市の人工的な日常景観が問題となっているため、そしてそれ以上に、この「景観権」が認められたことによって、問題となっている大学通りの景観が、法的な保護の対象になると判断されたと解釈できるためである。

 本報告では、この大学通り訴訟や過去の景観権・眺望権に関する訴訟の判決文などから、ある景観が法的に守られると判断される根拠や条件を明らかにする。またそこから導き出された知見と、景観と風景という概念に関する議論との比較・考察も試みる。

第2報告

道空間の社会学
---茶堂を題材として---

河野 昌広 (早稲田大学)

 本報告では、四国の山間部で見られる茶堂という呼称の建造物を題材にとりあげる。坂田[1994,2003]が主題化してきた道空間という視点から、茶堂という「場」を分析することが本報告の主眼である。

1. 茶堂とは
 茶堂の場所は旧街道・旧往還沿いにあることが多く、また集落のはずれ(入り口)に建てられていることが多い。三方が吹き抜けであり、周囲から中が見えるということや、集落の入り口の道沿いに建てられているということから、茶堂が、外部からやってくるものを監視する場としての機能を持っていたことがわかる。それと同時に茶堂は、外部からやってくるものに対してお茶や食べ物を接待してもてなす場でもあった。

2. 道空間という視点
  我々は、様々な社会的関係に属しているが、それらの社会的関係を存立させている社会的空間というものを考えることができる。社会的空間を「点的な空間」、「面的な空間」、「線的空間」に分けて考えた際、「線的空間」に対応するのが道空間である。「線的空間」は、「点的な空間」や「面的な空間」を接続するものである。

3. 茶堂という「場」
 茶堂は、村社会という「面的な空間」と、道という「線的空間」とが交差する場である。「線的空間」のエージェントである移動者が、「面的な空間」である村社会に進入してくる際、「面的な空間」のエージェントである住民は、それに応対しなければならない。茶堂でお接待をするという行為を通じて、住民達はヨソモノを監視できるとともに、彼らからの情報を得ることもできた。一方、移動者にとっても、茶堂では、休憩する場を得てエネルギー補給ができるとともに、「面的な空間」を通り抜ける際のお墨付きを得ることもできたのである。茶堂とは、このような「面的な空間」と「線的空間」の緊張をはらんだ出会いの場であった。

第3報告

観光ミドルマンの多面性
---北タイにおける少数民族観光の事例から---

石井 香世子 (名古屋商科大学)

 観光ガイドに関する既存研究は、観光客と、観光に関わるさまざまな主体の間の緩衝器としての役割を演じているとしている。では、このような観光ガイドによる緩衝器としての役割は、どのようにして可能となっているのだろうか。本発表では、北タイで行われているトレッキング・ツアーを例に、この点を明らかにする。

 北タイの山岳地帯には、タイ中央政府が山岳少数民族(「山地民」)と定義する人々がいる。タイが過去30年以上にわたって国家規模で観光開発を進め、タイを訪れる外国人観光客が急増したのを受け、「山地民」の村を訪れるトレッキング・ツアーが盛んになった。 

 このようなトレッキング・ツアーで山岳地帯の村を訪れるガイドは、観光客に対して自分と村人との親しさや、自分が村の言語や生活習慣について造詣が深い点を強調する。観光客にとってガイドは土地の人として認識される。こうすることでガイドは、観光客の求める真正性を演出し、満足度を高めている。これと同時に同じ場面で、ガイドは村人に対して自分の都会慣れした様子や、外国語の流暢さなどを強調する。こうして都会から来たよそ者らしさを保つことで、村人に対してある種の権威を持つよう努力しているのである。こうして観光客の求める環境を維持し、村人からの反感も最小限に抑えるのである。

 このように観光ミドルマンであるガイドが、ホスト性とゲスト性を使い分けていることで、既存研究が指摘してきた「観光に関わる多様な立場・目的をもった主体の緩衝器としてのガイド」が可能となり、多様な主体の目的が絡み合って成立する観光の現場の成立を可能にしているのである。

報告概要

新原 道信 (中央大学)

 本部会は、報告者本人が、自らの話しのtextからはみ出して他のひとたちとの間でcontextを練りあげる方向で始められた。

 栗本報告は、「景観」に関する判例の分析を通じて「眺望利益」(個人的・私益的)と「景観利益」(地域的・広域的、公益的・公共的)が法的に守られる要件を明らかにするものであり、所有権の解釈に「ずれ」があることを指摘した。

 河野報告は、四国の山間部で見られる「茶道」と呼ばれる建物(集落の入口の路沿いに建てられ外部を監視すると同時に接待する場)を「道空間」の視点から分析することをめざし、「点的空間」と「面的空間」を連結し/分断する「線的空間」(道)について報告がなされた。

 石井報告は、タイ北部のエスニック・ツーリズムで、「観光イメージを自ら活用するネイティブ」というイメージを検証の対象とし、「エスニック・ツーリズム」や文化「演出された真正さ(staged authenticity)」という議論をトレースしながら、「見られる側」の主体の多様性の中に入りこむことを試みた。

 三つの報告に共通の課題は、景観の背後にある人間の意志をいかに社会学的によみとるかというものであった。そのために何が求められるか。実証についてはもっと泥臭く、認識の枠組みについてはもっと深化させて、そしてPlaying & Challengingに、<たった一人で異郷・異境・異教の地に入り込み、あらたな関係を切り結び、労苦の多い「迂回路」を選択することで、かえって局面を打開する。「当面の戦いに勝ちつづけるための最短経路」をあえて選択をしないということ。よりゆっくりと(lentius)、やわらかく(suavius)、そのことによって深いつながり(profundius)をつくっていくこと。>

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